Seed-Ace_579氏_第04話

Last-modified: 2013-12-25 (水) 22:40:21

『第三艦隊集結』

空が暗い。
眼下では僅かに霧がかかった海峡に3隻の空母と護衛艦艇が進入しようとしている。
俺達ウォードック隊は今、イーグリン海峡で内海に避難する空母の護衛をしていた。
ユークトバニアの奇襲により、オーシア軍は陸海空で被害を出していた。
だが、一つだけ奇襲に失敗している事がある。オーシア国防海軍の空母を全て撃ちもらしたことだった。
オーシア軍はこの無傷な空母を内海に終結させて再編成し、反撃の中核にするそうだ。
「それにしても嫌な天気だな。何か、出てきそうじゃないか?」
「よしてくれ。俺はそう言う話は苦手なんだ。ガキの頃なんかばあ様にラーズグリーズの悪魔の話を聞かされてトイレに行けなかった位なんだからな」
ペロー大佐曰く「かくも重要な作戦」の最中なのにハイネとチョッパーは緊張感の無い会話をしている。
まあ、無理も無い話だ。多数の戦闘機が上空で待機している上に外海側では多数のミサイル駆逐艦や潜水艦が網を張っている。
MSならともかく、この世界の戦闘機や戦闘艦艇ではこの海峡に接近するのは不可能だろう。
「ダヴェンポート少尉とヴェステンフルス少尉、作戦行動中だ。私語は慎め」
AWACSの管制官が二人に注意する。
コールサインは『サンダーヘッド』。チョッパー曰く『サンダー・石頭・ヘッド野郎』の堅物管制官だ。
「そうだ、まだ気は抜くな。ユークだって空母が内海に避難するのはわかっているはずだ」
ウォードック隊と並んで飛んでいるケストレルの艦載機隊の隊長が声をかけてくる。
チョッパーがセントヒューレット軍港で怒鳴られたという『ソーズマン』のコールサインのスノー大尉のようだ。
「でも、これだけの味方が居れば大丈夫ですよね」
「いや、撃ちもらした空母の戦力はバカにならない。何かしてくるはずだ」
安心しているグリムにブレイズが注意する。冷静な声だ。
俺は気を引き締め、操縦桿を握り締めた。

「こちらサンダーヘッド、敵の航空攻撃可能圏外に到達した」
サンダーヘッドの声に肩から力が抜ける。
結局の所、敵の攻撃は無く、ヴァルチャーとバザードが海峡を抜けてケストレルも海峡を抜けようとしていた。
「順次所属基地への帰還を許可する。遠方より飛来の隊には基地までの帰投用燃料を与える。空母上空で待て」
「周りは帰り始めてるぜ。俺たちはまだかよ」
「ウォードッグ隊。空母上空で給油機を待てと言っている」
「そうよ、給油機が逃げるわけじゃないから待ちましょう」
「やれやれだぜ」
会話を聞きながらさっと燃料の残量をチェック。サンド島まで帰るにはきついが空戦をするには十分と言った量がまだ残っている。
給油機を待つぐらい大丈夫だろう。
「おい。なんだこりゃ。レーダーの故障か?」
チョッパーの声にレーダー画面を見る。レーダーには敵の反応が内海側に?
「二人してレーダーの故障って訳じゃないよな。俺のでも捕捉している」
「こっちにも出てます」
俺とチョッパーだけじゃなくてグリムも捕捉している。故障じゃないぞ、これは。
「て、敵接近! 各隊戻れ! 空母を護れ!」
サンダーヘッドも補足したらしく、慌てた様子で帰ろうとしていた連中を呼び戻す。あの声では他の連中が動揺しないのか?
「ブレイズより各機、迎撃するぞ」
ブレイズがドロップタンクを切り離し、加速する。
「了解。エッジ、交戦」「チョッパー、交戦!」「アーチャー、交戦」「イグナイテッド、交戦」
「レッドアイ、交戦」
ブレイズに続いて俺たちもドロップタンクを投下、身軽になる。

内海側から現れた敵機に対して俺は真正面から接近。そのまま、ヘッドオンで機銃を放つ。
コックピットに被弾した敵機はコントロールを失って海面へと突っ込む。
見ればブレイズやハイネたちも敵機を落としている。
「こんちくしょう どこからきやがったんだ?」
ミサイルで敵機を撃墜したチョッパーが愚痴る。
確かにこいつらは内海から来た。どうやって内海側から? 空中給油を繰り返すにもオーシア領空を通る事になるので不可能だ
「こいつら、VTOLだ。そんなに長距離は飛べないはず・・・」
「そんな事、どうでもいいから撃ち落せ! 敵機ミサイル発射! 迎撃開始!」
味方の通信が混線している・・・VTOL? 良く見れば敵機はハリアーだ。
「まさか、潜水艦が内海に先に潜入してそいつがこいつらを発進させているんじゃ…」
「潜水空母ですか? そんなものが実在するなんて聞いた事がありませんよ」
どうやら、ハイネも俺と同じ事を考えていたらしい。
ザフトが使っていたインフェトゥスはVTOL故にボズゴロフ級潜水艦に搭載されて運用されていた。
古いとは言え、ハリアーもVTOLだ。それを搭載できる潜水艦がいたとしても…
「レーダーにさらなる戦闘攻撃機確認。長距離対艦攻撃を行う腹積もりらしい。やつらの接近を許すな、こちらから迎撃せよ」
サンダーヘッドの報告に俺は考えるのを止めた。今は考えるよりも敵を撃ち落すのが先決だ。
レーダーに敵機が映る。その内の何機かは僅かながら遅い。こいつらが対艦攻撃機か?
「迎撃します。レッドアイ、援護を」
ナガセさんが対艦ミサイルを積んだF-35に攻撃を仕掛け、それを狙おうとしたハリアーの後に俺が付く。
ハリアーはナガセさんへの攻撃を中断して俺を引き離そうとするが俺はしっかりと喰らい付いていく。
貰った…そう呟きながらトリガーを引き絞ろうとした瞬間にハリアーが急減速。
奴はノズルの角度を変えて急減速していた。俺はそのまま、オーバーシュートしてハリアーに後を取られる。
攻守が逆転して今度は俺が追われる身だ。奴は追い回した恨みを晴らすように機関砲を発射してくる。
機関砲弾が幾度もキャノピーを掠めていく。それに俺は焦り、回避するので精一杯で引き離す所ではない。
突然、ハリアーの射撃が止む。急旋回しながら後を見た俺が目にしたのは火を吹きながら落下するハリアーだった。
「大丈夫か、レッドアイ?」
ハリアーを片付けたF-14Aが直ぐ横に並ぶ。ケストレル戦闘機部隊のスノー大尉だ。
「な、何とか…」「敵はかなり腕がいい。動きに惑わされるな」
そう言い残すと彼は翼を翻して再び敵機へと向かう。
俺のF-1はどうやら被弾した様子は無いようだ。さっきの借りを返そう・・・そう考えて俺もスノー大尉に続く。

結局、俺はその日は借りを返すことはできなかった。
スノー大尉は敵機に後ろに付かれても直ぐに引き離し、後を取って撃墜する。
俺が助ける必要なんて無かった。
俺はと言うとその後もハリアーのトリッキーな動きに翻弄されてた。
まあ、ハイネやブレイズたちと連携して何とかしていたけど・・・気が付けばもう、敵機は居なくなっていた。

敵機が全滅し、やっと周りが静かになった。
俺達はサンダーヘッドの指示でケストレルの上空で編隊を組み、待機する。
少し離れた所にはスノー大尉が率いる編隊が居る。
「おーい、サンダーヘッドよ。早くこっちにも給油機回してくれよ。派手にぶん回したから最寄の飛行場に行く分しかないぞ」
「機体が腹ペコで空母に着艦したい気分だ。給油機が来なかったら無理やり着艦して空母の燃料までタンクに入れてしまうかもしれないぞ」
「ウォードック、防空任務は解いたが私語は慎め。ケストレル上空で給油機を待てと言っている」
「「へいへい」」
チョッパーとハイネのサンダーヘッドとのやり取りに誰かの笑い声が無線に聞こえる。
俺自身も笑い声を上げていた。この際、サンダーヘッドに注意されても構わなかった。
無線のコール音がなる。お決まりの私語を慎めだと思って無視しようと思った。
だが、サンダーヘッドの声は切迫していた。
「弾道ミサイル接近!」
サンダーヘッドの声に反射的に上空を見る。空から何か黒い物が落ちてくるのが見えた。
これだけの艦艇と航空機がいる所に一発だけミサイルが飛んでくる・・・最悪の事態を想像する。
俺はその想像に凍りつき、動けないままそれは前方の空母の上へと落ちていき、炸裂した。
衝撃が愛機を揺さぶり、俺は目を閉じた。

目を開けた時、俺はまだ生きていた。編隊を組んでいたブレイズたちも無事だった。
だが、前方・・・ミサイルが炸裂した場所は地獄だった。
三空母で一番前を航行していたバザードは火災を起こしながら傾斜し、その周りを航行していた護衛艦艇も火災を起こすか、又は傾斜し、中には既に沈没しているものもいた。
そして、その上空はもっと悲惨だった。
バザード上空を飛行していた護衛機の姿はたった2機だけになっていた。
「核じゃない・・・じゃあ、なんなんだ!? この世界にこんな兵器があるなんて・・・」
元の世界でも見た事も無い兵器の威力に俺は混乱しかけていた。
「誰か! いったい何が?」
「分からん、とにかく高度5000フィート以下のものは全滅した!」
5000フィート・・・約1500m。確かに着弾点付近の生き残りは5000フィート以上を飛行していた。
「ミサイル第二弾飛来!」
サンダーヘッドが再び弾道ミサイルの接近を告げる。
「くそう! 生き残りたければ、弾着までに高度5000フィート以上に上昇しろ。各機急げ! ケストレル、避退しろ!」
「みんな、5000フィート以上に上昇しろ! 今はこれにかけるしかない」
スノー大尉の切迫した声にケストレルとヴァルチャーを始めとした生き残りの艦船が2発目の弾道ミサイルの魔の手か逃れようと退避する。
俺も・・・いや、上空に居る護衛機全ても生き残る為に5000フィート以上を目指して上昇する。
「着弾まで後10秒、8、7…」
スロットルを叩き込むように前進させてアフターバーナーを点火。だが、弾着まで10秒をきったのに高度はまだ4500フィート。
「5、4、3、2、弾着、今!」
サンダーヘッドのカウントとほぼ同時に弾道ミサイルが炸裂し、再び衝撃が襲ってくる。

俺は・・・生き残った。
いや、ウォードック隊の面々も皆、生き残っている。
高度計を見れば高度は5050フィート・・・ぎりぎりで間に合ったようだ。
周りを見ればスノー大尉の隊を始めに幾つかの飛行隊は生き残ったらしい。
だが、それ以外は悲惨だった。
5000フィートに上昇することが間に合わなかった護衛機は消滅するか火の玉になりながら落下し、海上でも爆発に巻き込まれた艦艇が幾つも沈没しようとしていた。
「ヴァルチャーが直撃を食らった! 轟沈する!」
無線からは生き残りの艦の悲痛な声が聞こえる。
2隻目の空母ヴァルチャーも巻き込まれ・・・否、ほぼ直撃を受けて船体が真っ二つに折れて沈没しようとしていた。
バザードの方は既に艦首を海面に突き出した状態で海底へと没しようとしている有様だ。
もはや、海上で生き残っているのはケストレルとその周りに居た艦艇だった。
「空母が2隻も・・・あんなにいた味方機がこれだけしかいない」
「それに帰る燃料もねえ」
チョッパーの言うとおりだった。残存燃料はサンド島に帰るのは無理な量に達していた。
「サンド島隊、空中給油機を回せない。そのまま北東へ進みハイエルラーク基地へ向かえ。地上で給油を受けよ」
「了解」
サンダーヘッドが給油地を指示する。だが、本来はこの世界の人間ではない俺にとってはハイエルラーク基地の場所が分からず、コックピット内に持ち込んである航空地図を取り出し、位置を確認する。
イーグリン海峡の北東・・・あった。ギリギリだが何とか辿り着ける距離だ。
「ブービー! やい!」
編隊を組みながらチョッパーが声を上げる。
「隊長って呼ばなきゃ」
「違うんだ。隊長なら隊長らしく、俺たちのことをボロクソにいって欲しい・・・あの声がねえとさびしくって、だめなんだ」
「確かに万年大尉のおっさん、ボロクソに言うけど・・・なんか、楽しいんだよな」
「今日も僕たちを無事に連れ帰ってくれたんだよ。今では彼が僕らの隊長なんだ」
「そのとおり。そして私は二度と私の1番機を失わない。どこまでも援護する……」
そういえば、ナガセさんを庇って万年大尉は撃墜されたんだっけ…まだ、その事を気にしているのだろうか?。
その後は余り喋る事無く、北東へと俺達は飛んだ。

後日、第3艦隊を壊滅させた化け物の正体が司令部から知らされた。
弾道ミサイル搭載潜水空母・・・『シンファクシ』
潜水艦でありながら空母としての能力を持ち、広い範囲を破壊する散弾弾頭を搭載した弾道ミサイルを搭載するCE世界にも居ない化け物潜水艦だ。
俺はMSでもない限り、こいつには勝てないと思って神様にこいつとまたで会わないようにって願った。
でも、この世界に俺を飛ばしてくれたので神様が力を使い果たしたのか、俺の願いを神様が聞いてくれなかったようだ。

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