Top > SRW-SEED_ビアンSEED氏_第61話


SRW-SEED_ビアンSEED氏_第61話

Last-modified: 2008-08-03 (日) 16:35:12

ビアンSEED 第六十一話 『刃骸魔境』

 

 後に『ヤキン・ドゥーエ戦役』、あるいは大戦の大きな分岐点となったディバインクルセイダーズにちなみ、『ディバインウォーズ』と呼ばれるこの戦争において、歴史にはじめて名を記した兵器モビルスーツとスーパーロボット。
 そのMSとスーパーロボットを用いての接近戦――それも実体剣を用いた剣撃戦闘で無比無類、最高の技量を誇った六人のパイロット達を人々は『六剣』と呼んだ。
 彼らの振う人の領域を超えた技の凄まじさに驚嘆し、そこへとたどり着く為に払われた修行の壮絶さに畏怖を覚え、人間であるはずの彼らが見せる可能性を飽くことなく讃えた。
 その内、ザフトの中継ステーション基地ベルゼボに集ったのは、
『剣皇』ゼオルート=ザン=ゼノサキス
『魔剣』ムラタ
『剣鬼』ウォーダン・ユミル
 そして、今はまだ相応しき異名を持たぬ『六剣』中最弱無敵の剣士シン・アスカの四名。
 対峙し、火花散る視線と剣気を交わしあっているのはグルンガスト飛鳥とスレードゲルミル、ガーリオン・カスタム無明にM1カスタムの四機だ。
 出自の異なるスーパーロボット二機にアーマードモジュール、モビルスーツと、いくつもの世界が入り混じったCEの世界に相応しい顔ぶれが、それぞれの手に抜き放った鋼の刃を手に対峙する。
 飛鳥の手にせし巨大な日本刀『獅子王斬艦刀』と、スレードゲルミルの握る青き絶対の斬断の刃『斬艦刀』の巨大な刃同士が噛み合うのを、下方からの切り上げの一刀で抑え込む無明の手にするのは、二振りの斬艦刀に比べれば柳の様に細く頼り無げな『シシオウブレード』。
 全身全霊、魂さえも絶叫せんとばかりのウォーダンとシンの一撃を抑え込むムラタの神業、いや魔技の凄まじさとウォーダン側の味方として現れた事実に、シンが心の底から危険を感じ取り冷や汗を全身に結露させたその時
――静かな闘志を薄靄の様に纏わせたゼオルートが姿を見せたのだ。
 意の外に置いていた強敵、いやそれ以上の存在の出現にムラタの唇は冷たい三日月の様に吊り上がる。零れるは冥府の底から届くような笑い声だ。死者への責め苦で愉悦に浸る鬼の笑みと等しかろう。
 ウォーダンもまた、メンデルでの戦いで一人抜きんでた剣の冴えを見せていたM1カスタムであると認識し、シンに注ぐ以上の警戒の念を全身に滾らせ、眼前の飛鳥とゼオルートのM1カスタムに向ける。
 一方でシンもまたこの上ない援軍に安堵する心とそれを叱咤し、寸毫の気の抜きも油断も許さぬ切迫した状況である事を再度認識する。
 特機の最大出力と言って良い一撃のもと振われた二刃を、本家本元のシシオウブレードとはいえ、PTで抑え込んで見せたムラタの自分のはるか上を行く技量。
 そしてスレードゲルミルの巨体越しに、もはや物質として形を成しそうなほど昂り熱く鼓動するウォーダン・ユミルの剣気。
 唯一の味方ゼオルートの、溢れる二人の鬼気をどこ吹く風と受け流し、なおかつのほほんとした微笑のイメージは変わらないが、握った操縦桿が真剣の柄そのものと変わらぬほどの動きをM1カスタムにさせてみせる、ゼオルートの絶技。
 そして氷塊から零れ落ちる冷気の様にシンの神経の芯まで刺し貫く静謐なゼオルートの闘気が、シンの体から噴き出した冷や汗を止めた。コレを放つ存在が味方である事を、シンは死ぬほど感謝した。
 凍り付く。その場の空気が。果つるまで流れ続けるはずの時の流れが。この場に集った四人と四機、そしてその手に握る四つの刃の為に。
 誰が動く? 何が動かす? どう動く? そして、動けばどうなる? ――決まっている。誰かが誰かを斬り、また斬られるのだ。それを恐れる者はおらず、むしろそれこそ本望と望む剣に狂った者たちこそ、この四人ではないか。
 四人四機四刃――そして四つの剣に狂った鬼たち。四つの四が集いて生まれるは、人の身では踏み込めぬ剣の神の庭で繰り広げられる、血がしぶき、肉が斬られ、骨の断たれる音が延々と続く無限の斬撃地獄。
 さあ、地獄の始まりだ。

 

 右下段に握られたM1カスタムの両刃剣が動いたと見えぬ動きで動いた。生身であったなら、剣の重さに腕がふらついた程度の動き。だが、それをなしたのが剣皇となれば話はそれこそ次元違いになる。
 腕がわずかに触れただけの動きが、いかなる凄惨苛烈な魔技、驚天動地の神業の前触れでないと言えようか。すでにその動きそのものが超人の絶技かもしれぬと言うのに。
 ムラタが動いたのは、やはり同等の域にまで上り詰めた半人外の魔剣士ならではの直感に突き動かされたからだろう。
 無明が両手で握っていたシシオウブレードを絶妙な捩りを加えて一挙に切り上げ、飛鳥とスレードゲルミルの巨剣が一瞬無防備に跳ねあげられる。ムラタの腕ならばその隙にウォーダンとシンの両者に痛打を浴びせる事も出来た。
 だが、それが出来ぬのは一重にゼオルートの存在がある為だ。電光石火の一撃は、無明の左腰で盛大な火花を散らして受け止められた。
 ゼオルートの並のパイロットなら百度受けて百度死ぬ一撃を、ムラタがシシオウブレードを放した左手で逆手に抜き放った脇差で受けたのだ。刹那の停滞に、無明とM1カスタムの目を通じてムラタとゼオルートの闘争の意志が交差した。
 剣を通じ、機を通じ、殺意を通じ、二人は理解する。目の前の敵がこの上ない愛すべき極上の敵であると。己をより高みへと導く同等以上の業の者の存在は、抑えがたき剣士の性を持つ者にとって愛を捧げるに相応しく、斬らずか斬られずにはおけぬ存在。
 火花が虚空の闇に吸い込まれるより早く離れた二つの刃は、今一度斬り結びあうべく振われるかと思われた。
 だが、互いを後方に弾き、次いで描かれて軌跡はそれぞれの右斜めへと描かれる斬撃の三日月であった。M1カスタムと無明の手に握られた細い柳の様な刃が、触れるモノ全て斬り砕かずにはおけぬと見える巨大な刃を受けていた。
 片やスレードゲルミルの振う斬艦刀。片やグルンガスト飛鳥の振り下ろした獅子王斬艦刀。
 剣皇と魔剣に遅れる事二撃目にして放たれた、ウォーダンとシンの入魂の一撃であった。

 

「むっ!?」

 

 唸り声はシンとウォーダンの二人の喉から発せられていた。刃に乗せた全身全霊の技巧の粋、そして入魂の域に届く絶対的な気迫が、受けられた刃に吸い込まれるような感覚を覚えていたからだ。
 一度捕らえれば光の脱出劇も許さぬ暗黒星――ブラックホールの様に、二つの斬艦刀の威力の全て、剣士の心技を受け止め、受け流し、吸いこみ、無効化している。
 それを証明するが如く、ゼオルートとムラタの握る刃は諸共に微動だにせず不動であった。互いの機体の重量、出力、馬力の差を嘲笑うが如き人外の技の冴えの凄まじさよ。
 物理法則と人類の英知を武器とする学究の徒は、物理法則を半ば無視したこの光景に絶叫するであろう。

 

「けぇあああああーーーー!!」
「じゃっ!」

 

 内から迸り機体を軋ませるムラタとゼオルートの吐気。触れたモノが切り裂かれる程に研ぎ澄まされ、圧縮され零れる。気迫の全ては機体へ。魂魄の持つ斬撃の意の全てが刃に宿る。
 互いの機体の中間地点で激突した二刃は、散華する星の様に火花を散らした。火花? いや、砕けた剣の破片? いや違う。
 二人の――それもまた違う――人の形をした人を外れた魔物が持ちうる技の激突が生む、新たな魔剣神刀を告げる祝福の火だ。
 彼らの振う全ての一刀が常に最速最鋭の一撃に変わる。変わり続ける。一太刀前の刃はすでに弐番目に鋭かった、速かった太刀に堕ち果てる。振われる度により凄まじい斬撃へと無限に進化し続けるそれは、人の成し得る業の域を超えていた。
 ゼオルートが機体性能と獲物で劣るM1カスタムで、技量が互角近く機体性能と武器では上回るガーリオン・カスタム無明と同等に割りあえるのは、ひとえにゼオルートの方が自らと等しい力の持ち主との戦いの経験を積んでいる点にある。
 ムラタが故郷である新西暦世界で手に入れる事の叶わなかった真の敵を、ゼオルートは持っていた。
 『剣聖』シュメル・ヒュール。かつてゼオルートを正々堂々と、その実力でもって破った世界最高の剣士の一人。彼の存在とその戦いの経験が、ゼオルートに不利を補わせていた。
 機体の稼働限界を超えると見えた超神速・超反応の斬撃は、その弧月の如き軌跡の光と化していた。光を受けるは光。暗雲を切り裂き闇に潜む魔性を照らし出す稲光の如き雷刃。天を支配する大神が地上の魔物を滅ぼすべく振った神罰の雷光の如き刃。
 幻夢夢想。思考は無い。すべてを肉体に委ねていた。血肉に刻んだ業に。骨身に染み入った闘いの記録に。精神と一体と化した剣を求むる衝動に。魂の挙げるより高みを。その先を。無限を欲する剣士の性に。

 

 しゃ、と氷の冷たさを孕んだ音を立ててシシオウブレードが左腰の鞘の中に。
 ぎし、と軋みを立て右後方にM1カスタムの右手に持たれたブロードソードの切っ先が流れる。
 停滞。無限に続くかと思われる斬撃の地獄が。銀刃が稲妻の様に煌めく剣嵐が。一呼吸にも満たぬソレは時さえも凍てつく音を立てさせたのではあるまいか。人の姿をした人に有らざる『剣士』と言う生物の業に、神も悪魔も見入っていた。

 

「――――――――ッ!!!!」

 

 この世の法則に従わぬ一刀なれば、それを振う存在の絶叫もまたこの世の音の枠に収まらぬ。人の喉が出し得るとは思えぬ絶叫は、MSとAMという人造の機神を一時だけ、紛れも無き剣神へと昇華させた。
 互いの右と左から流れた刃二つ。しかし描くはそれぞれの後方へと描かれるほぼ円を成した銀の光である。
 蒼い光が宝石のように散らばった。
 銀の光が砕けた硝子の様に振った。
 ブロードソードを食い込ませたのはマシンセルが刃を形作る蒼い大刃――斬艦刀。
 シシオウブレードを斬り込ませたのは練達の技術が成し得た刃――獅子王斬艦刀。
 おれ達を忘れるな。超闘士を源とする機神達の双眸が、乗り手達の気迫の全てを乗せて輝いた。それを見たゼオルートとムラタの口元に浮かぶ笑みよ。
 彼らは答えた。
 忘れるものかよ、と。

 

「はああああっ!!!」
「ずありゃあっ!!」

 

 誰も彼もが猛獣の様な叫びを挙げていた。獣はこのような声を上げない。理性を持ち、知識を持ち、歴史を持ち、社会を築き、歴史を積み重ねながらそれをかなぐり捨て、血肉を沸き立たせる衝動に身を委ねたヒトの叫び。
 この場における最強の機体スレードゲルミルが、正しく人ならざる主と共にその口を開き、世界震わせる巨人の叫びを放つ。超重量・超大剣である斬艦刀の有利不利の全てを知り尽くした男の技は、斬艦刀の化身の如く。
 食い込んだブロードソードを抜き、途端に縛られぬ風の如き自在に刃を振って横薙ぎの太刀が振われる。かろうじて剣先で受けたM1カスタムはその勢いを利用して後方へと飛び退る。
 風の神の悪戯に攫われた様に敏捷な動きは、MSではなく、一つの武術を極めた達人の動きであった。
 二十メートル以下のMSに150メートルに及ぶ超ド級の日本刀を振う事を可能とさせる、ジャン・キャリーの開発したパワーローダーを装備したグルンガスト飛鳥は、グルンガスト系列の機体でありながら、MSさえ凌駕する軽妙卓越した動きの冴えを見せる。
 液体金属による巨大な刃を顕現した獅子王斬艦刀が、同じ名前を持つ兄弟を弾き、獅子の咆哮の迫力を伴う上段からの一刀を振り下ろす。まさしく斬艦の名に相応しき一刀よ。これを前にして死を感じぬ者はおるまい。
 そう、ムラタほどの魔物でさえ確かに死を意識した。それで終わればただの凡人。わずかに反抗を試み、やはり絶望の膝を付けば一流の剣士。では、魔剣の輩となったこの男は――?
 笑うのだ。見よ、針金の如く固く伸びた鬚を動かし、吊り上がる口の両端の、その狂気を。
 笑うのだ。聞くのだ。暗く深く、どこまでも地を這うように忍び寄り脳を犯し、心を蝕む押し殺された冥府の風の如き声を。
 喜ぶのだ。目も鼻も口も耳も頬も、何もかもを喜色に染めあげ、宗教画に描かれる悪魔さえむくつけき赤子の如く映る、凶相よ。人間はここまで恐るべきモノだったのか。

 

「いくぞ!!」
「言われずとも斬ってくれるわ! シン・アスカァアアア!!」

 

 二人の言葉の終わりよりも尚早く、迸る剣よ。鬼火の様に、燐光の様に二つの刃より溢れ零れ落ちるは、殺気、剣気、闘気、鬼気。その全てでありそのどれでもなかった。それはある種宗教的な崇高ささえ伴う欲望、願望、望み。
 シンは誓う。必ず目の前の敵を倒し、守るべきものの為に剣を振うと。振い続ける剣の先に望むモノがあると、どこか漠然と信じながら。
 ムラタは誓う。これまで斬り捨ててきた全ての者達の骸の山と、血の海に立つ己が、剣の道の至高天に辿り着くと。その為の礎となれ、シン・アスカ。
 たった二本の腕。たった一振りの刃。互いの持つソレが、数十倍数百倍にも及ぶ弧月を描き、空間を埋め尽くす。刃の届く圏内の全てが斬り刻まれる。
 悠久の時を流れていた隕石も、流れ着いたMSやMA、戦艦の残骸の全てが鏡の様に研ぎ澄まされた断面を晒し真っ二つに、微塵に斬り砕かれ斬り散らされる。

 

「ムラタァアア!!」
「ぬうっ!?」

 

 シンの気合いの充溢がこれまでで最高潮へと辿り着く。それは更なる剣の魔境への没入を意味する。シンはこれまで知り得なかった未開の刀剣の桃源郷へ足踏み入れる。
 これまでと一見して変わらぬ筈の腕の振り、足の運び、重心の移動、腰の捻り、振われる刃――その全てが段階を挙げる。
 これまで常に新たな一刀が最速最鋭と進化し続けていたシンの刃に、更に『最重』・『最強』の二つが加わった。最も速く、最も鋭く、最も重く、最も強い。これが常に進化し続ける。
 奇跡の如きシンの異常さえ超える超異常な爆発的な成長。それはムラタを恐怖させる。魅せる。それはムラタを戦慄させる。それはムラタを恍惚とさせる。
 ずわ、と音を立てて血流の流れが変わるのを明確に意識した。死の恐怖に慄く細胞を、更なる強敵の覚醒に歓喜する剣士の性が奮い立たせた。
 どちらが魔物だ。どちらが人外だ。決まっていよう。どちらもだ。どちらも魔物だ。どちらも人外だ。だから、人には理解出来ぬ。人の理解の範疇を超えた心と技が成し得る人外魔境なのだ。
 人はこれほどまでの高みに昇れる。昇れるのだ。そしてそうであってもなお満たされぬ渇望よ。潤わぬ渇きよ。飽くなき欲求よ。まだ、もっと、ずっと、さらなる先があるはずだ。見果てぬ、見通せぬ、無限の高みがあるはずだ。
 なければならない。この渇きを、飢えを満たしたいと言う欲求。もはや怨念の域にさえたどり着こうかと言う狂気の、剣の高みへの思慕。
 満たさなければならない。潤さなければならない。この魂の渇きを。この心の飢えを。それは最早妄執へと変わり果てた、剣へ狂った心が求める代償。
 満たされてはならぬ。満たされればさらなる高みへの道が閉ざされる。
 満たさねばならぬ。そうでなければ何の為に尋常な生を捨ててまで剣に狂ったのか。
 なんたる矛盾。なんたる禍々しき欲望。なんと醜い思い。なんと美しき狂気。
 だから、だからこそこの場に集った人間はニンゲンでなくなり、既に魔人・妖人・鬼人・超人へとたどり着き、堕ち、成り果てる。
 その思いを剣に捧げた剣士四匹。成り果てた剣士四人。心技体のすべてを尽くして尚足りぬと思える、同質同等以上の存在が、彼らを高ぶらせる。
 狂わせる。魅了するのだ。彼らの目には何も映らぬ。愛しき敵の振う刃、憎むべき敵の放つ剣気以外の何物も映らぬ。彼らはそういう『生き物』へと、変わっていた。
 幾度も混じり合い、愛を交わし合い、憎悪を囁き合う刃達。その根幹を成す剣士四匹の魂のおぞましさ、美しさよ。
 シンよ、ムラタよ、ゼオルートよ、ウォーダンよ。お前達は美しい。お前達は醜い。お前達は輝いている。お前達は狂っている。
 また一度、きいいいんと、どこまでも澄んだ音が無限の虚空に響き渡る。
 ああ、ここは刃が骸を生み、骸が大地と成り、刃が空を覆う魔境。
 ああ、ここは『刃骸魔境』。