ディバインSEED DESTINY
第三十六話 ミノフスキー・ショック
ごぼり、という鈍い音と共に陽光が届かず暗黒に沈む深海の中に、いくつもの気泡がふわふわと頼りなく昇ってゆく。
ごぼり、ごぼり、と目にはっきりとは映りにくい海流を掻きわけて、どこか禍々しい紫色に染まった巨大な水晶が、どこへ行くとも知れず、本来の住人である深海魚達を驚かせながら進んでいる。
悪夢が水晶という形を選んでこの世にあらわれた様な、どこかこの世のものとは思えぬ不可思議な、その六百メートルを超す巨大な物体は、ディバイン・クルセイダーズが作り出した巨大な水晶船セプタ級の一隻である。
巨大な紫水晶の塊の上と中に各種施設や艦橋、格納庫を設けた原始的な外見の船だが、今は海中を航行する為に全方向を、ズフィルード・クリスタル製の装甲材によって覆い尽くし、甲羅に閉じこもった亀の様だ。
セプタは、ズフィルード・クリスタルが有する自己修復機能、自己進化機能によって高い自己修復と既存兵器に対する高い耐性を持ち、防御場なしでも極めて高い耐久性を持った船である。
上位艦種であるセプタンを本国に戻し、地球連合が差し向けた三輪艦隊への攻撃の為に、四隻のセプタ級が、キラーホエールⅡ級原子力攻撃潜水母艦、ザフトのボズゴロフ級潜水艦を戦へ続く道行の共として、静寂に沈む海の腕の中へと船体を預けている。
キラーホエールⅡ級は、前大戦時、新西暦世界で使用したキラーホエールの名前だけ拝借していたDC製の潜水艦を、前大戦後半部より海洋戦力の充実が求められていた事もあって、本格的に再設計されたものである。
実際に海の中を泳ぐ鯨を連想する流線型の船体に、ヒレを思わせるウィングと確かに名前の通りの外見をした潜水艦で、最大で六機の標準的なサイズの20m級機動兵器を搭載可能で、船速もボズゴロフ級を上回る。
キラーホエールⅡ級、ボズゴロフ級以外にもセプタ四隻それぞれの甲板の上に、ザフトのミネルバ、DCのストーク級空中戦艦三隻が固定され、ズフィルード・クリスタルの天蓋によって膨大な水と水圧から守られている。
ズフィルード・クリスタルの一般的な軍事・技術常識を打ち破る特性によって、艦が艦を乗せて水中で運ぶという非常識な運用が可能となったわけだ。
トダカ艦隊からキラーホエールⅡとストーク級を預かったクライ・ウルブズと、カーペンタリア基地から派遣された部隊の中では、最も技量・戦力的に優れたザフトインパルスとミネルバを保有するグラディス隊が同行している。
大洋州連合からの出向組であったマリナ・カーソンとタック・ケプフォードと量産型ガンアーク部隊は、水上艦隊と共にトダカ艦隊と合流しており、ネオ・ロアノーク大佐含む三輪艦隊の先行部隊と交戦を始めていた。
クライ・ウルブズ艦隊の司令を務めるエペソ・ジュデッカ・ゴッツォ大佐は、セプタ級の内の一隻の、艦橋に設けられたオブザーバーシートに腰かけて、時折挙げられる報告に耳を傾けているきりであった。
腰まで伸びるエメラルドを思わせる美しい髪と、端正と例えても何ら問題の無い整えられた顔、指先に至るまで人の手が入り調整された肢体は、武人として、軍人として過不足なく鍛えられている。
その心根にバルマー人としての誇りとゼ・バルマリィ帝国への忠節を抱くエペソの態度は、常に地球人達に対して他人事のように振舞っている、という印象を与える。
指揮官としての有能さは隊員たち全員に認められてはいるものの、昨日今日知り合ったばかりのセプタ級の本来のブリッジクルーや艦長達は、なんら緊張の様子も、不安げな色も浮かべないエペソを、不審げに見ている。
ハザル総司令やシヴァー・ゴッツォ宰相などの帝国上層部の人間を除けば、他人の思惑など欠片も思慮の内に入れないエペソは、手元のコンソールを操作して預けられた戦力の再確認に余念がない。
ステラやアウルらをはじめとした隊員用の補充機体に対し、十分な慣熟訓練を行う余裕が持てず、シミュレーターでの短時間の訓練が精一杯だ。
睡眠学習システムの導入によって、無意識下に各種機動兵器の操作法と適正をほとんどのDC軍人が有しているが、それでも実機に触れる時間は最大限確保しておきたかった。
これはアルベロやデンゼル、ジニンら機動兵器部隊の隊長陣も同じ事を考えており、フォーメーションや小隊単位の再編成に時間を割いている。
いままでどんな苦境も乗り越えてきた屈強な部下達ではあるが、つねに結果を残せるとは限らないのが現実だ。叶う限りの手を打っておくことが必要だろう。
特に考慮しなければならないのは、タスクのジガンスクードの修理が間に合わなかった事である。
スペースノア級並の出力を誇る防御場展開機能を有し、特機級でも最硬の装甲を持つジガンスクードが戦列に並んでいないために、防御に関して極めて強力な手札が欠けている状況だ。
ジガンスクードは防御以外にも高出力の砲撃武装であるギガ・ワイドブラスターをはじめ、超重量を活かした格闘戦もこなす高い戦闘能力を持つ機体だ。グルンガスト飛鳥大破以降、クライ・ウルブズ唯一の特機でもある。
頼もしき盾であるジガンスクードの不在は、ウルブズ全員の胸に大なり小なり不安の種を植え付けているだろう。
DCの新兵器モビルモンスター(MM)シリーズのメカゴジラ三機がこちらの手元にあるとはいえ、連合艦隊の中枢に殴り込みをかけるわけだから、腹の括り方にも気合を入れなければなるまい。
飛鳥シルエットを装備したインパルスの最大最強斬撃“星薙ぎの太刀”をうまく使えば、一撃で相当数の被害を与える事が出来るだろうが、あれは事前にクリアしなければならない使用条件が厳しいものだ。
機体をスーパーモードに移行させ、エネルギー化したマシンセル刀身の展開を待ち、超長刀身を振るうまでに数分の時間を要するし、また事前に膨大なエネルギーが発生する為、容易に察知される。
ユニウスセブンの時の様などさくさと喧騒と混乱に紛れるような状況か、こちらが待ち受ける側の時でもないと、そうそう使用できない武装だ。
となればクロスボーンシルエットの様な全距離に対応できる万能兵装か、射撃兵装満載のヘビーアームズシルエットや、ランチャーシルエットなどを使わせるべきか。
また飛鳥インパルスは、星薙ぎの太刀を別にしてももっともシン・アスカの戦闘能力が最大に発揮される形態だ。斬艦刀なら連合のMAを相手にしても、陽電子リフレクターごと真っ二つに出来るのは間違いない。
エペソの判断がどのように下されるのか。判断に迷う時間は、もうほとんど残されてはいなかった。
* * *
三輪艦隊先行部隊とトダカ艦隊との戦闘は激化の様相を呈していた。エルアインス、アヘッドからなる高性能MS部隊を相手に、ネオ・ロアノーク、カオス、ガイア、アビスを含む三輪艦隊の機動部隊との戦力差は互角に近い。
ゲルズゲーやザムザザーといったMA部隊が艦隊本隊に残る三輪艦隊の機動部隊は、ザフト・DC・大洋州連合の混成部隊を相手に数の上では互角、質ではわずかに劣りつつも奮戦している。
旧式のディンさえも投入し、航空戦力を整えたザフトはもともと義勇軍であり階級の存在しない軍隊とあって、明確な階級社会であるDC、大洋州とは連携が取りにくく両軍からは別の指揮系統を置かれている。
無理に指揮系統を統合したところで百害あって一利なしと判断されたためである。
ナチュラルよりも高い知性と判断力を有すると一般的に言われるコーディネイター達は、個々の能力を重視し、連携を疎かにしがちである、というのが前大戦で露呈した弱点だ。
しかし現実の戦いに置いてMS同士の連携戦術を構築し、実行した地球連合を相手に敗北を重ね、苦戦を強いられた経緯から、現在のアカデミーやベテラン達は個々の判断にゆだねる従来の戦い方を払拭している。
とはいえ組織の末端や個々の意識にまでそれが徹底しているというわけではなく、そのような状況で他国の軍勢と足並みをそろえられる訳もなく、ザフトはザフトで好きにやりなさい、と言われてしまうのも無理は無かった。
前大戦時の戦闘で、ザフトと足並みを揃える事に苦労するよりも好きにやらせて放置する方が、こちらが動きやすいとDC上層部が判断したためだ。
二機でペアを組み、一機を囮にした僚機が敵機を撃墜する方法をとる地球連合のジェットウィンダムとザクウォーリアや、ガーリオン、量産型ガンアークの戦いは、四勢力入り乱れる混戦となって青い空を爆炎混じりのまだら模様に変えている。
すでに第二波を投入し、損耗した第一波の穴を埋めるべく、双方の艦隊から数多の機動兵器が出撃していた。正面からの殴り合いによる戦力の削り合いは、多大な出血を伴いながら、いまだに終わる様子を見せずにいた。
「やはりそう簡単にやられてはくれんか」
「敵機にセカンドステージ三機を確認しています。ザフトから奪われた機体が我らを苦しめるとは」
「それを言い出したら始まらんよ。我々のM1とて連合のストライクをはじめとしたGAT-Xシリーズのデータを盗む形で開発したMSだ。もっとも、いまではM1の影はどこにもないがな」
戦況が投影されたディスプレイに目をやりながら、言葉を交わしあうのは艦隊司令トダカ大佐とアマギ大尉の両名だ。
旗艦である空母タケミカズチ艦橋で、飛び立っていった第二波のエルアインス部隊が戦域に到達し砲火を交え始めたという報告を受けた所である。
戦況はアマギが口にしたようにオルガたちブーステッドマンが乗るセカンドステージの三機が大きな活躍を見せ、こちらの機体を寄せ付けない戦闘能力を発揮している。
大洋州連合の先行型ガンアーク(マリナとタックの機体だ)が率いるガンアーク部隊をぶつけつつ、海面下ではDCのフォビドゥンホデリと連合のフォビドゥンヴォーテクス、ザフトのゾノ・アッシュ部隊の交戦も激下の一途をたどっている。
連合側にアビスという水中戦のエース機体がいるのに対し、こちら側にアビスに対抗できる技量をもったパイロットが不在である事が、海面下の死闘に出血を強いていた。
「クライ・ウルブズの方はどうだ?」
「すでに連合艦隊まで距離20000まで詰めています。作戦予定ではフェイズ3に移行する頃合いかと」
「そうか。ではこちらも動かさなければなるまい。各部隊にミノフスキー粒子散布下での戦闘パターンへの移行を通達。300秒後にミノフスキー粒子は第二戦闘濃度で最大散布。
ミノフスキー粒子で敵部隊を撹乱した隙を突いて、VF部隊とクライ・ウルブズが同時に敵艦隊に仕掛ける。その混乱を突いて我々も一気に打って出るぞ」
「了解、大洋州連合、ザフト全艦、全機に通達。ミノフスキー粒子の散布を300秒後に行う。戦闘パターンのMRSに変更」
ニュートロンジャマーの起こす電波妨害を塗り潰す大規模な電波障害を引き起こすミノフスキー粒子散布下でのはじめての戦闘が、いま行われようとしていた。
宇宙世紀の世界の戦争を一変させ、MSをはじめとした地球圏にとって重要な要素となったミノフスキー粒子は、ミノフスキー文明とでも言うべきものを築き上げた。
そのミノフスキー粒子が高濃度で散布され、事前に対ミノフスキー粒子散布下戦闘に切り替えたトダカ艦隊でも、レーダーをはじめとした各種観測機器に一瞬、砂嵐の様なノイズが走り、すぐ元に戻る。
すでに出撃した機動部隊もミノフスキー散布状態での戦闘を考慮した対策を施してある。とはいえ極めて重要な、コズミック・イラの世界では未知の軍事転用可能な技術であるから、ザフト・大洋州にも供与していない代物である。
現在散布している準戦闘濃度下でならば若干各電子機器の精度は落ちるが、もともとNJの影響で第二次世界大戦レベルの視認戦闘にまで戦争が退化しているから、多少は耐性というか、慣れの様なものがある。
初めてミノフスキー粒子散布下で戦闘を迎えた地球連邦軍のパイロット達よりはずいぶんとマシな条件である筈だ。
尽かず湧き続ける泉のように新兵器を繰り出す自国の軍部に驚嘆の意を抱きながら、戦況に動きが無いか、タケミカズチの艦橋には緊張が満ちる。
ミノフスキー粒子の特性によって立て直し不可能な混乱をきたし、一挙に攻勢に出て敵戦列を壊滅させる機会が生まれる筈だ。
しかし――三国混成艦隊が圧倒的優位に立つ筈の切り札の一つは、その期待を大きく裏切る事となる。
タケミカズチ艦橋のみならず、ミノフスキー粒子の存在を知らされていた各艦隊のクルー達が戦況を映し出すディスプレイと望遠映像を、固唾を飲んで見守る中、トダカが訝しげに呟いた。
「どういうわけだ? 敵の動きに変化が無いが……」
若干、交戦する各陣営の動きに動揺に似た不規則性が見えたが、ミノフスキー粒子による電波状況の変化に対応する為の一瞬の隙の様なものだ。
だが、その変化がこちらの部隊のみならず連合でも同程度とあっては、これはいかなる事態か。こちらがミノフスキー粒子の散布状態での戦闘を考慮していたのと同じように、連合の部隊も同程度に動いて見せているのは、いったい?
「これは、ミノフスキー粒子の散布が上手く行かなかったのでしょうか?」
わずかに動揺を露わにするアマギの声に続いて、オペレーターの一人から報告の声が上がる。栗色の髪をしたまだ年若い少女と見える女性士官だ。DCの女性オペレーターはやたらとレベルが高い事で有名だった。
「トダカ司令、ミノフスキー粒子散布濃度が、第一戦闘濃度です!? おそらくは連合艦隊もミノフスキー粒子を……」
「なんだと? いや、だがこの状況を説明するには、それしかないか。くっ、連合にもミノフスキー粒子関連の技術が流れていたか」
奇しくも、地球連邦軍製クラップ級巡洋艦の艦橋で、地球連合軍少将となった三輪防人もまた同じ言葉を吐いていた。
DCは異邦人達の有する各種データと、バルゴラに搭載されていたイヨネスコ型核融合炉から。
地球連合はパプテマス・シロッコの才覚と三輪がいま乗っているクラップ級や、ともにジェネシスで消滅させられたアレキサンドリア級の艦隊という実物から。
対DC戦、対地球連合戦にそなえ、双方が用意した切り札がまったく同じものであったとは、これはいかなる運命の女神の導きによるものであったろう。
* * *
三輪艦隊本隊への奇襲を狙うクライ・ウルブズは――ほかに芸がないといわれるほど奇襲を得意としている――母艦タマハガネぬきでもISA戦術の実行を目前に控えていた。
ミノフスキー粒子散布による電波障害の混乱下にある連合艦隊を、海面下からクライ・ウルブズ、空からVF-19F、A型を中心とした空戦部隊による挟撃で迅速に敵艦隊をせん滅する。
それが今回の戦闘の重要なターニングポイントだ。
双方ともにミノフスキー粒子を用い、互いに事前対策を施していたとは知らず、セプタ艦橋でミノフスキー粒子による電波障害の発生を確認したエペソは、格納庫で待機しているガンダムエクシアへと通信を繋げる。
すでに各艦各機が出撃の号令があれば即座に飛びだせる状態にある。ボズゴロフ級からはアッシュ、キラーホエールⅡからはフォビドゥンホデリが出撃して連合の水中用MSとの交戦に備えていた。
ミノフスキー粒子散布の影響下であっても、そろそろこちらの存在を探知される距離だろうし、メカゴジラを頼みとした奇襲とでも思わせておきたいところだ。
すでに鋼の怪獣王三匹はその心臓に力強い鼓動を撃たせ、破壊神の異名に相応しい暴虐の力を解き放つ時を待ち、全身をしならせるようにして海中を泳ぎはじめている。
「刹那・F・セイエイ、フェイズ3に移行する。貴公に先陣を任せる。フェイズ4に移行後、セプタ級全艦が浮上し、各艦および艦載機を発艦させて敵艦隊を包囲し、これをせん滅する」
「了解。刹那・F・セイエイ、ガンダムエクシア、ミッションを遂行する」
刹那の乗るエクシアが搭載されていたセプタ級の格納庫は、すでに注水が終わりゆっくりと、エクシアを送り出そうと紫水晶に覆われたハッチが開いて深い海の世界をその前方に広げる。
非透過性の紫水晶の表面に亀裂が走り、その奥から覗く深淵からゆっくりとエクシアが青い母の腕の中へと進みでた。
強い水圧に四方から押し込まれても、エクシアの機体が軋む音の一つを上げる事もない。深い青から暗い藍色へと色彩を沈んだモノにした海の中で、空の青と雪の白を纏うエクシアの姿はひときわ美しく輝いている。
限りなく人体に近い動きが出来るよう、設計されたエクシアのフォルムは、必然的に人のそれと酷似する。
もし数百年前も昔の船乗りたちが、海下に揺らめくエクシアの影を見たら、伝説の人魚か、海を統べる大神と見間違えたかもしれない。
地上・空中・宇宙・水中と万能の汎用性を有するガンダムエクシアだが、水の精霊との契約を結んだとはいえ、さほど動きに俊敏さは見られなかった。
水の精霊との契約はあくまで武装に限られたもので、エクシアの機体そのものにはなんら加護が無い状態であり、水中で水棲生物のように動く事までは出来ないのだ。
これが機体そのものと契約を結んだ機体の場合、たとえばザムジードであったら自在に地中を潜行し移動する事も出来るし、サイバスターであるならば空気抵抗などは全く皆無となる。
水の精霊の加護が機体に好ましき影響を及ぼさないとはいえ、それでもGN粒子の特性は完璧には損なわれず、通常の汎用機よりもよほど速く動く事が出来る。
水中でもなお美しく煌めくGN粒子を背中から散布しながら、母なる海へと射出されたエクシアは、右腕に固定されたGNソードをソードモードに切り替えた。
時折、刹那と海流に乗った地球そのもののプラーナに反応してか、刀身を構成する金属粒子に施された魔術文字が反応し、GNソードの刀身が幽明境に迷う人魂のように淡く明滅する。
ほの暗い海の中で緑色の輝きが明滅する度に、GNソード刀身に触れた海水がわずかずつ熱を奪われて、氷混じりの冷水と変わっている。
エクシアが描いた軌跡には砕いた鏡の破片のように美しい氷片が、別れを惜しむ様に海の中をたゆたっては消えていった。
先行するホデリやアッシュをエスコート役にして、エクシアがゆっくりと速度を上げて進行方向へと機体を進め始める。
即席とはいえプラーナのコントロール法を学んだ刹那は、呼吸とそれによって生じる血流の変化を強く意識する。
臍の下――丹田と呼ばれる個所に意識を集中し、意識がより深く集中してゆく度に、緩やかに熱を帯びて行く感覚が確かに感じられる。
マサキやテューディ、フェイルあたりが師匠としては適任の人材であったろうが、あいにくとサイレント・ウルブズに出向している組であったため、刹那にプラーナのコントロール法を教授したのはシンである。
戴天流剣法と十六夜念法をはじめ、精神修養を主とした武術を貪欲に学んだシンは、自己の精神と肉体の深淵を覗く類の技術に関しては、まず世界レベルで見ても第一級のエキスパートといっていい。
人間の生体エネルギーであるプラーナのコントロールは、上記した武術やヨガにも精通したシンにとっては非常に親しみやすいものだ。
シンの場合、生死の境をちょくちょく彷徨う激烈な修練によって築いた抜群の相性と適正もあるが、それなりに経験を積んでいた事もあって、刹那とロックオンのインスタント師匠役に任じられる事となった。
ヤキン・ドゥーエ戦役後、シンが車椅子生活のリハビリを終えた時期、まだ本土に居たテューディに、マサキやリカルド共々新型魔装機のテストパイロットとしてさんざんこき使われた経験が役に立ったといえる。
エクシアのTC-OS内の精霊兵装起動プログラムはすでにスタンバイ状態にあり、刹那が必要な文言を唱えれば自動的に必要量のプラーナが吸い上げられて、GNソードの刀身に封じられた水属性の大規模精霊魔術が発動する。
無愛想で周囲に無関心に見える刹那であるが、内面はかなりの激情家と言ってよく、情動の激しいものほど高いプラーナを有する傾向にあるから、ラングラン系の技術との相性は良い。
殺傷能力というよりは地形影響能力に特化したエクシアの精霊兵装であるが、その効果範囲規模は、魔装機神の有するMAP(Mass Amplitude Preemptive-strike Weapon)兵器に相当する。
ゆえにその強力さに比例して消費プラーナ量も多いから、保有するプラーナの量が多い刹那は、魔装機操者としての適性も高いものを持っていた。
逸る血気を抑えつつ、刹那は決戦の火ぶたが落とされる時を虎視眈々と待っていた。その中に、エクシアという力を手に入れた事に対する陶酔が、まったく無かったと言えば、これは嘘だったろう。
「始まったか」
前方の海域で、真白い爆発が起き、海水を伝って衝撃波がエクシアを揺らす。連合のヴォーテクスと、こちらのホデリとザフトのゾノ、アッシュが戦いを始めたのだ。
煌びやかな光はホデリの有する水中でも使用可能なビーム兵器の光芒だ。水中でも超音速で走るスーパーキャビテーティング魚雷が次々と放たれ、ランスやアイアンネイルを振るって格闘戦に移行する機体も出始めた。
自分の露払い役を務めている彼らの戦いを一瞬も見逃さぬように、目を凝らす刹那に声が掛けられた。エクシアの肩に、アビスインパルスが手を置いてお肌の触れ合い通信を繋いだのである。
セプタ内のミネルバから出撃したニコル・アマルフィの顔がエクシアのモニターに映し出され、少女と見間違える者もいる繊細な顔立ちのニコルが、友好的な微笑を浮かべていた。
刹那は笑みで応える事は無かったが、さりとて嫌悪の情は欠片もない無感情な声音で無愛想に応じた。抑用が抑えられ淡々とした口調は機械的な印象を聞く者に与える。
「グラディス隊のニコル・アマルフィか」
『自己紹介の必要はないみたいですね。刹那、君の機体と君自身が初撃の鍵をしっかり握っていますから、決して無理はしないでください』
「分かっている」
『僕達が道を切り開きますから、君は君の役割に集中して』
「ああ、アンタ達もアンタ達の役割を果たせ」
『少しは緊張しているのかと思ったのだけれど、余計な心配だったかな。じゃあ、作戦が終わったらまた話をしましょう』
「……考えておく」
イザークが無愛想でもっと不器用だったらこんな感じになるかもしれないな、とニコルは小さな笑みを形作り、戦場を映すアビスインパルスのモニターへと視線を戻した時には、その笑みは消え去って歴戦の戦士の顔がすでにそこにあった。
明滅する刀身の表面温度が既に摂氏マイナス二百℃に達したGNソードを、支える様に左手を添えた姿勢のエクシアを後方に置き、アビスインパルスが一気に加速し、その後に六機のアッシュが続く。
索敵網に引っ掛かったこちらの反応に気づき、三輪艦隊が展開させたヴォーテクス部隊は優に七十機は越え、さらに数を増し、海上からは駆逐艦から次々と爆雷やミサイルが投下されつづける。
ボズゴロフ級とキラーホエールⅡ級から出撃したこちら側の水中用MSの数は、五十四機ほど。
最低でも十六機にも及ぶ数の差は大きな戦力差であるが、こちらには水中でもビーム兵器が使用可能なホデリがある。
ゾノあたりはヴォーテクスに比べれば明らかに見劣りする機体だが、アッシュなら互角に戦えるだろうし、なにより水中でも戦闘可能なメカゴジラ三機がいるのだから、暗い話題ばかりではない。
アビスインパルスを見送ってほどなく、刹那がヘルメットのバイザー越しに見つめる先の海は、数多の爆発に濁り、その青さを失い始めていった。
海の下の戦いが激しさを増したその時である。徐々に徐々に高ぶり、爆発の時を待つプラーナを抑え込んで歯を軋らせる刹那を絶句させる物体五つが、エクシアを追い抜いていったのは。
「………………おれは、何も見ていない」
心なしか、力無く刹那は呟き、そっと目を逸らした。刹那が外した視線の先には、極端に丸い頭部を持った二頭身の、人型というには明らかにバランスを逸した二足歩行のカエル型準特機五機の姿があった。
頭部に星のマークが入った緑色の機体を筆頭に、それらは三十メートル級の巨躯をくねらせて、戦場へ意気揚々と向かっているように刹那には見えてしまった。
開発者たちがつけた開発コード“ケロン”。その外見によって知的生命体に心理的抑圧を与えるというURシリーズの派生機として設計され、ついにはロールアウトしてしまった彼らが、ついに本物の戦場へと投入されたのである。
GNソードに流れていたプラーナの流入量が、がくんと減ったのは、刹那がケロンシリーズを目撃するのとまったく同じタイミングであった。たしかに外見の与えるインパクトはあるらしい。
誤算があるとすれば、敵ばかりか味方にまで悪影響を与える心理的効果を有していた事だろう。事実、彼らの姿を見た地球連合の諸兵のみならずDC・ザフトの兵士達も、大なり小なり衝撃に襲われて、確かに思考と動きを止めてしまったのだから。
* * *
DC・ザフト混成の潜水艦隊が三輪艦隊の海中部隊と交戦を開始した頃、三輪艦隊は高高度から超高速で迫りくる機影を探知し、対空火器の弾幕展開と、ジェットウィンダム、フラッグからなる機動兵器部隊を急遽出撃させていた。
前回の戦闘でDCが繰り出してきた可変戦闘機と長距離航行推力増加ブースターを装備したリオン、ガーリオンが主力を成す空戦部隊に対し、飛行機形態のフラッグが先行して打撃を加えてジェットウィンダムがそれに続いた。
速度ではフラッグをも上回るエクスカリバーは、従来の航空機やMSをはるかに上回る搭載量のハイ・マニューバー・マイクロ・ミサイル(HMMM)を一斉に発射し、敵対者のプラーナを探知するミサイル群れは第一波で、多くの敵機を撃墜して見せる。
フラッグが機体に搭載できるミサイル数は二基に対し、エクスカリバーを筆頭にリオンから射出されたミサイルの総数は優に三百を超え、ビームライフルや20mm機銃で迎撃を行うフラッグの群れに次々と命中してゆく。
ミノフスキー粒子散布下ながら、その影響を受けないプラーナ探知式ミサイルの猛威が振るわれた形だ。迎撃に上がってきた三輪艦隊第一波を突破したDC空戦部隊は、その勢いのままに三輪艦隊へと飢えた猛禽の獰猛さで襲いかかる。
三形態の全てで飛行能力を有し、かつアクロバティックなマニューバーを可能とするVFシリーズは、テスラ・ドライヴによる新機軸の機動にようやく慣れ始めた地球連合側のパイロットには、予測もつかない動きを可能とする。
オクスタンガン・ポッドからばら撒かれる超高初速徹甲弾の雨を叩き込まれたジェットウィンダムは、掲げた盾ごと瞬く間にボロクズに変えられて落下し、猟犬の群れと化したミサイルを振りきれなかった機体は、炎の花へと変わる。
そんな光景が、三輪艦隊の上空で数多く見られ始めた。
エクスカリバーが猛威を振るう中に、異なる毛並みのフラッグが姿を見せたのは、自軍の被害の多さに、三輪の眉間に深い皺が刻まれた時だった。
民間軍事会社ネルガルより地球連合軍へと出向しているイノベイターのヒリング・ケアとリヴァイヴ・リヴァイヴァルの両名が搭乗する、大口径ビームキャノン装備のフラッグカスタムである。
ザフト、DCに潜り込んだティエリアやブリングからの脳量子波通信によって、DC部隊の奇襲を予め知っていた二人は、上空からの攻撃に困惑する事もなく、冷徹な笑みを浮かべて戦いを楽しもうとしていた。
「来た来た。ミワは今頃泡吹いているんじゃないの?」
「ふ、仕方ないさ。僕達の様に事前に知る事が出来る筈もない。ただの人間なのだからね」
「ま、どっちでもいいじゃないさ。あたし達はあたし達で楽しませてもらうからさ!」
フラッグの片腕ほどもある漆黒のビームキャノンを振り上げて、ヒリングは小悪魔的な笑みを浮かべながら、センターマークに捉えたガーリオンめがけてトリガーを引き絞る。
智の記録者の技術によって改良を施されたイノベイターのフラッグは、大西洋連邦軍で運用されている従来のオーバーフラッグの総合性能を30パーセント以上上回る高性能仕様だ。
保持している大口径のビームキャノンの威力は、アークエンジェル級のゴッドフリートを凌駕する威力で、直撃させれば艦艇といえども一撃で戦闘不能にまで追いやられる。
ヒリングとリヴァイヴのフラッグカスタムが放ったビームは、ジェットウィンダムを追いかけ回していたリオンF型とエクスカリバーをそれぞれ貫き、VFシリーズ初の被撃墜機を産んだ。
ヴァルホークのビームランチャーと同等以上の威力を持つフラッグカスタムのビームキャノンは、周囲の大気を瞬く間に灼熱させ、AMとVFが纏う堅牢な装甲をまるで問題視しない。
自分達が空中に咲かせた爆炎花を見て、ヒリングとリヴァイヴは揃って口角を吊り上げて好戦的な笑みを浮かび上げた。ともに驚くほど整った造作の顔立ちだけに、張り付けたその笑みは残虐とさえ言えた。
「フラストレーション溜まっているからさ、容赦しないよ!」
胸の内で貯めに貯めた鬱憤を晴らすように、ヒリングは弾んだ声で新たな敵を狙ってフラッグカスタムを操り、リヴァイヴもまたヒリング同様にVFとリオン系列で構成されるDC空戦部隊へと視線を巡らす。
ヒリングらイノベイターは、かつてザ・データベースが収集した戦闘用コーディネイターなどのノウハウを元に生み出したディセイバーを、更に高度に強化した存在である。
このコズミック・イラ世界の人々によって生み出されたブーステッドマンやエクステンデッド、戦闘用コーディネイターを凌駕する身体能力を持っているといえよう。
そのイノベイターである二人は、デュミナスのバックアップの下、思う存分、優越種と自負する己らの戦闘能力を存分に発揮し始める。
二機のフラッグカスタムが別格である事を認識したガーリオンのパイロットが、増加ブースターをパージして機体を身軽にし、オクスタンライフルの銃火を散らす。
連射性を重視したEモードで放たれた緑色のビームは、水槽の中の水をぶちまけたように広範囲に降り注いだが、脳量子波による超人的反射能力を持つヒリングとリヴァイヴは、軽やかにかわして見せた。
あらかじめ声を掛けられていたような余裕の伺える動きに、ガーリオンのパイロットは驚きを隠せなかったが、ならばとディバイン・アームを抜き放ち、牽制のビームと機体胸部のマシンキャノンを乱射しながら接近戦を試みる。
不規則な回避機動を交えたガーリオンの動きは、そのパイロットがそれなりの場数を踏んだベテランである事を示唆していたが、ヒリングにとってはまだまだ楽しめるレベルの敵でしかない。
はは、と遊園地のアトラクションを楽しむ子供の様な声を出して、ヒリングは長大な砲身のキャノンを抱えたままというハンデを負ったまま、ビームサーベルを抜き放つやガーリオンの動きに合わせてフラッグカスタムを向かわせた。
ガーリオンの連射するビームを、フラッグカスタムの装甲に一射たりとも掠めることさえなく、両機の間隔は見る見るうちに詰められて、ガーリオンが左手のディバイン・アームを振り上げるのに合わせて、光刃がきらめいた。
高出力のビームサーベルは、ガーリオンの胴部を横一文字に薙ぎ払い、赤熱し融解した装甲の奥から青白い雷が溢れだすや、また新たな命の散る花と変わる。
「これで二機目、あははは、もっともっと落としちゃうよ」
「ヒリング、油断してあまりみっともない事にはなるなよ」
「冗談、万が一つにもそんなことあるわけないじゃない」
釘を刺すリヴァイヴに嘲笑混じりの答えを返して、ヒリングは大口径ビームキャノンから次々と光条を放つ。リヴァイヴもまた、ヒリングの答えに呆れながらも同様にビームキャノンを連射して、戦果を上げはじめた。
虚空を穿つ光条の数に比例してDCが誇る空戦部隊の数は次々と数を減らしていった。
* * *
空中での戦いが激しさを増す中、海面下での戦いはひとつの区切りを迎えていた。数で劣るDC・ザフト潜水艦隊は、ケロンシリーズ五体に加えてメカゴジラを惜しみなく戦闘に投入して、一方的な蹂躙戦を展開。
メカゴジラの、向かう所敵無しと言っていい一方的かつ圧倒的な戦闘能力と、見た目のコミカルさに反して水中では凄まじい戦闘能力を発揮するケロンシリーズによって、ヴォーテクスはほとんど一掃されていた。
ケロンシリーズ目撃の衝撃から既に立ち直っていた刹那は、一気にエクシア後背部のGNドライヴから圧縮したGN粒子を一挙に放出して、三輪艦隊直下へと機体を潜り込ませる。
腹腔を満たす熱を孕んだ気魄を全身から迸らせて、刹那はエクシアのGNソードに意識を集中させた。急速にGNソードから放たれる冷気が低温化し、周囲の分子運動を停止に近づけて行く。
「動きを止めさせてもらうぞ、エクシア!」
GNソードの放つ冷気と輝きが一層強さを増して、周囲の水温を限りなく絶対零度にまで近付け、海水が次々と氷に変わってその範囲を広げて行く。ロアノーク艦隊との交戦で猛威をふるった凍結現象の再現だ。
「アイスグラウンド!!」
下方に向けていた切っ先を振り上げて、一挙にエクシアのいる深度から海面に向けて海が次々と凍り出し始める。そのまま飛行能力を持たない艦艇はすべて氷の中へ閉じ込められるかと見えた瞬間。
「なに!?」
海中のエクシア目掛けて極めて正確な狙いの着いたビームが次々と降り注ぎ、膨大な海水によってその威力を減衰させながらも、エクシアの機体を大きく揺らし、アイスグラウンドの発動が不完全な状態でキャンセルさせてしまう。
海上からの通常では考えられない高精度の狙撃に、刹那は動揺を隠しきれなかったが、ビームは変わらず降り注ぎ、その回避に神経を割かなければならなかった。
エクシアに対する狙撃を行っていたのは、ヒリングの乗るフラッグカスタムだ。狙撃中をリヴァイヴに護衛させながら、自分が乗る筈だった機体に向けて、躊躇なくトリガーを引き続けている。
「その機体は、リボンズがあたしにくれる筈だったんだから、さっさと返しなよ!」
威力が減衰したビームでなかったら、さしものエクシアも大きな損傷を負っていた所だが、幸いに損傷は軽微なもので、刹那は狙撃を避けるために、潜行して深度を深い数字にする。
「く、凍結状態は、七割ほどか。もう一度……」
再びGNソードを構え直して意識の再集中を行おうとした刹那を、エペソからの通信が制止した。
『刹那・F・セイエイ、フェイズ4へと移行する。貴君はプラーナ回復後、戦線に突入せよ。我らは連合艦隊に対し突撃を仕掛ける』
「……了解、このまま待機する」
『全艦浮上、浮上と同時にクリスタル・マスメルを発射。上空の空戦部隊に援護をさせよ』
GNソードへのプラーナ供給を停止し、刹那はつぎつぎと周囲で急速浮上を始めるセプタ級へと視線を移した。
キラーホエールⅡ級とボズゴロフ級が、セプタ級援護のために対空ミサイルランチャーや艦首魚雷を発射する。
高度な重力制御技術によって、重力の鎖を振り払ったセプタ級は、海面下に巨大な影を揺らしながら、三輪艦隊が明確な手を打つ暇も与えずに、海面をぐうっと持ち上げてから、一挙に破裂させて空中に飛翔する。
甲羅に閉じ籠った亀の様な、とその姿を形容したが、いまのセプタ級はさながら亀の大怪獣を思わせた。船体から膨大な量の海水を零し、そこかしこに虹の橋を掛けてメルヘンな光景をつくりながら、セプタ級四隻の船体から水晶が突き出し始める。
船体を構成するズフィルード・クリスタルを、杭のように尖らせた状態で周囲に射出するセプタギンの武装クリスタル・マスメルだ。セプタギンを源流とするセプタン、セプタの対空火器の様なものだ。
紫色の水晶片が、外輪陣形をとる三輪艦隊を囲むセプタ級四隻から一斉に放たれて、毎秒百を超える水晶片がきっかり二十秒間、三輪艦隊へと一斉発射されてCIWSや空対空ミサイルでそのいくつかが撃ち落とされる。
しかし、あまりにも多すぎる量の水晶片のほとんどは撃ち落とされる事もなく、イージス艦をはじめとした水上艦艇の船体に次々と突き刺さる。
既に出撃していた三輪艦隊のジェットウィンダムやフラッグらは、DC空戦部隊によってセプタ級の迎撃にフラッグやウィンダムが動きを拘束されて、自分達の母艦の危機に動けずにいた。
「外殻装甲を展開、全艦を出撃させよ。機動兵器部隊、出撃用意は?」
「全機出撃態勢を取っています、ゴッツォ司令」
「よろしい。エペソ・ジェデッカ・ゴッツォの名において命ずる。全機出撃後、地球連合艦隊の撃滅に全霊を傾けよ!」
好戦的極まるエペソの号礼一下、セプタの上方部分を覆い尽くしていた紫水晶の天蓋がひび割れるような轟音と共に、左右に開かれてその内に抱いていた月の女神を解放する。
ヴィーナスの誕生にも似た光景は、ストーク級三隻とミネルバが発進すると同時に連射した各砲座とミサイル発射管が轟かせた発射音と光芒によってかき乱される。
セプタの甲板上に着艦していた四隻の艦が発進し、合計八隻の艦隊となって三輪艦隊を包囲する中、エペソの乗るセプタ級の船体中央のハッチが開かれて艦載機の発進シークエンスを開始する。
電磁加速式カタパルトに乗っているのは、シン・アスカのインパルスであった。
これまでのクロスボーンシルエットや飛鳥シルエット、フォーミュラーシルエットと異なる新たなシルエットを装備している。
アカツキとスペリオルドラゴンに使われているヤタノカガミ装甲を含むリアクティブアーマーが、両肩や前部腰アーマーに装着されている。また、両肩のアーマー内部にはEフィールド発生器を内蔵している。
背中にはテスラ・ドライヴ内臓のウィングとスプレービームポッド、ロングレンジキャノンを装備し、一基あたり18発のミサイルを格納するマイクロミサイルポッドが各所に六基。
腰アーマーの左右には小型改良したヴェスバーが二門、右手にはメガビームライフルを、左手には三基のバリアビットを持つメガビームシールドを携えている。
背のウィングは本来ミノフスキー・ドライヴを主機とするはずであったが、開発が間に合わなかったためビルトシュバインのバックパックを参考としたものが代用品とされている。
クロスボーンシルエットが格闘性能に重きを置いたシルエットであるのに対し、射撃性能に重きを置いたアサルトバスターシルエットである。現在ロールアウトしているDC製シルエットの中でも最強の一つとされるシルエットだ。
「シン・アスカ、アサルトバスターインパルス、行きます!」
――つづく。
おまけ『ディバインSEED DESTINY DCの脅威』
ギレンの野望風各勢力図
初期選択勢力
・ディバイン・クルセイダーズ 難易度VERY EASY
資金70000 資源50000
基礎技術LV22 敵性技術LV20
MS技術LV21 特機技術LV21
MA技術LV20 EOT LV23
主要キャラ
ビアン・ゾルダーク 階級:大将 ランクB
指揮16 魅力17 射撃12 格闘11 耐久14 反応9
ロンド・ミナ・サハク 階級:大将 ランクC
指揮14 魅力14 射撃10 格闘10 耐久6 反応12
ロンド・ギナ・サハク 階級:大将 ランクB
指揮13 魅力11 射撃11 格闘12 耐久9 反応13
マイヤー・V・ブランシュタイン 階級:大将 ランクA
指揮18 魅力13 射撃11 格闘6 耐久14 反応6
フェイルロード・グラン・ビルセイア 階級:少将 ランクC
指揮16 魅力17 射撃11 格闘10 耐久4 反応10
エペソ・ジュデッカ・ゴッツォ 階級:大佐 ランクB
指揮14 魅力10 射撃12 格闘11 耐久13 反応8
シン・アスカ 階級:少尉 ランクC
指揮4 魅力8 射撃11 格闘18 耐久10 反応13
ステラ・ルーシェ 階級:少尉 ランクD
指揮1 魅力10 射撃9 格闘11 耐久6 反応10
セツコ・オハラ 階級:少尉 ランクE
指揮2 魅力9 射撃5 格闘5 耐久4 反応7
刹那・F・セイエイ 階級:民間 ランクD
指揮3 魅力7 射撃7 格闘13 耐久8 反応9
マサキ・アンドー 階級:民間 ランクC
指揮5 魅力9 射撃10 格闘11 耐久7 反応13
アクセル・アルマー 階級:少尉 ランクB
指揮12 魅力10 射撃10 格闘15 耐久14 反応11
レントン・サーストン 階級:伍長 ランクE
指揮2 魅力3 射撃4 格闘5 耐久5 反応5
エウレカ 階級:軍曹 ランクD
指揮3 魅力8 射撃8 格闘10 耐久3 反応10
資金・資源・人材・技術LV・初期保有兵器のすべてがバランスよく高いレベルでまとめられた初期勢力で初心者にお勧め。
クライ・ウルブズ、サイレント・ウルブズ関連のイベントを行うと、多くの人材が強制的にイベントに参加するが、イベントを進めれば多くの敵勢力のキャラが負傷中・死亡状態になるため、長期的に見ればリターンの方が大きい。
ウルブズのイベントを進める事で刹那・F・セイエイやロックオン・ストラトス、ティエリア・アーデ、デスピニス・デュミナスをはじめとした有能なキャラクターが数多く加入する点も大きい。
またウルブズ関連のイベントを発生させても、指揮能力の高い将官クラスのキャラクターが多く、6人のソキウスやトロイエ隊のユーリアなどパイロットとして優れた能力を持つ者が残っているため、彼らをうまく活用すれば問題なく戦える。
逆にウルブズイベントを行わないか、途中で切り上げる事で成長幅の大きい将来有望なキャラクター達と強力な兵器を多数確保する事が出来る。
特に初期状態からDCインパルスに搭乗したシン・アスカやアヘッドサキガケに搭乗した刹那・F・セイエイ、サイバスターに搭乗したマサキ・アンドー、ソウルゲインのアクセル・アルマーなどは全勢力を通じて最強クラスのパイロットである。
注意点としてウルブズ関連のイベントを進めていると、選択肢の選択と諜報レベルの高さ次第で、多くの離反者が発生し、新型機体を奪取されるイベントや負傷イベントが発生する為、この点ばかりは慎重な選択が必要となる。
序盤から開発できるヴァルシオン改やオリジナルヴァルシオン、中盤にかけてまで最強の汎用戦艦スペースノア級、また早い段階で開発可能となるグルンガスト弐式やエルアインス、バルキリーの生産が軌道に乗れば戦闘面ではまず危険は無い。
非常に多くの開発プランが提案される勢力である為、無節操にプランを選択しているとすぐさま資金が欠乏してしまう為、そういった点では選択肢の難しい勢力でもある。
基本的にエルアインスとバルキリーの生産を進め、エース用にDCインパルスやスペリオルドラゴンを開発しておけば大きな問題は発生しない。
ヒュッケバインシリーズ開発計画やグルンガストシリーズ開発計画、バルゴラ正式採用提案など主力量産機の選択肢が非常に多く、プレイヤーの個性が反映されやすい勢力であり、一周目には最適。
VF開発計画は、VF-1、VF-11、VF-17と開発した後、プロジェクト・スーパーノヴァが発案されるが、この後にすぐ無人機ゴーストX9開発計画が提案され、二者択一の選択を強いられることになる。
基本性能においてはゴーストX9がYF-19、YF-21を上回るが、無人機である為にパイロットによる補正が受けられない為、人材の多いDCではYFシリーズ開発に踏み切る方が得られるものは多い。
また開発を進めていくとヴァルシオンと同じURシリーズの系列機としてケロンシリーズの開発が提案される。
低コストで強力な五機種の準特機が開発できるようになるが、これを実行するとロンド・ミナ・サハクが3ターンの間使用できなくなるので注意が必要。
上級者向けのプレイとして、ボスボロットのみでクリアを目指すボスボロット縛り、ボン太くん縛りなどが存在する。両機種とも開発を進めていけば無数の開発プランが提案されるため、最終的にはかなりの戦力となる。
つづく?