――――ここは……何処だ?
――――俺は……そっか、俺―――――
『狙い撃つぜぇええええっ!!』
『よう、お前ら……満足か?こんな世界で……俺は……やだね』
――――俺……死んだんだっけ……
――――トレミーは……?みんなはどうなった……?
――――スメラギさん……クリス……ラッセ……リヒティ……フェルト……すまねぇ……
――――アレルヤ……ティエリア……俺が居なくても……大丈夫だよな……
――――刹那……お前なら……お前ならきっと……世界を……
スタ スタ スタ スタ スタ スタ スタ スタ
――――っと、お迎えが来やがったか……そういや死神ってどんな奴なんだろ?
――――死神じゃなくて美人な天使だったらいいんだがなぁ……フェルトに怒られちまうな、ハハッ……
しかし、『彼』の前に現れたのは死神でもましてや天使でもなかった。それは――――
「よっ!」
――――……豚?
「だ れ が豚じゃいっ!?」
※ ※ ※
「……ったく! この私を豚呼ばわりするとは不届きにも程があるぞ貴様!!」
――――グチグチ五月蝿ぇ死神だな……あぁ嫌だ嫌だ
「って聞いてるのかコラ!?」
――――……オイ死神
「死神ではない!私は人呼んで救いのヒーロー『ぶりぶりざえもん』だ!!」
――――救いのヒーロー?(おかしな死神もいるもんだ……)
「そうとも。なんならお前を救ってやってもいいぞ、救い料は破格の一億ま――――
――――救いなんぞ乞わねぇ
「……何?」
――――よく聞け! 救いのヒーローだか何だか知らねぇが、テメェが死神だったら さっさと俺を地獄に連れて行きやがれ! 分かったか!!
「じ、地獄だと!? お前正気か!? 地獄へ落ちたら終わることが無い苦しみを味わうんだぞ!!」
――――もとより承知だ!
「考え直せ!今ならまだ間に合う! 救い料だって半額で(ガチャッ)ヒィッ!!」
――――駄賃はこの鉛玉でいいか?分かったらさっさと俺を――
「ハッハッハ、どうした若いの。相当荒んでおるようだが?」
「温泉ジジイ!」
――――何者だ爺さん?
「温泉好きのただのジジイさ。さて若いの、何故君はそんなに地獄へ行きたがる?」
――――それだけの罪を犯した。それだけだ
「ふ~む……聞かせてくれないかな? おぬしの罪とやらを」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「成る程。戦争根絶を謳い、世界中にケンカを売って大勢殺したと……」
――――そうだ。だから俺はその咎を受ける。だから地獄へ……
「……それは逃げる事だと思わんか?」
――――何?
「地獄へ行けばそれはそれで償いとなろう。だが、殺された者達の無念はそんな事で晴れると思うかね? 君のはただの責任逃れだぞ?」
――――ッ!それは……
「……まぁ良かろう。付いて来なさい」
――――どこへだ?
「君が望む地獄の入り口さ」
※ ※ ※
『彼』は老人に導かれるまま足を進める
――――(この爺さん何者だ……?まさかこっちが死神……)
「そうそう、名乗りのが遅れたな。ワシは『温泉の精』だ」
――――あ、あぁ……(温泉の精霊? 変な爺さんだな)俺は――
「着いたぞ」
――――……ッ! なんだこりゃ!?
「ここが『地獄への入り口』さ」
目の前に現れたのは巨大な穴。まさに地獄の入り口と言う名に相応しい……
『彼』は穴の中を覗き込む。
光さえも飲み込んでしまいそうなその穴に『彼』は血の気が引く……
「おいジジィ! ここって現s」
「(シッ!)この穴の底が、君の望んだ地獄だ。どうだ?嬉しいだろう」
――――おいおいマジかよ……で、どうすりゃいいんだ?
「簡単さ、飛び込むんだよ」
――――飛び込むって……そんな簡単に言うんじゃねぇ!
「どうした?まさか怖気付いたか?それとも地獄へ行きたいってのはウソかね?」
「フッ、情け無いヤツめ。貴様はそれでも股間に玉が付いているのか!?」
――――(パァンッ!)←発砲
「ぐわっ!!……き、貴様ぁ、死んだらどうするんだ!?」
――――(なんで生きてんだコイツ)
「……ところでどうするのかね?」
『彼』は無言のまま立ち尽くす
――――……何やってんだろな俺。ここに来てビビってやがると来たもんだ……
――――(スメラギさん……おやっさん……ラッセ……クリス……Drモレノ……リヒティ……フェルト……アレルヤ……ティエリア……刹那……後、頼んだぜ!!)
――――……行くとするか
「お、覚悟を決めなすったか」
「さぁ行け! 二度と来るんじゃねぇぞ!!」
――――ありがとよ
「達者でな!」
そう言うと『彼』は穴の淵に立った
――――あ、そうそう、今更だけどまだ名前名乗って無かったな。俺は……
「その必要は無いよ……ニール・ディランディ君」
――――ッ!? ちょっと待て!!何で俺の(ズルッ)おわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………
驚愕した『彼』は体制を崩しそのまま穴の中へと消えていった――――
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「……行ったか」
「おいジジィテメェ、あいつを地獄に行かせる気なんざ無かっただろ!?」
「はて、何の事やら」
「とぼけんな!! ここは『地獄の入り口』どころか『現世への戻り口』じゃねぇか!!」
「ウソは言っておらんぞ。『生きる』という事こそ、地獄の責め苦よりも何よりも辛いのさ」
「ケッ!何カッコ付けてやがる!」
「ハッハッハ、怒ってくれるなよ。これから天使ちゃん達と一緒に飲みに連れてってやるからさ」
「ヒャッホォウッ!!」
「……割り勘でな」
「なんだと~!」
(元気でな若造。お前さんはこれから、真の苦しみを味わう事になるだろう……『春日部』という地獄で)
BGM:DAYBREAK'S BELL
※ ※ ※
――――あの爺さん俺の事知ってやがった……やっぱり死神……!?
――――しかし長ぇ!! いつまで続くんだこの穴は!? ホントに底あんのか!?
と、ようやく一筋の光が見える
――――見えてきやがった……ヘッ、この期に及んでまだビビってやがる……情けねぇな俺は!
――――みんな……一足先に行ってるぜ!!!
徐々に光が近付いてくる。長い長い闇を抜け、彼の目に飛び込んだのは――――――――
――――これは!?
目に映るのは青い空と白い雲と―――――広がる広大な都市
――――これが地獄なのか……?なんか拍子抜けだぞ……
気分はまさにスカイダイビングだ。徐々に近付く眼下の都市に『彼』はふと、ある事に気が付いた……
そう、ただのスカイダイビングとは決定的に違う、『ある事』に……
――――そういえば、どうやって着地すりゃいいんだ?
無論、パラシュートなんて物は背負ってない
――――……
「うぅわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
絶叫を上げながら『彼』は急降下していった。