STSCE_第05話

Last-modified: 2008-02-29 (金) 23:36:35

地球に下りて、アスランは自分の頭の中をぐるぐるとかき回すものをどうしても掴めずにいた。
今のままでは、また前回の戦争の時と同じ、またカガリにも心配をかけてしまうだろう。
そう思い、アスランは誰もいない部屋から出た。
今もカガリは自分の出来る事をやってるが、ただの一個人としての、いや、それすらもない自分の発言力では、その方面ではサポートできない。
せめて自分といる時まで心を遣わせないようにと、アスランは気を紛らすためにもそうしたのだ。

 

そうして、通路を歩いているうちに、艦の外から銃声が聞こえてきた。
一瞬、心臓が高鳴りもしたが、もしも自分の懸念してるような事が起こったのならば放送の一つも入るだろうと思い、半ば気持ちを奮い立たせるようにそれの聞こえたほうへ行った。
すると、案の定、ただ訓練をしていただけだった。
そう思うと、アスランも懐かしさを覚えるもので、シンとスバルとティアナ、レイとルナマリア、それにブリッジの要員であるメイリンの元へ歩み寄った。
新造艦の上、スバルとティアナはあんな状況でミネルバに乗ってきたため、全員がいるのも珍しい。
そんな珍しい状況のため、的が足りないのか、シンは参加はしていなかった。
「訓練規定、か」
アスラン自身、かつてやっていたものだ。
その単語と共に、ちょうど撃ち終わったルナマリアに近づく。
「ええ。 でも、調子悪いわね……。」
事実、ルナマリアのそれを見ていたアスランには、あまり腕のいい人間とは思えなかった。
「ティアナは凄いんですけどね……。
 一緒にやります?」
ティアナと聞き、その方向を見ると、確かに的の中心近くを巧く撃っていた。
まだ若いのに、赤を着ている人間よりも巧いとは。とアスランが感心しかけて、ルナマリアの言葉を理解する。
「いや、俺は……。」
アスランは驚きと戸惑いを口にする。
そう簡単に一般人に銃を握らせていいはずがないのだ。
「本当は私たち、皆あなたのことはよく知っているわ」
スバルは違うけどなと、シンは飲料水に口をつけながらその話を聞いていた。
ルナマリアが白黒ハッキリさせたい気性の持ち主であることは、シンも良く知っていた。
「え?」
と、戸惑いの声を漏らすアスランに、ルナマリアは経歴を読み上げるようにして伝えた。
「アスラン・ザラ。
 ヤキンでの事も含めて、私たちの間では英雄ですよ」
とても軍人として誉められる事をしてきたという自覚の無いアスランは、うろたえてしまう。
邪険にされるのも癪だが、褒め称えられるのも心地よくない。
そんな性格だ、などと考えているアスランに、ルナマリアは銃のグリップを向けて差し出した。
「銃の腕もかなりのものと聞いています。
 お手本、私はあまり巧くないので」
そんなことは一目瞭然だが、ここまで言われてやらないのではと、妙に男な部分がアスランの右手を動かした。
そして、的に銃口を向ける。
別に見せてやろう、とか熱い考えを持っているような男ではないのだが、手に馴染んだ拳銃である。
持てばそれだけで、後は感覚が撃っていた。
アスラン自身も自信を持って言える、ど真ん中の的中である。
ルナマリアとメイリン、それからスバルが歓声を上げる。
ティアナも口笛を吹いていた。
暫くそういうことから離れていてもこんな事が出来るのかと、シンも驚いている。
ルナマリアの撃ち方の悪かった部分もアスランは気がつき、その部分を教えた。
「こんな事ばかり得意でも、どうしようもないけどな」
先ほどから無力をかみ締めているアスランである。
考えもネガティブになりがちだった。
「そんな事ありませんよ。
 敵から次分野仲間を守るために、必要な力です」
ルナマリアは本心からアスランにそういったのだろうが、アスランには素直に入ってこなかった。
「敵って、誰だよ?」
そういって、どうにも居心地の悪いここから立ち去ろうとした。
ルナマリアは虚を突かれたような顔をしていた。
しかし、今の情勢からもアスランの立場からも、『敵』と言うものは見出せなかったのだ。
「オーブへ向かうそうですね。
 あなたも戻るんですか、オーブに?」
「ああ」
いつの間にか立ち上がってたシンに、艦内へ戻る扉付近で声をかけられたので、何と無しにその『当たり前の質問』に答えた。
「何でです?」
しかし、アスランにとって『当たり前』だった答えは、シンにとっては違った。
そして、流れるように出て行こうとしていたアスランは、その時なぜか流れに逆らう力を得た。
「そこで何をしているんですか、あなたは?」
答えられないまま、アスランは逆らう力を失い、艦内へ戻っていった。
そこで、何が出来るんだろうか? 自分に出来る事があるのだろうか?
それこそ、今アスランを悩ましている事に他ならなかった。

 

シンの言うとおり、太平洋に着水した後、ミネルバはオーブ領であるオノゴロ島へ入港する事になった。
理由は、補給などの軍事面から、カガリを送り届けるといった政的な面まであった。
色々と話を、カガリやアスランはしていたようだが、その辺りはシンの視野の及ばぬ部分だった。

 

そして、シンとレイの部屋。
寝転がっていたシンに、レイは「上陸しないのか?」と聞いた。
実はついてから数時間で上陸許可が下りていて、現在ミネルバにいる新兵はシンとレイ位なものである。
「少し、出てくる」
シンはベッドから起き上がり、部屋の扉を開けた。
「ああ」
レイの声が聞こえてきたときには、シンはもう扉の外へ踏み出していた。

 
 

そして、暫くしてから、シンはとある場所へたどり着く。
来たいと思ったわけではなかった。
しかし、いつの間にかたどり着いていたわけではない。
なんとなく……。 そう、なんとなく。
別に他の場所へ行くにも時間的に変な気がしたからやってきた、それだけの場所。
「慰霊碑ですか」
シンは、そこにいた男女に声をかける。
デートの途中だったら邪魔になるかもしれないが、本当に何気なくした事だ。
「うんそうみたいだね。良くは知らないんだ。
 ボクもここへは初めてなんだ、自分でちゃんと来るのは」
シンの呼びかけに、何の気も無く、そこにいた青年は答えた。
「せっかく花が咲いたのに、波をかぶったから、また枯れちゃうね」
「誤魔化せないってことかも。
 いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす……!!」
それが人なのだ。
奇麗に飾りつけられた言葉でも、覆っているものを取り払えば誰かが傷つく。
その飾りも、人の言葉や行動ひとつで消え去る。
一つが終われば、その終わりは連鎖するものだ。
だが、それを断ち切れるのも、また人である。
シンの力が、今後どう転ぶかは分からない。
今日、この場での邂逅がどのような結末を及ぼすのかも、誰にとっても定かではない。
シンは一度謝って、あわててそこを去っていったから、何も変わらないのかもしれない。
しかし、願わくは、誰にとっても幸せな。

 
 

――それは、不可能の中の可能性。

 

それでも、このとき世界はそんな彼らの思いとは裏腹に、事態を進めていっていた。
それは、連合軍がプラントに宣戦したこと。
そして、今ミネルバのいるオーブが、連合軍の加担国になった、ということ。
さらには、この状況にプラントは『積極的自衛権』の行使を決定した。

 

自衛、とは言葉ばかりの、抗戦姿勢以上の臨戦状態となった。

 
 

ザフトの降下作戦が始まれば、オーブが敵に回る可能性は高い。
なぜなら、ここに来てオーブはその理念をも捨てたからだ。
補給等を全て終え、ミネルバの出港を決断する。
通信状態悪化から、ミネルバからではカーペンタリア基地とすら通信できない以上、独断ながらそれを突き通すほか無いのだ。
降下作戦自体眉唾な情報である事は、タリアはクルーには隠す事にした。
その情報を提供したのは、『砂漠の虎』を名乗るものからだった、などと、クルーに言えば士気に関わるであろうからだ。

 
 

その艦に、カガリがやってきた。
よく分からないが、そういう必要があったのだろうと、艦内の殆ど全員が挨拶をしていた。
そう、『殆ど』だ。
いや、『挨拶をした』と言う点では全員がそうなのかもしれない。
しかし、廊下ですれ違ったシンの『挨拶』は、過激だった。
「何をしに来た……!!」
シンはカガリを睨みつけた。
「あの時、オーブを焼いたような連中と手を組むのかよ!?
 何処まで身勝手なんだ、あんた達は!?」
カガリはそのことを伝えるために、そして謝罪をするためにきたのだが、どうやら情報というものは想像以上に速度を持っているらしい。
しかし、カガリは安易に謝罪の言葉も紡げない。

 

それは、シンが相手だから、である。

 

一度目は自分達の理念を貫いて家族を殺してしまい、二度目はその理念を捨て、敵に回ってしまった。
数奇な運命、そんな言葉で片付けられるほど、彼らの心は成熟しても腐ってもいなかった。
「シン……。」
今回は前回までとは違う。
誰もシンを止めはしないし、誰もカガリを守ってはくれない。
そういえば、アスランも自分に出来る事をプラントに求めて、もう側にはいない。
そこにあるのは『敵』と『味方』。
涙を流す事も、カガリには許されはしないのだ。
「敵に回るって言うんなら、今度は俺が滅ぼしてやる、こんな国!!」
シンは叫び、それ以上は何も語らずにカガリの脇をすり抜けていく。
「シン……!!」
カガリにとっても、これは苦渋の決断だった。
シンのような人間を作らないためには、『最も近くにいる敵』を『味方』にするしかなかったのだ。
だが、それをシンは分かってなどくれないだろうし、国家の勝手な判断を押し付ける事も、カガリには出来なかった。
――中立のままならば、シンといつの日か手を取り合うことも出来たかもしれない。
不意に、カガリの脳裏を、そんな言葉がよぎった。
デュランダルはそういう人間だと、カガリは信じていたからだ。
――しかし、自分たちはそれすらも裏切ってしまった。
差し伸べられるかもしれない手を、差し伸べられる前から無いものとして、二者択一に答えた。
もう、取り戻すことは容易ではない。
カガリは、シンたちを『敵』という色に染めてしまったのだ。
――いや、それは卑怯な言い方だ。
カガリにも勿論わかっていた。
友好国であるザフトの敵に回ったのは、紛れもなく自分たちなのだ。
――染まったのは、自分達なんだ……。

 

「すまなかった」
カガリは艦長に直接謝罪をした。
本当はとてもしてはいけないような事だが、それでも、今のカガリでは、その頭だけでは軽すぎた。
だが、タリアは責めはしなかった。
これがいかな選択か、タリア自身もわかっていたし、自分では絶対にしたくないタイプの選択だとも思っていたからだ。
それだけではない。
彼女の表情にあるのは、血の通った人間の悲しみ。
彼女はただ一言も言い訳をせずに、深々と頭を下げていた。
それが、もう二度と会うことも無いかもしれない『オーブの獅子の娘』との、最後の会話となった。

 

そして今、ミネルバは戦場にいた。
オーブのほんの目と鼻の先で、戦闘を行う事になったのである。
――この状況を打開するには、奇跡でも起こらないと……。
そんな考えも浮かんだが、タリアは首を振る。
この絶体絶命の状況で戦闘をするのは、自分だけではないのだ。
「艦長、タリア・グラディスより全クルーへ……。」
メイリンに警報をさせた後、タリアは艦内放送を行った。

 

その放送を、シンたちは出撃の準備を終えながら聞いていた。
一言一言に、各員が怒りと絶望を感じながら、しかし、諦めないと誓いながら……。

 
 

「シン・アスカ。 コアスプレンダー、行きます!!」
待ち伏せ、と言うにはあまりにも過酷な状況である。
先ほどまでいた国から攻撃を受けるのだから、当然艦内はどんよりとしてしまう。
そんな辛い状況を気合で打ち払うように、シンは発進の声を上げた。
「ルナマリア・ホーク。 ザク、出るわよ!!」
「レイ・ザ・バレル。 ザク、発進する!!」
「ティアナ・ランスター。 ザク、出撃します!!」
それに続き、3機のザクと、
「スバル・ナカジマ」
予め積んでおいたグウルに乗ったRキャリバーも出撃姿勢をとる。
そして、グウルの上に乗ると、瞬時にそれは動き出した。
「Rキャリバー、って、早いよ!!」
コールも忘れ、ついつい思い切り突っ込んでしまうスバルであった。

 
 

「何やってんのよ、地上の初出撃なのに」
「だって、あんな事になるなんて」
「喋ってる暇はない。 行くぞ!!」
空中戦が出来る3機、インパルスとザク・フライトタイプ、それからグウルを自前でミネルバに持ち込んでいたスバルのRキャリバーが散開する。
状況は目に見えて劣勢。
待ち構えていた地球連合軍の艦隊は勿論の事、後ろからはオーブの艦隊が迫りつつあった。

 

そして、シン。
彼の精神は、戦闘を前にして既に疲労していた。
そのことにレイが気づき、スバルやティアナたちに出来るだけ見てやってくれと頼んだほどである。

裏切られたと、シンは感じていた。
シンは、もしかしたらあのオーブのカガリが何らかの反対を、何らかの妥協案を、提示してくれるとでも思っていたのかもしれない。
そんな自分にも、シンは憤りを感じる。
そして、シンは自分の中にある『何か』を吐き出すように、言葉を紡ぎ出していた。
「何が……。
 何が理念だ、こんなの!!」
厳密に言えばまだ条約を結んではいないはずのオーブは、しかし、ミネルバを敵に『売った』のだ。

 

「オーブが引くのを許してくれないんなら、確かに前に進むしかないわね」
ティアナが呟いた。
誰もがそうは聞いていたものの、それが本当に出来る事なのか、正直戸惑っていた。
ザクのフライトタイプを受領したとき、こんな一方的な戦いをすることになるとは思っていなかったのだ。
それは、スバルやシン、ルナマリアもレイも同じであろう。
――あたし達は、宇宙で何のために戦って、地球を守ってきたんだろう?
多分、こんな戦いをするためでも、卑怯な政治的判断を拝見するためでも無かった筈なのに……。

 
 

Rキャリバーの能力は接近特化である。
それゆえ、装甲は硬いし、フェイズシフトも搭載していた。
なのに、辛い。
エネルギーの面でも、装甲の面でも、である。
「こんなだから、シンは嫌になったのかな……。」
鳴り響くアラームが鬱陶しい。
目の前で起こる爆発が五月蝿い。
鉄屑が邪魔だ。
光が眩しい。
体が熱い。

 

これが全部オーブの科したものなら、確かに自分も嫌いだと、スバルは思った。

 
 

狙い撃つ。
撃ち落とす。
それが、空中戦の出来ないルナマリアとレイの仕事だ。
月軌道に配備される予定だったミネルバに、グウルはそう何機も積んでいない。
海に落ちるわけには行かないと、冗談めかした考えをしても、当然気分はこの海の底よりも深いところまで急降下中だ。

 

――敵って、誰だよ?
アスランの言葉を思い出す。
あの時は、確かに自分も『この世界に明確な敵など、いないんじゃないか?』とも感じた。
しかし、「いるじゃないですか」誰に言うでもなく、ルナマリアは呟いた。
『あれ』はミネルバを撃って来たし、『あれ』はミネルバを売った。
これほど簡単な、明確な敵がいるだろうか?
「これが、敵じゃないですか!!」
辿り着いた解も、簡潔極まりない。
あれが敵で、自分達が味方だ。

 

多々迫り来るウィンダムをビームサーベルでなぎ払いながら、シンはその瞬間に気がついた。
オーブが、ミネルバに威嚇射撃を始めていることに。
売っただけじゃ飽き足らず、今度は攻撃を……。
そこまで考えて、シンはやめた。
これ以上、あの国の事を考えたくなかった。
(ここを切り抜けられたら、それこそ奇跡だよな……。)
3機では捌ききれないウィンダムが、ミネルバへ取り付いていた。
自分達も下がれない以上、それはレイとルナマリアに任せるしかない。

 

だが、この戦いの劣勢はそこまででは済んでくれなかった。

 
 

初めに気がついたのはティアナだった。
連合の艦隊からそれよりは一回り小さい、それでもモビルスーツにしては大きすぎるものが発進した。
「あれが、モビルアーマー……。」
まるで何年も探していた宿敵を見つけたかのように、ティアナはそこへ向かっていった。
熱量だけでなく、モニターだけでなく、目視できる程度まで近づき、ティアナはビームライフルに続くハンドルを握った。
たとえ如何な大きさを持っていても、ビームを貫かれれば終わりだ。
――もしかしたら離れているミネルバで確認されるよりも早く事は終わるかもしれない。
ティアナはそんな考えのままに、引き金を引いた。
元々中・遠距離特化の機体だ。 敵に自分が狙われていると気づけない距離からの狙撃も朝飯前である。
そういった意味では、砲撃を牽制に撃ちまくるルナマリアとはタイプに圧倒的な差があった。
フライトユニットも、究極的には障害物の無い空中からの砲撃を可能にするためにつけて貰ったに過ぎない。

 

――そう、自分には出来る。

 

自信があった。
その自信のままに引いた引き金だ。
接触タイミングまで永遠にも思える時間があった気もしたが、その瞬間はすぐに現れた。
いや、厳密に言えば『ティアナが想像しているよりも早く』着弾した。
さらに厳密に言えば、着弾はしなかった。
(弾かれたっ!?
 そんな、嘘でしょ!?)
ティアナが選んだのは長距離用ビームライフル。
名前は『ラドン』とか言ってた気がする。 神聖なる守人の一撃、という意が込められているらしい。
いや、そんなどうでも良い後付けの名前を考えている暇は無い。
――――――気づかれていた。

 
 

防壁がどういった物かわからないので、試しに実弾を撃ってみる事にする。
こちらの名前は『ヒュドラ』。 この弾はある程度飛んだところで分散する仕組みが、その首に似ているらしい。
しかし、そんな仰々しい名前の武器も無意味である事が判明する。
完全防壁かという一瞬の思考の乱れを、ティアナは首を振って否定する。
(そんなはずは無い。 そんなもの、出来上がっているはずが……。)
ならば、何らかの打開策は必ずある。
「まだいるの?
 正直、辛いわね……。」
連合の艦隊から、そのモビルアーマーはさらに二機、姿を現した。
一機ならまだしも、三機ではこちらが何らかの案を持たなければやられかねない。
とりあえず一度ミネルバ側に戻ってみるが、何にも考え付くはずも無く、その敵は眼前に迫っていた。
「ティア、どうしたの?」
スバルから通信が入る。
「あれ、変なバリアがあって」
破れそうに無い。
だが、
「わかった、Rキャリバーでやってみる」
スバルはそんな事では引き下がりはしないようだ。
とは、「なら、右のはあたしがやるわ」自分も同じではあるのだが。
「じゃあ左。 中央は……。」
「俺がやる」
スバルの声を遮ったのは、シンである。
そして、言うが早いか、フォースインパルスはバーニアを吹かせていた。
デカ物は、戦艦を始めとして、味方内で落とされると士気に関わりやすい。
先に叩いておくべきである事は、あのモビルアーマーの見た目、および砲門の大きさから見ても確実である。
残しておいてミネルバに取り付かれたらアウトだ。

 

Rキャリバーはその右手を構える。
突力では、ミネルバにRキャリバーの右に出るものはいないだろう。
「本気を出そう、Rキャリバー」
スバルが言うと、右腕に巻きつけられた黒い円状の物から、光が発せられる。
7連装のビームライフルである。
それを撃ちながらも、右腕はそれを当てる事よりも殴るポジショニングを優先している。
元よりそのビームライフルで突破できるとは思っていないのだ。
そして、接近から正拳。
防壁などは関係のない、純粋な力による一撃が装甲を掠める。
つまり、バリアを打ち抜いたのであり、そのRキャリバーの右腕が入る程度の穴があり、これだけ手を置くまで届けていれば、後は……。
――バキッと、鈍い音がする。
後は、右手を握って引き抜くだけで、『ただの機械程度』なら、機能は十二分に損害を受ける。
今回のこの相手は、「防御ができなくなったみたいだね」。
であれば、後は単なる大きい的である。
スバルは己が右の拳に置けるだけの重を置き、突き抜いた。
「ティア……頑張ってね」
自分に宛がわれた相手を破壊し終えると、友人の名を呟いた。
「それに、シンも……。
 あたしはズルしてるけど、二人は……。」
体中を覆っていた煙が晴れ、『二人との違い』を再認識してしまい、スバルはそれ以上言葉をつむげなかった。
ミネルバで出会った青年とも、もっと前から共にいる友人とも、スバルは違っていた。
それ故に、ずっと共には生きれない、歩めない……。

 

自分と言う存在こそが、咎と業で出来ていたのだから……。

 
 

「全く、また変な事考えてる気がしてきたわ……。」
ちょうど同時期、ティアナがそう呟いた。
彼女はスバルと違い、防御を破るに有効なてだてを持っていないため、苦戦しているといっていいだろう。
それでも、他事を考えていた。
自分には余裕があるんだと言い聞かせるように、仲間の存在を思い出して、奮い立つように。
そして、右の武器をもう一度構えなおす。
(一発一発だと弾かれるんなら……。)
同時に双方から発射してみれば、何らかの効果が得られるかもしれない。
それに、それ以外の攻撃方法に、このザクは欠けていた。
幸い、敵は『ただの』ナチュラルであったので、基本的な攻撃はティアナには当たらなかった。
当てられるほどゆったりとした射撃をしていなかった事も、勿論所以している。
『ラドン』と『ヒュドラ』を共に発射し、ティアナはザクを思い切り敵のモビルアーマーに接近させる。
そして、モビルアーマーの下方に回りこんだ。
先ほどの二発も、ここに来て単に足止めに使ったに過ぎない。『熱量を感知させ、そこにモビルスーツがあると思い込ませる』為でしかない。
地球に下り時間ができたときに、搬送されてきた『ビームダガー』。(モビルスーツの名前にあらず。)
右手をそれにもちかえ、バリアの張れない下方から突き刺した。
爆発とそれによる煙が、モニターを覆う。
その最中に、ティアナは状況を確認する。
自分とスバルを全く攻撃してこなかったモビルスーツ、ダガータイプはどうやらシンとミネルバを標的にしていたようである。
「あたしとスバルを攻撃してこなかったのは、やっぱり……。」
異な状況に答えを思いつき、呟く。
「やっぱりシンの相手だけ『普通』だったみたいね……。」
だから、ティアナたちはこの大型モビルアーマーを楽に破壊できたのだ。
『爆発による熱量』を『モビルスーツ』と勘違いするような相手だから……。

 

ついては、シン。
攻撃を見事に防がれながらも、適度に攻撃をしながら、今はどちらかと言うとダガータイプを減らす事を考えていた。
恐ろしいほどシンの耳元で鳴り響く機械音は、つまり自分を取り囲むモビルスーツの多量さを表していた。
ティアナの感じたとおり、『ある事情』から、現在シンは良く狙われる立場にいたのだ。
そして、強さを求め続けた青年は、それら吐いて捨てられたように現れ来る敵に押される。
数の暴力とは、如何なる時代でも、生まれに圧倒的な違いが在ろうとも、有効なのだ。
巨大なモビルアーマー、名をザムザザーと言うのだが、その形状は異質である。
前者2名が破壊する際に、その異質はこちらにとってプラスに働いた。
しかし、そこに別の敵が加わり、多対一となるのならば、これはマイナスになる事が多い。
なぜなら、「何であんな!! こんなの、シュミレーションには!!」と、シンの代弁曰く通りである。
統一性のない敵など、強弱関わらず、厄介以外の何ものでもない。
斬っては捨て、斬って捨て、斬り捨て。
レイとルナマリアのいるミネルバは、この数に立ち向かっていけてるのだろうか?
(いや、そんな事を考えてられる場合じゃないか……。)
シンは首を振って、気を持ち直す。
気にはなるが、レイがいるのだ。 ルナマリアだって、あれでも並び立つ人間だ。
そんな彼等とも、ここで自分が落ちていては次が無くなる。
負けられない。 負けたくないのだ、絶対に。
だから、インパルスの右足が奪われたときに、シンの視界が、大きく広がった。

 
 

その瞬間に、シンを視覚している人間は、その多くが驚いた。
それは敵は勿論の事、味方もである。
シンがミネルバに通信する事で、その衝撃がミネルバにも走ったのだ。
内容は、『シルエットと代えのパーツの射出』、つまり、空中の自由状態での変形、合体をすると言うものだ。
無茶だと思う人間もいた。 しかし、他でもない艦長が、シンを信じ、同じく他でも内心自身が、できるといった。
そして、ミネルバからの誘導無しで、シンは空中換装を成し遂げた。
それだけではない。
ミネルバの艦橋クルーの戸惑っている間に、大型モビルアーマーを撃破したのだ。
「あれが、あの議長がシンを選んだ理由なの?」
オーブでその戦闘を見ていたとある女性は、そう呟いた。
シンは数あるパイロット候補から、あの特機中の特機のパイロットに選ばれた。
カオス、ガイア、アビスと似て非なる、変形、合体、換装を可能とした次世代機。
決してシンの機体に対する適応能力が評価されただけではないとは、そこからもわかる。
ベテランを敢えて廃し、シンを迎え入れた理由は、二つ。
今、シンの見せた『あれ』と、『パトリックの元で戦争をしていない人間である事』である。
そうして選ばれたのがシン・アスカだった事は、最早悪い冗談としか思えない。
「シンの力が、悪いように使われているみたい……。」
俯き気味に、もう一言こぼれた。
シンは、戦艦にまで攻撃をしていた。
たとえ引こうとしている艦であっても、構わないようでもあった……。

 
 

次回予告

 

一つの辛い戦いは終わった。
しかし、それは長き歴史の中では、唯一つのシーンでしかない。

 

それでも、あの悪戦を苦闘し抜いた事は、ミネルバの重要性を良くも悪くも、再考察させるものとなる。

 

別の場所ではある青年達の下に、闇の刺客が訪れる。
その手から仲間を守るために自由の翼が再び舞い上がるとき、彼等ある女性に一つの話を聞く。
だから、彼等は新しい決意を抱くのだった。

 
 

NEXT「なら、少しお話しをしようかな……。」