「危険ですね……」
暗い部屋の一室で、黒いスーツ姿の男の報告を聞いたその男は、静かにつぶやいた。
NJCを開発した男の未亡人と、最高のコーディネーターを撃墜した少年。
この二人に繋がりがあったことは戦前より報告はあった。
もっとも、そのときは孤児が一人、要注意人物の元に転がり込んだ程度の話であり、
大して注意を払ってはいなかった。
まさかこの時は、少年が最強のパイロットになるなどとは夢にも思わなかったからだ。
だが、少年は最強のパイロットとなり、傷ついた少年は彼女との繋がりを強くしてしまった。
これは危険な兆候だ。
どちらも同じ人物に恨みを持ち、力と財力を双方足りない部分を持っている。
一度牙を剥けば、災厄となるのは間違いないだろう。
「危険ですね……」
男はもう一度同じ言葉をつぶやく。
ラクス様は、少年は改心した、自分達の同士として力を貸してくれる、
平和を守るのに力を貸してくれると嬉しそうに話していた。
恐らくは、本当に協力を約束したのだろう。
あの方に悪意は無い。
無限の善意があるだけだ。
だからこそ、彼女が危険に晒されることを極限まで減らさなければならない。
自分は、以前より影となって動いてきたのだ。
今度も、同じように動く。ただそれだけだ。
「この二人の処分をお願いします」
男は黒服にそう命じる。
男達は一礼すると、忠実にその任務を果たすべく部屋から退出していった。
「これで良いのです……」
ラクス様は悲しむでしょうが、これこそが最善の方法なのです。
そう、SEEDを持つ者が世界を救うためには、仕方が無いことなのです。
数ヶ月後、プラントのある町で一軒の火災が起きる。
その家には元評議員の未亡人と彼女が引き取った孤児が一人住んでいたが、
その事は新聞にすら乗ることは無かった。