SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第20話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:51:18

「現れた影」

 

「お~い、リュウセイ。ラドム博士が呼んでるぞ~」

 

その日、シンはアラドのための機体選定と、ビルガーの制式仕様を決定するためのシミュレーションを行なうにあたってコメンテーターをすることになったリュウセイを呼びにその部屋に赴いていた。

 

「おう、悪い悪い!待たせたな!」

 

扉が開き、笑って頭をかきながら、中からリュウセイが姿を現した。
扉の外から見える部屋の中には、ロボットと思しきフィギュアが夥しいほど並んでおり、これがリュウセイ病の根源か、と思わざるを得ないものである。
だが半ば呆れ顔のシンとは裏腹に、リュウセイは屈託のない笑顔を浮かべており、これを善意解釈すればもう正体を明かしたシンにも打ち解けた証拠だと考えることも出来る。

 

「なあ、お前の世界にはどんなロボットアニメがあったんだ?」

 

早足で格納庫へと向かう中、リュウセイが問い掛けてきた。

 

「ロボットアニメ…う~ん、あんまりよくわかんないんだよな…特撮ならわかるんだけど…」

 

アニメといえば、ミネルバの副長に聞けば何かわかるかもしれないとシンは一瞬思ったが、次の瞬間、その思考は取り下げた。
副長に聞いたら○○才未満閲覧禁止の作品の方が多くでてきそうで、
それをリュウセイにいっても仕方ないだろうからである。
ただ、よく考えてみれば戦うロボットを扱う所にいたのにミネルバにはあまりロボットの類に「熱い」人間があまりいなかったような気がして、ちょっと不思議に思えてきていた。

 

「そっか~新しい男の浪漫の境地が開けるかもしれないと思ったんだけどな~」
「はははは…それは悪かったな。せいぜい俺が話せるのは合体ロボに乗った体験談くらいだよ」
「何!お前も合体ロボットに乗ってたのかよ!なんでそれを最初に言わねえんだよ!?」
「リュウセイが好きそうなデッカいロボットじゃないぞ?ってかお前『も』ってどういうことだ?ハガネに合体する機体なんてなかったと思うけど…」
「フッフッフ!シンが知らねえのは無理ねえが、俺のR-1とライのR-2、あとR-3ってのがあって合体するんだぜ?」
「えぇぇ!?あのR-1とR-2がどうやって合体するんだよ!」
「そいつは見てのお楽しみだぜ!きっと驚くぞ~」

 

思わぬ合体談義に華が咲き、R-1とR-2がなんと合体するという夢にも思わなかった話を聞いて少々たまげたシンであったが、自分たちのいた世界の機体とはスケールからして違うグルンガストや
先日目にしたジガン・スクードみたいな機体があること、
そして新型機の開発に凄まじいまでの熱意をかけるマリオンみたいな人間がいることを考えると、R-1と2が合体してもなんだか不思議でなくなってくるような気もしていた。
どうやら自分は思っていたよりもだいぶこの世界に適応してきたらしいことを自覚したシンであった。

 
 

2羽の真紅の百舌が大空を飛びまわっていた。ただ、その翼は鋼鉄製で、その手には武器が取られている。
1羽の百舌がグラビトンライフルを手にして、もう1羽の百舌へと向かっていく。
だが放たれる重力エネルギーをかわしつつ、もう1機の百舌は距離を取り、腰に携えたコールドメタルソードを引き抜いた。
なおも突撃していく百舌もグラビトンライフルを捨ててコールドメタルソードを手にする。
もう一方のビルガーは腕部固定兵装のマシンキャノンで相手を牽制するが、突撃していくビルガーは回避行動を取らずに機体へのダメージを蓄積させながらなおも突撃を繰り返す。
そして手にしたコールドメタルソードを振り下ろすが、他方のビルガーは機体を90度後ろに回転させ、手の空いている右腕で相手の機体の顔面を掴んだ。
さらに顔面を掴んだまま相手の機体ごと地面に叩きつけ、動きを止めたビルガーのコックピット目掛けてコールドメタルソードの切っ先が迫っていく。

 

「わわっ!シンさん、ちょっとタンマ!」
「はあああぁぁぁっ!!」

 

刃がコックピットを貫くと同時に戦闘終了を告げるブザーが当たりに響き渡った。今回、正式にハガネ・ヒリュウ改に加わったのはシンだけではない。
ノイエDCの変態部隊…ではなく、特殊部隊の元パイロットアラド・バランガも正式にハガネ・ヒリュウ改所属のパイロットとなっていた。
そして訓練を兼ね、そのアラドのための機体を決めるためのシミュレーションが行なわれていたのだが…

 

「…そこまでだ、アラド。シミュレーターから出ろ」
「りょ、了解っス」
「シンも出ていい。一休みだ」
「わかりました」

 

ふう、と息をつきながらアラドに続いてシンもシミュレーターから降りていく。
そこにエクセレンから「お疲れさん」の意を表すドリンクが投げ込まれ、シンはそれに口をつけた。
これまで秘めておいた自分の素性を明かしてからしばらく経つが、周囲はシンが思っていたよりもかなり早くそれに適応して今では従来とほとんど変わりのない態度で接してくるようになっていた。
周囲からしてみたら単純に信用できる話とはいえなかったが、シンがレーツェルことエルザム・V・ブランシュタインとともに行動していたことはテスラ研から脱出してきた者達には明らかであったし、
さらにシンの供述と一致するラクシズの戦艦や機体と実際に交戦したことからシンの言葉を積極的には信じずとも嘘を言っているわけではないというのがわかっていたからである。
ついでに言えば、ラ・ギアスという別世界から来たマサキといういわば「前例」があったこともシンへの適応が思いのほか早く可能となった理由の1つになっていたことも否定できないであろうが。

 

「アラド!てめえ、何回撃墜されりゃあ気が済むんだ!?」

 

アラドに向けて怒声を飛ばすカチーナ・タラスクの声が格納庫じゅうに響き渡り、彼女の怒りの大きさを物語る。
審査員ことリュウセイ・キョウスケ・カチーナの酷評がされているのを見て
さすがに少々気の毒に思いながらも、触らぬ鬼中尉に崇りなしとばかりに距離を少々おいていた。

 

「アラドに比べるとシンは状況に適応して武装を使い分けるのが上手いな。さすが別世界でエースやってただけはあるじゃねえか!でもギリギリの避け方してんじゃねえ!」

 

触らなくても崇りはあったらしい。

 

「す、すみません…」
「確かに中尉のいう通りだな。装甲の薄いビルガーならもう少し余裕を持って避けた方がいいかもしれん。だが悪い内容ではなかった。70点くらいはやってもいいな」
「剣の使い方に慣れてるよな。それにライフルとの使い分けもうめえ。あれは俺も参考にしたいぜ」
「でもまだまだビルガーを使いこなしきれてはいませんわ!…まあ悪くもありませんけど」

 

自分の機体の無限の可能性を信じる生みの親はそう言って、後ろを振り向いて格納庫から去っていってしまった。

 

「ラドム博士、あんなことを聞いて何をするつもりなのかしらん?」
「今回の件はビルガーのもう1機のビルガーの接近戦用武装を決めるためのものだときいておりますですが……」
「あ、な~る。じゃ、ビルトビちゃんの双子の右腕には何がつくのかしら?」
「アルトでの採用が見送られたというリボルビング・バンカーかも知れんな」
「ブレード・トンファーならぬチェーンソー・トンファーなんてのはどう?」
「じゃあ実際に乗ってるシン君はどうかしらん?」
「俺としてはスタッグビートルクラッシャーのままでいいと思うんですけど…突撃するんだったら巨大な剣…シシオウブレードあたりじゃダメですか?」
「ヘッ、だらしねえな。漢なら指先1つでダウンだぜ」
「カチーナ中尉、一応女の子でしょ?」
「一応ってつけんな!それに今はアラドの話だろうが!」

 

シンとしては、はあまりに男気に溢れた試作機をこよなく愛する中尉の台詞に、エクセレンの言葉に激しく同意をするところであったが、
そんなことを言おうものならとてつもなく恐ろしいことになるであろうことは、しょっちゅうカチーナに締め上げられているアラドや悪く言えば地味を地でいくラッセルを見ていれば容易に想像がつくところである。
そんなことを思っていると扉が開き、やや息を切らせながら罰のランニングを終わらせてきたアラドが戻ってきた。

 

「カチーナ中尉!グランド1週行って来ました!」
「おう、ご苦労」
「それで、あの……クスハ少尉が…」

 

そう言って扉の向こうを見やったアラドの視線の先には、たわわな果実を実らせた美女………とお盆にのった、「あの」汁と思しき色をした液体と個体の中間のような物質であった。

 

「アラド君達が特訓をしてるって聞いたので、飲み物を持ってきたんです」

 

クスハの口からでた言葉にアラドとラミアを除いた全員の顔が、敵襲を知らせる警報を聞いたときですら見せない、極めて深刻な表情を浮かべだす。
シンの記憶があの絶望を思い出し始め、胃袋が鷲掴みにされているかのような締め付け感を電気信号により脳に伝えられ始めた。
そして彼の脳内には逃げろ、今すぐここからダッシュで逃げろという至上の命令が発せられ始めた。

 

「すみません、少尉。わざわざ俺達のために」
「や、ヤバイぞ、おまえ」
「え?何が?」

 

リュウセイの警告に端を発して、キョウスケ、エクセレンだけでなく、怖いものなんてあなたにあったんですか?と問いたくなる鬼中尉カチーナですらその場を脱出するために必死に考えたのであろう嘘を口々に出し始めた。
シンもこの場を脱するための口実を、コーディネートされたかはわからないが、その頭をフル稼働させて考え始める。

 

「じゃあ俺…いっただきま~す!」

 

シンがそれを思いつく前にアラドがそれを口にしてしまった。

 

「う!!」

 

場が一瞬にして氷点下以下にまで凍りつく。

 

「う…うまい!」

 

え?その場にいた誰もがそう思っていた。アリエナイ、ゼッタイアリエナイ…歴戦のパイロット達ですらおそれるその汁がうまいはずがない。
だがアラドはクスハ汁を飲んだ後もピンピンしており、ラミアにそれを薦めるまでしている。
それに釣られたのか、やや深刻な顔をしながらラミアもクスハ汁を一気に飲み干した。
染み1つない肌をまとった喉肉が盛り上がり、ゲル状の汁を体内へと移動させているのがラミアのすぐ脇にいたシンにははっきりと見えている。
ラミアがそれを飲みきり、一瞬沈黙が場を支配し、その場にいた皆が本当にうまかったのかも、と思い始めたそのとき…

 

「う…!」

 

ラミアはうめき声をあげると、1,2歩移動して後ろへと倒れ込んでしまった。

 

「ラ、ラミアさん!?」

 

だが、そのときまたもやあの最も忌まわしく、そして最も羨ましいあの特殊技能が発動した。
ちょうど後ろへ倒れ込んだラミアの両脇にシンの腕がきれいに収まって、倒れようとしたラミアを掴もうとしたシンの指はレモン・ブロウニングがつくりたもうた超最高級のマスクメロンを大胆に握り締めている。
伝わってくる感触は柔らかいと同時に、それでいて乳肉を押さえる指に対して強く反発してその張りと弾力をこれでもかとシンの触感に訴えかけていた。

 

「わわわ!すすすすスミマセン!」
「出たわん!伝家の宝刀のラッキースケベ!!」
「ちょっと!茶化さないでくださいよ!」

 

シンがクスハ汁を飲んだときに、クスハの豊満な胸へと沈んでいったということをどこからか聞きつけていたエクセレンにとっては、シン・アスカは異世界だろうが別世界だろうがそんなことは関係なく、ブリットに次ぐ、新たなオモチャ、ラッキースケベであった。
こんなラッキーならいつでも大歓迎なイルムやタスクと異なり、こんなラッキー要らない!と思ったのだが、その直後にやっぱあってもいいかも、などと思ってしまったことも事実であり、悲しき男の性の存在を否定できない若さを持ったシンであった。

 

「……R1101ポイントに到達。現時点で特に異状なし……と」
「……」
「あの……大丈夫ッスか、ラミアさん?」
「ああ、消化系の機能に異常はない」
「というか、アラド、お前の方こそ大丈夫なのかよ…その…アレを飲んだのに…」
「シンさ~ん、だからさっきも言ったじゃないっすか。うまかったっすよ」
(ありえねぇ…)

 

まさに絶望を詰め込んだと呼ぶことがぴったりとあてはまるようなあの汁が、「うまかった」はずがない。
そんなシンの内心をまったく知らぬラミアはラミアで筋肉系の疲労回復にとどまらぬ活性化に大きな驚きを隠しえないでいた。
まさか人造人間である彼女にまでそのような効力が出るなどとは夢にも思わなかったからである。
だがそんな平和な思考をしている時間はその場で終わりを告げた。

 

「!!」
「ね、熱源反応!?」
「敵か!」
「ビ、ビルトファルケン!!」

 

アラドが驚きの声を上げる。飛行タイプのゲシュペンストを数機ほど引き連れて彼らの前に現れたのは、ハワイ沖でアラド達が強奪したもので、シンが乗る赤いビルトビルガーの同型機の相棒となるべく白騎士ヴァイスリッターの後継機として作られた連邦軍の新型、ビルトファルケンであった。
だが、ノイエDCに奪われた今となっては敵機であることに変わりなく、ゲシュペンストはこちらに向けて攻撃態勢に入り始めている。
それに対してファルケンへと通信を入れようとしたものの、ジャミングによって妨害されたアラドも向かってくるゲシュペンスト目掛けて突っ込んでいく。

 

「待てアラド!むやみに突っ込むな!」

 

ミネルバにいた頃はまるで突撃部隊のヘッドのような役割を果たしていたシンらしからぬ言葉が発せられる。
本人にその自覚はないが、新西暦の世界へやって来て大きく変わったことの1つに、
シン自身が部隊の先頭に立って突っ込んでいかねばならない状況はほとんど生じなくなったことがある。
もっともこれはハガネ・ヒリュウ改という部隊にいるから、という特殊な事情によるものなのであるが、僚機にATX計画やSRX計画の機体、超闘士グルンガストに魔装機神サイバスターがいたのであれば、
その中で突撃部隊のヘッドをやれと言うことのほうが酷であろう。

 

「シンさん、ラミアさん、ファルケンには手を出さないでくれ! あいつの相手はおれがする!あいつはおれが助ける!!」
「……好きにしろ」
「アラド!チャンスがそんなにあると思うなよ?」
「ウッス!」

 

そう言ってアラドの乗るアルブレードはビルトファルケンに向けて一直線に進んでいった。
ラミアはその様を見て呆れているだけであったが、シンにはアラドの姿はまさに過去の自分そのものに映っていた。
戦闘を強制させられている者を死に物狂いで救いに行く。それはかつてシンがステラを助けるべく雪が降りしきるベルリンにおいて、デストロイに立ち向かっていったことと同じであった。
その結果はシンにとって最悪のものとなり、彼の心にとてつもなく大きな傷と楔を残す結果となってしまったことは言うまでもない。
それ故にアラドの望みを何としても叶えてやりたい、シンはそう強く望んだ。
そして、アラドが自分で相手を助けると言っているのならば、自分がすべきことは周りの敵機を排除してアラドの邪魔をなんとしてもさせないことなのだという確信がシンにはある。

ベルリンにおいて彼は1人であった。
自分よりも腕の立つ当時の上官アスラン・ザラは無残にも自分の機体をキラ・ヤマトにより17分割にされて戦闘に参加できず、アカデミー時代の同期たちは
上官とは異なりミネルバを防衛すべく奮戦したものの、その末に自身の機体を失ってしまい、これまた戦闘に参加できないという状況。
さらにベルリンでは覇王のしもべ達と憎っくき家族の仇フリーダムがシンの行動の妨げになっていた。
フリーダムとキラ・ヤマトはサイバスターにより屠られ邪魔をしてくることはないであろうが、今回も何があるかは判らない。
万が一のことがあれば、アラドも自分のような大きな心の傷を負うことになりかねない。
確かにアラド・バランガと親交をもってからまだわずかな期間しか経ってはいないが、自分と同じような思いを他の人間にも味あわせることは絶対にしたくなかったのである。
そんな思いがあったからこそ最後までデュランダルの側についていたシンが同じ悲劇を繰り返さぬためになすべきことはたった1つであった。

 

「ラミアさん、俺がフォワードをやります。バックスお願いできますか?」
「了解したでございますことよ」
「うおおおおおおお!!!!」

 

怒声を上げながらシンはビルガーのスラスターを全開にしてゲシュペンストへと突っ込んでいく。
ビルガーは迎撃のために放たれたスラッシュリッパーを、機体を急降下させてかわすとそのまま真下から1機目のゲシュペンストに斬りかかって行った。
既に引き抜いていたコールドメタルソードがゲシュペンストの股間から頭部までを下から切り裂き、真っ二つとなったゲシュペンストはそのまま2つの爆発を生んで姿を消した。
さらにビームソードを引き抜いて斬りかかって来たゲシュペンストにコールドメタルソードで応戦し斬撃を受け止めると、剣を手にした腕部のガトリング砲をゼロ距離からゲシュペンストに向けて叩き込んだ。
続けて力を失って落下を始めるゲシュペンストに目もくれず、ビルガーは次の獲物に向かって行く。
そしてガトリング砲を喰らったゲシュペンストは態勢を整えなおしてビルガーを後ろから撃とうとするが
その矢先に赤く光輝く幻想の矢、イリュージョンアローに動力部を貫かれて爆発した。

 

「次はどいつだぁぁぁっっ!!」

 

シャドウミラー兵の錬度はそれなりのもので、彼らが乗るゲシュペンストもこの世界のゲシュペンストに比べれば高い性能を誇っているのであるが、今回ばかりはシンの気迫がそれを寄せ付けないでいた。
ビルガーは向かってきた次のゲシュペンストのビームソードを持つ腕を、力任せに振り抜いたコールドメタルソードで弾き飛ばし、がら空きになったボディをスタッグビートルクラッシャーで鷲掴む。

 

「スタッグビートルゥゥ…クラッシャァァァァ!!!」

 

そして掴んだまま機体を捻り潰すと、その隙を狙ってきたゲシュペンストに向けて他方の手に握っていたコールドメタルソードを投げつけた。
突然向かってきたコールドメタルソードに対応しきれず、
剣が胸部に突き刺さったゲシュペンストのパイロットは、剣が突き刺さったことを認識する前にそれを引き抜いたビルガー動きを見たのを最後に、機体の爆発に巻き込まれ姿を消すことになったのであった。
ビルガーの鬼気迫る奮戦振りに戦意を挫かれたゲシュペンストは、パイロットの戦意低下により動きを鈍化させ、そこをイリュージョンアローで貫かれ、地面へと落下していった。

 

「次のターゲットを選択………!この反応は!?」

 

2機目のゲシュペンストを撃墜した直後、アンジュルグのセンサーが新たな機影を捉えていた。
愛機が告げる新手の機種はラーズアングリフ。ラミアが本来所属しているシャドウミラーがこの世界にもたらした主要な機体の1つであり、彼女にとっては造物主レモン・ブロウニングのつがいであり、自分と互角以上の腕を持つシャドウミラーのエース、アクセル・アルマーの機体との認識である。
そしてそれを裏付けるように、入ってきた通信の使用コードはラミアの記憶の中に存在する者の用いるものであった。

 

「機密通信……。このコードは……アクセル隊長か」

 

一方、最後に残っていたゲシュペンストにコールドメタルソードを突き刺したビルガーのコックピットでシンも敵部隊の増援が来たことを確認していた。
そして、その増援に来た機体がどのような機体であるかもよく知っていた。ただラミアとの認識の違いはその機体のパイロットが誰かということにある。
ノイエDCの指揮官向け砲撃戦用機ラーズアングリフのパイロット、といえば、シンにとってはアメリカ大陸で死闘を繰り広げたユウキ・ジェグナンである。
もちろん実際にいるのはユウキではないのだが、ユウキ・ジェグナンが、ゼオラ・シュヴァイツァーのいる戦場にいる、ということは、アメリカ大陸でユウキがシンに向かって言った、ゼオラが既に自分の部隊にはおらず現在どうしているのかは知らない、という言葉が嘘であったことを意味しているに等しい。
少なくともシンにとっては等しかった。

 

「ジャケットアーマー……パージ」

 

シンは静かにビルガーの真の力を解放させた。

 

「着実に戦力を伸ばしつつある。このままでは、あの時と同じ結果になるぞ」
「あの時と同じ結果だと?ふん、ならば…」
「あんたって人はぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「何!?」

 

「こちらの」世界に来て久々の腕試しに、アンジュルグとラミアの相手をしようとしていたアクセルの乗るラーズアングリフのコックピットの中に、敵機の接近を知らせるアラートの音が大きく鳴り響く。
だがアクセルがそれに反応して迎撃行動に移る前に敵機の襲来は既に始まってしまっていた。
ラーズアングリフは咄嗟に後ろに下がるがその手にしているリニアミサイルランチャーは砲身を真っ二つに切り裂かれて姿を消していた。

 

「ちぃっ!!」

 

自分が全く意図しないところから予想外の損傷を被ったことへと苛立ちが舌打ちとなって現れたのだが、アクセルの誤算は不幸にもそこにとどまらなかった。
近接戦闘を長時間可能ならしめるべく装着された増加装甲を排除して最大限のスピードの発揮を可能にしたビルトビルガーは既に中のパイロットが最も得意とする間合いを確保している。
そして、それと同時にその間合いはアクセル・アルマーにとっても最も得意とする間合いではあったのだが、その乗機ラーズアングリフが最も不得手とする間合いであった。
携行火器を失い、ラーズアングリフは右手にシザーズナイフを手に取るのだが、ビルガーの姿は既にラーズアングリフの正面にはなく、シザーズナイフを持たぬ左側に回りこんでいた。
そのままビルガーは左腕上部のアームガードをファランクスミサイルポッドもろとも切り落とし、さらに右腕部のスタッグビートルクラッシャーが背部のフォールデリングソリッドカノンを掴み取り、そのまま握りつぶした。
だがこのままやられるのを黙ってみているアクセルではなく、後ろから串刺しにせんと突き出されたコールドメタルソードをシザーズナイフの刀身の腹部で辛うじて受け止める。
これにより剣をまっすぐに突き刺そうとする力と、それを受け止めようとする力がちょうど均衡してわずかにふるえるような動きを刃がするだけの状態が始まった。

 

「なんであの子がアンタの部隊にいるんだよ!ユウキ・ジェグナン!!」
「ユウキ・ジェグナン?2号機の奴か。残念だったな、このラーズアングリフは3機あるんだな、これが」
「だからってやることは変わらない!あの子は返してもらうぞ!」
「返す?ふん、スクールの人形ごときに随分とご執心なことだな」
「人形だと!?」
「そうだろう?科学者に弄繰り回されて言われるがままに戦う。それが人形以外の何だっていうんだ?」
「ふざけるな!アンタはその人間が戦いたくて戦ってるとでも思ってるのかよ!!」
「そんなことは俺の知ったことじゃないな!」

 

アクセルはそう言うと残った右腕部のアームガードを盾にしてビルガーにブチかましをしかける。
それをコールドメタルソードの刀身でなんとか受け止めるが、次の瞬間には右肩部のファランクスミサイルポッドからミサイルがビルガーに向けてばら撒かれていた。
そしてその中の数発がビルガーに向かって迫ってくるが、それらのミサイルは幻想的な緑色に輝く数本の槍に貫かれて爆発する。

 

「チッ!人形風情が!」

 

自分の攻撃がさきほど本気でかかってこい、といったばかりの人形に妨げられたことにアクセルは苛立ちを覚えたが、それに気を取られている場合でないことも自覚している。
覚醒状態となっているシンはミサイルの密度の薄いところを縫うようにして移動してさらなる斬撃をラーズアングリフへと浴びせていた。
そしてアクセルがコールドメタルソードを再びシザーズナイフで受け止めると、即座に今度はスタッグビートルクラッシャーがラーズアングリフへと迫ってくる。
それに対してアクセルはラーズの右腕に握らせたナイフをビルガーに向けて突き出した。
だが先にクラッシャーによってナイフを握る腕ごと掴まれ、動きがままならなくなった腕はフォールデリングソリッドカノンと同様に握りつぶされてしまったものの、ラーズアングリフは腕が握りつぶされる前に辛うじて動く他方の左腕にナイフを持ち替えると、ほぼゼロ距離となっているビルガーの顔面目掛けてナイフを突き刺した。
爆発して姿を消した頭部メインカメラを即座にサブカメラへと切り替えて、シンも負けじとコールドメタルソードで、既にアームガードを失い大きく防御力を落とした左腕を下から上へと刃を振り上げて胴体から切り離した。

 

「貴様、好き勝手やってくれたな!!」

 

それなりの接近戦用の機体に乗って接近戦を行なえば、覚醒状態のシンであっても倒すことはかなり難しいほどの腕前を持っているアクセルにとっては、いくらラーズアングリフに乗っているからといってもここまで機体を傷つけられたことに怒りがこみ上げてきている。
目の前にいる激昂状態の相手の腕も悪くないし、それをW17ことラミアに援護されたのではさすがのアクセルにとっても状況はかなりよくないものであった。
それに対してシンは、「人形」と言い切ったアクセルの言動により既に怒りで心が一杯となっており、なんとしてもここでこのパイロットを排除してアラドの手助けに向かわねば、と焦りが生まれてきていた。
シンがここまでアクセルを押すことができたのは不意をついたことと、最適の間合いを確保したこと、そして相手の機体の特性を既に知っていたという理由があったからに他ならない。
もしこの場でアクセルが乗っている機体が彼の愛機ソウルゲインであったのならば、こうまで有利に戦うことは不可能であったであろう。

 

「む!ハガネの連中め…もう来たか」

 

シンとアクセルの決着が着く前に、戦場にはアクセルが待ち焦がれたキョウスケが乗っているヒリュウ改とハガネ、そしてシロガネが姿を現していた。
それらの中から次々と艦載機が出撃してきてラーズアングリフの方へと向かってきていた。
そしてさすがに多勢と無勢を感じたアクセルはビルガーからいったん距離を置いて身構えた。
向かってくるハガネ・ヒリュウ改の機動兵器部隊の存在とその実力はたいたいのところでは把握していたが、このまま戦闘を継続していたとしても得られる利益は、失われる利益と比較して決して大きいものではない。
だが、そのとき、ハガネとヒリュウ改のブリッジではオペレーターが察知した情報から艦の前方から発せられる、空間転移のエネルギーを察知していた。
一瞬、ハガネ・ヒリュウ改の前方の空間が光り輝き、何もなかったところから1機の大型機動兵器が姿を現した。
何が起こったのかをその場にいた多くの面々が理解・認識できずに困惑する中、アクセルとラミアのみが目の前で起こった事象の意味のとてつもない大きさを静かに認識していた。

 

「間違いない、あれは……!!」

 

姿を現した機動兵器は、一言で言えば邪悪な鬼、とでもいうべき外見をしていた。肘、肩、頭部の先端へとダークグレーの角が何本も伸びており、触れるもの、近付くものを傷つけようとするかのようで、胸部に輝く1対のクリスタルのような装甲板は腹部の赤い宝玉様の物質と相まって、胴体にもう1つのさらに邪悪な顔が作られているようにも思える。
突如として空間転移を行なって姿を現した機体に、ハガネ・ヒリュウ改の各面々は異星人インスペクターの新たな機体かと警戒を著しく強めると同時に、その機体がノイエDCの機体のすぐ傍に現れたことから、何らかの関係を既にノイエDCと結んでいるのかと疑う者もいた。

 

「何なんだよ…アレは…!」

 

一方、体に走る微かな震えを歯を食いしばって耐えるシンはコックピットの中で静かに呟いた。
機体自体の大きさだけでいうならば彼が何機も破壊してきたデストロイとさほど変わらない大きさにすぎないのだが、機体から伝わってくるプレッシャーもしくは覇気は、先に交戦したインスペクターの指揮官用の機体と思しき金色の大怪獣などを上回っているようにも思える。
伝わってくるプレッシャーの強さは悪鬼の内臓する呪われし装置、システムXNのせいかは不明であるが、1人の戦士として、その機体がとてつもない力を秘めているであろうことは想像に易いものであった。

 

「アクセル、お前はゼオラ曹長と共に戻れ」

 

シンを含むハガネ・ヒリュウ改の面々が転移してきた機体、ツヴァイザーゲインに気を取られている他方で、そのツヴァイザーゲインと中破状態のラーズアングリフ、そしてアンジュルグの間では機密通信が行なわれており、今しがたアクセル・アルマーに対して撤退命令が出されていた。

 

「何故だ?」
「この段階でしくじるわけにはいかん。それに、今のお前の機体状態ではまともには戦えまい。我らはお前を失うわけはゆかんのだ」
「だがやっと出てきたベーオウルフと戦いもせずにおめおめと引き下がれるか!」
「アクセル、お前の本当の敵はあの男ではない。……わかっているはずだ」
「…………了解。勝負は預けるぞ、ベーオウルフ。それまで、他の誰にも倒されるなよ。そして貴様もだ、赤いクワガタムシ」

 

後にこの世界へと現れる武装集団とはまた異なる阿修羅の道を行く決意を胸に秘めた「影」ことシャドウミラーの首領ヴィンデル・マウザーの言葉に諭され、アクセルは後退を決意せざるを得なかった。
ヴィンデルの言っていることは正論であり、今のアクセルがベーオウルフことキョウスケに拘るのは機体と名前、存在上の人物が同じだからにすぎない。
彼がこの世界にやってくるまでに拳を交えてきた特殊鎮圧部隊ベーオウルブズの隊長と、目の前にいるアルトアイゼンを駆るキョウスケ・ナンブは同じ人物であると同時に、今の時点で入ってきている情報を前提にするのであれば全く異なる存在であり、強く拘る因果はない。

 

「なるほど。やはり、こちらでも我々の前に立ち塞がるのはこいつらか。ならばツヴァイの慣らしに少々付き合ってもらうぞ!」

 

異世界の阿修羅はそう言うと、不敵な笑みを浮かべながら展開を終えたハガネ・ヒリュウ改の部隊へと目を向ける。
そしてスロットルを全開にしてツヴァイザーゲインの出力を一気に上昇させると、
その展開を終えた部隊目掛けて単機で突っ込んでいった。
当然、突っ込んできた幹部用機体に対して迎撃を行なうべく超弩級ともいうべき火力がツヴァイザーゲインに向かって討ち放たれたのだが、ツヴァイザーゲインはその巨体とは裏腹の高い機動性を活かして集中砲火を掻い潜り、または放たれた弾丸を両の拳で撃ち払っていく。

 

「我が行く修羅の道…貴様らに阻めるものならば阻んでみよ!!」

 

拳を頭部の付近で握り締めたツヴァイは、その掌をハガネ・ヒリュウ改所属の部隊へと向けた。
掌の中央には青白い色をしたエネルギーが収束してゆき、なおも見舞われ続ける攻撃を高速で回避している。
その高速の動きはまるで分身をしているかのようにも見え、6機のツヴァイザーゲインが一斉に収束させたエネルギーを放った。
咄嗟にハガネやヒリュウ改は前面に出て各機体を庇うように防御フィールドを展開し、それらのフィールドに入れなかった機体もその機動性を発揮させて攻撃を回避するか、ジガン・スクード・ドゥロの後ろに入るなどして攻撃を凌ぐこととなった。
シンの乗る赤いビルガーもその高い機動性のおかげで被弾を避けることは出来たが、ツヴァイザーゲインの攻撃の衝撃とそれにより上がった爆煙が晴れた頃には敵機の姿はなく、撤退したであろうことは容易に想像ができた。
だがレーダーに一切の反応が残っていないことからやはり転移による移動を行なったと推測されることからやはり今の地球にない技術が使われた機体であろうと考えられ、各パイロット達にとって後味の悪い結果が残ることとなってしまったのだった。
シンも頭部を失ったビルガーの中で圧迫感から解放され、自分がパイロットスーツの下でかなりの嫌な汗をかいていたことを認識していた。
自分のいた世界では身震いするような圧倒的な存在感とプレッシャーを放つような機体は初見のデストロイくらいのものであったのに対して、アメリカ大陸で交戦した異星人の指揮官機や今回姿を現した機体など、地球の存続が危ぶまれるほどの危機が存在しているのだということをシンは理屈だけでなく、体で、本能で理解した。
一方、機密通信により今しばらくの潜伏を命じられたラミアは自身の心と呼ぶべきものかどうかはわからないが、思考回路に「不安」のようなものが生まれ、それが徐々に大きくなっているのを感じていた。
そしてどういう訳かはわからなかったが、先日シンが告げた、シンが自分のいた世界で最後に戦った理由が、彼女の中で繰り返し再生され続けていたのだった。

 

ところで時は遡ること数ヶ月前。オペレーションSRWの最後の戦い、つまりメテオ3ことエアロゲイターの送り込んだ最初にして最後の切り札、最後の審判者セプタギンを屠った直後にまで遡る。

 

DiSRX、そしてハガネ・クロガネ・ヒリュウ改に三機のグルンガストなどによる一斉砲撃により打ち砕かれたセプタギンの破片は大気圏上空のあらゆるところにばら撒かれていた。
その破片に混じってクロガネに救出されようとしていたデスティニーの姿もあったのだが、それと同じ頃、セプタギンの破片に紛れて地球の重力に引かれ、徐々に落下を始めていた機体の残骸があった。
完全な姿を保っていた頃はレジェンドとよばれ、ギルバート・デュランダルの懐刀であり、ザフトの誇るエースの1人レイ・ザ・バレルの駆っていた機体である。
だがその機体は両手足及びメインカメラを撃ち抜かれ、行動不能となっており動ける状態ではなかったし、中にいたレイも受けた攻撃とその身に宿した呪われし宿命により既に意識が失われつつあった。

 

「その命は君だ!彼じゃない!」

 

生真面目な性格が災いし、敵の言う言葉を聞き取ってしまったため、その意味内容を理解しようとしてしまい、彼は混乱に陥ってしまっていた。
その言葉をかけた者がそれを本心でいったのか、敵を混乱させるために適当に言ったのかは定かではないが、最後の最後で彼は詰めを誤ったと言ってもいい。
彼を惑わせた敵、新西暦の世界において魔装機神サイバスターにより屠られた「キラ・ヤマト」が言った「彼」とは、もう1人のレイたるラウ・ル・クルーゼに他ならない。
そして、その時の「キラ・ヤマト」はレイとクルーゼが同じではない、とはっきりと断言した。
その言葉は、レイが極めて皮肉なことに自分の真実の素性を何一つ知らないキラ・ヤマトから誰だ?と問われたことに対して「俺はラウ・ル・クルーゼだ」と言ったことから、キラ・ヤマトがレイの言葉の表面のみを捉えて、レイがクルーゼと同じ人格なのだと誤信している、と誤信したため、「クルーゼのクローンであっても、人格はクルーゼではない」との趣旨であると善意的には推測することができる。
だが度重なる戦争により疲弊した世界が徐々に滅びの道を歩み始めている中、手段に小さからぬ問題を抱えてはいるものの、世界の存続を目的としたデスティニープランを掲げるデュランダルの側にレイがついたということは、レイの人格は世界の破滅と滅亡を願ったクルーゼとはまったく真逆のものであることを明確に示しており、それをレイもわかっているからこそ、キラ・ヤマトの言った言葉の真意を深読みしようとしてしまった。
つまり客観的には大きく的外れであったのである。
それ故に理解できないことを理解しようとしてしまった彼の集中力は大きく削がれ、それにより生じた隙はストライクフリーダムによるフルバースト攻撃をまともに喰らってしまうことになった。
さらに小さい爆発を起したコックピットでは幾つかの破片がレイの体に深く突き刺さっており、レイの意識は薄らぎつつあった。
新西暦の世界に転移したことも認識しえず、宇宙に漂いながら、母星たる地球の重力に引かれて落下をしながら、薄れゆく意識の中でレイは自分の命が尽きていくことを理解していた。心残りは自分を保護し、慈しんでくれたギルバート・デュランダルと、自分には見ることも守ることもできない未来を託した戦友シン・アスカがどうなったかということ、そして自らを生み出す元凶となったスーパーコーディネーターキラ・ヤマトを倒せなかったことであった。

 

「ギル…ごめん…な…さい…俺はキラ・ヤマトを…」

 

心に念じた強い想いだけが最後まで残っていた。そして、覇王の言葉を援用するのであれば、想いなどがあっても、それだけでは何らの意味も価値すらも持たないことになる。
だが、このときのレイの強い想いはある1つの存在を呼び寄せた。それと同時にレジェンドの機体は淡い光に包まれて地球へ落下するスピードを緩やかなものとしている。
セプタギンの破片に混ざって落下するレジェンドに気付く者は誰一人なく、それが光に包まれていたとしても何かの爆発の光として気にも留められなかったであろう。

 

「心に残った強い想い…私と同じで作られた命…でもどうしてこうも強い自分があるんですの…?」

 

かつての存在により、ある人物のデータに基づき作り出された少女には自分がなかった。
あるのは造物主により与えられたオリジネイターに似せた喋り口と容姿のみ。そこに彼女の自分、つまり人格はない。
彼女が庇護しようとする存在の安否、そして諸々の情報の収集のために、いち早くこちらの世界へと来ていた彼女はその途中で強い想い、思念を感じ取っていた。
その思念は静寂たるべき宇宙の中において確固たる強さを持っていた。そして、その思念を感じ取った彼女はその思念の主に大いなる興味を抱く。
彼女と同じで、同一の存在であるオリジネイターを持つものの、空白の自分しか持たない彼女と異なり、その思念の主は別異の自分を持っている。
そしてその命は宿命により今まさに消えようとしている。

 

「……あなたは私と同じ…でもあなたは私とは違う…あなたのこの先…見てみたくなりましたの…新しい命と新しい力…サービスしときますですの…」

 

そう言って彼女は自分の機体の力を使って、命の火が消える寸前のレイを再生させ、新たな命と力を与えることを決意した。
それは自分を持たぬ彼女が持った純粋な好奇心によるものでしかなく、
彼女の主の知るところでは全くない。
だが、レイを再生させた彼女は日本に降り立ったヒリュウ改を追って地球に降り立つと、とある山中に彼を置いて再び自らの任務に戻っていった。
そして意識を取り戻したレイが保護されたのはその直後のことであった。
しかし、転移と再生を連続して行なったことの影響であろうか、発見された当時レイは皮肉なことに自身の記憶を失っていたのであった。

つづく

次回予告
シャドウミラーとの戦いを経て、日本へ戻るか、アビアノへ行くかシンは迷っていた。そんな中で彼が下した結論とその理由は一体なんだったのか。
一方、リクセント公国へ駐屯すべく準備を整えていたユウキはカーラにシン・アスカのことを話していた。だが、その場に居合わせたのはカーラだけでなく、つい先日に憎しみあいながら命を削りあった
アスラン・ザラであった。シンを介して繋がる反目と意地は、キラ・ヤマトの仇を討とうと強く願うアスランが取った行動とは…
次回スーパーロボット大戦オリジナルジェネレーションズデスティニー
「絆と正義と…」
を期待せずにお待ち下さい。