Seed-Crayon_5-660_4

Last-modified: 2012-05-14 (月) 10:11:16

さらば愛しき人よ!だゾ・その4
 
 すべてはシンが知る歴史の通りになろうとしていた。
 パナマを失った大西洋連邦はオーブ連合首長国に対して最後通告を勧告、対してウズミ・ナラ・アスハらオーブ首脳陣はこれを拒否。
 かくしてオーブと連合軍との戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
 
 
しん  「シン兄ちゃん!センソウが始まったみたいだゾ!」
シン  「ああ…しんちゃん、確認するよ?
     俺達の目的はアスカ家、つまり俺の家族を無事シェルターに辿りつくまで影ながら守る事だ。
     それもデスティニーにミラージュコロイド毛布を纏わせて隠密裏に、ね」
しん  「なんで隠れるの?堂々と姿を見せて戦うのがヒーローだと思うゾ?」
シン  「俺達は本来、『この時代に居てはいけない存在』なんだよ?歴史にあまり介入しない方がいい。
     だから俺はマリューさん達に偽名を使ったんだし、一諸にオーブに行かなかったのさ…
     万一デスティニーの技術がオーブに知れると、歴史が変わる恐れがあったからね」
しん  「ほうほう、シン兄ちゃんは色々考えていたんですなあ。それじゃオラ達は秘密のヒーローをするって事?」
シン  「そういう事!それじゃ行くよ…
     シン・アスカ、野原しんのすけ!デスティニー出る!
 
          *          *          *
 
マユラ 「アサギ!連合のMS部隊よ!」
アサギ 「この、この!何よ…性能はともかく、数が多すぎるわ!このままじゃ数で押し切られるわよ!?」
ジュリ 「泣き言を言う暇があったら手を…きゃあ?」
 
 ジュリのM1アストレイが、ストライクダガーの一体に体当たりを食らわされて転倒する。
 そこへ別のダガーがジュリの機体に狙いをつけた。
 
ジュリ 「っっ!お、起きて!アストレイ!は、早く……あ、ああ……」
 
 その時、ライフルを構えたダガーの腕が突然爆発した!いや、それだけではない。付近にいるダガーの全てが次々と腕や足、頭が爆発していく!
 
アサギ 「え?え?な、何これ?どうなってるの…?」
マユラ 「誰かが長距離狙撃しているの?それとも敵の整備不良?まさか!何がどうなって…」
ジュリ 「き、きゃあ!」
マユラ 「どうしたのジュリ?!」
ジュリ 「い、今なにもない空間に2つの目が光ったのを見たの…も、もしかしてあれがハウメアの守り神様……?」
アサギ 「ハウメアの女神様が助けてくれた…?そうよ、私達には守り神様がついているのよ!
     連合軍の侵略者なんかに負けるもんですか!」
マユラ 「よ、よ~し……行くよ2人共!オーブを私達の手で守るの!
     ハウメアのご加護があるんですもの、必ず勝てる!」
2人  「「了解!」」
 
 
 言うまでもなく、守り神の正体はミラコロ毛布をマントのように付けたデスティニーだった。
 ロウが修復したデスティニーがジュリを助けたのは偶然だったのだろうか?それとも…?
 ちなみにこの戦いの後、大西洋連邦軍がオーブを終戦まで一部占領したのだが、強度の心的ストレスに悩まされて別の基地に転属を願う将兵が続出した。
 その理由の多くは、目に見えないオーブの亡霊が侵略者を襲うという噂に悩まされてのことだとか……真偽のほどは定かではない。
 
          *          *          *
 
 戦火燃え盛るオーブの空を、シンとしんのすけを乗せたデスティニーが駆け抜ける。目指す所はただ1つ…
 
 
シン  「俺の父さんはモルゲンレーテに勤めているんだ!
     機密保持の書類整理のためにギリギリまで避難が遅れて…
     俺と母さん、マユは父さんが帰ってくるのを待って避難したんだが、その時には…」
しん  「もうあっちこっちのシェルターがいっぱいだったんだよね。
     それで、空いてるシェルターに行く途中でやられちゃったんだっけ?」
シン  「ああその通りだ!確かあの時、空でフリーダムが連合のMSと戦っているのが見えた!
     だからフリーダムが戦っている位置を目指せば・…
     しんちゃん、しっかり地上をモニターしていてくれ。俺の家族を早く見つけ出してくれ!」
しん  「ブ・ラジャー!おらにおまかせすれば大丈夫だゾ!」
シン  「頼む…見えた!フリーダム!と、どこかで見たような3機のMS!データ検索…
     あれは当時の地球連合所属の新型機、カラミティ、レイダー、フォビドゥン。
     パイロットは…あの3人組か。あの動きを見ていると何か納得してしまうな」
しん  「シン兄ちゃん!見つけたゾ!この人達じゃない?!」
シン  「…!間違いない…父さん…母さん…マユ…
     あッ!俺が家族から離れた…まさか!うおおおおお!
 
 
 マユが落とした携帯を拾うため、当時のシンが来た道をとって返す。
 その瞬間…3人の頭上にビームが降り注ごうとしていた。
 それがフリーダムが撃ったものか、カラミティが撃ったものか、それは分からない。
 ただ1つ分かっている事。それは……そのビームがシンの家族3人の命を確実に奪うという事実。
 デスティニーに乗っているシンには見えた。そのビームが…だから!
 
 
シン  「もっと!もっと速く動いてくれデスティニー!俺は守りたい!今度こそ大切な人達を…
 
     守りたいんだぁぁぁぁ!
 
しん  「シン兄ちゃん!デスティニーはきっとシン兄ちゃんの想いに答えてくれるゾ!そしてオラも!」
シン  「そうだ!俺と…しんちゃんの2人で必ず守る!
 
     だから、だから行け!デスティニーッッ!
 
 
バシュン!
 
 
マユ  「きゃあ!」
父   「むッマユ大丈夫か!ケガはないか?」
マユ  「う、うん平気だよお父さん。転んだだけだから。でも…」
母   「どうしたの?」
マユ  「今、誰かがマユ達を守ってくれたような気がしたの。お兄ちゃん…?あれ?」
シン  「お~い、マユの携帯あったぞ…近くに落ちてた!って父さん達まだこんな所にいたのかよ!
     早くシェルターに行かなきゃいけないんじゃないの?」
父   「シン!そ、そうだな…行こうみんな!」
シン  「ほらマユの携帯。行くぞ?兄ちゃんの手を離すなよ!」
マユ  「うん!ありがとうお兄ちゃん!」
 
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
 
しん  「シン兄ちゃん、みんなシェルターに入ったみたいだゾ。
     おら達マユちゃん達をお助けできたんだゾ!……シン兄ちゃん?」
シン  「…うっ…ぐすっお、俺…守れた。初めて…大切な人達を…守れたんだ、俺。やっと…ううっ」
しん  「シン兄ちゃん……まだ終わっていないゾ!」 
シン  「っ!そ、そうだ。シェルターだって絶対に安全ってわけじゃないんだ!
     だから俺達が次にやらなきゃいけない事は…」
しん  「やらなきゃいけない事は…」
 
2人  「連合軍を徹退させる事!」「だゾ」
 
          *          *          *
 
 キラがオルガ達に手こずっている頃…アスカ家が避難したシェルターの近く。
 そこは数多くのダガーが投入された激戦区の1つになっていた。 
 なぜなら、ミラージュコロイド毛布を脱いだ未知のMSが鬼神のごとく戦っているからだ。そして…
 
連合兵A「何だよこいつは?!速い…攻撃が当たらない!」
連合兵B「後ろに目でも付いているのかよ!どこから攻撃しても死角がない…うわあああ!」
連合兵C「ぐう!コクピットを狙わないとは!余裕を見せているつもりか貴様ァァァ!」
 
しん  「おお~!シン兄ちゃん強い強い~~!」
シン  「……不思議だ。この感覚…SEEDを覚醒した時とも違う。今まで感じた事がないこれは…
     そうか。そういう事なのか……」
 
 シンは戦いながら思う。
 
 (俺がザフトにいた頃、戦闘で思ってた事は1つだけだった。
  敵より速く動き、敵より強力なパワーで確実に敵を倒す。
  確実に倒す為にはコクピットを狙えばいい。
  手や足を撃つのは不確実だし、反撃される恐れがある。
  大抵の相手はそれで勝てた。だけど…)
 
シン  「っ!そこ!」
連合兵D「ぐわあっ!ダガーの右腕が…!何故だ!なぜ後ろからの長距離狙撃が分かった!?」
 
 シンは戦いながら、さらに思う
 
 (キラさんやアスランには勝てなかった。
  どんなに速く動いても、どんなに強い攻撃でも…
  まるで俺の全てを見透かされているように。
  俺が放つ全ての攻撃が回避され、防がれてしまう。
  …あの時、俺はあの2人との実力差に大きな壁を感じた。
  何で勝てない!何で奴等はこんなに強いんだ!…って。
  でも今分かった。俺とあの2人に大きな実力差なんてなかったんだ。
  じゃあなぜ勝てなかった?それはたぶん…)
 
シン  「俺は『見えているつもり』だった!でも本当は何も見えていなかったんだ!そこと…そこだぁ!」
連合兵F「クソ!海中に潜んでいるダガーをも見抜いたのか?
     このバケモノめ!お前は全てを見通す目を持っているとでも言うのか!」
 
 シンは戦いながら、自分の疑問に対する結論に到達した。
 
 (以前の俺は敵を倒す事しか頭になかった。でも今はどうだ?
  心が軽い…頭の中がすごくクリアーになって全身の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる!
  だから目で見なくても肌で分かる。
  敵の動きが、敵の位置が、それどころか敵が何を考えているのかさえ…
  心を広く持つだけでこんなに違うなんて。
  これがキラさんとアスランに俺が勝てなかった理由。
  2人に見えて以前の俺に見えなかったもの。
  俺はもう憎悪に囚われて自分を見失なわない!そして守る!そのためには…)
 
シン  「デスティニーという力だけでも、守りたいという想いだけでもダメなんだ。
     それを悟った今の俺には…コクピットを狙わずともMSを無力化できるポイントが見える!
     そこぉ!」
連合兵G「な、何ィ?腰にビームがかすっただけでダガーが…制御不能?!
     あ、あいつはダガーの機能がどこにあるのかさえ見抜いているのか?
     か、勝てない…勝てるわけない!あんなバケモノに…!」
 
しん  「いいゾ、シン兄ちゃん!後少し!」
シン  「もうすぐだ!もうすぐ連合の第1陣は徹退するはず!もう少し頑張れば!」
 
 
 ―だが…シンとしんのすけは、ほんの僅かではあるが歴史を変えてしまった。
  その反動が今、別の所で出ようとしていた―
 
 
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