SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第17話EX

Last-modified: 2009-09-21 (月) 04:13:06

「ん……ここは?」
シン・アスカが目を覚ましたのは辺り一面草木も無い荒野だった。

 

「あれ? 俺は確かプラントで、インパルスエクシードに?」
意識を失う前はアーモリー1にいた筈なのだが、状況が理解できず思わず首を傾げる。
「目を覚ましたか」
声の方向へと振り向くと、そこに立っていたのは、
ボロボロのジーンズに、汚いノースリーブを着た頭を禿散らかした汚いおっさん。

 

「あんたは?」
正直関わりたくなったが、他に人もいないので仕方なくシンは男に問い掛ける。
「私はお前が乗っているグフクラッシャーの精。 
 今日はごいすー頑張っている君の為に一つだけ願いを叶えに来ました。 さあ願いを……」
「じゃあ世界平和で」
自称グフクラッシャーの精に即答するシン。
「うん。 それ無理。 精霊の力を超えている」
「役に立たねえなぁ……」
首を左右に振り、大きく否定する自称精霊に、
心の中でやっぱり禿散らかしてる奴は駄目だな。と呟き、シンは立ち上がる。
「じゃあさ、アーモリー1に帰してくれよ」
ふと辺りを見渡すも出口らしき物は見えない。

 

「ふふふふふ」
だが、自称精霊はシンの言葉に耳を貸す事無く不気味な笑みを浮かべる。
「おーい、聞いてる?」
「フハハハっ! そうはいくか! お前は一生この世界でクレジット三番目の男として過ごすのだ!」
シンが自称精霊の顔を覗き込むと、自称精霊の態度が一変。

周囲の景色がスタッフロールへと変わる。 

無論クレジットはキラ・ヤマト、アスラン・ザラに続く『三番目』だ。

 

「い、嫌だー!」
本編のトラウマがリバースしたのか、顔が引きつり狂乱し始めるシン。

 
 

「叫ぶな、騒々しい」
「……五月蝿い」
グシャッ!

 

聞き覚えの無い二つの声と共に何かが潰れた音がした。
何が潰れたかは自称精霊の声がしなくなった事から言うまでもない。
だが見たらトラウマが増えそうなのであえてシンは無視を決め込んだ。
「あ、あんた達は?」
その場に現れたのは髪から靴まで赤い女性と白と青のドレスを着た黒髪の女の子だ。

 

「やれやれ、一寸目を放したと思ったらこれだ。……世話が焼ける」
赤のロングコートを纏い、まっ平らな胸、中性的な顔立ちで
髪から目の色まで赤一色の女性は呆れ顔で大きく頭を振った。
「……あいつは偽者。 この人がシン・アスカ?」
一方、黒髪の少女ははちきれんばかりの胸をドレスに押し込め
興味深そうにエメラルドグリーンの瞳でシンを凝視していた。

 

「はぁ、すみません……ところでどちらさまですか」
反射的に謝るとシンは見ず知らずの二人に聞いた。
「全く、君は人情のない男だな。 いい加減付き合いも長いと言うのに。
 ま、いいさ。いつもの事か」
「……最低」
二人の呆れ果てた、冷たい視線がシンに突き刺さる。
「……本当に申し訳ない」
取り敢えず頭を下げるシン。
そんな事言われても本当に覚えがないから困る。
「謝る位ならさっさと帰って来てくれ。 君がいないと退屈でたまらん……
 ああ、コニールが痺れをきらす前にな」
「……その前にプラントでしっかり仕事して貰わないと困る」
「あんた達一体」
近しい者しか知り得ない情報にシンは驚きを隠せなかった。

 

「言い忘れた、私は他の機体との浮気なら少しは見逃すぞ。 誰かと違ってな」
「……なんか余裕。 私なんて相手にならないと思ってる?」
「ふふん。 年季、四年間の重ねた月日の違いさ。
 それに君やコニールやルナマリアがどれだけ頑張ろうとシンが『赤鬼』を名乗っている限り
 私から離れる事は出来ない運命なのさ」
「くっ……汚い。 でもまだこれから……」
当事者たるシンを放置して謎の女性二人の諍いは続く。
「四年? もしかして、お前はグフクラッシ……」
「ようやく気付いたか」
「……真性のニブチン」
二人は満面の笑みでシンを見る。

 

「……ところで此処にはクーデレのAIはいないのk」
「死ね。 とまでは言わないが、骨の二、三本折れろ」
「……もげてしまえ」

 

シンの言葉に満面の笑みから恐怖すら感じさせる邪悪な笑みを二人は浮かべる。
そもそも笑みとは獣の牙を剥いた姿を起源とする物らしいのである意味先祖帰りと言えるか

 

『お・! ・・・・きろ!』

 

「何だ、今の?」
そんな事を考えていたシンの耳に聞き覚えのある声が聞こえた。
「ん、もう時間か。 最後に一つだけ言っておく、必ず生きて帰って来なさい、シン。」
「……次は私のターン。 ずっと最後まで」
グフクラッシャーとインパルスエクシードの声が遠くに聞こえ始めたと思うと
シンの意識は深い闇へと落ちていった。

 
 

「おい! アスカ起きろ!」
「えっ!?」
次の瞬間、局長の怒鳴り声でシンは意識を取り戻した。
「調整の最中に寝る馬鹿がいるか!」
「す、すみません」

 

(あれは夢……だったんだよな?)
シンはコックピットを開くと乗機の頭部を覗き見る。
インパルスエクシードはシンの問いに答える事はなく、
そのエメラルドグリーンのカメラアイはただ虚空を映し出すだけだった。