SCA-Seed_19◆rz6mtVgNCI 氏_とある害虫駆除業者、もしくは復讐者の日常_第0話

Last-modified: 2009-09-23 (水) 14:43:21

はーっはっはっは、はーっはっはっはっは!

 

 シンの哄笑が響く。
 彼の操作で噴霧器から白い霧が発生する。
 その霧に巻き込まれた命が次々に失われていく。
 無慈悲な彼の行為に虫けらのように逃げ纏うが、密閉された空間では逃げようがない。
 次々に命の光は失われていく。
 そんな光景を見ながら、シンはさらに笑みを浮かべる。

 

はーっはっははははははははぁ……

 

 明らかに様子のおかしいシンに、キラ・ヤマトはこう言った。

 

「シン……、うるさいよ」
「ごめん、俺何やってるんだと思って」
「言わないでよね。僕も悲しくなるんだから」

 
 

 害虫シロアリ駆除業者、デスティニーカンパニーの代表取締役シン・アスカは、
 同行していた社員のキラ・ヤマトの苦情に情けない声で答えた。

 
 
 

 ことの始まりはちょうど1年前。ラクス・クラインがプラント議長に主任してから1年目に起こった。

 

 ぶっちゃけて言うと、プラントの財政が破綻したのだ。

 

 まあ、理由はシーゲル・クライン時代からの度重なる軍事予算増大のツケが回ってきたとか、
 ラクスがムダに新兵器を開発したり福祉に膨大な予算をぶち込んだりしたとか、
 一部のザフト高級官僚が持ち逃げしたとか色々あるのだが、とにかくプラントの財政は破綻した。

 

 そこに連合が攻めてきたのだ、 ……赤い紙きれを持って。

 

 次々にプラントやMSに張られていく赤い紙切れ。
「きょの、ナチュラルめー!」
 などと、抵抗しようとする人たちも居ないでもなかったのだが、
 抵抗したくても武器弾薬は愚か、そもそもMSを動かすエネルギーがない。
 まさか、コロニーの運営に使っているエネルギーを回すわけにはいかない。
 かくして、借金まみれのプラントはあっという間に連合の手に落ちることになる。
 死んだ兵士やブルーコスモスの盟主が見ていたら、あまりの理不尽さに叫び声を上げていただろう。

 

 もちろんザフトの兵士だったシン・アスカもめでたく失業者。
 当時の愛機であったインパルスもめでたく差し押さえ。
 仕事の切れ目が縁の切れ目と、当時付き合っていたルナマリアはさっさと逃げていった。
 全てを失ったシンの元に、同じ境遇の男が一人転がり込んできた。

 

 彼の名はキラ・ヤマト……。

 
 

 キラ・ヤマトは元はプラントの白服。
 その朝、彼は恋人であり上司でもあるラクス・クラインの執務室に向かっていた。
 そして、執務室の扉を開けた時、彼は信じられないものを見た。

 

 それは、ラクスのいつも座っている椅子に座る、真っ赤に染まった……

 

 でっけー赤い熊のぬいぐるみ。

 

 ついでに、一通の手紙と何かの書類。
 キラは手紙に目を通す。そこには短いメッセージが書かれていた。

 

『貴方と一緒に居るのに厭きました。探さないでください。 ラクス・クライン
 PS 同封の書類の始末をお願いしますわね♪』
「う、嘘だー!!」

 

 その文面に呆然としながらも、置いてあった書類に目を通す。
 そこには、天文学的な借金の借用書があったとかなかったとか。

 

 その後のキラの仕事振りはすさまじかった。
 夜逃げをしたプラント議長ラクス・クラインとその取り巻き連中が残した膨大な借金の山と
 残務処理に追われ、ほぼ孤軍奮闘でがんばった。
 交渉に当たった連合の担当者が、思わず同情してユ○ケルを送ったくらいだ。
 自称親友のハゲや自称姉の国家元首は口先だけで役にたたねーし、
 プラントに残ったのは典型的プラントコーディネーターばかりでやっぱり役に立たない。
 具体的には……。

 

『野蛮なナチュラルが攻めてきたんだぞ! 何をやっている!!』
『そんなお金何処にあるの? そもそもザフトの借金でしょう、どうしてこんな事になったの?』
『だから、野蛮なナチュラルに鉄槌を!』
『貴方達は、借金踏み倒すのに戦争する気なの!?』
『ラクスさまが、きっとなんとかしてくれます!』
『彼女は逃げたんだよ!!』
 マジで泣きたくなったのは秘密だ。
 かくして、キラ・ヤマトは数年間のニートやサラリーシーフ生活のツケを払うかのように
 働きまくったという。

 

 そして、残務処理を終えボロボロになったキラ・ヤマトはいつの間にか森の中に居たと言う。
 目の前にあるのはちょうど良さげなロープとメモ書きのような遺書。
 ああ、僕の人生って何だったんだろう。
 ごめん、フレイ。あんなピンクに惑わされた僕が馬鹿だった。もうすぐ君の元に行くよ。

 

 そして、キラがロープに手をかけた時、森に男の怒声が響く。

 

「あんたは一体何をやってるんだー!!」

 

 かくして、キラ・ヤマトはシン・アスカに拾われることとなった。

 
 
 

「はぁ……」
「シン、ため息を吐くと幸せが逃げるよ」
「そうは言うけど、つい一年前の事を考えると」
「悲しいけど、コレが現実なんだよ。あ、こっちは終わったよ」
「こちらも終わりだ。あとは書類にサインを貰うだけか」
 てきぱきと使った道具や薬品を片付けながら、シンは今までのことを振り返り泣きたくなっていた。
 もっとも、男に泣く暇などない。すぐに次の仕事が入ってきたのだ。
 書類関係をチェックするためにノートPCを見ていたキラが、小さな声でシンに話しかけた。

 

「シン、“本業”の依頼が来たよ」
「そうか……」

 

 そう、世界は平和ではない。
 プラントの財政崩壊から1年。各地では大小の紛争が続きテロが横行している。
 特に、ブルーコスモス原理主義者や、コーディネーター至上主義者、
 そしてクライン派の三つ巴のテロ合戦は止まる所を知らない。
 弱きものは踏みにじられ、泣き寝入りをするしかない。
 そんな理不尽な世界に、全てを奪われた二人の男は敢然と立ち向かう。

 

 いや、そんな綺麗事は建前だ。
 自分達の運命を狂わせた女に復讐を遂げるために、男達は手を組んだのだ。

 

 傭兵会社デスティニーカンパニー。それが彼らのもう一つの顔であった。

 
 

「あ、すいません、こことここにサインお願いします」
「あら、早いわね。ありがと、ボーヤ」
「まいどありー」

 
 

 続かない。