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Last-modified: 2009-03-13 (金) 21:49:50

(SEED 戦後30年目の愛 序章)

CE103年、秋 オーブ

あの大戦から30年が過ぎた。

「フレイ、もう僕は超えてしまったよ。父の年齢を」

「もし君との子供が生きていたら32歳になってたかな」

墓の前にたたずむ紺のスーツを着崩した男がそうつぶやいた。

「君の墓に来るのは久しぶりだね。ヒビキ家の墓はなれたかい」

帽子を脱いで、花を供えた隣の軍人風の男が

「閣下、そろそろよろしいですかな」

「ああ。」
「午後から代表質疑がありますので」

軍服姿の男が時計を気にしながらいった。

「さあお乗りください」
黒塗りの車が横付けされて、男は乗りこんでいく。

質素な服の男の名は、キラ・ヤマト

オーブ首長国連邦の准将閣下であり、摂政殿下であり、カガリ・ユラ・アスハの実の双子である。
ラクス・クラインの夫であり、大戦を和平に導いたフリーダムのパイロット。
スーパーコーディネーターで、ユーレン・ヒビキ博士の息子ということは公然の秘密であった。

「閣下、3ヶ月後の日本国の紀元2800年祝賀行事には摂政殿下として参加されるのですか」
「ああ。あれは僕の役目だからね。カガリにばかり負担はかけられない」

オーブの首長であるカガリには後継ぎはなかった。かといって養子も取らなかった。
カガリ自身はキラに全権を譲るつもりでいた。いや、正確にいえばアスハ家から英雄キラ・ヤマトのヤマト家に《禅譲》するつもりだった。

キラには幸い妻と三人の息子たちがいた。
その妻とは、かのプラントにおいて黄道政治同盟を立てたシーゲル・クラインの愛娘、ラクス・クラインであった。

ラクスは評議会の政治よりキラを選んだ。その結婚は愛ばかりではなくプラント・オーブ間の友好の懸け橋という極めて政治的な結婚だった。

「フレイ、時間の流れは残酷だ。何もかも変えてしまったよ。あの戦争さえなければ。
でもあの戦争があったからこそ学ぶものもあったし、僕は素晴らしい人を得たよ」

30年、キラは政治の世界に身を投じた。
それは自身の平和への思いの表現だった。

プラントに白服待遇で迎え入れるという話もあったが、カガリのために、いや故国のために蹴った。
改めてオーブの国防大学校に入りなおし、参謀本部に入り、事務畑を歩いた後、国防次官を経て上院議員になった。
そして五大氏族の推薦を得て摂政殿下の地位に就いた。

…………

…………

「おまえは何をしてるんだ、こんなところで!」
「イザーク、ディアッカ」

「アスラン、坊主の真似事なんかやめてザフトに戻って来い」

「俺は、俺は、戻る資格なんてない」

「俺は、俺自身の優柔不断さで、ニコルを、ミーアを、メイリンを失ってしまった。それだけじゃない。この手は汚れてるんだ。おれには戻る資格もない」

「メイリンはあれは不幸な事件だ。おまえは悪くない」

「あれは俺がオーブの駐在武官じゃなきゃ起こらなかった。メイリンには、あいつには、腹に……」

「この、腰ぬけが!しっかりしろ」
「よせ、イザーク。妻と二人の子供を喪ったやつに言う言葉じゃない」

「煩い!お前は黙ってろ、ディアッカ
なんで貴様のような屑坊主のために、インドくんだりまで俺たちが来るしかなかったんだ?おれは評議会がある、ディアッカは士官学校の校長だぞ
お前がこんなところでくすぶってるから悪い
それになんだその頭と恰好は?そんなぼろきれはさっさと脱ぎ棄ててこれを着ろ!
お前には似合わん」

黄昏のなかで、男たちは立ち尽くしていた。

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