シンは路上で凍えていた。
毛布にくるまって必死に耐えているが、心も身体も寒い。
だいたいまだ明け方で辺りはまっ暗なのに、コンクリートの上に座って待ってろとはなんの罰ゲームだよ。
凍えて今にもパ○ラッシュ僕はもう疲れたよ~になりそうだぜ……と、そうこう思ってるうちに太陽が昇り、夜が明けてきた。
ああ、太陽ってあんなに暖かいものだったんだなあ……太陽の恵みをこうまでありがたいと思ったのは生まれて始めてだ。涙が出るぜ。
♪太陽はおお命の星だ~ 幸せをおお守る炎だ~
いーぐるしゃーくぱーんさー いーぐるしゃーくぱーんさー
おれーたちのたまーしいももーえーてーいるー♪
……それにしてもなんでこんな事になったんだろう。
そうだ、昨日……アスランと、重傷のはずなのになぜか元気に退院していた副店長にに呼び出されたからだ。
緊急ミーティングとか言われて、なんだなんだとのこのこ行って……
ああ行かなきゃよかった。なんで俺はいつもいつもこうお人好しなのか。
「気にしたら負けだゾ」
俺の気持ちを読んだのか、しんちゃんが慰めてくれる。
しんちゃんは優しいな……まあそっけない時のほうが多いけど……
まあそんなこんなでまだ時間も腐るほどあるし、昨日のことを思い出す。
そうだ、あの日俺はアスランの連絡を受けて呼び出され……
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アーサー「ではこれより冬コミのサークル巡回作戦の詳細を説明する。
前回は急な用事で夏コミに行けなかったため、委託購入をラドル隊に頼んだのだが……結果は失敗に終わっている。
そこで今回は……アスランどうぞ」
アスラン「はい」
シン 「あの……これなんの話なんスか?」
ルナ 「しっ、黙って聞きなさいシン」
アスラン「東館には超人気壁サークルが並んでいるが、前回東側入り口から攻略しようとしてもろくも失敗した。
やはり東に並ぶ人数はケタ外れで、容易には素早く入場できないというのが理由だ。
今回サークル参加の抽選を外したため一般参加で突入するしかないが……シン、どうすればいいと思う?」
シン 「え?そ、そりゃあ………んーと……
まあ走ってその目当てのサークルんとこに誰よりも早く行けばいいんじゃないスか?」
ルナ 「はあ……」
アスラン「それはそうだが。俺たちは今どうすればそうできるかを話してるんだぞシン」
シン 「や、やれるよ。やる気になれば……」
アスラン「じゃあやってくれるか? 俺達は後方で待っていればいいんだな? 購入できたら知らせてもらおうか」
シン 「ええッ!? い、いやそれは……」
アスラン「というバカな話はおいといて、だ。ミス・コニール」
コニール「ん?」
アスラン「彼があの役を引き受ける。カタログと巡回チェックを入れた地図とデータを渡してやッてくれ」
コニール「……こいつが?」
シン 「む、なんだよ?」
コニ―ル「首謀者はアスランとそこのエロゲオタだろ? あんた達がやった方がいいんじゃないか。
今度失敗したらマジ終わりだし」
シン 「なんかよく知らないけど、そうだそうだ~」
アスラン「あいにく俺はお前の心情とやらに配慮して、無理と思える作戦でもやらせてやろうと思うほど馬鹿じゃない。
無理だと思えば始めから自分でやるさ。だがお前なら出来ると思った。だからこの作戦を採った。
それをあれだけデカい口を叩いておきながら今度は尻込みか?」
シン (……なんで俺、アスランに責められているんだろう?)
コニ―ル「前にま○がの森やアニメ○トでカタログ買いに行ったときは大変だったんだ。
小太りのキモオタどもが私をじろじろ見て変にハアハアしてて……
レジにもっていったら、まともに使うのが恥ずかしい絵柄のバッグ貰ったりするし、ほんと生き地獄だったんだ。
もうあそこへは2度と行きたくない。だから絶対成功させてほしいんだ。シン」
シン 「……はあ」
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そして入場直前。携帯でアスランがシンと、なぜかシンについてきたしんのすけに指示を出す。
アスラン『よーし作戦開始だ。西側入り口にはミスコニ―ルが見つけた秘密の裏口通路がある。
そこを通って抜ければ、東館の最深部に到着する。
東側入り口から入場するより早く壁際サークルに並べるはずだ』
シン 「あれか? えぇ~…なんだよこりゃ!真っ暗ぁ!? くっそー!まじデータだけが頼りかよ!」
しん 「おっと、こんなとこにバケツが置いてあるゾ」
アスラン『シンならダメでもしんちゃんなら抜けられるはずだ。データ通り進めばいい。ただし走れよ』
シン 「そういう問題じゃないだろ!……あだッ!」
しん 「頭ぶつけた?」
アスラン『俺たちは他の中堅サークルを片付けるから、お前達は裏口を抜けて直接壁際サークルに向かうんだ』
シン 「なにが『お前になら出来ると思った』だあの野郎! 自分でやりたくなかっただけじゃないか!」
しん 「ほら走る走る~~♪」
アスラン『お前が遅すぎればこちらは追い込まれる。早すぎても駄目だ。警備員やスタッフに捕まる。いいな?』
シン 「やってやるさこんちくしょ――――ッ!」
しん 「お、明かりが見えてきたゾ」
※ ※ ※
シン 「……ぬ、抜けた。やった! 目当ての壁際サークルはすぐそこだ……!」
しん 「あちこち身体ぶつけて、傷だらけでよく頑張ったねえ~」
ルナ 「あ、シン」
アスラン「なんだ、今頃来たのか?」
シン 「……え?」
アスラン「遅いぞ。壁際は全部俺が押えた」
シン 「……は?」
アスラン「運良く列の先頭のほうに並べたし、お前がいつまでたっても来ないもんだから……」
シン 「……えっと……つまり……これって?」
しん 「骨折り損のくたびれ儲け」
シン 「うがああああ! やってられっかこんちくしょォォォッ!!」
しん 「そういえばふくてんちょーは?」
ルナ 「企業ブースでエロゲメーカーの限定品買い漁ってるわよ」
もう2度とコミケには来たくないと心の底から思ったシンであった……