SCA-Seed_19◆rz6mtVgNCI 氏_Episode ”S & R”_第05話

Last-modified: 2009-03-10 (火) 13:37:11

 どこで計画が狂ったのだろうか。

 

 SEEDを内包した4人の子供を見つけたとき、私は神の啓示を聞いた。
 これで世界を救えと。

 

 そして、それから私はまさに世界を救うために動いた。
 大西洋連邦にもぐりこみ、ジャンク屋ギルドを手中にいれ、
 彼女達がいずれ世界と戦うための下準備を着々と整えた。
 プラントの同志は新世界の神となる娘のために、せっせと戦乱の下準備を行った。
 同志の親友であり、SEEDの子の一人の父親は何も知らない男ではあったが、
 コーディネーターの未来の為と囁けば面白いように思うとおりに動いてくれた。

 

 もはや、ナチュラルだコーディネーターだのと次元が違う話なのに。

 

 だが、彼を愚かとは言うまい。
 ほとんどのものは何も知らない凡夫であり、SEEDに導かれる存在なのだ。
 地上の同志は、自らが支配する国を生贄に捧げてくれた。
 いずれ地上の代行者、あるいは神に仕える女王となる子供のために働いてくれた。

 

 最初の誤算は裏切りの同志、ハルマ・ヤマトであった。
 彼もまたSEEDによる世界平和を目指す同士であったが、SEEDが世界を統べるために必要な
 生贄の儀式に反対をし、何という事か、SEEDの子であるキラを連れ我らの前から消えてしまったのだ。
 何度か彼らの存在を補足したが、ハルマはそのたびに居場所を変え我らの追跡を振り切ってしまった。

 

 だが、SEEDは惹かれあう。

 

 結局はヘリオポリス崩壊のドサクサでキラ・ヤマトは戦乱に飛び込み、最後には我々の元に返ってきた。

 

 愚かな裏切りの同志には舞台より去ってもらい、そこからは計画通りだった。
 遺伝子工学の権威が我らの存在に気がつきつつあったが、
 結局はスポンサーのロゴスに気が付いただけであった。
 そして彼の存在を程よいスパイスとして、世界はSEEDを持つものを支配者として迎える子羊となった。

 

 天はラクス・クラインが支配し、地上の代行者としてガカリ・ユラ・アスハが世界を導く。
 世界はSEEDが導く理想郷へと進むはずであった。

 

 だが、これはどうしたことであろう?

 

 SEEDを持つうちの3人は赤い瞳の復讐鬼に討たれ、
 地上の代行者たる女王は凡夫の手によって殺害された。
 なにが、一体何が計画を狂わしたのであろう?

 
 

「見つけたぞ、マルキオ」

 

 赤い瞳の復讐鬼は、黒く光る拳銃を片手にマルキオの前に現れた。

 

「まさか、こんな孤島の小屋に隠れていたとは思わなかったぞ」
「別に隠れていたわけではないんですがね……」

 

 マルキオはそうつぶやくと、傍らにおいてあった杖を手に取った。
 もはや、この期に及んで抵抗は無駄であろう。
 盲目の自分にこの復讐鬼から逃げられる手段はもはや無い。

 

「子供達は?」
「あんたに教える義理は無い」

 

 その言葉で、少しだけマルキオは安心する。今の彼の周囲から血の匂いは無い。
 自分が保護していた孤児やカリダ夫人は殺さずに逃がしたのだろう。
 復讐に狂ってはいても、この男は女子供を無駄に虐殺できるところまでは堕ちなかったようだ。
 その事に安心すると、マルキオの中に一つの好奇心が生まれる。
 どうせ死ぬのならと、マルキオは復讐鬼にたずねる事にした。

 

「君は、自分が何をしたのかわかっているのかい?」
「ああ、せっかく纏まりかけた世界をぶち壊した」

 

 復讐鬼の言葉に、マルキオは頭を振るう。

 

「君の復讐のおかげで世界は無茶苦茶ですよ。
 君のおかげで、また人類は戦争の時代に突入する。君はこの咎をどう償う気ですか?」
「最後まで戦ってやるさ。戦争が無い世界になるまでな」
「自分の手でその可能性を潰した君がですか?」

 

 お笑いだ。この凡夫はせっかくのチャンスを自分で潰しながら、戦争が無い平和な世界を望むと言うのか?
 この程度の人間に、自分達の崇高なる計画はつぶされたと言うのか?

 

「今は見つからないくても、戦うことしか出来なくても、絶対に見つけてやるさ! 
 マユやステラ、ロミナさんみたいな人が優しい世界で生きられるようにしてやるさ!」
「無理ですね」

 

 一時の感情ですべてをご破算にした男に、そんな事が出来てたまるか。
 結局は、人類はSEEDに導かれるに相応しい存在ではなかったのだろう。
 こんな愚かな連中を救おうなどと考えた自分が愚かだったのだ。

 

「殺しなさい。それで君の復讐は完了する」
「ああ、死んでもらう。
 お前が俺から奪ったもの……マユやステラ、レイや議長。
 そして、あの人の苦しみを味わいながら死ね」

 

 そして引き金が引かれる。
 口の中に血の味が広がる。

 

「滅びなさい。愚かな人類よ……」

 

 マルキオは自分からの身体から零れ落ちる命を他人事のように感じながら、呪いの言葉を吐く。
 そして、最後の力を振り絞って、長く開くことの無かった両の目を開く。

 

「えっ?」

 

 そして気が付く。復讐鬼の目の中に潜む、SEEDの輝きに。

 

 そして悟る。どうして計画が失敗したのかを。

 
 

 そう、SEEDには触ってはいけなかったのだ。

 

 人の存在を感じさせ、人と人の間で悩み苦しみ、間違え、
 そして間違えを正し、自ら考え成長させなければならなかったのだ。

 

 それを、無理に触り歪めて育ててしまった。

 あなた方は何をしてもそれは“正しい”のだと……。

 

 平和の歌姫をただの扇動家に、平和を愛する少年を戦闘機械に、
 勇敢なる戦士を奇麗事を言う小悪党に、誇り高き女王を泣き叫ぶだけの小娘に。

 

 傷つき迷いながらも、自らで立ち上がり育った赤い瞳の英雄の前に、
 歪められたSEEDなどいずれは蹴散らされる運命だったのだろう。

 

 ああ、愚かだったのは自分だ。
 すべてを見下しながら、一番愚かだった自分の存在に気が付かなかった。

 

 彼の行く末を見てみたい、マルキオはそう考えたが、もう時間は無かった。
 世界を混乱に導いた怪僧は、底知れぬ後悔の中に消えていった。