まあ1月5日ともなるとね、どこの店でもとっくに仕事始めになってるわけよ。
当然わたしがバイトしてる『あ~くえんじぇる☆』も例外じゃあないわけで……
「ネーナッ料理できたぞ!コーヒーセット3番テーブルッこっちのスパゲティは6番だはやく!」
「せかさないでよ!え~とお客様ご注文は!?ほらはやくしてよ忙しいんだからあッ!」
「フリ~ダ~~ム♪う~んツンデレメイドのネーナさん萌え~~♪」
「近寄らないでよキモいッ!……写真撮らないでってば!」
「おねいさ~んオラのロイヤルチョコビまだ~~?」
「だからそんなものこの店にはないの!」
あ~~もう!毎度毎度キモい男客ばっか(園児は一応除く)でいいかげんストレス溜まるわねえ!
同じウェイトレスのステラは好きだけど、トロくてにぶいから自然と私にばかり仕事がくるのよね……
でもムウのおっさんはお給料払いがいいから辞めるに辞められないのがつらいとこというか……それにしても
「やーだー!ここんとこ働き詰めじゃない~~!」
「じゃあステラがお仕事代わるよ。ネーナ休憩してきて」
「ス、ステラ……あんたってなんていい子なの~♪じゃあ遠慮なく……」
「休憩か?なら休憩ついでに買い物に行ってきてくれ。ほら買い物メモ」
「~~~~~~っ!」
腹立ちまぎれにムウの顔面にパンチを一発入れ、私は近所の商店街に向かった。
まったくもう……あ。そういえば今日は『スーパーミネルバ』も初売りやるとか言ってたような。
…………まあいいわ。なんか嫌な予感するからそ他の店で買い物済ませよ。
しかしそれにしてもあの店長にはムカつくわねえ!こんなに私をこき使って……お給料が良くなかったらとっくに……とっくに辞め……
「あ~~んもう!……ん?」
ふと見ると。なんか白い建物の前で、着飾った大勢の男女が楽しそうに談笑しつつパーティーをしていた。
なにやってるんだろ……でも……む。見てる内になんとなくムカついてきた。
「なぁにそれ……こっちは必死でお仕事やってんのに脳天気に遊んじゃってさ!」
私はこんなに頑張ってるのに。
仕事に追われている私が全然楽しくないのに。
頑張っても誰かに誉められるわけじゃないのに。
なのにこいつらは遊んでいる。
遊んで楽しそうにしている。
許せない。
ムカつく。
私のなかの子供っぽい殺意の衝動が頭をもたげてきた。
「あんた達わかってないでしょ……?世界は変わろうとしているんだよ」
そしてポケットの中のナイフに手がかかった。
「……死んじゃえばいいのよ」
リ~ンゴ~~ン!リ~ンゴ~~~ン!
まず近くの女の背中を刺そうと思った瞬間。突如けたたましい音があたり一面に鳴り響いた。
どうやら建物の上に吊るされている大きな鐘の音みたいだ。
あまりの大きな音に思わず怯んだ私。
そして建物正面の大きな扉が開き、盛大な拍手とともに一組の男女が姿を現した。
「あ……結婚式……?」
たくさんの客に祝福された新郎新婦がその中を歩く。私は思わずその姿に見とれちゃっていた。
そっか。結婚式だったんだ結婚………なら笑うよね。幸せだよね。楽しいに……きまってるよね。
なんか忙しいとかなんとか、そんなので子供みたいにムカつく自分がひどく矮小に思えて、私は内心恥ずかしくなってきた。
おもわずそそくさと立ち去ろうとした、その時……
「それ!」
花嫁が突然ブーケを投げた。その場にいた女性のみんなが空に向けて手を伸ばす。みんな未婚なの?
しかし投げられたブーケはまるで狙ったかのように一番後ろの方にいる私に向かって飛んできて……
私はブーケを両手で受け止めた。
「……あ?」
「おい兄貴。あそこにいるのって……」
「ネーナ?なにをしている?」
「え?」
ふと見ると兄ぃ兄ぃたちがいた。
「あ……ごめーん。な、慣れない街で道に迷っちゃって」
「ふーん?ま、バイトが大変で疲れてるんだろ」
「まだ仕事中なんだろう?勝手な行動は慎め」
「はーい」
私は後ろを少しだけ振り返った。花嫁たちの方を……いつか私もああいう風にお嫁さんになれる日がくるのかしら?
留美とかしんのすけとかステラとかロックオンやシンや……みんなに祝福されて幸せになれる日がくるのかしら?
それもちょっとした憧れだけど少し考えてみて。
もしそうならなくても別にいいや、と思った。
だって兄ぃ兄ぃや留美やみんなが一諸で春日部にいるだけで今の私は充分幸せだと思うから。
いいよ私はお嫁さんになれなくても。でもあんた達の幸せは祈ってあげる。見ず知らずの私が祝福したげる。
ちょっと悪戯っけに舌を出して、私はブーケのお礼とばかりに新郎新婦に小悪魔的に笑ってみせた。
「えへ♪」