SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第23話

Last-modified: 2010-01-09 (土) 03:20:57

前回のあらすじ

 

シン「決戦兵器……なんと聞えの良い言葉かー!」
劾「落ち着け! 手伝えロウ!(クルクルシュピン」
ロウ「合点承知!」
キラ(僕も参加した方が良いのかな……?)

 
 

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「あれ? イザークさん何やってるんです? 遊んでる場合でもないでしょうに」
シンは見知った銀髪の男、イザークの不機嫌そうな、嬉しそうな複雑怪奇な顔表情に疑問の声をあげた。
「誰が遊んでいる! 俺とて好きでこんな……俺にも色々都合がだな!」
シンのどこまで本気か分からない冗談に一度は言い返すも、
続く言葉がモゴモゴと歯切れ悪いイザークにシンは首を傾げる。
「失礼。 あまりイザークを攻めないで上げて頂戴。 私が護衛を頼んだの」
凛とした声が室内に響き、イザークに良く似た銀髪の女性が足を踏み入れた。
「は、母上! まだ安全の確保が……」
「どちら様で?」 『まるで私達が危険であるような言い方だな』
イザークの言葉を遮るようにシンが疑問の声を上げ、ミナが拭き愉快そうに鼻を鳴らす。

 

「さて、そろそろ仕事の話でもしましょうか」
にこやかな表情のまま言葉を紡いだエザリアにシンとミナの表情が
獲物(金蔓)を見つけた猛禽のような鋭いものへ変わる。
表情の変化に僅かにエザリアがたじろぎ、イザークが庇うように前へと出る。
睨みつけるようなイザークの表情に、バツの悪そうな顔をして見せるシン。
『そうして頂ければ有難い』
「そうですね、お願いします」
しょうがないじゃないか、こっちは(社員の)生活が掛かってるんだ。
内心愚痴りつつ、エザリアがパイプ椅子へと腰掛けるのを見ながら横目に見る。
「任務については把握しているかしら?」
もっとも専門家ではないから詳しくは答えられないけれども。 そう言いながら肩を竦めるエザリア。
「ええ、凡そはキラさんに聞いています」
病室のベットで横たわっていたキラの顔を思い出しながらシンは口を開く。
「キラはもう話せるのか?」
「ええ、大分よくなったみたいです」
友人の安否を心配してか、途中で口を挟んだイザークにシンが答える
「そうか、後で見舞いにでも行くか」
表情を緩め、ほっと溜め息をついたイザークにシンは微妙な顔を見せた。
(まぁ、傷一つ無かったんだから見舞いに行くまでも無いですけどね)
思わず口から出そうになる皮肉を何とか口内に押し込めたシンはエザリアへ顔を向ける。

 

「結構な事ね。 では報酬について話しましょう」
話が終ったのを確認すると、エザリアはキラの安否等興味がないとでも言いたげに鼻を鳴らした。
『当初の予定では連合が3プラントが7と言う話でしたが?』
視線を下に向けながらミナは言う。 恐らくは手元にある契約書でも見ているのだろう。

 

ミナとエザリアのやり取りを聞きながらシンはジャンへと渡した契約書の中身を思いだす。
全報酬から仲介料、諸経費、手間賃などを差し引いたシンの報酬は連合からの分だけで
新品のウィンダムIII(横流し品)が買えてお釣りが来るくらいのなのだが。
まぁ……初っ端襲撃は受けるわ、資材の中に蹴り込まれるわ、自爆に巻き込まれるわ、正体ばれるわ、
元カノにシャイニングウィザード喰らうわ、見たくも無い元上司の顔見るわ、壁殴り割って説教喰らうわ、
AIユニットの正体が脳味噌レイだとか。
酷い目(半分は自分の所為)に色々あっているので有難く遠慮なく報酬はいただくが。

 

「……当初の予定ではそうでしたが、一個戦隊にも匹敵する戦力と評価されるシン・アスカであれば別です。
 契約金、報酬に加えザフト時代の年金、退役支給金を全額。 プラントの名誉市民権。
 そして、戦場でのフリーハンドを認めます」
エザリアは一瞬考え込むような表情を見せると、すぐさま表情を戻し、
僅かに迷いを帯びた目でシンを真っ直ぐに見詰めた。

 

「年金? 退役支給金? フリーハンド!? ……自由行動。 いや、自由裁量権ですか?」
『豪気なことだ』
思わぬ報酬、破格の条件に思わずシンは大声を上げ、そんな様子を見ながらミナは肩を竦める。
年金や退役支給金は半殺しの目にあった慰謝料代わりに遠慮無く頂くし、名誉市民権に何ぞ興味も無い。
だが、一介の傭兵に余計な口出さないから好きにやれ。と言うお墨付きを貰うとは偉く評価されたものだ。
4年間の傭兵生活から考えれば、そう言うものには大概裏があるもので……

 

「その通りだ。 下された命令を自身で判断し、最適と判断した行動を取る事を許可する。
 ……この“意味”が分かるな?」
言葉の端々に不満の色を滲ませながら、“意味”を強調しイザークはシンに言った。
本人の本意ではないのであろうことは、その表情から容易に想像が出来た。
「……ええ、なんとなくは」
何とも言えないイザークの表情、無表情を装うエザリアの顔を受け流し、シンは静かに答える。
二人の態度から察するに、評議会の政治家や前線よりもザフト上層部の意向によるもののようだ。
赤鬼の時に散々ザフトと敵対しているし、仕方ないといえば仕方ないのだが。
何より元自軍トップエースの傭兵、しかも前議長の懐刀とあれば生きていて欲しくは無いだろう。 

 

分かりやすく言えば…… 「後腐れが無い様に死ね」 と言う事か。

 

「それともう一つ。 個人的に依頼が……」
「お断りします。 二重契約なんてしたら仕事を干されますよ」
先程までの余り感情の感じられない政治家としての声とは違い僅かに憂いを含んだ声のエザリアを遮り、
間髪入れずに口を開くシン。 

 

シンが禄に話も聞かず断ったのには理由がある。 
基本的に契約中に別の任務を請け負う事は余程の事が無い限り御法度だ。
また依頼主が複数いるため、一の依頼主に有利になるような密約を結ぶ事もマズイ。
傭兵全体の信用を保つ為、上記は戦地での略奪、暴行以上に厳禁とされていた。
ジャンク屋と違い組合ギルドの無い傭兵にとってある意味暗黙の了解ともいえる。  
命を賭け金にどんな汚い仕事でもする傭兵にも、いや、傭兵だからこそルールがある。

 
 

『せめて話くらいは聞いたらどうだ?』
言い切ったシンに苦笑しつつ、エザリアに助け舟を出すミナ。
「じゃあ、話だけなら……」
仕方ないとでも言いたげに不承不詳に頷くシン。

 

「……依頼と言っても、連合からの依頼の禁則事項に接触するものでも
 連合各国の不利益になる物でもないわ。
 依頼内容は唯一つ。 正体不明のテロリスト……ネームレス幹部ロミナ・アマルフィを、
 “如何なる手段を用いてでも”止める事。 それだけよ」
シンが頷いた事を確認するとエザリアは静かに、確かな覚悟を含めて口を開く。

 

「確か、キラさんのフリーダムを撃破した人ですよね?」
キラから概要を聞いてはいるが、シンとロミナに面識は無い。
ただ、アマルフィと言う苗字には聞き覚えがあった。
アスランがネビュラ勲章を授与された戦闘。
オーブでのストライクとイージス、キラとアスランの激戦と言うには余りに生易しい血戦の
切欠となったのパイロットの名前が
「ニコル・アマルフィ……確かザフトレッドの」
「そうだ。 俺達、俺とディアッカ、アスラン。
 旧クルーゼ隊で同期だったブリッツのパイロット、ニコル・アルマフィの母親だ」
シンの言葉を継いだイザークが顔を歪ませる。 その表情はまるで過去を悔いている罪人の様だった。 
その瞬間、シンの中で何かが繋がった感覚があった。

 

「彼女が何を思い、何を考え、何故向こう側についたか……」
エザリアは一旦言葉を区切り目を瞑ると、二度首を振った。
理由ならば分かっている。 彼女、ロミナが向こう側に行った訳は……復讐だ。
それも恐らくはキラ・ヤマトやアスラン・ザラに対するものだけではない。
恐らくはCE世界全てに対する復讐だ。

 

ロミナの動きが妙だと気付いたのは、彼女の夫が残した資産が月経由でクライン派組織、
ターミナルに流れ着いた事が判明した為だった。
だが、気付いた時には既に手遅れだった。
こちらが動いた時にはアプリリウス1の家、資財を引き払い、行方を眩ましていた。
そして次に表舞台に姿を見せたのは、彼女は復讐者、テロリストの幹部となっていた。

 

「プラント評議会議長代理としてではなく、一個人エザリア・ジュールとしてお願いするわ。
 ロミナを止めて」

 

「俺は……」
シンは返事を戸惑ってしまう。
バルドフェルドとロミナの復讐と言う目的に至った経緯の一部を理解できてしまうだけに。
「俺からも頼む……あの人が道を誤ったのは俺の、俺達の所為なんだ」
深々と頭を下げるイザーク。
『ふむ……どうするのだ、シン?』
ミナはニヤニヤと事の成り行きを見守っている。
シンがそういう頼みを断れないと分かっているのだろう
「ミナさん、分かって言ってるでしょう?
 キラさんの依頼受けているのに此方を断るわけにはいきませんし……分かりました。
 その依頼、確かに引き受けます」
ミナを見ながら溜め息を付くと、頭を掻きながら頷いて見せた。
「そう……ありがとう。 今日はゆっくり休んで。 イザーク案内をお願い」
「い、いえ。 あまり気にしないでください」 
涙さえ浮かべながらシンの手を握り締めるエザリアにシンは慌てる。
「はい、母上」
『少し待っていただきたい。 シンに話がある』
シンを先導しようとするイザークを止める様にミナが声を上げる。
「分かりました。 シン、先に行っているぞ」

 
 

『厄介な事になったものだな』
エザリアとイザークが退出するのを見届けると、ミナは愉快そうに笑った。
「ミハシラ絡みは8割、個人的に請ける仕事でも6割は厄介ですよ」
シンはミナの笑みに皮肉を返すと自嘲する。
『ふっ、そうか。 ……シンよ。 時代が変わろうとしている。
 武力と混沌の時代から対話と調和の世界へとな。
 連合軍とザフトとオーブの共闘。 今までなら有り得なかった事が起きている。 
 時代の節目には良くあり、必ず大きな戦があるものだ。
 今回の戦、勝てたなら、この時代で起きる最後の大戦になろう』
「もし……負けたら、どうなりますか?」
急に表情を引き締めたミナの言葉に、シンは真っ直ぐにミナを見据え、問い掛ける。
『全ては元通り……世界は7年前の相手と言葉すら交わそうともしない世界へと戻るだろうな』
苦虫を噛み潰したような表情を見せるミナ。
「ミナさんは奴らの情報をどこで?」
『こちらで落とした機体から確保した捕虜を締め上げたら簡単に吐いたよ』
ミナは見る者全ての背筋を震え上がらせる笑みを口元に浮かべる。
「そんな顔してると小皺が増えますよ」
「むっ……」
思わず目尻を押さえるミナ。 多少は年齢を気にしているらしい。
シンはしてやったりと言う笑みを浮かべニヤニヤとする。
『ふん、まぁいい! これからの戦はより激しい物となる、心せよ!』
してやられたのが余程悔しかったのか、ミナは頬を僅かに赤く染め、声を張り上げる。
「了解です。 ミナさんも御武運を……」
ザフト式ではなく、オーブ式の最敬礼をするシン。
『言われるまでもないが礼は言っておこう。 死ぬなよ、シン。
 ……貴様には貸しが山ほどあるのだからな』
シンの返答を待つことなく一方的に通信を切ったミナに背を向け、シンは通信室から退出する。

 
 

「用は済んだか?」
通信室から出た所でイザークは腕を組みながら壁を背に寄りかかっていた。
「イザークさん待っててくれたんですか」
「仕事だからな。 行くぞ」
少しだけ嬉しそうなシンにそっぽを向きながらイザークは答えた。
「あ、イザークさん、寝床に行く前に格納庫に寄って貰えますか?」
「構わんが、何の用だ?」
思い出したかのように声のシンに、首だけ向けるとイザークは聞き返す。
「ん……なんて言いますかね。 ケジメですよ」
イザークの問いに少々の間を置くと、シンはシンは静かに答える。
「分かった。 待っているから行って来い」
イザークは頷くと、振り向く事無く歩き始めた。

 
 
 

アーモリー1工廠、格納庫

 

「はぁ……疲れた」
インパルスエクシードのコックピット、コアスプレンダーのシートに腰掛けるとシンは大きく息を吐いた。
警備兵に足止めされ、ここまで来るだけで無駄な時間を使ってしまった。
タイミングの悪い事に局長やコートニー、マッドが留守の所に
シンとイザークの直情型短気コンビが格納庫を訪れたことが喜劇の始まり。
詳しくは省くがイザークのアイアンクローが火を噴き、一悶着や乱闘騒ぎどころか、
危うく流血沙汰になる所だった、とだけ言っておこう。
キラから貰った手紙が無ければ未だに拘束されていただろう。
騒ぎが収まった後、二人は仲良く
「「こいつとはもう二度と二人きりでは行動しねぇ……」」
と固く心に誓ったのだったまる

 

「さて……」
シンは気を取り直すとサイドボードに収納されたキーボードを取り出し、
各スイッチをオンにするとOSを起動させる。
正面モニターに見慣れた立ち上げ画面G.U.N.D.A.Mが映り、起動時間がカウントされていく。
『3、2、1、メインシステムオンライン。 おはようございます。 ユニットRB起動』
無機質な、女性の声を模した合成音がコックピットに響き、メインシステムをRBへと移行する。

 

「よう、相棒。 元気してるか?」
システムが切り替わった事を確認すると、親しい友に挨拶するような声色でシンはRBへと話し掛ける。
『……赤鬼、シン・アスカか。 事実を知ったので恨み言でも言いに来たのか?』
「そう言うつもりは無いんだがな」
かつての親友がいかにも言いそうな嫌味に、苦笑しながらシンは答える。
『なら何の用だ?』

 

「一つだけ確認しておきたくてさ。 お前は、RBはレイと全く同じ存在なのか、そうでないのか」
人であれば鼻を鳴らしたであろう態度のRBにシンは表情を引き締めRBへと問い掛ける。

 

『私はレイ・ザ・バレルの脳を使用し、存在している。
 だが、私にはレイ・ザ・バレルの記録はあっても記憶はない。 
 全くの別の存在と言えるだろう。 それが気に入らないなら好きにするがいいさ』
何処か諦めたような、覚悟を決めたような達観した声でRBは答える。

 

「はぁ……全く、何て言うか。 色々嬉しくて涙が出てくるね」
少々の間の後、溜め息をつく。
シンは大げさに肩を竦め、呆れ果てた様に呟いた。
『……それは私の存在を容認したと受け取るが構わないな?』
意外そうにRBは言った。
RBの中にあるレイの記録の中のシンのままならば怒りに我を忘れ、
RBを破壊しようとするか封印するに違いないと予想していたのだ。
「ああ、そういうことだ」
全てを受け入れたのか、半ば投げやりにも聞える楽天的な声でシンは頷く。

 

『では改めて自己紹介を。 私は独立型戦闘支援システムRB、コンゴトモヨロシク』
「何で片言なんだ? まあ、よろしく頼むよ、RB」

 

RBの態度に苦笑を隠す事無く、悪友と再会したような笑みを見せたシンは
親しみを込めコンソールを叩いて見せた。