第32話『その名はレイ・ザ・バレル』
「また来たわね!あんまししつこいと、あちこち手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせるわよっ!」
突然頭の中に響いてきた声に導かれてきたこの場所で既にアインストと交戦を開始し、骨型アインストのクノッヘン、植物型のアインストのグリートを殲滅し終え、超機人の遺跡でシン達が初めて遭遇した鎧型の新たなアインスト、ゲミュートとの戦闘を始めていたエクセレンの怒号が戦場に響き渡る。
だが怒声が向けられたのは、彼女が想像していたものとは異なった。
海中から飛び出してきた、黒い装飾線の入った真紅の外装で身を包み、頭部にドリルの如く天を衝く2本の角を生やした伝説上の生物「鬼」を思わせる面をつけた、オリジナルのペルゼイン・リヒカイトとは異なる姿を選んだ、「アカオニ」との呼称で呼ばれているペルゼイン・リヒカイトであった。
「俺、参上!」
地面に着地すると、ペルゼイン・リヒカイトに乗ったこの男レイ・ザ・バレルは、右腕に持った真っ赤な柄と鍔を備えた大剣を肩に掛け、左手を真っ直ぐ正面に伸ばすというお約束の登場ポーズを自分の乗機にとらせて決め台詞を叫んだ。
そして辺りをざっと見回して、一般人にもそれなりに有名なヴァイスリッターと、正体不明な鎧の形をした物体が戦闘をしているのを確認する。
「おいおい、そこの姉ちゃん。いきなり随分とハードじゃねえか。悪いがそんな激しいお仕置きは御免だぁ。その代わりといっちゃなんだが…」
レイが喋っているところに1体のアインストゲミュートが突っ込んでくるが、飛び上がってペルゼイン・リヒカイトに掴みかかる前に、ペルゼイン・リヒカイトは右肩に担いでいた大剣ペルゼインスォードを、太陽光を反射して眩しく輝がせるのとほぼ同時に振り下ろして、アインストゲミュートを左右真っ二つに斬り捨てた。
「ここはいっちょ手ぇ貸してやるぜ?」
そして再び大剣を担ぎ上げた赤鬼が少しだけヴァイスリッターの方を向き、握った左腕の親指をピンと突き立てる。
「あらん、誰かと思ったら最近巷で有名な赤鬼ちゃんじゃなぁい。お姉さんったらドキドキしてきちゃったわん」
「悪いがサインなら後で頼むぜ。今日は呼び出しを喰らったから来ただけなんでな」
「呼び出し?下駄箱にラブレターでも入ってたのかしら?」
「まぁ呼び出しっつっても人の夢の中に出てきやがっただけだが、頭痛の置き土産まで残していきやがったんで来ちまったんだよ」
「ちょ、ちょい待った!それってもしかしてボソボソと喋ってる女の子みたいな声してなかった!?」
レイの言葉を聞いて、それまで冗談混じりでいつもの調子で喋っていたエクセレンの表情が一気に強張り、笑顔が消えた。
少女の声が頭の中に響いてくる、というのは自分やキョウスケがアインストの指揮官と思しきアルフィミィという名前の少女がエクセレンらに語りかけてくるときの状況とそっくりであり、このアカオニを操縦する男が自分やキョウスケとも関係があるのかどうか、アインストとの関係も疑われている正体不明のアンノウンであった『アカオニ』は一体どのような関係をアインストと持っているのかについての推測が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していく。
「おお、よく知ってんじゃねえか。たいてい訳わかんねえことばっか言ってるから夢か幻聴かもしれんのかと思ってたが違うのか?」
「あの声が何なのかわかんないのは私も同じよ。その声に呼ばれてここに来たこともね。でも私達に何か用か興味があるのは確かでしょうね」
「じゃああいつらを片つければ出てくるかもしれないってことか?」
「ええ、私の予想があってれば、だけどね」
「面白れえ!その話、乗ったぜ!」
レイは勢い付けに開いた左手に右のこぶしを軽く叩きつけると、気合に満ちた両目で正体不明の怪物たちを睨みつける。
そして今度はズカズカと他のアインストゲミュートのいる方向へ歩いていきながら既に恒例となった口上を語り出した。
「人の頭の中で『時が来た』だの『目覚めろ』だの騒ぎやがるから来てみれば、正体不明の鎧の化け物やらここに来る途中でぶっ潰してきたホネホネ野郎に雑草野郎がウジャウジャいやがる。
おい、聞こえてるんだろ、いつもの嬢ちゃん!俺に前座はいらねえ、最初からクライマックスだ!わかったらさっさと出てきやがれ!!っつーわけで、行くぜ、行くぜ、行くぜええぇぇっ!!」
「あらあら、若いわねぇ。でもお姉さんを放っておくのは関心しないわよん」
大剣を振りかざしてアインストゲミュートに正面から突っ込んでいくペルゼイン・リヒカイトの後姿を眺めながら、オクスタン・ランチャーを構えたヴァイスリッターはその照準をペルゼインの先にいる残り2体の鎧に合わせた。
エクセレンが引鉄を引くと、銃口から放たれたビームが地面を抉り飛ばしながらアインストゲミュートへ向かっていく。
対するアインストゲミュートは左方向へ移動して攻撃を回避しようとするが、迫り来るビームはゲミュートの付近でまるで鞭がしなるかのように曲がって軌道を変えてゲミュートに襲いかかった。
不意に真横からそのボディを切り裂くように過ぎていったビームはゲミュートのボディを焼き尽くすと、残った部分は力なく砂のような物体となって崩れ落ちていく。
さらに横へ曲がっていったビームはその近くにいた別のアインストゲミュートの脚部を焼き尽くすと支えを失った腰から上が地面に倒れ込んだ。
そしてそこへ大地を走り抜けていくペルゼイン・リヒカイトが迫っていく。
「うおりゃあっ!」
アインストゲミュートが体をばらしてペルゼイン・リヒカイトに攻撃を仕掛ける前に、既に斬撃の届く距離を詰めていたペルゼイン・リヒカイトは、ゲミュートの頭上から大剣を振り下ろして肩口から胴体を斜めに一気に切り裂いた。
そして唯一残った頭部を真上から踏み潰すと、最後に残った1体に向けてペルゼイン・リヒカイトは突撃していく。
その残ったアインストゲミュートは突っ込んでくるペルゼイン・リヒカイトを確認すると、その体を頭、胴体、両手、両足に分離させてペルゼイン・リヒカイトの周囲への散開を開始した。
胴体が急浮上して振り抜かれたペルゼイン・リヒカイトの大剣は虚しく空を斬る。そしてそこに出来た隙を狙ってバラバラになった左右の両腕がペルゼイン・リヒカイトの顔面を殴りつけ、中にいるレイにも衝撃が伝わりその顔を歪ませた。
さらに続けて両足が左右からペルゼイン・リヒカイトを打ち付けて、残った胴体が猛スピードでペルゼイン・リヒカイトにブチかましをかけた。
さすがのペルゼイン・リヒカイトであってもこの連続攻撃はこたえたらしく、大剣を地面に突き刺してもたれかかるように少しよろけながら立ち上がる。
「ぐおっ!やってくれるじゃねえか、この…」
残ったゲミュートの頭部がペルゼイン・リヒカイトに向かってくると、立ち上がったペルゼイン・リヒカイトは胸を張って頭を後ろに引く。
「野郎があぁぁ!!」
そして向かってきたゲミュートの頭部に渾身の力を込めて頭突きを喰らわせた。その衝撃で正面が陥没した頭部は砕け散った破片を砂へと変えながら崩壊を始めるが、残った胴体と両手足は力を失うことなく斬撃の届かない距離を保ちつつ浮遊しており、むしろ言葉なくペルゼイン・リヒカイトに殺気を向け続けていた。
それを見たレイは深く息を吸い、全身へと新鮮な酸素を供給し精神を集中させる。
戦いの中で自分が熱くなればなるほど、無意識のうちに冷静に状況を分析しようとしている自分がいることにレイは徐々に気付き始めていた。
言うなればもう1人の自分。その存在感は戦いの経験を積めば積むほど大きなものとなって来ている。そんな自分がどうすればいいのかを教えてくれる、レイはそんな感覚を味わっていた。
ペルゼイン・リヒカイトが静かに体の正面に大剣を構えると、自身の持つエネルギーを腹部桃型のバックル、頭部の2本の角から刃こぼれ1つなく銀色に輝く大剣の刀身に収束させていく。
「行くぞ、ひそかに温めていた…俺の必殺技パート5!…でりゃあっ!!!」
刀身に集まって来たエネルギーはメタリックレッドの輝きを放ちながら激しく迸り、ペルゼイン・リヒカイトが右から横一文字に大剣を振り抜くと、刀身から放たれた真紅の斬撃は右から左へと、浮遊するアインストゲミュートの両足を薙ぎ払いながら切り裂く。
続いて左から右へと大剣が振り抜かれると、その動きに呼応して真紅の斬撃は左から右へゲミュートの両手を薙ぎ払い、こぼれゆく砂へと変えた。
そしてペルゼイン・リヒカイトが天高く掲げた大剣を真っ直ぐ振り下ろすと、それをトレースしたメタリックレッドに輝く斬撃は、残っていたアインストゲミュートのボディを一刀両断して左右に分断されたボディは爆散して姿を消した。
「ふう、これで鎧はおしまいかしらね」
「エクセレン、無事か!?」
ヴァイスリッターの通信機から聞こえてきたキョウスケの声にエクセレンが辺りを見回すと、遠くからこちらへ向かってくるアルトアイゼン、サイバスター、アンジュルグそしてビルトビルガーの姿が目に入る。
「あらら、みなさん遅い到着で」
「人が心配して追いかけてきたってのに……何だ、その言い草は!?」
「あ、あはは、だってもうあそこの赤鬼さんがみんなやっつけちゃったんだもん。みんな、おゲンコ?」
「ステークなら好きなだけくれてやるぞ」
「ん~、ステークはベッドの上だけにして、ね」
「ったく、勝手に飛び出した上にこんな所でドンパチやってるなんて……何考えてんだよ?」
「……説得力ニャいわね」
「だニャ。どっちかって言うとそういうの、マサキの専売特許だもんニャ」
「っていうかそんなこと言ってる場合じゃないだろ!?だって…!」
エクセレンの、周りの人間を巻き込んだコントが本格化する前にシンがその流れを止めた。
もちろんそれはシンにとって極めて重大なことがまだはっきりとしていないため、つまり…
「そうだ、『アカオニ』には聞かなければならないことがある」
そう言って、キョウスケは視線を「アカオニ」と呼ばれる連邦軍にとっては謎の機体へと向け、外部スピーカーのスイッチを入れた。
「俺は連邦軍ヒリュウ改所属ATXチームのキョウスケ・ナンブだ。『アカオニ』、聞こえるか?」
「ああ、聞こえるぜ。俺に何か用か?」
「…」
あっさりと帰ってきた返答にキョウスケも一瞬言葉を失ってしまった。
「お前の目的は何だ?そしてお前は何者だ?どうしてそんな機体に乗って戦いに参加していた?」
「ああん!?いっぺんに色々聞くんじゃねえよ、偉そうに」
「…そうか、ならまず目的を教えてくれ」
「俺を呼んでるガキの声があったから、そいつに会いにきた。そんだけだ」
「ではお前は何者だ?所属と官、姓名を名乗れ」
「お断りだね。何でもかんでも答えると思ったら大間違いだぜ?そうだ、アレだ。黙秘って奴だ」
「ならこちらが教えてやろうか…お前は…くっ!」
「こ、この頭痛は…!」
キョウスケが正体を言い当てる前に、エクセレン、レイ、キョウスケに頭痛が走り、何かの悪寒が体を駆け巡った。
そして今まで誰も何もなかったところが一瞬輝くとともに、その光の中から20メートルを超える物体が姿を現す。だが、その姿はそこにいた誰しもが予想しえなかったものであった。
「!?」
「おいおい、また来たのかよ!?冗談じゃねえぞ!」
「新型のアインスト…でもあれは!?」
「お、おい! ありゃ何の冗談だ!?」
「ま、まさか…何でだよ!?」
「アルト……アイゼン……!」
(正解ですの)
「!」
姿を現したのは頭部の角に右腕にステーク、左腕にマシンキャノンを搭載しながらも、他のアインストと同様に生物のように動く物体であった。
言うまでもなく、その姿は見る者をしてゲシュペンストMK-Ⅲの名で開発が進められて誕生したアルトアイゼンを連想させていた。
言葉が出なかったキョウスケに続いてレイ、ラミア、マサキ、シンが驚きの声を上げ、最後にゆっくりと答えを口にしたエクセレンの頭の中に聞き覚えのある声が響いてくる。
そしてシン達の前の空間がわずかに歪み、姿を現したのは当然ながら鬼の面を左右の肩付近に漂わせ、赤と白の空洞の体に、細い刀身の長剣を持つアインストの指揮官機であるオリジナルのペルゼイン・リヒカイトであった。
「やっぱり……あなたね」
「……」
「何のつもりなの!? アルトアイゼンの偽物を作り出すなんて、どういう魂胆なの!?…え!?…はあ!?」
「エクセレン少尉!なにを言ってるんですか!?」
「え?シン君、あの子の声が聞こえなかったの!?」
「あの子!?少尉の独り言は聞こえてきましたけど、そんなの知りませんよ!」
シンにはエクセレンが1人で何かの受け答えをしているようにしか見えず、エクセレンやキョウスケ、レイには聞こえているアルフィミィの声が聞こえない。
ビルガーの近くに待機しているラミアは、前回記録できたアインスト・アルフィミィの音声が今回は聞き取れず、何かの機密通信の類を疑っているし、
マサキはエクセレンの言動が奇妙だと思いつつも、他の者がアルフィミィに意識を向けている中で1人、先ほど出現したアルトアイゼンそっくりのアインストであるアインストアイゼンの動きを警戒していた。
そしてアルフィミィとキョウスケ、エクセレンの会話が聞こえてくるレイは自分に話が及ぶのを今か今かと待っていた。
「もうっ! わけわかんないことばっか言わない!あなたと私、そしてキョウスケ……どういう関係だか知らないけど…あなたが倒さなければならない敵なら、容赦はしないわよ!」
「落ち着け、エクセレン!」
「キョウスケ!でも…」
「キョウスケ…ようやくまた会えましたの…」
「……!」
「あいつ、喋りやがったぞ!?」
「ああ!あの中に誰か乗ってることは間違いない!俺も超機人の遺跡で戦ったからな!」
「マジかよ!?」
「言ってることは半分意味不明だったが、はっきりと超機人を狙ってたから他のアインストと違ってそれなりに何かを考えてるはずだ!」
「しかも」
エクセレン、キョウスケ、そしてアルフィミィが話を続ける一方でオリジナルのペルゼイン・リヒカイトとは初遭遇のマサキは驚きの声を上げていた。
マサキの問いに答えたペルゼイン・リヒカイトを睨みつけているシンは相変わらず狙いのわからぬ相手に徐々に苛立ちを隠せなくなってきていた。
ラミアはとにかく冷静にデータを可能な限り集めて自分なりの状況分析を必死に行っている。
そしてアルフィミィの声は聞こえるのに1人蚊帳の外に置かれた状態になっていたレイは自分について話が及ぶのを静かに待っていた。
レイはまだ静かに待っていた。我慢して静かに待っていた。辛うじて我慢して待っていた。
本当であればすぐにでも口を挟みたいところだが、ここでムキになっても相手が自分の問いに答えるとは限らない、ともう1人の自分が判断したような気がしていたからである。
「キョウスケ……あなたはいったい何者なんですの?」
「それはこっちの台詞だ。何故、お前は龍虎王を狙った? あのアルトの偽物は何だ?」
「いいえ、偽物とは違いますの……。もっと異なる物…あなたのことが知りたくて……作ってみましたの…でも……殻だけでは……」
「殻……だと?」
「もっと……あなたのこと知りたいですの……。あなたが何なのか……」
「それはどういう意味だ?」
「私を乱す……それがあなた」
「何が言いたい?」
「あなた、何で私やキョウスケに拘るのよ?」
「……キョウスケ……一緒に来るですの……」
「え!?」
「一緒に……私と……」
「どこへだ?」
「新しい宇宙……。始まりの地を……捨てるために……」
「!?」
「……何を言っているのかわからんな。おれがお前の思う通りに動くと思っているのか?」
「はい……。動いてもらいますの……」
アルフィミィがそういうと、仏頂面でアルフィミィとオリジナルのペルゼイン・リヒカイトを睨みつけつつもまだ静かな口調で喋っていたキョウスケに異変が生じた。
「何!? ぐうっ、頭が!」
「あ……ああ、これは……!?あ……あの子は……!?」
「く!き、機体が……動かん!」
「さあ、キョウスケ……」
「く……うっ……!」
「おいキョウスケ、どうした!?」
「キョウスケ中尉!エクセレン少尉!どうしたんですか!!」
頭の中に走ったノイズによって生じているとおぼしき苦痛に見舞われるキョウスケとエクセレンにペルゼイン・リヒカイトが徐々に近付いていく。
状況を確認しつつ、特殊な波長などを計測していたラミアは謎の波長を拾っただけでなく、それにより通信妨害までもが生じておりマサキやシンの声が伝わっていないのだと知った。
ペルゼイン・リヒカイトが近付いていくにもかかわらず未だにアルトアイゼンとヴァイスリッターは動こうとせず、ペルゼイン・リヒカイトの腕がアルトアイゼンに伸びていく。
そしてその手がアルトアイゼンに触れようとした、その時であった。
「てめえら、いい加減、俺を無視してんじゃねえ!!」
待たされる我慢の限界を超えたレイのペルゼイン・リヒカイトが、アルフィミィのペルゼイン・リヒカイトへと飛びかかり、その背中に思いっきり飛び蹴りを喰らわせた。
意識のほとんどをキョウスケ・エクセレンに向けていたため、両肩の鬼面も反応せず、背後から不意を完全に突かれた形となったアルフィミィのペルゼイン・リヒカイトは顔面から地面に激突して倒れ込む。
「おい、嬢ちゃん!俺をここに呼んだ理由をさっさと説明しやがれ!」
「…邪魔をしないで欲しいですの!」
「ちぃっ!」
いきなりの攻撃にやや面食らい、半ば呆然としていたアルフィミィであったがすぐに戦意を回復させ、レイのペルゼイン・リヒカイトを睨みつける。
そしてゆっくりとオリジナルのペルゼイン・リヒカイトが立ち上がると、携えている刀のような細身の剣を素早く振り下ろした。
レイのペルゼインとは異なり、振り下ろされた剣先からは青白い透明感のある細身の斬撃が飛び出して行き、レイのペルゼイン・リヒカイトへと迫っていく。
レイはそれを大剣の刀身を盾代わりにして受け止めるが、足が踏ん張りきれずにペルゼイン・リヒカイトは転等してしまった。
「キョウスケ……さあ、私と……」
「ぐっ!!」
「!拒絶した……!?」
「……」
「何故……ですの?」
「お前の思うようには……動かんと言ったはずだ……!」
「どうしてですの……? あなたの身体は……私達の……」
「わけのわからないことを……!」
「キョウスケ中尉!大丈夫ですか!?」
まだ頭に残る鈍い痛みから、掌を頭にあてるキョウスケのアルトアイゼンのもとへビルガーが駆けつけた。
続けて素早くアルトアイゼンの両脇を抱えて持ち上げると、アルフィミィのペルゼイン・リヒカイトからアルトアイゼンを引き離す。
「す、すまんシン…何とかな」
「とにかく、あの赤い奴を倒すぞ!みんな、奴に攻撃を集中させろ!」
「マサキ!あいつも時間をかけると再生する、やるなら一気に畳み掛けるしかない!」
「わかったぜ!おい、そこの赤鬼、またちょっと手ぇ貸せ!」
「てめえに言われなくても貸してやらぁ!よくもあのガキ、泣かしてやるぜ!」
まず動いたのは、データを収集したいところであったがこの場はやむを得ないと判断したラミアのアンジュルグであった。
相手の足を止めるべく腕を突き出したアンジュルグは、エメラルドグリーンに輝く4条のエネルギーの矢、シャドウランサーをオリジナルのペルゼイン・リヒカイトに向けて放つ。
「キョウ……スケ……何故……ですの? 私は……あなたのことを……」
そう言って刀を手にしたオリジナルのペルゼイン・リヒカイトは両肩付近を音もなく漂う2つの巨大な鬼面を機体前面に広げてシャドウランサーを弾き飛ばす。
そして刀を両手で構えたオリジナルのペルゼイン・リヒカイトは、自分の最も近くにいたサイバスターに斬りかかって行った。
振り下ろされた刀はサイバスターの繰り出したディスカッターによって止められてしまうが、漂う鬼面の1つが横からサイバスターを叩きつけて吹き飛ばす。
「気を付けろマサキ!レッドオーガの面は、動きは遅いけど盾にも武器にもなる!」
「そ、それを早く言いがれ!」
今度はコールドメタルソードを構えたシンのビルトビルガー、ミラージュソードを構えたアンジュルグがペルゼイン・リヒカイトへ向けてそれぞれの剣を繰り出した。
アンジュルグの剣を残った鬼面が受け止め、ビルガーの剣をペルゼイン・リヒカイトの刀が受け止めるが、右腕のスタッグビートルクラッシャーはまだ攻撃を終えていない。
殴りつけるべくクラッシャーを突き出したビルガーに対して、ペルゼイン・リヒカイトは足を振り上げてビルガーを蹴り飛ばす。
続けてステークを構えたアルトアイゼンがペルゼイン・リヒカイトとの距離を詰めていき、それを、オクスタンランチャーを実弾発射モードに切り替えたヴァイスリッターが追随しつつ、照準をペルゼイン・リヒカイトに合わせて引鉄を引いた。
なんとか刀で軌道をずらしてその身に突き刺さろうとするステークを凌いだペルゼイン・リヒカイトであったが、鬼面を戻す前に白騎士の槍から突き出された3発の弾丸がボディに直撃して機体を揺らす。
さらにそこへビルトビルガー、アンジュルグ、アルトアイゼンが追撃をかけるべくペルゼイン・リヒカイトに向かっていった。
ここにいるパイロットの中でも特にキョウスケやシン、ラミアはペルゼイン・リヒカイトとじかに戦ったことがあり、この機体の再生能力を知っている。
そのために、短期決戦で一気に戦いを終わらせるべく無意識のうちに突っ込みがちになっていて、それがここでは災いした。
鬼面を戻したオリジナルのペルゼイン・リヒカイトは一瞬だけ動きを止める。そしていつもは閉じられた口が開き、中から鋭い牙が姿を現すとその機体の全体から無数の光の矢を射出する。
「しまった!?」
やや後方にいたヴァイスリッターやサイバスター、レイのペルゼイン・リヒカイトは攻撃をかわすことができたが、かなり距離を詰めていた3機にはいくつもの光の矢が突き刺さっていた。
「キョウスケ!ラミアちゃん!シン君!」
「この…てめえっ!!!」
3機は、頑丈さが取り柄であるが故に致命傷ではなかったが、見た目にもダメージは軽くはない。
そこへ近付いていくオリジナルのペルゼイン・リヒカイトはもっとも近くで倒れているアルトアイゼンを一瞥して、すぐにアルフィミィにとっての邪魔者である他の2機のところへと歩いていく。
ディスカッターを構えてサイバスターがペルゼイン・リヒカイトに斬りかかって行くが、マサキの視線の先にいたのはオリジナルのペルゼイン・リヒカイトだけではなかった。
マサキのサイバスターよりも先にレイのペルゼイン・リヒカイトが大剣を構えてオリジナルのペルゼイン・リヒカイトに突撃していっていたのである。
「お前にシンはやらせん!」
「!?」
アカオニから聞こえてきた聞き覚えのある声、そして覚えのある呼ばれ方に、倒れ込むビルガーのコックピットの中のシンはハッとした。
この世界で記憶をなくしていたレイはシンのことを「小僧」又は「鼻垂れ小僧」と呼んでいた。にもかかわらず今は「シン」と呼んだのである。
それに、そもそも今日、初めて話をしたアカオニの操縦者に自分の名前を名乗ったことなどシンは一度もない。
「…レイ?」
「どこまで邪魔をするつもりですの…!レイ・ザ・バレル!」
「!!!」
レイのペルゼイン・リヒカイトが繰り出した斬撃を鬼面で受け止めたアルフィミィが珍しく強い口調で言った。
彼女の最重要目的はキョウスケとエクセレンを連れて行くことで、今日レイを呼んだのはまだ言ってはいないが、あくまでキョウスケたちの「ついで」であり、中身もレイの腕試しに過ぎない。
気まぐれの観察対象ということを加えても、所詮その程度の価値しか今のレイに対しては見出していないアルフィミィにとっては今のレイは不愉快そのものであった。
だがそのようなことはレイの知ったことではない。
ビルガーがライゴウエを喰らった次の瞬間には体が自然に動いていたし、レイが何かを考えるより先にビルトビルガーのパイロットの名前を呼んでいた。
どうしてそのような行動をしたのかという理由はわからない。気付けば体動き、言葉を発していたというのが正直なところであった。
レイにとっては、これまでは激しく燃え上がる炎と冷たく凍える氷の心の2つがあったところが、後者の氷の心が業火の如く燃え上がったという感覚である。
「おい、そこのカッコいいロボットのパイロット!俺が隙を作ってやるから一気にぶっ潰せ!」
鬼面に押し出され、後方へ大きく弾き飛ばされたペルゼイン・リヒカイトの中でレイがマサキに言った。
「わかったぜ!でも、そんなことてめえにできるのかよ!?」
「ったり前だ!俺のカッコいい必殺技、見せてやるからよく見とけ!」
そう言ってレイはペルゼイン・リヒカイトの体の正面に大剣ペルゼインスォードを構え、2本の角、桃型のバックルを通してその刀身へエネルギーを集中させていく。
レイとペルゼイン・リヒカイトの力が姿を変えたメタリックレッドの輝きが刀身を覆っていき、これまでレイに立ち塞がる敵を倒してきた必殺技の準備が完了する。
「さらにもういっちょ!」
そしてその言葉どおり、再びレイのペルゼイン・リヒカイトから真紅の大剣へとさらなるエネルギーが集まっていき、刃の大きさ、エネルギー、眩さを増したメタリックレッドの輝きが完成した。
だがほぼ正面から戦い合っていたアルフィミィのペルゼイン・リヒカイトもそんな攻撃を黙って見過ごすはずもなく、刀を構えて向かっていきながら、鬼面をレイの元へと飛ばす。
「行くぜ!必殺、俺の必殺技…特別篇!」
大きく振り上げた大剣から上方へ放たれた斬撃は、向かってくるオリジナルのペルゼイン・リヒカイトへ向けて急降下していく。
だが2回のエネルギーチャージがアルフィミィに与えた時間は少なくなかった。アルフィミィのペルゼイン・リヒカイトへ向かっていった斬撃は、レイのペルゼイン・リヒカイトへ向かっていくアルフィミィのペルゼイン・リヒカイトの後ろを通り過ぎ、アルフィミィに内側に潜り込まれてしまう。
そして鬼面はレイのペルゼイン・リヒカイトの両肩に喰らい付いてその動きを止めると、オリジナルペルゼイン・リヒカイトの最強技「マブイエグリ」の体勢を整えたアルフィミィのペルゼイン・リヒカイトがその刀をレイのペルゼイン・リヒカイトに向けて突き出した。
「こんなことになってしまったのは残念ですの…」
「…フッ、特別篇だと言っただろうが!!」
レイが言い終えると、刀がレイを貫く前に地面が大きく揺れ出した。
そして斬撃の内側に潜り込まれて回避されて地面に突き刺さり姿を消した、メタリックレッドに輝く斬撃がアルフィミィのペルゼイン・リヒカイトの足元の地面から突然飛び出してきた
「!?」
咄嗟に刀を横にして直撃こそ避けたものの、その刀を持った腕ごと斬撃は弾き飛ばし、オリジナルのペルゼイン・リヒカイトを空中へと突き上げながら、そのボディを削り取っていく。
そして鬼面から引き離されたアルフィミィのペルゼイン・リヒカイトには既に次の攻撃が放たれていることに、彼女はまだ気付いていなかった。
「アァァァカシックバスタアァァァァァッ!」
「しまっ…!」
ディスカッターを突き刺した魔方陣から召喚した真っ赤に燃える不死鳥と融合して、
魔術と精霊と操者の力が合わさった超エネルギーを纏った蒼炎のフェニックスへ姿を変えたサイバスターがペルゼイン・リヒカイトへと襲いかかる。
先端の蒼い嘴がオリジナルのペルゼイン・リヒカイトに突き刺さり、そこからサイバスターの身に纏った炎が侵入していき、ペルゼイン・リヒカイトを蒼い炎が覆っていく。
「うおりゃあっ!!」
そして一瞬の輝きに続いてペルゼイン・リヒカイトを貫いた蒼炎の不死鳥はサイバスターへと姿を戻し、大きな爆発とともにペルゼイン・リヒカイトは地面に力なく落下した。
「やったか!?」
「…いや、まだ動いてやがる!」
マサキとレイが視線を向けた先では、ボロボロになったオリジナルのペルゼイン・リヒカイトがよろけて刀を支えにして辛うじて立ち上がろうとしていた。
「まさかここまでの力があったとは思いませんでしたの…今日はここまでに致しますの……」
「!」
「それに……今頃は……」
「今頃?どういうことだ?」
レイとマサキがアルフィミィと戦っている間になんとか態勢を整え直したキョウスケが問う。
「キョウスケ……あなたの周りにいる者達を……守護者……もう一つのルーツ……その力を……それらの存在を抹消すれば……あなたは……」
「何……!?」
「そしてレイ…あなたの力…あなたの心…興味が湧いてきましたの…近いうちに……また…必ず…」
そう言ってレイのペルゼイン・リヒカイトを押さえ込んでいた鬼面、残ったアインストアイゼンともどもアルフィミィのペルゼイン・リヒカイトは歪んだ空間の中に姿を消した。
それを見て戦闘の終了を認識したそこにいる者すべてが大きく息を吐いて、自分の生を確認した。
そしてレイのペルゼイン・リヒカイトがいち早く立ち上がると、最初に飛び出してきた海へと歩いていく。
「待てアカオニ、いやレイ・ザ・バレル。悪いが、一緒に来てもらう」
「ちっ、正体バレちまったな…」
「ちょっと待ってください、キョウスケ中尉!俺に少し話をさせてください!」
シンがそこに強引に割り込むと、ビルガーのコックピットを開いてペルゼイン・リヒカイトの足元まで歩いていく。
それに答えようとしたのか、ペルゼイン・リヒカイトが淡いイエローの光に包まれ始め、その光が徐々に小さくなっていき、その光の中からシンがよく見慣れた姿が現れる。
「レイ…」
「久しぶりだな、小僧」
レイの下へとゆっくりと歩いていったシンは、1つ、2つ言葉を発し損ねた後に何かが決壊したかのように喋り出す。
予想をしていなくもなかったが、信じたくなかった、出来れば実現して欲しくなかった現実との直面に、シンの心は大きく揺れ始め、心拍数が高まっていく。
「どうしてお前があんなのに乗ってるんだよ、記憶を失くしてたんじゃなかったのかよ!?」
「記憶はまだ戻ってねえよ。本当だ」
「じゃああのロボットは何なんだよ…!」
「あれはさっきの訳のわかんねえお嬢ちゃんが俺の頭の中で話しかけてきたときに『出せる』ようになったんだ。ほら、ちょうどお前が俺に会いにきたろ?そんで戦闘が始まった後のことだ」
「!」
それはシンが忘れもしない、シンがレイに再会したついでに、2度と会いたくないアスラン・ザラとも会ってしまったときのことである。
「もしかしてあの時、俺を助けてくれたのか…?」
「…まあな。それにスタッフの連中もまだ近くにいたからな…」
少し照れて顔を赤らめ、左上の方へ視線を泳がせながらレイが答え、続けて口を開く。
「それにやっぱり俺はお前を知ってるらしいな。戦ってるとき、お前の動きを見ていてそう思った」
「レイ…」
「いいぜ、三食コーヒー付きで俺に危害を加えないってならお前らと行ってやる」
「え…いいのか?」
「ああ、それにお前らはあのお嬢ちゃんとか化け物どものこと、ちったぁ知ってるんだろ?」
「こちらとしても話せることと、そうでないことはあるがそれでもいいか?」
1人で話を進める結果となってしまっていたシンに代わって、そこにいる一番階級が上であるキョウスケが口を挟んだ。
「気に喰わなかったら勝手に出て行くだけだ。別にかまわねえよ」
「わかった。では…」
「キョウスケ中尉、大変でござんす」
レイを乗せていくべく、キョウスケがアルトアイゼンの腕を差し出したところに、ラミアがいつもの口調で報告を開始する。
聞いた者をとても驚かせた報告を。
「伊豆基地がアインストの大軍に襲われているそうでございますです」
―つづく―
【次回予告】
レイ 「ついに姿を現したアインストの中ボス・アインストレジセイアを、
R-GUNと力をあわせたSRXが撃退したのも束の間、
今度はシロガネに乗ったシャドウミラーが攻め込んできやがった。
そして心動いたラミアの繰り糸がとうとう断ち切られる。次回『捕獲』!」
シン 「いや全然予告になってないだろ!?」
レイ 「あんまり予告でネタバレしすぎてもアレだろ?」
シン 「つかレジセイアとかはどうしたんだよ!?」
レイ 「招かれざる異邦人は主役不在のためオミットされました」
シン 「ちょwww」
レイ 「気にするな、俺は気にしてない」
シン 「少しは気にしろよw」
レイ 「それにここでSRXに出てこられてみろ、どうなることか」
シン 「どうなるんだよ?」
レイ 「お前の影がますます薄くなる」
シン 「たまにはオミットもいいよね、答えは聞かないけどorz」