SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第41話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:40:03

 3機のドムトルーパーが一糸乱れぬ縦列を作り、先頭のヒルダ機の前面に赤い光が灯った。
攻性ビームシールド『スクリーミングニンバス』を展開し、ローラシア級から発進したザクに向かう。
ランチャーから放たれた砲弾を右にかわし、ビーム突撃銃を構えたザクは牽制に2発撃った。3機のドムが縦列を保ったまま、僅かに機体を揺らす。
そして緑の光条がシールドの縁で弾かれた直後、ヒルダ機を盾にしていたマーズ機が右脇から、ヘルベルト機が斜め右下から飛び出した。
『え、援護を!』
 3つの砲口が一斉にザクを捉え、発砲。流石に回避が間に合わず、武器を持った右手と頭部を破壊され衝撃で機体が吹き飛ぶ。
 機体が触れ合うほど接近したフォーメーションを取れば、レーダーには反映され難い。
更に正面には1機しか立たず、視界も誤魔化せる。
『この!!』
 仲間の援護に間に合わなかった2機のザクが、前進しつつ突撃銃を構えて連射する。ヒルダ機が前に出てそれらを受け止め、2機のドムがその陰に滑り込んだ。
『ヘルベルト、カウント3でスイッチするよ』
『任せとけ』
『3、2、1、GO!』
 ヒルダ機のシールドがビームの連射で掠れ、消えかかる。直後、縦列が一瞬で解けた。
黒と紫のずんぐりした機体が青白いスラスター光を引いて散開し、太い両脚で宙を蹴ってビームマシンガンに切り替えたギガランチャーでバースト射撃。
シールドが付いた左肩を向けつつ、2機のザクが回避行動を取る。
 そして標的に武器を向け直すと同時、縦列に戻ったドム3機が加速した。新たに最前列となったヘルベルト機が消耗していないスクリーミングニンバスを展開する。
『な……』
『ちょっとばかしアンフェアだがな、頂きだッ!』
 ビーム突撃銃が主兵装であるザクウォーリアにとって、ドムの正面防御は鬼門である。
少しでもシールドを散らせるビームトマホークに手が伸びた瞬間、腰部に砲弾が直撃。
 爆発で両脚が千切れ、ザクは発進したローラシア級に流れていく。
『貰ったぞ!』
 縦列の真後ろを取った最後のザクが突撃銃を向けた。ドムは重装甲、重火力、高推力を併せ持った機体だが、小回りは効かない。
無防備な背後を撃てば楽に墜とせる筈だった。

 しかし―
『フッ』
 既に背後を向いていたマーズ機がスクリーミングニンバスを展開し、ビーム射撃を受け止める。
再び3機が散開し、ビームマシンガンによる集中砲火でザクを大破させ、機能を停止させた。
『ザフトは変わってないねえ……連携を取らない、手柄は独り占めしたがる』
 ビームシールドを回復させたヒルダ機が、残ったザク2機に向き直る。ヘルベルト機とマーズ機が左右を固め、ギガランチャーを腰だめに抱えた。
『MSみたいなデカブツで、スタンドプレーをやらかそうとするから……そうなるのさ』
 十字フレームの中をモノアイが忙しなく動き回り、左端で止まって光を強めた。
『ん? あのナスカ級……離れていく?』

 ブルデュエル改のグレネードランチャーが火を噴き、光を引いて榴弾が飛ぶ。接近するザク1機とゲイツR2機の小隊の只中で炸裂し、3機が散り散りになった。
錐もみ回転するザクを補足したバスターノワールのフェイスガードが降り、スナイパーキャノンを捧げ持つ。
『ディアッカ!! コクピットは外せ!』
『解ってるよ。たく、交渉だの説得だの、面倒臭いぜ……あ、やべ』
 武器を持った右腕を狙おうとしたのだが、なにぶん回転中の標的である。左肩のスパイクシールドを掠め、突起をもぎ取っただけに終わった。
『くっ……それにしても、この手応えの無さは何だ! 貴様らそれでもザフトかぁ!!』
『恐らく、まともな準備をしていなかったのだと思います。グフさえ配備されていない』
 広域回線で怒鳴るイザークに、甲殻類を思わせる防御形態に変形したイージスブランを駆るシホが返した。
変形時は底部に据え付けられるビームライフルで牽制射撃を行う。
『一騎当千のストライクフリーダムに依存しきった結果でしょう。通信が混乱しています』
『で、無敵のキラ様はMS1機に手間取ってアメノミハシラを攻められないと』
『士気も鈍ったというわけか……情けない!』
 個人主義が顕著なザフトにおいて、士気の低下は即敗北に繋がる。
命令が届き難くなる最前線でも攻勢を維持できる反面、旗印となるエースパイロットを失うと途端に潰走する
事も珍しくなかった。下手にコーディネイターの優位性を訴え、ナチュラルとは違うと主張し過ぎた事が裏目に出たのである。
『ヒルダ、此方へ後退しろ! 前に出過ぎればステーションが手薄になる!』
『あいよ』
『チッ、大体お前達の隊長はシンだというのに、なぜ俺が指図せねばならんのだ……』

 2つの光が小刻みに動く。
SフリーダムとデスティニーⅡが交戦しているのだ。必勝のフルバーストを完全に回避されて慎重になったキラが、ドラグーンやビームライフルを散発的に撃って、シンの機体を寄せ付けない。
緑の光条が闇をよぎり、その度に炎を思わせる光翼がはためいて翻る。
 イザークが苛立っているのは、解っているからだ。自分達が楽に防衛していられるのは、シンが1人でキラを抑えているからだ、と。
助けに行きたい気持ちは山々だし、シンから援護要請が来れば何時でも駆け付ける覚悟もある。恐らく、要請は来ないだろうが。
『いっそ、アンタがデスティニーⅡに乗りゃ良かったかもね、イザーク=ジュール』
 まるで心情を呼んだかのようなヒルダに、イザークが一瞬口ごもる。
『それは、適性や腕の問題がある。デスティニーⅡを最も乗りこなせるのは、恐らくシンだろう。だが』
 一気呵成に敵陣へ攻め込んでくれるはずのSフリーダムが止まっているので、敵MS隊の動きは消極的だ。
それらの動きを注意深く確認しつつ、イザークは言葉を続けた。
『だが、確かに魅力的な機体ではあるな。特にあの掌部ビーム砲が』
『よりによってあのマニアックな……』
 爆風から立ち直った小隊に向け、大出力ビーム射撃で足を止めるバスターノワール。
真紅の光芒が漆黒の宇宙を焼き、回避行動を取るMS達に濃い影が落ちた。
『マニアックとは何だ! むしろあの良さが解らない奴は俺の部下に要らんッ!』
『えー』
 其処へブルデュエル改がビームガンを乱射し、2発目のグレネードで再び敵部隊を後退させる。あくまでアメノミハシラに寄せ付けない事が任務だ。
深追いなどしない。だが、刹那。
『ロックされた……戦艦!?』
『回避ィ!!』
 イザークの言葉にイージスブランがMS形態に変形し、フルスロットルでその場を離脱。
2機もそれに倣いスラスター光と共に散った直後、艦砲のエネルギー流が其処を貫いた。
『さっきのナスカ級! シホ、キャッチできなかったのか!?』
『か、慣性航行で一旦離脱し……視認距離ぎりぎりから再加速したようです。何て……』
 ビームやロックオンレーザーが交錯する戦場においては、当然レーダー性能が落ちる。
だが、激戦の最中に主推進機関をカットし敵陣に飛び込むなど、殆ど予測不可能だった。
『敵艦、高速で接近! 砲撃、更に来ます!』
『回り込め! ヒルダ、合流まだか!? 勢いがついている分、隙は大きい筈……』
 ナスカ級の鋭い艦首に突き崩されるように、ジュール隊が再び散る。艦の背後まで一気に逃げ、振り向く。
だが振り向いた瞬間、ビームと機銃の猛火が彼らを逃げ散らせた。
『な……!!』

 艦載機と思われるMS隊6機は、全てナスカ級の艦尾で待機していた。
両腕にシールドを発生させたイージスブランに援護されつつ、ジュール隊は一時後退を余儀なくされる。
 MSの射撃と対空砲火を合わせられては、流石に近づけないのだ。
『突破……されました』
『アークエンジェルに伝達! ナスカ級が来るぞ! C-3、イエローゾーンからだ!』
 遠ざかっていくナスカ級の巨大なスラスター光に、イザークは唇を噛み締めた。

「ナスカ級、高速で接近! C-3からです!」
「ジュール隊は、信頼できるという話だったろうが! ……急速回頭!」
「正面、砲撃きます!」
 アークエンジェルの艦長がオペレーターを振り返った後、艦が衝撃で揺れた。
「ローラシア級からです! ビーム砲を……ラミネート装甲は、正常に作動!」
「ラミネートでビームは防げるが……ともかく、ローラシア級に撃ち返せ!!」
 コンソールを殴りつける艦長。ローラシア級とナスカ級、2隻の砲撃が集中すれば、
アークエンジェルとて危ない。少なくとも、ローエングリンを撃たなければならない。
「ゴッドフリート、撃てっ!! ナスカ級へはバリアントで対応する!」
 下方から噴き出したビームの閃光にブリッジが照らし出され、真っ直ぐに伸びていく。
その先でごく小さな爆発が起こった。
「命中……ローラシア級、損傷軽微。ナスカ級、同じく損傷軽微。速度、落ちません!
反撃、来ます! 艦長!」
「回避行動は最小限に留めろ! 射角をずらせれば良い!」
「しかし、それでは!」
「ステーションの弱点を背負っているのだ! ……ローエングリン、起動!」
 再び震動。先ほどより揺れが激しい。射撃精度が向上しているのだ。
「イズモとは、まだ通信が繋がらんのか! 自分達の拠点だというのに!」
 メインスクリーンの片隅にナスカ級が映り、補足する。その機動に、艦長は眼を疑った。
「な、か、回転している……?」
 蒼色の艦体が大きな螺旋を描き、スラスター光を背負って接近していた。
「何のつもりで……」
「艦長! あのナスカ級は、特装砲の死角に入り続けています!」
「だ、だが速度が出過ぎているだろう。特攻とでもいうのか」
 そこまで言って、艦長は恐ろしい可能性に気づいた。オペレーターに指示を飛ばす。
「ナスカ級の軌道を、予測できるか?」
「ハ、スピードがありますので、予測は比較的容易……」
 コンソールを叩く女性仕官が絶句した。
「このままでは……本艦の、艦底部に飛び込みます」

「やはりか。確かに底部は最大の死角……ジュール隊はどうだ?」
「最大戦速で擦れ違ったようで、まだ取り付けていません。どうやら艦尾にMS隊が密集、ジュール隊の攻撃を阻止しているようです」
「ザフトにこれほどの軍人がいるとはな……侮りすぎたか。しかし、まだ終わりはせん」
 制帽を目深に被った艦長は、大きく深呼吸する。3度目の衝撃にシートの腕掛けを掴んだ。
「ローエングリンを引っ込めろ。時に……艦首には緊急制動用のスラスターがあったな?」
「はい、特装砲の照準調整用に」
 オペレーターの言葉に頷き、艦長は据わった眼でナスカ級を睨め付けた。
「艦底部に武器が無いという事。その欠点こそが、時として武器になるのだッ!!」

「せ、成功ですトライン艦長! アークエンジェルの真下へ入れました!」
「よし。主砲、エネルギー充填! 照準……」
 アークエンジェルの底部に蒼の艦首が滑り込み、マリクが歓声を上げた瞬間、真上に
見えていた艦底が急速に接近した。馬蹄型の双頭艦首が、滑り込みかけたナスカ級のメインエンジンを『踏み付けた』のだ。
互いの装甲片が飛び散って、後部を守っていたMS隊が挟み潰されかけつつ離脱する。ブリッジを激震が襲い、立っていたアーサーが浮き上がって天井に頭を打ち付ける。
「痛っだあぁ!!」
「メインエンジン出力40%低下! 戦艦に蹴られるなんて……」
「き、緊急減速! アークエンジェルの死角には入れたんだ! これで……」
 不意に、ブリッジの真上の空間が揺らいだ。天井にへばりついたままのアーサーが呆けた表情で見上げる。
衝突の混乱でセンサー類が効かない中、大鎌を背負ったMSの姿が現れた。
金色の素体を黒の外装フレームで包み、ツインアイと額のモノアイが青白く光る。
ランサーダートがキャノピーに向けられると同時、スクリーンに黒髪の女性が大写しになった。人を食ったような、不敵な笑みを浮かべる。
『良い、試みであったな』

「一段落ですね」
狙撃用レールガンを構えるオオツキガタの中で、エコー7は小さく息をついた。戦闘の直前に小型艇でイズモへと移動し、乗り換えていたのだ。
 先ほどまでのナスカ級と同様、慣性航行を保っていたイズモがアメノミハシラの影から現れる。最長射程距離からナスカ級を『包囲』していた僚機と共に接近していった。
 高い機動力と高性能なステルス装置を持ったアマツを、自分達の旗機さえも囮に使って、
あらゆる物を利用し最低限の犠牲で戦闘に勝利する。ミハシラ軍は、まさに海賊であった。

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