SEED-IF_4-5氏_26

Last-modified: 2008-09-13 (土) 08:22:28

「ニーラゴンゴ発進しました」
「こちらも出ましょう。ミネルバ発進する。微速前進」
「ミネルバ発進! 微速前進!」

 

「あーあ」
「なによ、マユ」
「出航しちゃうんだなぁって」
「怖い?」
「そりゃあ、いつだって怖いわよ。ルナは?」
「私だって、怖いわよ」
「ふ……ふふ」
「なによお」
「なんでもなーい」
「お嬢さん!」
「なに? あ、タケダさん?」
「ははは。まぁ、よろしく」
「アスランが引き抜いてきたんだから、頼りにしてるわよ」
「お任せください。ふふふ。大西洋なんて……アメリカなんて僕の敵じゃないよ……アメリカ帝国主義なんて、大嫌いだー! 赤い嵐はいい嵐!」
タケダは去って行った。
「なぁに、あれ?」
「危ない人ー」

 
 

「ラクス。オーブが、中立を破るって……ウズミ様の遺志を……」
泣きそうな顔でキラはラクスの元へ駆け寄る。
「キラ」
ラクスは優しく笑ってキラを腕の中に包む。
「大丈夫。大丈夫よ、キラ……なにも心配ないわ……そう、何も心配ないの……」
ラクスはにっこり微笑んだ。

 

「よーし。うーん、いい風だねえ」
コーヒーカップを手にバルトフェルドはテラスに出た。
「ええ」
「昨日よりもちょいとローストを深くしてみた。さあてどうかな?」
マリューはちょっぴり飲むと、いたずらっぽく笑った。
「うふ。昨日の方が好き」
「ん? うーん……」
バルトフェルドもそのカップに口をつける。
「君の好みがだんだん解ってきたぞ」
「うふふ」
「それで……」
「でも……」
二人の言葉が重なった。
「どうぞ。レディーファーストだ」
「いえ、こういう時は男性からでしょ?」
「まあオーブの決定はな、残念だが仕方のない事だろうとも思うよ」
「ええ。カガリさんも頑張ったんだろうとは思いますけど。ウナト宰相が亡くなられたのが痛かったですわ」
「代表といってもまだ18の女の子にこの情勢の中での政治は難しすぎる」
「はぁ……」
「彼女を責める気はないがね。問題はこっちだ」
「ええ」
「君等は兎も角、俺やキラやラクスは引っ越しの準備をしたほうがいいがもしれんな」
「プラントへ?」
「ああ、今地球連合は地球のコーディネイター保護を言っているが、いつ手のひらが返るかわからん。あーいや……あー良ければ君も一緒に」
「え?」
「まあ、あんな宣戦布告を受けた後だ。今はまだプラントの市民感情も荒れているだろうが、デュランダル議長ってのは割りとしっかりしたまともな人間らしいからな。馬鹿みたいなナチュラル排斥なんて事はしないだろう」
「どこかでただ平和に暮らせて、死んでいければ一番幸せなのにね。まだ何が欲しいって言うのかしら。私達は……」
「バルトフェルド隊長……」
「ん?」
バルトフェルドが振り向くと、ラクスがいた。
「ちょっとお話が」
まるでバルトフェルドを咎める様な表情で彼女は言った。
バルトフェルドは、その顔を一瞬見つめると、ため息をついた。
「始めちまった物は、戻れない、か……。血に汚れた手は……」
その顔をいぶかしそうにマリューが見つめた。

 

その夜――
「ザンネン! ザンネン! アカンデェー!」
警戒用のハロが大きな声を立てた。
キラは飛び起きた。隣でラクスの身体がぴくりと動いた。
隣の部屋でもマリューとバルトフェルドがすばやく起き上がる。
マリューとバルトフェルドは顔を見合すと頷きあう。
「どこの連中かな。ラクスと子供達を頼む。シェルターへ」
「ええ」
「ぅ! どうしたんですか!?」
キラが入ってきた。
「早く服を着ろ。嫌なお客さんだぞ。ラミアス艦長と共にラクス達を」
「ぁ……はい!」
……
「さあ! みんな起きて」
マリューは子供達を起こす。
「シー。静かにね」

 

「ラクス!」
キラが飛び込んで来た。
「ぁ……キラ? いつの間にいなくなって……」
ラクスはのんびりとした声で答える。目をこするが、目やになど付いてはいない。
「敵襲だ! 服を着て!」

 

外からの銃撃で窓ガラスが割られる。

 

「窓から離れて。シェルターへ急いで!」
「はい!」
「うわー怖いよー」
「大丈夫ですからね。さ、急いで」
「うん」
「ぅ!」
「マリューさん!」
「早く! ぇぃ!」
「さあ!」
「く……」
「はぁはぁ……」
「マリューさん後ろ!」
「く……妙ね」
マリューは違和感を感じていた。敵が、マリューの顔を見ると一瞬硬直するような気がするのだ。

 

「ぅ! ぬぅ! ふ……所詮はナチュラル、簡単な物だ……」
バルトフェルドは彼の姿を見るなりびくっと硬直した複数の敵を倒した。
『目標は子供と共にエリアEへ移動』
敵の無線から平坦な口調の声が聞こえる。
「ふむ。予定通りか」
『了解、了解。攻撃を続けろ』
床に落ちた無線機から、これまた平坦な口調の声が聞こえる。
バルトフェルドは送信ボタンを押すと喋べる。
「あっちょんぶりけー!」
『了解、了解。攻撃を続けろ』
無線機からは同じ台詞が流れてくる。
「ふん」
バルトフェルドは拾った無線機を捨て去り、悠然とその場を歩み去った。

 

「バルトフェルドさん!」
「さあ早く!」
「急げ!かなりの数だ」
一行はようやくシェルターに着いた。
「はぁ……」
「大丈夫か?」
「はい」
バルトフェルドにキラが答える。
「コーディネーターだ」
バルトフェルドがつぶやく。
「コーディネイター?」
「ああ。それも素人じゃない、ちゃんと戦闘訓練を受けてる連中だ」
「ザフト軍? って事ですか?」
「……」
「コーディネーターの特殊部隊なんて……最低……」
「分からんがね。無線を聞いていたら、ラクスを狙っているようだった」
「……」
震えるラクスをキラが抱きしめる。
「大丈夫。ラクスは僕が守るから」
「ええ、キラ……」
ラクスはキラの腕に包まれて微笑んだ。

 

――!
シェルターに衝撃が響く。
「うわぁ!」
「しつこい! 狙われてるなまだ、くっそー」
「モビルスーツ?」
「おそらくな。何が何機いるか分からないが、火力のありったけで狙われたら此処も長くは保たないぞ」
「……」
なら、なんで最初からモビルスーツで攻撃しなかったのかしら?
マリューの胸に疑念が兆した。
バルトフェルドはラクスに尋ねた。
「ラクス、鍵は持っているな?」
「ぁ……」
「扉を開ける。仕方なかろう。それとも、今ここでみんな大人しく死んでやったほうがいいと思うか?」
「いえ! ぁ……それは……」
「ラクス」
キラが決意の篭った声で言った。
「大丈夫……。ラクスは僕が守るから。ラクスのためなら僕は戦える!」
「キラ……」
ラクスは、お気に入りのハロのふたを開けた。そこには……二つの鍵があった。
キラとバルトフェルドは大きな扉の両側に別れて、両側に立つ。
「いくぞぉ。3、2、1、0!」
扉が、開いた。
「これで、僕はまた戦える!」

 

キラは格納庫の天井をぶち破り、外へ出た。
「間抜け面が!」
シェルターに撃ち込んでいるモビルスーツを見つけ次第、撃つ。撃つ。
「ラクスに危害なんて、絶対に許さない!」

 

「あーはっはっは。見てよ。ラクスを狙った奴らなんか、僕にかかればほら!」
シェルターから出たラクス達が見たのは、どこかしらカエルに似たモビルスーツの残骸だった。
「キラ……」
「あー、またお家壊れちゃった」
「俺達の部屋どこだぁ?」
「危ない! 駄目よそんな方行っちゃあ」
マリューは子供達を連れ戻しに走っていく。
「いいのか? ラクス? キラは……」
バルトフェルドはラクスに尋ねた。
「いいのかですって! 少し前までのキラのままで良かったと言うの!?」
一瞬の激情の後に、静かにラクスは続けた。
「それなら……それくらいなら……キラはフレイさんより私に繋がれればいいのです」
ラクスの頬を涙が流れた。

 

「ラクス、見てよ! 悪い奴らなんか、ほら!」
フリーダムから降りてキラはラクスの元へ駆け寄ってくる。
ラクスは髪を直す振りをして頬の涙の後を拭き取ると、一瞬で笑顔を作り、キラに向けた。
「ありがとう、キラ。助かりましたわ」
「それにしても、正体は何者かしら」
マリューが向こうからやって来た。
「奴らが使っていたモビルスーツは、アッシュだ」
苦い顔でマリューにバルトフェルドが言う。
「アッシュ?」
「ああ。データでしか知らんがね。だがあれは最近ロールアウトしたばかりの機種だ。まだ正規軍にしかないはずだが」
「それがラクスさんを……と言う事は……」
「なんだか良く解らんが。プラントへお引っ越しってのも、やめといたほうが良さそうだって事だな……行くか、アークエンジェルへ」
「アークエンジェル……」
前大戦の充実した日々がマリューの胸に蘇る。
アークエンジェルに戻れば、何もかもうまく行くような気がする。……頭が痛い。なんだこれは。
マリューは右手で頭を押えた。
「では、参りましょうか。アークエンジェルへ」
ラクスはキラに微笑んだ。
「うん、行こう、アークエンジェルへ!」
キラが明るく言った。

 
 

「一体どういう事なんだ! こんな馬鹿な真似をして! あなた方まで何故!? 国家元首を攫うなど、国際手配の犯罪者だぞ!? 正気の沙汰か!? 人を秘密の急用だと呼び出しておいて!」
カガリは怒鳴った。
キラ達から、秘密の用事と言う事で呼び出され、カガリ一人だけで来たら、いきなり拘束されてしまったのだ。
「カガリさん……」
「いや、まあねえ……それは解っちゃいるんだけど……」
バルトフェルドは頭をかいた。
「でも、仕方ないじゃない。こんな状況の時に、カガリにまで馬鹿な事をされたらもう、世界中が本当にどうしようもなくなっちゃうから」
キラが言った。
「馬鹿な事?」
カガリは気色ばむ。
「く……なにが……なにが馬鹿なことだと言うんだ! あたしはオーブの代表だぞ! あたしだって色々悩んで、考えて、それで……!」
「それで決めた、大西洋連邦との同盟が本当にオーブの為になると、カガリは本気で思ってるの?」
キラは畳み掛ける。
「ぅ……あ、当たり前だ! もうしょうがないんだ! 中立はウナトの死によって破れた。大西洋からの圧力は増す。オーブは再び国を焼く訳になんかいかない! その為には、今はこれしか道はないじゃないか!」
「でも、そうして焼かれなければ他の国はいいの?」
「なんだと?」
「もしもいつか、オーブがプラントや他の国を焼く事になっても、それはいいの?」
「いつかっていつだよ! そんなの状況によっていくらでも変わるだろうが!? 私は地球大統領じゃない! オーブの代表だ! 私はオーブの民に負託され、オーブのために働いているんだ! オーブを第一に考えてなにが悪い! 全世界の平和なんて御伽噺の正義の味方にでも任せとけ!」
「ウズミさんの言った事は? 世界を二つに別けて、それで……」
「お父様の本当の想いも知らないお前が知ったような口を叩くな!」
ユウナから知ったウズミの真意……それを汚されたような気がしてカガリは叫んだ。
「カガリが大変なことは解ってる。今まで何も助けてあげられなくて、ごめん」
カガリの言葉に何一つ答えず、浮かされたようにキラは語り続ける。
「でも、今ならまだ間に合うと思ったから。僕達にもまだ色々な事は解らない。でも、だからまだ、今なら間に合うと思ったから」
「貴様ぁ、人の話を聞け! 色々な事が解らないと言うなら、いきあたりばったり動くなよ!」
「みんな同じだよ。選ぶ道を間違えたら、行きたい所へは行けないよ。だから、カガリも一緒に行こう」
キラはカガリを抱きすくめる。
「ぅ……キラ……やめろ! ぅぅ……」
カガリは本気で嫌がり逃れようとするが、キラは力を込める。
「僕達は今度こそ、正しい答えを見つけなきゃならないんだ。きっと。逃げないでね。カガリにもその内わかるから。大丈夫。僕達が憑いてる」
キラの体温が伝わってくる。キラの体臭に嫌悪感を感じる。
「ぅぇっ……気持ち悪い……」
カガリは不快さで吐き気を催した。

 
 

意識を取り戻したユウナを待っていたのは衝撃的な現実だった。
父の死、大西洋連合との同盟。カガリの失踪。
「一体、なにがどうなっているんだ……」
幸い身体は軽症で動くのに支障は無かった。

 

「やあ、ユウナ。動けるようになったのかね」
「はい。マシマ殿」
「私が暫定的に宰相になる事になった。異存はないかな」
「かまいません」
「なにか言いたいのではないかね。大西洋との同盟について」
「……いえ」
「自分でもわかってるのだよ。自分には、ウナト宰相のような事は出来ない。ならば……オーブの力を出来るだけ高く売りつけるだけだとね」
「はい」
「カガリ様は……」
「まさか」
ユウナはタツキの懸念を見て取ると、否定した。
「あれでも一度は大西洋との同盟を決意していたではありませんか。いまさらですよ」
「では……誘拐、かな?」
「……カガリの縁のある、ほら、マルキオ導師のところに行った形跡があります。そこでは、戦闘が行われた跡があります」
「む……それで?」
「わかりません。襲われた事は事実ですが、カガリの縁の者は去ってしまったと」
「はっきり言おう。カガリ様の弟? と。それの母親もいるのだろう?」
「知らぬ存ぜぬです」
「あやしいな」
「ええ。しかし何しろマルキオ導師は大西洋連邦外交官ですからね。へたに尋問する訳にも……」
「ふぅ、今はしょうがないか。秘密裏に捜索させるしか」
「しょうがないでしょうね」
「カガリ様はご病気と言う事にしておく。今は、オーブ国民にこれ以上の衝撃を与えるのは避けねばならん」
「ええ」
「……無事でいてほしいが……」
祈るように手を組み、マシマは言った。

 
 

「ウォッチャーからの情報だ。ザフトの新型艦がティモール海を通るらしい」
赤道連合の基地指令の言葉に、一同はどよめいた。
「攻撃、したくはないか?」
「したいであります!」
「妻と子の仇を取るんだ!」
「ザフトを許すな!」
賛同する声が続く。
「よーし」
基地指令はにやりと笑った。
「攻撃に出たい奴は1万ルピア払え。そんでくじ引きだ!」

 
 

「艦長!」
「え?」
レーダーにミネルバに向かってくる反応があった。

 

『コンディションレッド発令。コンディションレッド発令。
「ん!?」
「ん!?」
『パイロットは搭乗機にて待機せよ』

 

「熱紋照合……ウィンダムです。数30!」
「30? 一体どこから?付近に母艦は?」
「確認できません。が、おそらく赤道連合の島から発進したものかと」
「くっ、近づきすぎたか。あれこれ言ってる暇はないわ。ブリッジ遮蔽。対モビルスーツ戦闘用意。ニーラゴンゴとの回線固定!」

 

「グラディス艦長」
アスランが艦内通話機でタリアに声をかけた。
「え?」
「地球軍ですか?」
「ええ。どうやらまた待ち伏せされたようだわ。毎度毎度人気者は辛いわね。既に回避は不可能よ。本艦は戦闘に入ります。貴方は?」
「……」
「私には貴方への命令権はないわ」
「私も出ます」
「いいの?」
「確かに指揮下にはないかもしれませんが、今は私もこの艦の搭乗員です。私も残念ながらこの戦闘は不可避と考えます」
「なら、発進後のモビルスーツの指揮をお任せしたいわ。いい?」
「解りました」

 

『インパルス、セイバー、バビ発進願います。ザクは別命あるまで待機』
「ぁ……」
『X23Sセイバー、ルママリア機、発進スタンバイ。全システムオンラインを確認しました。気密シャッターを閉鎖します。カタパルトスタンバイ確認。X56S インパルス、アスラン機、発進スタンバイ。全システムオンラインを確認しました。気密シャッターを閉鎖します。カタパルトスタンバイ確認』

 

「みんな、聞いてくれ」
「ん? はい」
「発進後の戦闘指揮は俺が執ることになった」
「え?」
「いいな?」
「……はい!」

 

『右舷ハッチ開放。セイバー発進、どうぞ』
「ルナマリア・ホーク、セイバー、出るわよ!」
『左舷ハッチ開放。インパルス発進、どうぞ』
「アスラン・ザラ、インパルス発進する!」

 
 
 

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