SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第09話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:35:48

第9話「重なる過去と未来の行方」

先行していた部隊からの連絡を受けたハガネはDC残党軍と先行部隊との交戦地点に到着していた。
そこから出撃した各機のパイロット達は敵部隊の構成を見ると、敵部隊が今まで幾度も刃を交えてきたユウ達のものであることを認識する。

「わお、いつもの囮ちゃんたちじゃない?」
「だが今度は逃がしゃしねえぜ!」
「もしかしてあの部隊には…!?」

敵はビルトファルケンを奪われた戦場にて再会したかつての仲間であるゼオラがいた部隊であることに気付いたラトゥーニがぽつりと呟いた。

「またあいつらか!?」

敵部隊後方にいるランドグリーズ3機を確認し、メキシコ、ハワイと戦ってきた敵部隊が今はこの人型の戦車のような機体を使っているということを先日知ったシンが吐き捨て、それにブリットが応えた。

「シン!ここで奴らとの決着をつけるぞ!」
「わかってる!新型だろうが何だろうが関係ない!」
「アサルト1から3,5へ。今からハガネが30秒間の援護射撃を行なう。
 まずはそこに俺達とイルム中尉で突っ込むぞ、準備はいいな?」
「アサルト3、了解です!」
「アサルト5、了解!」

キョウスケからの指示が飛び、その直後にハガネの機関砲、ミサイル、連装副砲が敵の部隊へ放たれ始めた。

「くっ!こっちには来ないと思ってたのに!
 けどこうなったら仕方がないわ!オウカ姉様がいなくても私があの子を助けてみせる!」

その頃、ラトゥーニと同時にゼオラも敵がハガネであることからかつての仲間であるラトゥーニがいるであろうことを確信し息をまく。
だが、そんなゼオラの焦る気持ちを知ってか知らずか、隊長であるユウは自分達の部隊が殿、つまり囮であることを忘れていない。
撤退戦であるならば無理して敵部隊を撃破する必要はない。
いかにして自分の部下に生じる犠牲を少なくするか、ユウはそれを念頭に置いた指示を出す。

「カルチェラタン1より各機へ。しばらくの間、敵をここで足止めする。
 フォワードは敵を牽制。バックスは現在の位置を極力キープし敵をひきつけろ。撤退の手順は伊豆のときと同じだ。無駄死にをするなよ」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

ハガネの威嚇射撃をなんとか掻い潜りながらもユウの部下達が一斉に返答を行なった。
しかし煙に包まれながらも敵に牽制砲撃をするフュルギアに向けて、連邦軍でも随一、ハガネ自慢の突撃部隊が爆煙の中から現れる。

「な、何だと!?うわああぁぁ……」

爆煙の中から突如として現れた突撃部隊に驚き、フュルギアは動きを止めてしまうが、次の瞬間にはその機体にアルトアイゼンのヒートホーンが突き刺さっていた。
さらに、隣にいたフュルギアはいきなり味方機が撃墜されて動揺している隙にビルトシュバインのビームソードに貫かれる。
残りのフュルギア達は距離を詰められたことを知るとミサイルをばら撒きながら後退を始めた。

「ブーストナッコォ!!」

ミサイルが上げた爆煙を吹き飛ばしながら、巨大な拳が後退を始めたフュルギアの1機に迫っていく。
鋼鉄の拳はフュルギアのコックピットを叩き潰すとそのまま機体を押し込んでゆき、巨大な岩に叩きつけられた機体は大きな音を立てて爆発した。
標的を破壊した拳はロケット噴射で減速しながらその主の下へ戻っていき、ガシンという音を立てて主は装着を完了する。
グルンガストは、接続を確かめるように指を細かく動かしながら、空いた片方の手で別のフュルギアのリニアカノンの1門を掴み、その機体を一度上へ持ち上げて、そのまま地面に叩きつけた。
グルンガストの横をヒュッケバインMK-Ⅱが通り過ぎ、それをグルンガストが追っていく。

「こういうときは頼りになるな、ブリット」
「いえ、敵のかすかな念を感じ取ろうとしただけです」

「はぁ~い、お待たせ~♪お姉さんとドキモグ叩き大会の時間よん」

残り2機は運良く突撃部隊の怒涛の近距離攻撃から距離を置くことに成功していたが、それはエクセレンの思う壺。
機体をくねらせながらオクスタンランチャーを振り回して狙いを定めた白騎士の槍から放たれたビームが1機を薙ぎ、さらに鞭のようにしなるエネルギーが伸びていき、最後の1機を呑み込んだ。
だが短時間で6機の反応が消えたことに対してDC残党軍も何も手を打たないというわけではない。

「カルチェラタン1より各機へ!フォワードが全滅した!バックスは距離を置き、弾幕を張りつつ後退を急げ!
 距離を確保した機体は可能ならば狙撃してくるホワイトエンジェルと白騎士を狙え。白騎士を旧式の改造機だと侮るなよ!
 カルチェラタン2、7は俺とバックスの援護!リニアカノンで撃ち落すぞ!」

ユウが部隊を立て直すべく指示を飛ばし、DC軍各機に統率された動きが戻ってきた。
ランドグリーズ3機は、戦場の中心に近付きながら狙撃ポイントを確保して援護射撃を開始する。
そしてそれらの動きを空中から注視していた機体があった。

「……解析終了。間違いない、あの機体にゼオラが…」
「あの動き、ラトね!?」

ラトゥーニの乗る量産型ヒュッケバインが1機のランドグリーズに狙いをつけると、前線へ向かっていく。
その空中から接近してくるヴァイスリッター、アンジュルグを狙撃すべく空中に意識を向けていたゼオラも、接近してくる量産型ヒュッケバインMK-Ⅱの姿を確認し、その動きが見知ったものであることに気付いた。
いてもたってもいられずゼオラは狙撃を中止して、ラトゥーニの下へと向かっていった。

「カルチェラタン7!不用意に動くな!」
「でもあの機体にはラトが!!」
「ラト?何のことだ?」
「あれには私やアラドの仲間が乗っているんです!」
「何…!?」
「仲間ってどういうことなの!?」
「すみません、今は説明している時間がありません!ラト、聞こえる!?私よ、ゼオラよ!」
「!」
「今ならまだ間に合うわ!私達の所へ戻ってきて!アラドやオウカ姉様もあなたを待っているわ!」
「オウカ……姉様が……?」
「オウカだと!?」

通常周波数の通信が戦場を駆け巡り、それぞれのパイロットに驚き、焦りが生まれた。

「お、おい!どういうことなんだ!?」
「もしかしてあの子…スクール出身じゃない!?」
「…考えられるな」
「だ、だったらラトゥーニの昔の知り合いが敵の中にいるってのかよ!?」
「…ああ」
「まさかライ、そのことを知ってたのか?!」
「そうだ」
「てめえ、何で今までそれを黙ってたんだ!?」
「俺の命令だ、リュウセイ。ラトゥーニに余計な嫌疑をかけたくなかったんでな」
「!」
「ラト!聞こえているんでしょ!?」
「ゼオラ、私は…」

ゼオラの張りのある声が通信モニター越しに量産型ヒュッケバインMK-Ⅱのコックピットに響き渡る。
だがゼオラの言葉はラトゥーニを説き伏せることはできなかった。
ラトゥーニの心は動かない。彼女は決意していたのである。かつての仲間達を必ずその手で救い出すのだと。

「いったん下がるんだ、ラトゥーニ!」
「ううん、私、決めたの。あの子やアラドをスクールの呪縛から解くって」
「!」
「ジャーダやガーネットがそうしたように、お前もあの子を助けたいってのか?」
「うん」
(敵を助けるだと?何を馬鹿な)
「んじゃま、私たちでラトちゃんを手伝ってあげるってことでオーケイ?」
「エクセ姉様、任務遂行のためには…全機を撃墜したりするべきではございませんですか?」
「撃ち落すばかりが能じゃないってことよ」
「それでは命令違反になっちゃうですでしょう?」

「…敵の新型機を奪えればこっちのプラスになりますし、敵の情報も聞き出せるかもしれませんよ」

それまでラトゥーニの言葉に耳を傾けて沈黙を保っていたシンが口を開いた。

「そうそう♪わかってるじゃないシン君。そういうとこは臨機応変に。ロボットじゃないんだから、雰囲気読まないとね」
(それで兵士が務まるものか。…ロボットそれの何が悪い?任務を遂行できない兵士に存在価値などない…
 だが私はその価値のないことをやろうとしている…そのことに嫌悪感を抱かなくなっている…くっ!やはり異常は言語機能だけではないというのか!?)
「カイ少佐…」
「ああ、シンの言うとおり新型機の件もある。ラトゥーニ、この機会を逃すなよ」
「はい」
「よし、ラトゥーニ機の近くにいる者は彼女を援護!他の者は敵機を牽制しろ!」

ハガネのPT、SR各機が一斉に動きを開始する中、シンがラトゥーニに通信を繋いだ。

「俺達が全力で他の奴らを蹴散らしてやる。助けられる仲間がいるんだ、絶対に仲間を助け出せ!」
「う、うん。ありがとう…」

普段あまりシンと話すことのないラトゥーニは思わぬ励ましにキョトンとしてしまったが、励ましを送り終えたシンはそんな彼女の表情には目もくれない。
ラトゥーニのことをよく思っていないとか、そういうわけではないのだが、その真紅の瞳には今はDC残党軍しか映っていなかった。
そのままシンはビルトシュバインを駆り、雨のように降り注ぐレールガンの真っ直ぐにバレリオン部隊に向けて突撃していく。
シンはかつての自分をラトゥーニに重ねていたのである。守る、と約束しながら彼はその相手を守りきることができなかった。
しかもその相手を彼から奪ったのは、かつて彼から家族の命を奪い去った憎き仇。
守りきることができなかった家族、女性。
失った、奪われたときの悲しみ、無力感、苦しみを歳不相応にシンは知っていた。

「ユウ!向こうはゼオラを狙うつもりだよ!」
「わかっている。後退しろ、カルチェラタン7」
「ラト、こっちへ来て!一緒に姉様たちのところへ帰るのよ!」
「聞こえてない……!?どうしたの、あの子?」
「やむを得ん。カーラ、お前はホエール2を呼び出せ。予定より早いが引き上げるぞ」
「分かったよ」
「俺はゼオラのフォローに行く。バックスのバレリオンを頼むぞ、皆こんなところで死なせるのは惜しい」
「うん、ユウも無理はしないでね」
「フッ…誰に言っているつもりだ?」

ユウのランドグリーズがショットガンを携えてゼオラの機体の後を追って戦場の中心へ向かっていった。
その背中をカーラは心配そうに見ていたが、ユウを止めることはできなかった。
カーラも家族を失ったときの悲しみを知っている。だから部下や仲間達を失いたくはなかった。
だから仲間を助けに行くユウを止めることはできなかったのだ。

シンは、ラトゥーニの邪魔をする機体を排除すべく、ゼオラのランドグリーズの壁となっているバレリオンに向かっていきながら、
ビルトシュバインの新たな力を起動させることを決意した。

「テスラドライブ起動!」

シンの掛け声とともに、ビルトシュバインの背部に付けられた空中浮遊ユニットであるテスラドライブに光が灯り、機体の高度が徐々に上がり始める。
ハガネが伊豆基地に到着した際に、ビルトシュバインにはマオ・インダストリーの頼みを受けたレイカーの手配によりテスラドライブの備え付け作業が行なわれていた。
カイ・キタムラにより提案されたゲシュペンスト強化計画の一環として、既存の機体へのテスラドライブ付設のための試行錯誤が既に開始されていたのだが、乗り手不在となっていたビルトシュバインはゲシュペンスト系列の機体であることから、そのテスト機として選ばれており、ようやく完成した付設用テスラドライブユニットの試作型が今、起動したのである。

「シュミレーションしかやってないけど、そんなのデスティニーだって同じだ!行くぞビルトシュバイン!!」

シンはレバーを引き、出力を一気に引き上げる。それによりビルトシュバインの機体は急上昇してバレリオンへと肉薄した。

「バ、バカな!あの機体は空を…うわあああぁ」

言い終える前にサークルザンバーが1機のバレリオン頭部の砲身を切り落とした。
ビルトシュバインはそれに満足せず、バランスを崩して落下していくバレリオンを踏みつけて加速し、次のバレリオンに斬りかかる。
それを迎え撃つべくバレリオンからミサイルが放たれるも、シンは機体をロールさせてそれを回避し、ザンバーを横一文字に振り抜いた。

「ビルトシュバインめ…翼を手に入れたか!」

バックスのバレリオンが次々とビルトシュバインやアルトアイゼン、グルンガストに斬り捨てられていくのをみてユウが苦虫を潰したような表情を浮かべた。
誤算であったのである。
ビルトシュバインが滞空能力を備えていたことが。シンが空中戦に想像以上に慣れていたことが。
とはいえ、今の彼にはバレリオンのフォローに回る余裕はない。
頭の中を何かに締め付けられるような感覚を覚え、その感覚の先に目を向けるとそこにはやはりブリットのヒュッケバインMK-Ⅱがいた。

「チャクラムシューター、GO!」

ヒュッケバインMK-Ⅱから放たれた、ワイヤーを付けた戦輪がランドグリーズに迫ってくる。
しかしランドグリーズは手にしているショットガンを構えると、向かってくる戦輪を撃ち落とした。

「お前達、ゼオラをどうするつもりだ?」
「事情を知らないのか!あの子は自分の意思と関係なく戦わされているんだぞ!」
「だから、助けるというのか?」
「ああ、そうだ!」

距離をとったヒュッケバインMK-ⅡはGインパクトキャノンを機体に接続させてランドグリーズに向ける。
同様にユウも肩部リニアカノンを構えてヒュッケバインMK-Ⅱに向けると、2人はほぼ同時に引鉄を引いた。
両者の攻撃は正面からぶつかり、大きな爆発が起こって両機の視界が塞がれてしまう。

「世迷言を……戦場にいる全ての者が自ら好んで戦っているわけではあるまい」
「何だと!?」
「彼女には彼女の事情や戦う理由がある…それに干渉する権利がお前達にあるのか?」
「俺にはなくてもラトゥーニにはある!あの子は自分の仲間をずっと探していたんだ!」
「だからと言って、本当にそうだという保障などない!」

思わずブリットが口を閉ざす。だが沈黙は長くは続かなかった。
ランドグリーズのコックピット内にシンの怒鳴り声が響き渡る。

「知ったふうなことを言うなああああ!!」
「何だと!?」
「あんたは、戦いたくもないのに戦わされる子がいるんだってことを知ってるのか!?
 都合の悪い記憶は消されて、頭をいじくられる人間がいるって知ってるのか!」

シンの脳裏に蘇る、ミネルバの医務室で全身を拘束されながらも暴れ続けるステラの姿。
ベルトで縛られて拘束された彼女の手からは、もがき暴れたために血が流れ落ち、自殺防止のために口にタオルを押し付けられていた。
幾晩も枕元で彼女が目を覚ますのを待ち、意識が、記憶が戻るのを待っていた。
やっと記憶が戻っても、彼女には輩出された研究機関やしかるべき設備がないと自分の命を保つことすらできないという枷が付けられていた。
そんな子をこれ以上増やしてなるものか、この信念が彼を強く突き動かす。
しかし、それで「はい、そうですか」と納得するユウではない。

「ゼオラがそうだと言いたいのか!?だが貴様の言うことが一般論として正しくともゼオラがそうだという証拠がどこにある!?
 かつてはあのヒュッケバインのパイロット仲間だったのかもしれないが、今は俺の部下だ。
 そうならば俺は部下を守らなければならん!!」

ブリットのヒュッケバインを他のバレリオンに任せ、ユウは狙いをビルトシュバインに絞る。
ビルトシュバインは高度を下げながらランドグリーズへと迫っていくが、それに対してユウは両肩に備えられたマトリクスミサイルを、機体を後退させながら発射した。
ミサイルはビルトシュバインに向かいながらも、その中からいくつもの小さなミサイルが姿を現してシンに襲い掛かる。
シンは機体の高度を一気に下げて態勢を整えなおし、携行しているメガビームライフルの引鉄を引く。
数銃のミサイルの中から障害となるミサイルだけを撃ち落しつつ、サークルザンバーを起動させたビルトシュバインがランドグリーズに斬りかかった。

「そうそう何度も貴様の斬撃を受けるわけにはいかん!」

シンとは幾度となく戦場で相見えてきたユウは、その有する念動力と併せることによりシンの斬撃パターンを見切りつつあった。
ビルトシュバインの斬撃を、機体を後ろに下がらせて回避すると同時に、ショットガンのトリガーを引く。
散弾はザンバーを展開するビルトシュバインの左腕に降り注ぎ、幾つかの弾が左腕を撃ち抜いた。
するとビルトシュバイン左腕部のビーム刃が消え去り、次の散弾がビルトシュバインに向けて放たれる。
しかしそれをシンはなんとか回避し、右腕にビームソードを握らせた。
続いて、連続してビームソードで斬りかかるのだが、ランドグリーズはその間合いの外ギリギリの位置をキープしながらもビルトシュバインから狙いを外さない。
ユウは振り下ろされたビームソードを、機体を横にすべらせてかわし、近距離からファランクスミサイル、マトリクスミサイルを発射した。

「貴様は確かに強い…だが捉えたぞ!完全にな…さあ己の運命を受け入れろ!!!」

運命。かつての愛機と同じ言葉がシンの心に突き刺さる。そして無力感と絶望が再び蘇ってきた。
オーブで一度は倒したはずの憎き仇であるフリーダムに馬鹿にされたように撃退され、さらに、真の力を解放した、口先だけだった裏切り者の元上司に切り伏せられた。
レクイエム攻防戦でも結局、裏切り者を倒すことはできなかった。
もしもあのままこの世界に飛ばされることがなかったのならば、そのまま憎むべき仇と裏切り者に屈服させられるなどという哀れで惨めな末路が己の運命だったのか。
飛ばされたこの世界で自分と同じような思いで戦おうとしている者を手助けすることすらできないのであろうか。

「冗談じゃない!俺は……俺は………俺は今度こそ自分の運命を切り開いてみせる!!」

シンの脳裏に種子が弾けるようなイメージが走り、意識がクリアになってくる。
CEと呼ばれた世界で幾度となく彼を救ってきた秘められた力が、新西暦の世界で初めて発動した。

上空から降り注ぐミサイルめがけて腰にマウントしていたメガビームライフルを投げつけ、予備のビームソードもライフルめがけて投げつける。
高エネルギーに貫かれたライフルはミサイルが命中する直前に大きな音を立てて爆発し、ミサイル群がその爆発に巻き込まれていく。

「何だと!?」

常に冷静でいることを心がけるユウに驚きが生まれる。しかし今のシンには目の前に立ち塞がるユウを倒すことしか頭にはない。
さきほどまでの猪突猛進ともいえる剣劇モーションとはうって変わって、自分がかわしにくいコースにピンポイントに狙いを定めたかのように、ビルトシュバインのビームソードが振り下ろされる。

「こいつ…本当に別人か!?だが…!」

今まで一定の間合いを取りながらショットガンで狙ってきたところを、ユウはビームソードをかわして一気に距離を詰める。

ショットガンの砲身がビルトシュバインのコックピット付近を捉え、ユウはトリガーを手にかけた。
だが次の瞬間、シンはザンバーを失って動きが鈍くなった左腕を砲身に突っ込んだ。
左腕部とショットガンの爆発がランドグリーズとビルトシュバインとをいったん遠ざけたが、手持ちの火気を失ったランドグリーズと違い、左腕部を失いはしたがビルトシュバインの手にはビームソードが残っている。
ビルトシュバインはテスラドライブを全開にして上空に飛び上がってランドグリーズに迫り、それをユウは撃ち落そうとする。
しかしランドグリーズの残りの武装では今のビルトシュバインを捉えることはできなかった。
ビルトシュバインは上空に飛び上がったままランドグリーズの真上を通り過ぎたのである。

「しまった!?」

ランドグリーズは火力を重視した本来は支援用の機体である。
ラトゥーニを助けるべくそのような機体で前線に突っ込んでいったゼオラを救出すべく、ユウは自らも前線に突っ込んでいったのだが、ランドグリーズは本来支援用である機体である故に前面に対して攻撃を加える兵装が充実しているものの、手持ちの火気なくしては自機のほぼ真上や後方からの攻撃に備えた武装や防御システムはない。
シンは真上から後方にかけてならばファランクスミサイル、マトリクスミサイル、リニアカノンの攻撃が届かないことを見抜き、上空に飛んだのであった。
そしてそのまま地上めがけてビームソードを振り下ろす。
虚を突かれたユウはなんとか機体をひねってコックピットへの直撃を回避したが右腕をまるごと切り落とされてしまう。
爆発する右腕に目もくれずビルトシュバインとの距離を取ろうとるべく、まずは残ったファランクスミサイルを放つが、シンはそれに対してビームソードを前面に向け、機体を低くかがめさせると、そのまま正面から突撃をしかける。
ミサイルの雨を掻い潜り、背後の地面に次々と着弾していくミサイルの爆発により生じた爆風を背に受けながらビルトシュバインがランドグリーズに迫る。
もはやビルトシュバインの前に立ち塞がるものはなにもない、そうシンは確信していた。
だが、ビームソードが正確にランドグリーズのコックピットめがけて進んでくるのを見たユウは最後のマトリクスミサイルを至近距離から発射した。
シンはとっさに構えていたビームソードを上へ振り抜いてマトリクスミサイル、そして左肩部のリニアカノンの砲身を切り裂くも、マトリクスミサイルの爆発により再びランドグリーズとビルトシュバインは大きく吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされたランドグリーズの下にもう1機のランドグリーズが駆け寄り、カーラが心配そうな声を上げる。

「くっ!ダメージを受けすぎたか!?」
「ユウ、大丈夫!?」
「俺のことはいい!それよりホエール2は!?」
「もうそこまで来てるよ!」
「隊長!!」
「カルチェラタン7、動きを止めるな!」

隊長機であるユウのランドグリーズの大きな損傷にゼオラも驚きを隠しえず、動きが鈍くなってしまう。
それを見たラトゥーニは一気にランドグリーズに迫るも、それとほぼ同時に戦闘海域にキラーホエールが浮上してくる。
そしてキラーホエールからはアラドのリオンが飛び出してきた。

「ゼオラ!」
「アラド!?あなた、どうして!?」
「機体を行動不能にするわ、ゼオラ」
「!!」
「させるかあ!!!!」
「動かないでゼオラ」
「ゼオラ、お前は俺が守る!うああああぁぁ!」
「アラド!」
「え!?」

機体の動きを止めるべく量産型ヒュッケバインMK-Ⅱから放たれたバルカンがリオンを撃ち抜いた。
すぐには爆発しなかったがリオンの動きは鈍く、それを見たゼオラはパニックになりながらもリオンに通信を入れる。

「アラド!アラドッ!返事をして!!」
「ぶ、無事か?ゼオラ…」
「アラド、あなた…!どうして!?」
「だ……だから前にも言ったろ?約束は…守るってな。け、けど今回は当たり所が悪かった……みてえだ」

リオンの機体の各部に小さい爆発が連続して起こる。

「!」
「ま、まさか…」
「へ、へへ…バルカンでやられちまうなんて…」
「早く!早く脱出してぇ!!」
「俺らしいって言うか…何て…言うか…」

アラドが言葉を言い切る前に、リオンは爆発して通信は途絶えた。

「!!」
「ア、アラドォォォォッ!!!」
「あ、あの子、脱出できなかったの……!?」
「アレでは……くっ!」
「あ、ああ……そ、そんな…アラド!アラドォォォッ!嫌ぁぁぁぁっ!!」
「ホエール2、撤退支援を!」
「了解!VLS全展開!」
「ゼオラ!撤退するぞ!」
「嫌!嫌ぁぁ!アラドが、アラドがっ!!」
「状況を判断しろ!お前もここで死ぬつもりか!?」
「…!!」
「…行くよ、ゼオラ」
「は、はい」

突然の出来事に動きを止めてしまっていたハガネの各機を残してDC残党群が撤収していく。
ミサイルの爆発により受けた衝撃で機体が思うように動かなくなってしまっていたためシンはそれを追うことができなかったが、彼はステラの最後―背後から迫ってきていたフリーダムから自らを守ろうとして討たれた女性を思い出さざるを得なかった。

「俺は…ちくしょう!!!」

怒りに任せた拳がビルトシュバインのコックピットの壁に叩きつけられる。
その痛みを感じつつ、シンは外に目をやると先ほどのリオンのものとおぼしきコックピットブロックが付近に転がっているのを見つけた。

「もしかしてあのパイロット…!」

面識があるわけでもないが、仲間をかばおうとしたパイロットを放ってはおけず、シンはそれを回収してハガネに帰艦したのだった。

今回は以上です。だめだぁ、シンを動かすとそれだけ紅茶が動いてしまう…
とはいえ、たぶんこれ以降はシナリオ上、そんなに紅茶の出番があるわけではないので許して…
この後は桜花幻影、アルフィミィ、シナリオ分岐でインスペクターだから
これまでほど紅茶は出てこないはず・・・分岐の中で1回とDC内部の話で少しくらいかと。
あとホワイトエンジェル、というのはDC残党が勝手につけたアンジュルグのコードネームです。