SEED-IF_4-5氏_38

Last-modified: 2008-12-03 (水) 18:00:57

『状況は聞いている』
画面の向うでジブリールはネオに言った。
『想定外の介入だ。仕方があるまい』
「そう言って頂けると助かります」
ネオはほっと息をついた。
『だが、我が軍の目的は黒海及び中東地域の鎮圧だと言う事を忘れるなよ。ミネルバなど、たかが個艦だ。潜水艦多少が付いているとしても、ザフトの地上兵力は先の戦役で大部分を失っている。ミネルバがわれらの手をすり抜けて宇宙に行こうが地上にいようが一艦で何が出来る。こだわってはならんぞ。ザフトはコマーシャルに使いたいようだがな』
「ええ、そのようで」
『アークエンジェルがまた出てくる可能性もあるが……相手の戦力がわからん以上無理押しはするな。こいつらも所詮は個艦だ。アークエンジェルが地中海に出てくるなら、我が軍はカスピ海の方から圧力をかける。準備は出来ている。こちらは順当に黒海地域を奪回するだけだ。ユーラシアが独立運動で戦力が低下しているのだ。増援はすぐ送れるかわからん。とりあえずジョージ・w・ブッシュにユークリッド隊を乗せてスエズに送った。手元の戦力、くれぐれも大事に使え』
「はっ」
『改アークエンジェル級一番艦『ガルガリン』も、もうすぐ就役だ。楽しみにしておけ』
「楽しみにしておきます」
通信が終わるとネオは溜息をついた。
「ふふ。物分りのいい上司を持つと助かる」

 
 

「指示された物です」
ルナマリアはタリアに言った。そして、今日アスランを尾行した時のデータを差し出した。
「ありがとう。悪かったわね、スパイみたいな真似をさせて」
「いえ、艦長もフェイスというお立場ですので。その辺りの事は理解しているつもりです」
「ふふ」
「でもあの……」
「え?」
「できましたら少し質問をお許しいただけますでしょうか?」
「当然の思いよね。いいわよ、答えられる物には答えましょう」
「ありがとうございます。アスラン・ザラが先の戦争終盤ではザフトを脱走し、やはり地球軍を脱走したアークエンジェルと共に両軍と戦ったと言うのは既に知られている話しです」
「ええそうね。本人もその事を隠そうとはしないわ」
「しかし、その事も承知の上でデュランダル議長自らが復隊を認め、フェイスとされたと言う事も聞いています」
「ええ」
「ですが、今回の事は……あの……そんな彼に未だ何かの嫌疑がある、と言う事なのでしょうか? 私達はフェイスである事、また議長にも特に信任されている方と言う事でその指示にも従っています。ですがそれがもし……」
「そう言う事ではないわ、ルナマリア」
「ぇ……」
「貴方がそう思ってしまうのも無理はないけど、今回に関しては目的はおそらくアークエンジェルの事だけよ」
「ぁ……」
「彼が実に真面目で正義感溢れる良い人間だと言う事は私も疑ってないわ。スパイであるとか裏切るとかそう言う事はないでしょう。そんなふうには誰も思ってないでしょうし」
「ぁぁ……」
ルナマリアはほっとしたように溜息をついた。
「でも今のあの、アークエンジェルの方はどうかしらね」
「ぁ……」
「確かに前の大戦の時にはラクス・クラインと共に暴走する両軍と戦って戦争を止めた艦だけど。でも今は? 突然現れて先日のあれでしょ?」
「はい」
「何を考えて何をしようとしているのか全く解らない。どうしたって今知りたいのはそれでしょう」
「はい」
「アスランもそう言って艦を離れたのだけれど。でも彼はまだあの艦のクルーの事を信じているでしょうね。オーブの事も。ほんとは戦いたくはないんでしょう」
「ぁぁ……」
「だからそういうことだと思っておいてもらいたいんだけど。いい?」
「ぁはい。でしたら私もあの……」
「兎に角ご苦労様。この件はこれで終了よ。いいわね?」
「はい」
「モニターしていた内容もこの部屋を出たら忘れてしまってちょうだい」
「ぁ……」
ルナマリアの記憶に、アスランと話していた男性が口にした『本当のラクス・クライン』と言う言葉が蘇ってきた。
「……」
「なに? まだ何か?」
「……」
「ルナマリア?」
訝しげにタリアが聞く。
「ぁ!」
ルナマリアは我に返った。
「どうしたの?」
「ぁいえ!何でもありません……。ご指示通りに致します。すみませんでした」

 
 

「と言うように、まあ策としては至ってシンプルです」
ネオが、ユウナとトダカに作戦案を説明する。
ミネルバがディオキアを出航すると言う情報が入ってきたので早速ブリーフィングである。
「しかしそれで本当に上手くいきますか?」
トダカが疑念を言った。
「そもそもその情報の信頼度はどれくらいなのです? 網を張るのはよいのですがミネルバがもしも……」
「トダカ」
ユウナが口を挟んだ。
「今回の作戦は、ミネルバを沈められたらいいなぁ、程度の物だ。本来の作戦目標は黒海の制圧。ミネルバが他のルートを取ればそれはそれだ。でしょ? 大佐」
「ぁ……」
「ふ……」
ネオは首をすくめた。
「だが、本気で沈めたがっている事は沈めたいですからね。しっかりお願いしますよ」
「微力を尽くしましょう」
「今度はあの奇妙な艦は現れないと思いますが……」
ここでカガリが口を挟んだ。
「いいや、奴らは絶対来る!」
「ふむ。万が一そのようなことになっても大丈夫ですね? あれは敵だと、仰いましたな。カガリ様は」
「そうだ。だが討つにはオーブ軍は戦力不足とも言った。ただ一方的に損害を受けるだけだとな! アークエンジェルが出てきたら、おとなしく退け!」
「さて、どうしましょうかねぇ」
ネオは確証を与えなかった。
「だったら自分で勝手にやれ! 私は一度忠告したからな! もう知らんぞ!」
周りの者は、はらはらしながら見ているのだが、ネオとカガリのやり取りはどこか兄妹がじゃれている雰囲気であった。

 
 

「あ、アスラン!」
艦長室を出たルナマリアは声を上げるとアスランに走り寄った。
「ああ。どうしたんだ? 艦長に用事でもあったのか」
「うん、ちょっとね……」
「そうか」
沈黙が二人を包んだまま、二人は歩き出す。
「ねぇ……」
ルナマリアがぽつりと言った。
「ん? なんだ?」
「アスラン、離れないよね? ずっと一緒だよね?」
「ん……さぁ、どうなるかな。上が異動しろって言えば……」
「……アークエンジェルに、行っちゃわないよね?」
ルナマリアは勇気を振り絞って言った。
「ふ……」
アスランは微笑んだ。
「俺は……ザフトのアスラン・ザラだ」
「ふふ。嬉しい」
ルナマリアはそっとアスランに肩を寄せた。

 
 

アークエンジェル――
「オーブ軍がクレタに展開!?」
「と言う事はやはりまたミネルバを?」
マリューは心配気な口調で言った。
「ええ、確証はないですがターミナルもそう考えるのが妥当だろうと」
「ミネルバがジブラルタルへ向かうと読んでの布石か。連合も躍起になってますね」
「どうしたんです?」
キラが顔を出した。
「暗号電文です。ミネルバはマルマラ海を発進」
「ぇ!」
「南下を開始したと」
「これで決まりね。オーブ軍はクレタでもう一度ミネルバとぶつかるわ!」

 
 

「ジェス!」
「よお、どうしてた」
ジェスは店に入ってきたミリアリアに声をかけた。
「あは。私が前戦役の時アークエンジェルに乗ってたって話したわよね」
「ああ、すげえよなぁ」
「会ってきたの。アークエンジェルの人達と。また、乗っちゃおうかなって思ってたんだけどね、まだ、ジャーナリストとしてやり残した事がある気がしたから……。私が一人アークエンジェルに乗ってもしょうがない気がしたし。ジェスさんとの約束もあったしね」
「嬉しいねぇ」
「ところで、こちらの方は?」
ミリアリアはジェスの隣に座っている男を見ながら言った。
「やあ。こんにちは、お嬢さん」
「こいつは、カイト・マディガン。俺の護衛って所かな」
「そうなんだ。よろしくお願いします。……何見てたんですか?」
カイトの前には一冊のパンフレットが広げられていた。
「ああ、これか」
「『ダガー.PS. ~ダ・ガー~ プラスシチュエーション LOGOS THE Best』?」
ミリアリアは表紙の文字を読み上げた。
「ああ、ダガーの最新ヴァージョンさ。伝手があるから買おうと思ってな。見てもいいぞ」
「へぇ! なになに? 『前ヴァージョンから53点の改良を加えました。再び、ラミネート装甲を加えたダガーシリーズ。そんな新世代のビーム兵器への対処とストライカーが生み出す汎用性を考えた機体をベースに繰り広げられる安心で頼もしく、爽快な戦場ストーリーが幕を開けます。ダガーLでは省かれていた、あんな機能やこんな機能も? 新たにPS装甲も追加決定! 耐ビーム性能は最初期版の2倍、システムディスクは2枚組と未曾有の大ボリュームでお届け!』…………」
……ミリアリアは絶句した。
その時、一人の男が入ってきた。
「おい、ジェス。ミネルバをはじめとするザフト軍がマルマラ海を出航したそうだ。また戦闘になる可能性が高い」
「――!」

 
 

「いよいよ出発かぁ」
休憩室でジュースを飲み干しながらシンはつぶやいた。
「また、邪魔してくるんだろうね、地球軍」
マユも苦々しそうに言う。
「じゃ、そろそろオンだから。お姉ちゃん気をつけてね」
「まっかせなさい!」
「はーい、マユちゃん」
そこに、向うから声がかかった。
「あ、ハイネさん」
「心配は猫をも殺すって言うぜ。そ・れ・に! 今回はボズゴロフ級が山ほど付いてる。それにグルジア艦隊もな」
ハイネはマユの肩を叩いた。
「そうですよね! カーペンタリアから来た時とは大違い!」
「ああ、ミネルバだけでよく頑張ったな。今回負けたら大恥よ?」
「そうですよね、うん」
「頑張ろう!」
「「おー!」」

 
 

「敵艦隊、艦影捕捉!」
タケミカズチのオペレーターが報告する。
「ん……」
ユウナは頷く。
「ミネルバと……情報に寄ればグルジアの海軍ですな。数が多い」
トダカが言う。
「そうだねぇ。相手も本腰入れてきたな」
「距離60、11時の方向です!」
「総員合戦用意。繰り返す、総員合戦用意」

 
 

「前方に艦影」
バートがタリアに報告する。
「え?」
「なんだとっ!」
「空母1、護衛艦3!」
「それだけ? 後の艦艇は?」
「確認できません」
「索敵厳に、急いで。オーブ艦だけなんてことはないはずよ」
「はい!」
「ブリッジ遮蔽、コンディションレッド発令」
「はい! コンディションレッド発令! コンディションレッド発令! パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り替えず、パイロットは搭乗機にて待機せよ」

 
 

「目標、主砲射程まであと40!」
「敵艦隊からのモビルスーツの発進は?」
トダカが尋ねる。
「まだです!」
「よし! 八式弾のシャワーをたっぷりとお見舞いしてやれ!」
「砲術! 八式弾一斉射! てぇ!」

 
 

八式弾とは自己鍛造弾である。途中で子弾に別れ、シャワーのように、ミネルバを中心にザフト・グルジア合同艦隊に降り注ぐ。
「砲撃、来ます!」
「ええっ」
「モビルスーツ発進停止! 回避しつつ迎撃!」
着弾による衝撃がミネルバを襲う。
「表面装甲、第二層まで貫通されました!」
「くっそー! 自己鍛造弾のシャワーだ!」
「ダメージコントロール、面舵更に10!」
「9時の方向に更にオーブ艦! 数3!」
「「えっ!?」」

 
 

「意外と効いているじゃあないか」
ユウナはつぶやいた。
向こうに見えるザフトの新型艦――ミネルバは煙を上げている。
自己鍛造弾の貫通力は直径と同程度である。オーブの護衛艦の砲は250ミリ。子弾に分かれるので当然それより貫通力は落ちる。本格的な戦いの前に一発食らわす程度にしか考えていなかったのだが。
「ミネルバは高速宇宙戦艦と聞くが、装甲は案外薄いようだな」
「そのようですな」
トダカが答える。
「道理で、修理の際にもオーブの作業員に装甲に触らせなかったわけだ。じゃ、攻撃隊発進中止。用意していた弾数が尽きるまで八式弾による砲撃を続けろ。出来る限り対空火器を潰すんだ。そうすれば攻撃隊もやりやすくなる」
「はっ」

 
 

弾雨がミネルバに降り注ぐ。
「艦長、このままでは……!」
「どうしようもないでしょう! モビルスーツを出すわけにも行かないわ!」
『艦長、発進させてください!』
通信が入る。
ルナマリアからだった。
「でも……」
『このままじゃ、やられるだけです! 大丈夫、セイバーはVPS装甲です!』
「……いいわ」
タリアは決心した。
「セイバーとインパルスを出して!」

 

「ルナマリア・ホーク、セイバー、出るわよ!」
「アスラン・ザラ、インパルス、発進する!」

 
 
 

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