SCA-Seed_674氏_第01話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 18:38:53

月のコペルニクスにある講演会場。
そこでは各国の代表団を招いた式典が行われていた。招かれた代表一人一人が演説を行い、その誰もが最後に平和を誓うことを宣言し、拍手と共に演台を降りる。
会場の警備に抜擢された各国の兵士は、それを施設内のスピーカー越しに聞きながら厳しい眼を辺りに向けていた。その兵士の中にはザフトの英雄の一人、シン・アスカもいた。
「式典の後に行われる終戦交渉が終われば戦争も完全に終わりか。停戦から一年、もっとかかると思ってたけど、案外早くここまで来たな。」
それは小声で、独り言であったのだろうが、シンと共に警備に当たっていたルナマリア・ホークはそれに律儀に答えた。
「まぁ地球じゃどこの国も滅茶苦茶だし、停戦のまま維持するよりきっちり終わらせて緊張状態を解きたいってことでしょ。」
「こら、お前等気が抜けてるぞ。しゃきっとせんか!」
いきなり会話に割り込んできた、首に下げた通信機からの声に二人はビクッと身を強張らせる。
「も、申し訳ありません! ジュール隊長。」
「ふん、それにどうせ今回の交渉じゃ終戦にまでは行かん。ようやく本交渉が始まったというだけだ。完全な終戦までは半年……いや、一年はかかるだろうな。」
「まだまだ遠いですね。」
「だが本交渉が始まったというだけでも今回の式典には意味がある。お前等二人もザフトの一員としてだな」

その時だった。
銃声。悲鳴。

「会場方面から銃声! 俺とルナはこれから向かいます!」
「わかった俺もすぐにいく!」

全力で走る。階段を駆け上がり、他の兵士と共に軽機関銃を構えながら演場の扉を蹴りあける。
それは既に終わりかけていた。
ユーラシア、南アフリカ、大西洋連邦代表の死体。講演会場を警備していた兵士の死体。
他の代表に銃を突きつける五人の男。四人は報道機関の制服姿で、一人だけ大西洋連邦の軍服を着ていた。
そして二人が入ってきたシン達に向け銃を向け、残りは銃を動かさない。
「散れッ!」
叫んだのは共に入ってきた大西洋連邦の兵士だ。その言葉に我に帰った兵士達が一斉に遮蔽物に隠れる。
同時に響く銃声。三人が倒れる。しかし人質をとられている以上、迂闊な反撃は出来ない。
五人の男は自分と同じ軽機関銃をもっていた。軍服を着ていた男はこの場の警備兵だろうから自前だろうが、他は恐らく警備の兵士から奪ったのだろう。
シンが遮蔽物としているのは6人がけの椅子だ。木製なので何時まで持つかはわからない。

「まずいな……。」
「シン、どうする?」
「とりあえずジュール隊長が来るまで待つしか……」
そんな事を話していると、隣で男達の様子をうかがっていた大西洋連邦の兵士、先ほど散るように叫んだ男がつぶやいた。
「何であいつが……」
あいつというのは襲撃者の中にいた大西洋連邦の軍人の事だろうか。気になったシンは聞いてみる。
「知り合いなんですか?」
「あぁ、同じ部隊にいた。」
「何とか投降させられませんかね。」
「……わからん、が」
そこでいったん声を切り、大声で叫ぶ。
「ロイドッ!何故こんな事をした! お前はこんな事をする人間じゃなかっただろう!」
襲撃者から答えが返ってくる。
「戦争を終わらせるためだ、ラルズ。逆に聞くが、このままで戦争は終わると思ってるのか?」
「終わるさ! これから交渉が始まるところだったんだ。あと一年もすれば戦争は終わっていた。」
「そうだな、"この"戦争は終わっていたな。」
双方がしばし沈黙する。そして口を開いたのは襲撃者側の男、ロイドだった。
「"また"戦争がしたいのか? お前は。」
それを聞いていたシンは唇をかむ。
――また戦争がしたいのかよ、あんた達は!――
それは以前自分が言った言葉だ。戦争は終わるはずだった、なぜそれをぶち壊した男がそれを言う?

会話は続く。
「……投降しろロイド。どちらにせよこの場から逃げ出せるとは思えない。」
「もとより逃げるつもりはない。それにもう目的は達成しているからな。……団体さんのお出ましだ。」
そして今更ながらシンも思い足音に気づいた。イザークが重武装の兵を率いてやってきたのだ。
「テロリスト共に告ぐ! 銃を捨て投降しろ! 貴様等は完全に包囲されている!」
それを聞いて襲撃者達は顔を見合わせ、頷く。
「やれやれ、ここまでか。」
銃を代表等からはずした。
それを見てイザークは叫んだ。
「投降しろ!さもなけば」
銃を上げ、自らのこめかみに当てた。
「な……? やめ」
銃声。

停戦から一年がたった。
二度の戦争を経験した世界は、もうこれ以上の人の死を望むはずがなく、平和な世界が始まる事を信じていた。
信じていたかった。

宇宙港は、いつものことではあるが喧騒に包まれていた。
日に万単位の人数が利用するのだから当たり前ではあるが、戦後急増した輸送需要に対して何の対策も行わなかった管理責任者の無能さも大いに貢献しているのは間違いない。
32.5度。それがその日の気温だった。その暑さに参っているのは主に海外からの旅行者だろう。赤道直下のオーブ首長国としてはそれほど高い気温ではない。
入国審査官から質問を受けている男にとっても、この故郷の暑さは慣れたものだった。

「ふむ、シン・アスカ、プラント国籍で……うむ、問題はないな。今回はどんな目的で?」
「……墓参りです。友人と、家族の。滞在は一週の予定です。」
「それはそれは。帰りの便の予約はお済かな? この時期は混むから今日の内に予約しておいたほうが良い。」
「えぇと、マスドライバーの使用予約は取ってあります。」
その答えを聞いた入国審査官はその意味をしばし考えた後、僅かな驚きと共に言う。
「ほう、ご自分の船をお持ちですか、お若いのにたいしたものだ。」
「いえ……貰い物です。」

その質問を最後に、入国審査官はパスポートを端末に入れ処理を行った後に返却してくる。
「それでは、良いご滞在を。」

宇宙港のターミナルを出てタクシーを捕まえたシンは、運転手に海岸沿いの公園へ向かうよう告げる。
車窓から見える街の風景は懐かしい物ではあったが、明らかに自分が知っている物から変わっていた。
二度の戦渦に巻き込まれたのだから当たり前といえるかもしれないが、シンは何処か寂しい物を感た。
やがて海岸沿いの一角につく。そこで降りたシンは、運転手に礼を言うと公園の道を慰霊碑に向かって歩いていった。

波の音が聞こえる。
「変わらないな、此処は。」
慰霊碑の様子が変わらない物であった事に奇妙な安堵を感じながら、シンは肩ひざをつき、話しかける。
「久しぶり、父さん、母さん、マユ。」
何処か寂しげな声だ。
「大体一年半振りかな。今までこれなくて、ごめん。……とりあえず、戦争は終わったよ、完全にじゃないけどね。
 それに、まだ各地じゃ戦いの傷跡は残ってる。このままほっとくと、又戦争が始まるかもしれない。
 俺はそれを止めたいんだ。」
しばらくの間、じっと前を見つめる。
「それじゃ、もうそろそろ行くよ。またそのうち来るから。」

あの事件の後、結局交渉は延期された。襲撃者五人のうち、一人は大西洋連邦の軍人、残りの四人は報道機関の人間で、プラントの人間が二人にユーラシア、東アジア、大西洋連邦の人間だった。
彼らは回りの人間からも信頼されていた人物ばかりで、テロを行った理由も完全にはわからなかった。
だが、こういうことがそのうち起こる、それは多少でも世界情勢、特に各国の経済状態に詳しい者なら予想していた。
現状に不満を抱かないはずがないのだ。
先の戦争で「勝ち組」だったのはオーブ、そしてプラントだ。本来プラントは負けた側だったが、勝ち側の人間であるラクス・クラインが議長となり政権を樹立し、デュランダル政権下と関わりが無くなってしまった為、
プラントにより損害を受けた側に賠償金を取られることもなく、それどころかプラント理事国から完全な独立を勝ち取ってる。
逆に敗戦国のうち一番ひどいのが大西洋連邦だ。国土の被害こそ少なかった物の経済的には壊滅状態、プラントの完全な独立により今まで入ってきていた収入がなくなったことやオーブに多額の賠償金を払わされた事。
そしてロゴス関連企業が軒並み壊滅した事だ。ロゴスはあくまで兵器開発部門を持つ企業の連合であり、そのほとんどは自動車や航空機などの一般製品の部門が大きかった。
しかし先の戦争でプラントによりロゴスが"戦犯"に指名されると、軍関係の部門以外もまとめて被害を受けてしまった。それにより失業者は激増、社会不安が増し、再建には十年単位の年月が必要とされている。
ユーラシアも各地が戦場になった挙句ベルリンは壊滅。更にそれをやった大西洋連邦は同盟国ということで請求出来た賠償金も少ない。
又、プラント理事国であったためやはり独立の影響を受け、経済的な状況も悪い。
他の国も大なり小なり何らかの被害を受けており、地球規模で混乱がおきているのだ。
こういう場合、被害が少なく資金的にも潤沢なオーブが被害国を支援、先導して行けばいいのだが、他国への干渉を極端に嫌うオーブ政府の姿勢から、そういった動きはないに等しかった。
このままではちょっとしたきっかけでまた戦争が始まりかねない状態にあるのだ。

そして議長の補佐役も勤め、軍部をまとめているイザーク・ジュールは他にも気になる情報を得ていた。
コーディネーター市民を保護するために各地に派遣した(もちろん各国の了承を得た上で)部隊が、ブルーコスモスの残党狩りを名目に、プラントに協力的でないナチュラルを虐待しているという物だ。
事が事だけにあまり外部に知られるわけにも行かず、かといって彼らを野放しにしていたままでは"戦争のきっかけ"になりかねない。
そこでイザークは、シンを含む信頼できる何人かの人間に権限を与え、各地の情報を集め、場合によっては現地で対処するよう任務を与えたのだった。

戻る】【次】