「はーっはっはっはっはっは」
通信を通じて、その男の狂笑が宇宙に響いた。
歌姫の騎士団の旗艦たるエターナルはビームに焼き払われ、無残な残骸を晒している。
その周辺には一機残らず徹底的に破壊された脱出ポットが漂っていた。
横に浮かぶ残骸はストライクフリーダムだ。
胸にはアロンダイトが突き刺さり、さらにはコックピットはこじ開けられており念入りに焼かれていた。
その光景を見たとき、アスラン・ザラが感じたのは親友の死に対する怒りや悲しみよりも、
この惨劇を引き起こした男への恐怖が先であった。
たしかに、暴走しやすい男ではあったが、決して残忍な男ではなかった。
いや、捕虜とした敵兵の命すら気にかける優しい男だったはず。
それが、なぜこんな残忍な事を?
不意に、ジャンク・デスティニーがアスランの存在に気がつき、ゆっくりと振り向く。
その姿は、撃ちたければ撃てと言わんばかりだ。
その様子を不気味に思いながらも、アスランはジャンクデスティニーに通信をいれる。
「な、なぜこんな事をしたんだ……」
アスランの言葉に、モニターの向こうの男がつまらなそうに応えた。
「敵討ちですよ、アスラン」
「敵討ち!? お前はあの時のことをまだ!? ずっと狙っていたのか!?
お前はまた過去にこだわって……未来を殺したのか!!」
元々沸点の低いアスランの感情が爆発しそうになる。しかし、まだだ、
せめて何でこんなことになったのか、自分は聞かなきゃいけない。
シンをこちらに引き込んだ人間のせめてのけじめだ。
先の大戦で、図らずも男とキラたちは敵対した。その事を恨みに思いずっと付け狙っていたのか?
だが、そんなアスランに違うと男は言った。
「別にあの時の事だけじゃないですよ。
恨んでない訳じゃないけど、俺達だって殺そうとして戦っていたんですからね」
そう、殺そうとした以上、殺される事もある。
ただそれだけだ。
恨みが無いわけじゃないが、これ以上復讐しようとは思わなかった。
そんな事をすればまた戦いになる。そうすれば、また力なき人々が虐げられる。それだけは嫌だった。
「付き合ってみてわかったんですけどね、キラさんは本当に善人だ。
自分が傷つきたくないから、人を傷つけることも出来ないヘタレだったけどね。本当に善人だったよ」
殺すほどの価値など無かった。
「ラクスさんもね、善人だったよ。
まぁ、独善的で人のことを考えているようで考えてない迷惑な性格だったけどね。
それでもやっぱり善人だったよ」
殺す必要も無かった。
問題は多々有るが、善人には違いない。
これから皆でフォローしていけば、あるいは平和な世界を築けたかもしれない。
そう思って、シンは二人に力を貸すことを決意したのだ。
「それならなぜ!」
アスランの叫びに、シンはへらへらと笑いながら、そして徐々に激昂しながら応える。
「殺したからだよ。お前らが俺とあの人の過去にこだわって、あの人の未来を殺しちまったんだよ!!」
「アレは火事じゃ!」
「違う! 事故なんかじゃないんだよ!! 俺達を殺しに来たんだ! お前らがなっ!」
思い出す、自分を庇って撃たれた彼女のことを。
思い出す、笑いながら生きてとつぶやいた彼女の事を。
「例えそれが本当だとしても、キラがそんな事するわけが無いだろう! 何でそれがわからなかった!」
「ああ、しないだろうな。キラさんもラクスさんもそんな事を命じるような人じゃない」
キラはそんな恐ろしいこと思いも付かないだろう、ラクスの正義からその行いは外れているはずだ。
だが、あの二人の周囲はどうだ?
あの二人を絶対視するものの中に、手を汚そうとする奴はいないか?
「まさか……」
「まぁ、やりそうな奴はあらかた殺したよ、
バルトフェルドもダコスタも、他の連中も全部はずれだったけどな。あとはマルキオの奴だけだ」
居場所が見つからなかったが、まぁ、時間の問題だ。
順番が逆になってしまったが、どこまでも追い詰めて必ず殺す。
「アスラン、あんたはどっか行って良いよ。 どうせアンタもあんな事を命じれるタマじゃないし、
アンタみたいな綺麗でいたいだけの小悪党なんざもう興味が無いからな」
まるで蝿でも追い払うかのごとく、シンはアスランに言い放つ。
「ふざけるなっ! キラを、ラクスを殺したお前を見逃せるかっ!!
お前は危険すぎる! ここで殺す!!!」
「そうかい、俺は結構先輩思いだから、見逃してやろうかと思ったんだけどね」
シンの言葉に応じて、ジャンクデスティニーの赤い双眸が鈍く輝く。
底の無い闇を抱え、そのつぎはぎだらけの機体は、インフィニットジャスティスに肉薄した。