SEED-IF_30years_17

Last-modified: 2009-07-25 (土) 09:11:16

薄暗い室内で男が受話器を取った
「私だ。航空戦隊につないでくれ……
ゲイツ《S》隊を……
早くしろ、《客人》が危ない」
交換手が電話の主に少しだけ待つように伝えた。
「こちら、ゲイツ《S》隊です。何でしょう、副司令」
「出撃してほしい」
返事はすぐ帰ってこなかった。
まだ電話は終わってない。その判断は正しかった
「ただちに出撃します。場所は?」
「トンキン湾岸30海里との情報だ。君の官職・姓名は」
「コートニー・ヒエロニムスです」
副司令と呼ばれた男は相槌を打った
「宜しく頼む」
そう言って受話器を置く……

 

しかしそれだけではなかった
少し間をあけて、男は懐中から電話を取り出した
かけ始めた先は、つい先ほどの目的とは違うようだった
同一人物かと思うほどの違った、はっきりした様子で
「同志、こちらは《マイケル》です」
「何だ?」
「先程《赤い騎士》の所在を掴みました。奴が動き出しましたので、航空隊の派遣をお願いします」
「でかしたぞ!後で其れなりの見返りはやろう」
そして少し間をあけて、一言合言葉を言って電話を切った
青き正常なる世界のために

 

 

ドアをノックする音が聞こえる
「入れ」
ドアが開くと緑の軍服に剣帯ベルトをした保安隊の兵士が入ってきた。
腕には保安部を示す「人民警護」と漢字と英文字で書かれた腕章が見て取れる
ドアを後ろ手にゆっくり閉めると、敬礼をして直立不動の姿勢を取った。
《副司令》は机から立ち上がると返礼をし、再び椅子に腰かけた。
「唐突に悪いが、コートニー・ヒエロニムスとは何者だ」
保安部員は少し考え込むと言葉を選ぶようにして返してきた
「元は兵器設計局ヴェルヌ課(局)の臨時職員で、飛行士出身ですが信用できる男です」
「ほう。思想的には?ラクス・クラインの影響は」
「問題ありません。あの男は量産型デスティニー (デスティニーインパルス)で、《クライン愚連隊》と戦った男です。副司令」

 

―《クライン愚連隊》とはプラントにおけるターミナルの蔑称であり、
シーゲル・クラインの遺児ラクス・クラインの下に集まった人々を傭兵達は、《歌姫の騎士団》と皮肉をこめて呼んだ―

 

「軍事アカデミーの成績は?」
「彼は民間の徴用です。テストパイロット」
「奴に関する資料を持って来い。あと戦艦ミネルバとの接点を念入りに調べてくれ」
「なぜです?」
「新しい《親方》と関係があるとだけ言っておこう」
「失礼しました」
《副司令》は再び立ち上がり、右手を高く掲げて叫んだ
「ザフトの為に戦え、死ね!」
もしすべてを見通す目があったなら、目の前でザフトのスローガンを叫ぶ男が、何者か判りこういったであろう
卑劣な漢奸
しかしこの世の中とは残酷なものである。
ザフトの為に戦っていない男が、白々しく、その言葉を口にしている!という事実を
「ザフトの為に、栄光有らん事を!」
そう答えて何も知らない警備兵は去って行った。

 

 

「出撃する、手配をしてくれ」
アスランは内線電話の受話器を戻し、機体の格納された船倉へと駆け出した
「何をしてる!」
着古しの紫色の飛行服(パイロットスーツ)を着込んだ禿頭の男が叫ぶと、続いてザフトの飛行服を着た男が小走りで向かってきた
黄色いティシャツに灰色のチョッキの、黒の太い男物のズボンを穿た女が続く。
美しい髪は後頭部に綺麗に結ってあり、手には使い込まれたアソートライフルを持っている。
「アイザック君!一番近くの基地は?」
「ここからですとサイゴンですが、ちょっと地図をお貸しください」
そう言ってアスランの腰に下げた雑嚢から地図を取ると
「はあ……このまま突っ切って上海に行きましょう。どうせ目的地は支那大陸ですから」
「君達の機体は……まさか」
指示した先には、両肩を黒く塗装したザクウォーリアとレールガンのついた黄土色のバクゥが待機している
「私はザクウォーリアですが、風花さんはバクゥです」
目の前の禿頭は目に手を当てて黙ってしまった
急に塞込んだ訳でもない所を見ると話し足りないようだ
その通りだった
「か……ミス・アージャーには……君が護衛に付け。
グゥルは自動操縦にしろ。下手に動くと敵が来た時、大変だからな
俺は自分で自分の世話ぐらいできる」
そう吐き捨てると、コクピットへと消えていった……

 

甲板が開き、機体が押し出される。
アスランは操縦席の左側にある変形制御のギアを《M》から《F》に替えた
ゲイツRの顔のついたmsは腰を180度回転させ、膝を折り曲げ、リフターに背中から乗りかかる。
続いて瞬時に肩アーマーが90度回転し、腕と平行状態になる。
そしてコックピットが迫り出すのと入れ替わる形で頭部が腹部の開いた空間に仕舞われる。
その上に2連装砲のついたシールドが覆いかぶさり、尾翼が立ち上がる
垂直のバーニアを噴かすと機体は、浮き上がりリフターに格納されていた両翼を広げる。
それに続く形で、ザクとバクゥがグゥルに飛び乗る
「アスラン・ザラ、出る!」「出撃します」
三機のモビルスーツはスコールの近づいてくる大空へと飛び出していった。

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