SCA-Seed_19◆rz6mtVgNCI 氏_Episode ”S & R”_第09話分岐

Last-modified: 2009-08-29 (土) 01:37:58

「どういう意味だ、キラ・ヤマト」

 

 自分の知るキラよりも若干幼いキラの言葉に、シンは拳銃を下げる事無く用心深く尋ねる。
 ラクス・クラインよりマシだとはいえ、自己主張ばかりで会話が通じる相手ではない。
 また訳の分からない言葉の羅列で煙にまかれてはたまらない。

 

 もっとも、キラにはそんなつもりは無かったし、そこまで“彼”は壊れていなかった。

 

 キラは少しだけ困ったような表情をすると、シンにノートパソコンのモニターを向けながら確認を取る。
「説明が少し長くなるけどいいかな?」
「また、いつかみたいに煙に巻く気か」
「そんな事はしないよ。少し込み入った事情なだけなんだ」

 

 その言葉とともに、モニターに光がともる。
 そこには、赤と青の2機のMSが死闘を繰り広げていた。
 シンは警戒しながらもその画面を覗き見る。2機のうち、青いMSには何処か見覚えがあった。
 かつての愛機に何処か似ているが……。

 

「なんだ、それは? って、インパルス……いや、似ているけど違う……」
「GAT-X105 ストライク……、連合が最初に作った5機のGの一機だよ」
「あ、そうか……。そういえばアスハが色違いに乗っていたな」

 

 その言葉にシンも合点が行く。かつて、アスハがこのMSの色違いに乗っていたはずだ。
 そして、かつての愛機であるインパルスはオーブ系の技術者が多く、ストライクを参考にしたと聞く。
 そして、それに気がつくと同時に、シンの脳裏にかつてアカデミーで習った内容が浮かんできた。
「たしか、こいつはアスランが落としたはずだったな。だが、それがアンタと何の関係がある!」
「うん、これに僕が乗っていたんだ」
「なんだって!?」

 

 それは初耳だった。
 キラ・ヤマトがAAのクルーで連合にいたのは知っていたが、
 まさかストライクのパイロットだったとは……。
 だが、それならばAAとストライクの異常な戦果も納得がいく。
 しかし、納得がいく一方で新たな疑問も生じてきた。
「だが、こいつはアスランが落として、パイロットも戦死したって聞いたぞ」
「表向きはそうなんだけどね……」
 シンの言葉にキラはパソコンを操作する。
 それと同時に画面が切り替わり、箒の様な頭の若者が
 コックピットから人を引きずり出す光景が映し出される。
「これは、ロウ?」
「うん、イージスの自爆に巻き込まれた僕は確かに生死の境目にいたんだけど。
 セーフティシャッターと偶然通りすがったロウに助けられたんだ」

 

 まぁ、本当は偶然ではないんだが、キラはこの部分はごまかした。
 大して重要な部分ではないし、何よりここからが本番だからだ。

 

「そして、これが地獄の始まりだった……」
 画面は切り替わり、盲目の導師が医療ポットを操作している場面に切り替わる。

 

「このとき僕は確かに一命を取り留めた。はずだったんだ。
 でも、至近距離でおきたMSの自爆の衝撃は生易しいものじゃなかった」
 映し出されるライフデータは、全てが真っ赤になっていた。
 当たり前だ、熱はやり過ごせても、衝撃をやり過ごすのには限度がある。
 訓練されたパイロットでも、急激なGは時にその命を奪う。
 まして、いかにスーパーコーディネータでも訓練など積んでないしキラでは
 自爆の衝撃に耐える事など出来なかった。

 

「脳が無事だったのは不幸中の幸いだった。でも、結局は内臓の大半がやられていたんだ。
 コーディネイターの生命力が無ければきっと死んでいた」
「でも、今なら人工臓器を使えば平気だろう……、あ、え? でも」
 反射的にシンは言葉を口にし、その次の瞬間大きな矛盾に気がつく。
 その無言の疑問にキラはうなずくと、説明を続けた。

 

「うん、人工臓器を使えば日常生活は送れる。パイロットは無理だろうけどね」
 そう、内臓の全てがダメになっても人工臓器を使えば日常生活なら送れる。
 無論、頻繁なメンテナンスと節制は必要になるだろうが……。

 

「でも、あんたはパイロットを続けている、どういうことだ?」
 シンは背筋に寒いものを感じながらキラに尋ねる。

 

なにか、嫌な予感がしてならない。

 

「うん、この時僕は、プラントに連れ去られたんだ」

 

 さらに画面が切り替わる。シャトルに積み込まれる医療ポット、プラントに向かうシャトル。
 そして……。

 
 

「なんだよ、これは……」

 

 シンは擦れる声でつぶやく。
 途中から半ば気がつきつつあったが、それでも実際にその光景が映し出されると嫌悪せずにはいられない。
 そこにはあまりにもおぞましい、生命の蹂躙が映し出されていた。

 

「彼らが考えた解決方法は、僕の脳にあった記憶……いや、戦闘経験を僕のクローン体に入力して、
 第二の“キラ・ヤマト”を生み出すことだった」

 

 そこには、頭に電極を突き刺された“キラ・ヤマト”と、
 溶液入りの水槽で眠る“キラ・ヤマト”の姿があった。

 

「そして、瀕死の重傷だったキラ・ヤマトは用済みとなり処分された。
 唯一“キラ・ヤマト”のバックアップとなる脳だけ残してね」

 

 脳を抉り出される姿が、トランク大の保護ケースに脳が納められる姿が次々に映し出される。

 

「こうして、Kユニットが誕生した」

 

 KユニットのKはキラ・ヤマトのK。
 おぞましい装置の完成だった。

 
 

「こ、こんな事……」
「可能だよ。君は知っているよね。
 レイ・ザ・バレルというクローンの存在を。
 “ゆりかご”という人の記憶を嬲る機械を」

 

 確かに知っている。
 その二つの悲劇を、シンは痛いほどよく知っている。
 だとすれば、まさか、まさか……。

 

「君が知っている、キラ・ヤマトは二人目以降の存在なんだよ」

 

 さらに画面は切り替わる。
「こうして、僕は死にたくても死ねない存在となった」

 

 いくつも並ぶ、“キラ”のクローン体が収められたポット。
「死ぬたびに、新しい僕が生み出される。僕の意思を無視してね」

 

 さらに、繰り返されるおぞましい実験。名も知らぬ誰かの脳が抉り出され、機械の一部とされる。
「さらに、ターミナルの実験は続く。
 僕やGGのデータを元に、人の脳をCPUとする技術が確立する」
 生み出される、白きMSの群れ。
「大規模演算ユニットとして改造されたアーモリー1と、
 ドラグーンフリーダムにはこの悪魔の研究が搭載された」

 

 キラの言葉が、次々にシンの脳裏に染み渡る。

 

 否定したい、否定して欲しい。

 

 だが、戦士としてのシンの嗅覚が、この“キラ・ヤマト”は一切嘘をついていないと理解してしまった。

 

 そして、理解をした瞬間にシンは叫んでいた。

 
 

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 
 

 打ちのめされたシンの魂に、炎が灯った瞬間だった。

 

「僕はふざけてなんか……」
「ちがう!!」

 

 シンの叫びに抗議の声を上げようとするキラであったが、その言葉をシンは遮る。
「アンタじゃない! キラさん、アンタは被害者だ!! 
 俺が怒っているのは、こいつらに対してだ! こんな事許されると思っているのかっ!!
 こいつらは、人の命を何だと思っているんだ!!」

 

 映し出される科学者の姿に、盲目の導師の姿に、シンは怒りの叫びを上げる。
 ステラのような悲しい存在を、レイのような絶望しか持てなかった存在を、
 こいつらはいまだに生み出しているのか!!
 そんな事、許せない! 許してはいけない!
 シンの目が怒りの炎に染まる。

 

 そんなシンをみてキラは一瞬だけ驚いたような表所を浮かべると、次に優しげな微笑を浮かべた。

 

「君は、優しい人なんだね」

 

 そして、苦しげな表情を浮かべる。

 

 これから、自分は彼に…
 …自分の事のように怒ってくれた彼に、
 更なる十字架を背負わせなければいけないのだ。