そして、50年の月日が流れた……。
「久しぶりに来たよ、レイ、議長、ロミナさん……」
プラントの共同墓地の一角に、その男はやってきた。
元は傭兵上がりのその男はある混乱する小国にもぐりこみ、いつの間にか軍を掌握してしまった。
家柄だけの男を国家元首にすえ、裏から操りもした。
簒奪者だと陰口を叩かれながらも、男は精力的に働いた。
男は夢想家だった。
ナチュラルとコーディネーターの差別無い世界、平和な世界、
誰もが幸せに暮らせる優しい世界を謳い続けた。
簒奪者が何を言うか、皆がそう言った。
血まみれの男が何を言うか、皆がそう思った。
だが、男はどういわれようと気にせずに、必死ななって働いた。
やがて、男に賛同者が生まれる。
最初の賛同者は家柄だけの国家元首だった。
彼は男の思いに賛同し、男と共に平和な世界のために働く事を決意した。
元々才能が有ったのだろう、その男は小国を建て直し大国と対等に話せるまでに国力を増して見せた。
そうなるまでに、40年の月日が流れていた。
少しずつ、賛同者は増えていった。
戦乱ですさんでいた人の心に、必死に働く男の姿が少しずつ写るようになってきたから。
巨大な国家の中にも、天空の筒のなかにも、賛同者が少しずつ増えていった時、
世界は男のことを無視できなくなっていた。
それから10年、いつしか小国の簒奪者を平和の父と呼ぶ者が出始めていた。
初老の男は、一人でいくつかの墓に花を置いて回った。
名を知られぬ兵士の墓もあった、キラ・ヤマトやラクス・クラインといったかつての英雄の墓もあった。
だが、彼は彼が覚えている限りすべての知っている人の墓の前に花を添えた。
花を用意できなかった墓の前では黙祷をした。
そして、最後にある女性の墓の前に足を止めた。
「久しぶり、ロミナさん」
かつて黒かった髪は真っ白に変わり、みずみずしかった肌は年輪を刻んでいた。
「ごめんな、ロミナさん。まだ俺は戦っているんだ」
まだ、あちこちで紛争は起こっている。南米は軍閥が割拠し、ユーラシアや東アジアは内乱状態だ。
彼女と自分が望んだ、戦いの無い静かな生活はまだ送れそうも無い。
「世界中が戦っているんだ。その戦いを止めないと戦いが無い場所にはいけそうも無いよ」
そう、どこに逃げてもいずれは戦いが迫ってくる。
戦いが無い場所に行くにはどうすれば良いのか? そう、戦いをすべて無くしてしまえば良い。
それはある種の狂気だと男は自身でも思っている。
結局はすべての戦いをなくすなんて出来ないからだ。
でも、狂気の復讐の果てにすべてを殺してしまった自分に出来る、
ただ一つの償いがこれだと彼は思っていた。
そう、戦いの無い世界にするという、永遠に終わらぬ戦いに身を浸す事こそが彼の贖罪だった。
「そっちではどうかな、旦那さんやニコルさんと仲良くやってるかな?」
血に染まりすぎた自分はそちらには行けないだろう。
「せめて、あなたたちが生まれ変わったときは平和に暮らせる世界になっているようにします。
もう来れないと思うけど、それじゃあ」
あれから多くの事が有ったはずなのに、それほど語る内容は無かった。
語れるほどまっとうな道を歩んだわけでもなかった。その事に男は少しだけ苦い笑みを浮かべる。
初老の男は、最後に墓に一礼するともう振り向かなかった。
Fin