SCA-Seed_SeedD After◆ライオン 氏_第06話

Last-modified: 2009-01-27 (火) 10:37:30

それは、まさしく伝承に語られる地獄であるとシンに悟らせるには充分な光景であった。
見るものすべてが赤く染まっている。

 

「……あぁ、またこの夢か」

 

シンはクリエイターの研究所から逃げ出して以来、この夢を二日に一度は見ていた。
十数年にわたり投与され続けてきた薬物の禁断症状であることを、彼は知らない。  
雨の中に散らばる人の体。
焼け焦げた死体の、鼻に突くような臭い。
敵機のコックピットから漏れる痛みにうめく声。
崩れたがれきの下から滴る人の血は、驚くほど赤い色をしていた。
バラバラに吹き飛ばされた人体が転がる様子は、吐き気がするほど不気味な様相を呈していた。
そしてなによりも……神を名乗る者たちに操られていたとはいえ、その地獄を作り出したのは自分だという事実が、
シンを責め続けていた。
そうやってうつむいた視線の先、彼の足もとにぞわぞわと無数の赤黒い触手のような手が生えた。

 

「ひっ……!?」

 

ずぶずぶとシンの足を無限の闇へ引きずりこもうとするそれは、彼に命を奪われた亡者たちの群れ。
その赤黒い、血で汚れきった腕がシンの足をガシリとつかんだ。

 

「うわぁぁぁぁぁ!! やめてくれぇぇぇ!!」

 

シンは声にならない叫びをあげる。
――なぜ殺した? なぜ殺した?
――なぜお前などに人生を奪われなければならないのだ?
――なぜ持たざる者を殺したのだ?

 

呪詛は途切れることがなく脳裏に響き、彼はどんよりとした口調で言い放った。

 

「……けどこの力、そしてこの俺は、殺された奴にとってはただの悪魔かもな。
フン、悪魔でいいよ。いつも俺はこんな風に壊すことしかできない最悪の化け物……悪魔だ。地獄に行くべき――」
「ちがう。お前は悪魔なんかじゃない」

 

その声に驚いたシンは後ろを振り返る。

 

そこにいたのは、不器用だが見ていてすがすがしいという表現がぴったりな笑顔の女性だ。
腕を組み、不敵に唇が弧を描いている。
周囲の暗闇を振り払うように輝く黄金の髪を広大な草原の穂のように揺らしながら、女性がシンに近づく。
目前まで顔を近づけると、ぴしりと人さし指を立て一言。

 

「お前、頭がハツカネズミになってないか?」
「はぁ?」
「前にも言っただろ? ぐるぐる回るだけだから、ろくでもない考えはするなと。
お前には悪魔みたいな力があるかもしれないが、お前自身は悪魔じゃないんだ。
だからそれでいい……って、何を言ってるんだ私は……。バカみたいだ」

 

ガシガシと頭を掻きながらそう苦笑すると、女性は自身の細い手を差し出した。
シンには、その差し出された手がうっすらと輝きを放ち、まるで錯覚にとらわれることとなった。
彼を地獄に引きずり込もうとしていた手は、すでに消滅している。

 

「まったく……こんなところでいつまでもグズグズしてるんじゃないぞ? ステラが待ってるんだから。ほら、立てよ」
「――!! ステラが……そうか、そうだよな」

 

まるで光の精霊が宿ったかのように輝く女性のその手を、シンは迷わずつかんだ。

 

「ちょっと出かけてくる。多分すぐ戻るけどな!!」
「よし、頑張ってこい。もうお前は大丈夫だ」
そのシンの笑顔に、女性は微笑み返す。

 

光が、広がっていった――

 
 

その時――彼は白いベッドの上で意識を覚醒させた。

 

「む、起きたか、シン。さきほどからずっとうなされていたが、急に静かになったので
俺よりも先にポックリ逝ったかと思ったぞ。どうした……? 泣いているのか?」

 

上体を起こして目の先にあったのは、昔から変わらない無表情でこちらを見る老人の姿。

 

「あぁ、……夢を見ていたんだ……」

 

それ以降、彼は二度と悪夢を見なくなった。

 
 
 

ガンダムSEED DESTENIY AFTER ~ライオン少女は星を目指す~
        第六話「生まれ堕ちた命と償いの戦い」

 
 
 
 

ジャンク屋専用の艦船には、軍用よりも心もち大きめのハンガーが設置されている。
そこでデブリを分解したり、MSなどを部品に解体する作業を行うためだ。
ケンジという名の反抗期真っ盛りの少年は、そのだだっ広いハンガーの二階部分のキャットウォークで整備中の機体を眺めていた。

 

「な、なぁミーア。手伝うことねぇか?」

 

ケンジはぐるっと向きを変え、隣を見る。
そこにいたのは、無骨なハンガーとはあまりにも不釣り合いなヒラヒラの衣服を身にまとった少女だった。
ミーアという、十三という年齢に見合った可憐、あるいは聖楚といった言葉のに会う少女である。

 

「はい、大丈夫ですわ。あとこのプログラムを入力すれば終わりますので」

 

ミーアは手元に持った端末のキーボードを信じられない速度で打ち込みながら答えた。しかも片手で、である。
そういって灰色のフレームがむき出しの端末をたたく姿は、衣装とまるで似あっていない。

 

「そ、そっか、ならいいんだ」

 

言って、ケンジはミーアから目をそらす。せっかくの申し出が拒否されて、すこしがっくりきたからだ。

 

「せっかく二人きりになれたのに……。これじゃあ……」
「ご苦労だな、ケンジ。それにミーア」

 

声がした方向に慌ててケンジは視線を向けた。向こうのキャットウォークから老人と青年が歩いてくるのが見え、
ケンジは先ほどの考えを脳内から打ち消そうと必死になる。

 

「お、おおう!? どうしたんだ爺さん?」
「? 何をそんなに慌ててるんだお前は? シンの機体の様子を見に来ただけではないか」
「い、いやそりゃそうだよな……アハハ……」

 

まさかかわいい女の子と二人っきりになれたのが嬉しかったのだと、反抗期の少年には言えるわけがなかった。

 

「はい、おじい様。出来る限りの修理は終わりましたわ。ですが……」

 

ミーアが端末をパタンと閉じ、そう告げるとその場にいる全員が釣られるように目の前の血の紅い機体――アブソリュートを見上げた。
ケンジがえへんと咳払いして、解説を行う。

 

「当たり障りのない応急処置は俺とミーアでもうやっといた。だけどハッキリいうと、俺はいままでこんな化け物見た事ねえ。
装甲の材質から機体骨格の隅々までがワケわかんねぇ技術が使われていてよ。どこをどうイジったらいいのかサッパリだ。
それに、こんなに小さくて高出力の核融合炉なんて初めて見たゼ。思わず鼻血出ちまったよ、マジで」
「? 核融合炉って……そんなにすごいのか?」

 

そう訊ねたのはシンだ。

 

「すごいなんてもんじゃないゼ! そもそも核融合炉ってのは整備が死ぬほど大変で、そのくせ装置がデカ過ぎるから
普通は戦艦の動力ぐらいにしか使われていないものなんだ。けど核分裂炉と違って出力が安定するし、Nジャマーの影響もまったく受けない。
このエンジンくらいの規模なら、戦艦の推力を腹に抱えてると思ってもいいゼ。
こんなものが世界中に出回ったらエネルギー問題は一気に解決するな、絶対。……あ、ヤベまた鼻血……」
「さっきから思ってたんだけど……もしかして君とミーアが整備してくれたのか? けどどうみても二人は十三歳くらいにしか――」
「俺は『君』じゃない。ケンジ・ギュールっていう名前があるんだから、ガキ扱いすんな!」

 

少年は年齢相応の不服そうな声を上げた。今の少年にとって『ガキの癖に』という態度は、人生の中で一番嫌がる時期なのだ。

 

「こう見えても俺はジャンク屋の端くれだから船の操縦と管理は全部俺がやってるし、他にも修理くらいするさ!
……まぁ、修理のほとんどはミーアがやったんだけどよ」

 

だが最後は申し訳なさそうに語気を弱めている。

 

「はい、ですがケンジさんが機体の配線を直してくれたおかげで、作業もはかどったのですわ。ありがとうございます」
「え? そう? 参ったな……デへへ」

 

ケンジは赤面して顔をうつむけた。さびが付着した手で、ぼりぼりと赤みがかかった茶髪を掻いている。
シンの視界からは表情が読み取れないが、満面の笑みで嬉しがってるであろうことは容易に想像できた。
様子から察するに、おそらくケンジというこの少年はミーアにぞっこんなのだろう。

 

「アブソリュート……」

 

シンは自身の乗機をもう一度見上げた。その悪魔のようなMSは、まるで眠りに落ちているかのように何も言わずたたずんでいる。

 
 

――レイの船・船室
ハンガーでは話しにくいとのことで、シンとレイは別の部屋で状況報告と情報交換を行うことにした。

 

「シン。お前はこれからどうするつもりだ? まさか単独でヤツらの基地にでも襲撃をかけるとは言うまいな?」

 

鋭い眼光がシンに突き刺さる。だがそれは心配してのことだ。

 

「いや、正直どうしようか迷っている。そもそも俺には本拠地の居場所が教えられていないし、たどり着いたとしてもあの化け物じみた
アムシャスプンタの連中にムザムザとやられるだけだ。どうすれば――」
「ならば仲間を集めるんだシン。お前は地球へ向かえ。今、俺は昔の仲間をいまそこに集結させ始めている。お前がいればみんな心強いだろう」

 

シンの声を遮って、力強くレイは言い放った。

 

「昔……!? そういえば他のみんなは、アメノミハシラでの決戦からどうなったんだ? レイは今まで何をしていたんだ?」
「フッ、俺も手をこまねいていたわけではない。あれからほぼ全員、崩壊したミハシラから離脱したあとは各方面に散った。
カガリが決して協力者の名前を公表せず自分が先だって表面に出ていたから、メンバーのほとんどは追手もなく
平和を満喫しているだろう。俺は来るべき日のために組織を再編して、力を蓄えていただけだ」
「そうか……みんな、無事でよかった……本当に」
「では今度は逆に俺が訊こう。お前は今まで何をしていた? そしてどうやってヤツらの洗脳を解いたんだ?」

 

安堵のため息をかき消すような厳しい視線がシンを貫く。ついに訊かれてしまったか、とばかりにシンは目を伏せた。

 

「俺は……ステラを逃がすためヤツらにつかまって……バラバラになった肉体を無理やり直され、徹底的に改造された。
そして極度の薬物投与や精神操作と、骨格強化の果てに出来上がったコーディネーターでのエクステンデッド、その第一号……。
『最強兵士』シン・アスカ。それが俺だった。その実験の薬物の副作用で、俺は調整を受け続ける限り年を取らなくなって、
今の俺は肉体的には捕まった時の若いままだ」
「……続けろ」

 

レイに促され、シンは再び消え入りそうな声で呟く。

 

「アブソリュートを与えられた俺はヤツらの指示に従い、いろいろな街を襲撃した。
地球、プラントを問わず人々の政府の対応への疑いを持たせ、社会不安を増大させるためにな。
けど、ある街を壊滅させた時俺はそこで……見たんだっ……!」

 

レイは皺だらけの口を思わず閉じ、絶句した。

 

大の青年が崩れ落ち、肩を震わせながら大粒の涙を流していたのである。
言葉では表せられない、もっと根源的な罪の意識が、水滴となってしたたり落ちていく。

 

「俺がビームでなぎ払った街の廃墟の中で……バラバラになった家族の遺体を抱きながら泣きわめいている子供を……!
そして、その子供の憎しみに染まった目で獣のように吠える様子を……俺は見てしまった!
気が付いたら俺は……調整を受けていた研究所を破壊して脱走していた……! 俺はあの時間違いなく、化け物だったんだ……!!」

 

嗚咽を上げながらシンがレイに声を荒げたのは、数えるほどしかない。レイは、シンの強い反応に一瞬だけひるんだ。
だが、ようやくシンの悩みの一端を覗けたことができたのである。レイは持ち味である冷静さを使い、穏やかに切り出した。

 

「そうか、お前はお前自身の手で同じ境遇の者を作っていた、と。――重いな。
だが……カガリの言葉を思い出せシン。『自分に与えられた運命を利用しろ』と言われただろう?」

 

大粒の涙をこぼし続けていた青年は、ハッと気づいたように顔を上げた。
目の前の老人は頬を緩め、続ける。

 

「俺はあの言葉に救われた。数年の命しかないと言われ、ギルに従うことでしか己を保てなかった昔と違い、
俺は『俺』であり続けることができた。メサイアから脱出した俺を立ち直らせてくれた彼女には感謝している。
だから、俺も言おう。――お前の罪は決して消えないだろう。
だがその悪魔のような力は、お前の力だ。今更償いようがないのなら――」

 

老人はすく、と立ち上がり青年を見据えて力強く言った。

 

「戦え、シン。きっとお前は戦うために、もう一度生まれ落ちてきたんだ」

 

「……戦うために……もう一度……」

 

涙を潜ませ、青年は立ち上がった。レイの言葉をはんすうするように呟く。

 

「そうか……何人殺したか覚えていないが……おれはまた、戦ってもいいんだな……」
そう言って、シンは昔のことに思いをはせた。

 
 

――17年前。オーブ・オノゴロ島・慰霊碑前
当時、地球統一連合軍主席と呼ばれていた一人の少女は、海にその身を投げようとしていた少年に告げたことがあった。

「なぁ、シン。私は、オーブの獅子の娘という運命を与えられた者として叶えたい夢があるんだ」
「……どんな夢だ?」

黒髪の少年が問いかける。その澱みきった紅い目は懇願していた。早く死なせてくれと。
ふと金の髪の少女は、ガラスがちりばめられたような満点の星空を見上げた。
前よりいつも上を向くようになったなと、少年は思った。
その口からはいくつもの夢が紡がれる。

 

「そうだな……まずは小さな子供が腹をすかせて泣かないようにすること、故郷を焼かれた人々が嘆かないこと、
愛し合った恋人同士が引き離されないようにすること……。
それに――――ダメだ、言い切れない」

 

難しい顔でそう紡いだ少女は、ふっと軽く噴き出した。くだらないことを指折り数えている自分が可笑しくなったのだろう。

 

「ともかく、私はこの与えられた運命をおもいっきり利用して、力のない人々……持たざる者の命を救いたいんだ。
ナチュラルもコーディネーターも関係ない。できるだけ多くの人々を、だ」
「また綺麗ごとか。……バカじゃないのかお前?」

 

少年はあきれた口調でつぶやいた。その綺麗な顔に一度ぶち込んでやろうかと思い、握った拳に力が入る。
だがそれを知らない少女は、穏やかな口調で切り出す。

 

「綺麗ごと、か……私はな、つい最近まで――ミネルバでお前に罵られた時も、世界はなんで平和になってくれないんだろう?
 自分はこんなに頑張っているのに、正しいことをやっているのに……としか考えていなかった。
 本当は辛い現実を直視したくなくて何もせず、あろうことか国を捨て世界中を混乱に陥れたのにな。
 ……認めよう、私は馬鹿だ。ましてや以前は、為政者の癖に世界を知ろうともしない大馬鹿者だった!」

 

少女は謝罪するように頭(こうべ)を垂れた。それは数年前亡くなった父に向けられているのかもしれない。
迷いを振り払うように上げた顔には、涙がたまっていた。そして揺るぎない意思が灯った金色の瞳でキッと強く少年を見据える。

 

「何もできないとお前の言う『綺麗ごと』を言って口だけで嘆いていたが、今は違う。この立場になってようやく私は決意した。
この運命を得た身として、自分にできることをしようと。尊重されるべき、命を救おうとな。
そしてさっき、その夢が一つ叶った。――お前の命だ。シン」
「…………」

 

人々は少年に諭すように言い聞かせる彼女を『オーブの獅子』と呼ぶ。
その凛々しい少女の視線に射すくめられた少年は、思わず動けなくなるほどであった。

 

「お前はさっき崖の上で言っていたな。力を得た自分が恐ろしいと、誰かを殺すのはもう嫌だ。だからもう死にたい、と。
それはよくわかる。そう考えられるなら、お前は笑いながら人を殺すヤツらなどよりかは、ずっとマシだ。
けどもっとよく考えてみろ。そんなお前には、そのキラをも打ち倒せる力があるんだぞ。正直、私はお前がうらやましい」

 

少年は憔悴しきった顔で、故郷の代表であった少女を見つめ返した。

 

「うらやましいだって!? 人を殺せることがそんなにいいのかよ! 今の『議長』たちに褒められなくてもいいから、
俺はもう人を殺したくないんだ!」
「何事も力は使いようだ。他人より優れている才能があればそれはいいことなんじゃないか?」
「人殺しの天才でもか!?」
「さっき私が言っただろう? 力は使いようだってな。
例えば……私のような小娘には出来ることなどたかが知れている。高い席に座りながら、
本当に苦しんでる人々を守れないことをいつも悔やんでいた。
だけどな、シン。お前の私にはないその力を使えば、もしかしたら彼らを助けることができて、流れる血を
減らすことができるんじゃないか? それができるかもしれないのに、お前は死を選びかけたんだ。
もしそれがお前が与えられた運命だとしたら、無駄に命を散らす前に最大限に利用してみろ。
……逃げるなよ。生きる方が、戦いだ」

 

先ほどまで故郷の島の海に身を投げようとしていた少年には、その言葉は染み渡った。
極限まで衰弱して泥沼の底のように澱んでいた心身が、すみずみまで洗われて行くかのようだ。

 

「べらべらときれい事を……そんなこと、できるわけが……ないんだ」

 

それは少年のささやかな反抗の表れだったのかもしれない。
少女は再び天を仰いだ。少年もそれに釣られるようにその視線の先を見る。
その瞬いていた星空はなりをひそめ、遠くの水平線からはうっすらと日が昇り始めていた。

 

「もうきれいごとじゃない。『できる』か『できない』で悩むんじゃない。この私が『やる』と言っているんだ。
……いや、お前をこんな状況に追い込んだ本人が偉そうに言ってすまない。私は馬鹿だから説得することが苦手でな……。
だけど、死ぬことだけはやめてくれ。頼む、この通りだ」

 

そう言って少女は再び深く頭を下げた。今度は力強く、少年に向けて。
さざ波の音が、周囲の空間を支配し、いやに耳に響いた。

 

ただ少年は決意する。
少女の身でありながら、これほどの決意を持つ目の前の『馬鹿』のバカげた夢を見届けてみようと。
一度は憎んだ相手だが、命を救われたことに変わりはないのだから。

 

「……おい、アスハ。アンタの言う通り、俺は生きてやる。
けどな、アンタの意思なんか関係なく、俺はアンタを利用して運命とやらを最大限に使ってやるよ、絶対にな。
勘違いするなよ? オーブを許したわけじゃない。けどアンタだけは信じれそうだから無期限の執行猶予を付けてやるだけだ」

 

そういって立ち上がった少年の瞳は、決意の火がついたように紅く燃え盛っていた。

 

「ああ、かまわない。地球統一連合軍主席なんていう最高の道具が目の前にいるんだ。
もしその道具を使って人々の命が助かるなら、思い切り利用してくれ。
その代わり、私もお前を少々利用させてもらうけどな」

 

すると、少女――カガリ・ユラ・アスハは、自らの足で立ち上がった少年に細い手を差し伸べた。

 

「シン。他人を苦しめたり、血を流させたりするのが嫌なら、他人が苦しんでいるのも止めて見せろ。
お前は、それができる運命を背負ったんだ」

 

そう言ってほほ笑んだ少女のその笑顔は、のちに少年にとっては最も大事な笑顔となった。

 

俗に言う『アスハの反乱』が起こる、数か月前の話である。