Seed-NANOHA魔法少年_第02話

Last-modified: 2008-05-07 (水) 09:34:28

俺、シン・アスカは何の因縁か、魔道師となって訓練校に通うことになった。
御伽噺ぐらいだと思っていたけど、本当に実在した魔道師。
これから、どうなっていくのかと思えば、まあ気になるといえば気になる。
ただ、俺のルームメイト。
若干12歳、しかも女というスバル・ナカジマ。
彼女が、この訓練校での自分のパートナー。
いったい、これからどうなってくのか、さっぱり予想がつかない。
なにもおきなきゃいいんだけどな……

 

ここは、ミッドチルダの陸士訓練校。
ほとんどの魔術師がこの学校に入り、現在でも管理局の半数以上を占める陸戦魔道師の訓練校でもある。
「1番から順番に訓練用のデバイスを選択しろ。
ミッド式は片手杖か長杖、近代ベルカ式はボールスピアのみだ。ただし、自前のものは自前でやってもかまわん」
入学式も終わり、それからすぐに最初の訓練が始まった。
生徒たちは、この学校で使うことになるデバイスを受け取っていく。
しかし、その中でそこにいかないものが二人。
「おい、お前のデバイスは?」
シンはさっきからデバイスを取りにいかないスバルに、なぜとりにいかないのかたずねた。
まあ、その理由もおそらくは自分と同じなのだろう……と、シンはさっきからスバルが持っている箱を見る。
「あ、私はベルカ式なんですけど、変則ですから自前なんです」
そういって、箱の中からスバルはなにかを取り出した。
それは、一組のローラーブーツと……
(なんだよ、あれ?)
一見すると、MSのマニピュレーターに見えなくもないグローブのようなもの。
ただ、そのグローブにもローラーのようなものが施されている。
スバルはそのグローブとブーツを慣れた手つきで装着した。
「私はローラーブーツとリボルバーナックル。去年からずっとこれで練習してるんです」
ぐっとナックルで握りこぶしを握り、スバルは満面の笑みを浮かべる。
年齢とおとなしそうな性格に似合わず、彼女は前衛……それも至近距離でのクロスレンジに特化していた。
扱うのがスバルのような子供でも、これでは魔力を使わなくても殴るだけでもかなり痛いだろう。
ただ……
(スバル……ローラー……微妙に親近感が沸くのは何でだ?)
自分はこんな装備は見たことがないはずなのに、何か彼女の名前、そしてデバイスに奇妙な……何か懐かしい感じがするのだ。
「ん、どうしたんですか?」
そんなシンに、スバルは首をかしげながら尋ねた。
シンはなんでもないといいながら視線を前に戻した。
もうそんなことを考えるのはやめておこう。
「それで、アスカさんも自前なんですか?」
逆にスバルもシンを不思議そうに見る。
スバルとは違い、シンはデバイスを持っていないようにスバルは見えた。
「俺もお前と同じで持ち込み」
そういうと、シンはポケットからあるものを取り出した。
あの時、病室で自分がいつの間にかかけていたデスティニーの翼をイメージしたペンダント。
シンはそれをいまだに持っている。
シンは、これが何を示しているのかさっぱりわからなかった。
だが、管理局に入ると決めたとき、ミゼットはそのペンダントのことを話した。
シンが持っているペンダントは、今訓練生が持っているような支給品ではなく、完全に実践向けのインテリジェントデバイス。
おそらくMSのデスティニーがこうなったのだろうが、なぜこうなったから自分もわからない。
まあ、まだこの世界について自分はわからないことばかりだ。
こういうこともあるのだろうと、自分なりに無理やり話を終わらせた。
それで、シンは先ほどの疑問、なぜ男である自分と女であるスバルが組まされたのかも納得がいった。
自分がスバルと組まされた理由。
お互いが自前のデバイスを持ち込みだからだろう。
変則同士は変則同士で組め、ということか。
「あ!インテリジェントデバイス!!」
スバルはまだそういうものにお目にかかったことがないので、そのシンが持つデバイスをまじまじと見る。
「おい……声がでかい」
シンがため息混じりにつぶやき、スバルはん?とみんなのほうを見る。
スバルの大声に、周囲の視線は自分たちに集中していた。
その原因は、もちろんスバルの大きな叫び声である。
「さっさといくぞ」
「え、あ……」
なんとなく、ここには居づらいかと思ったシンは、スバルの手を引いて、さっさと訓練場の方へと向かっていった。

 

「そろそろ入学式が終わる頃だな……」
ミッドチルダの、時空管理局地上108部隊で、ゲンヤ・ナカジマ三左は、時計を見てため息をつく。
そろそろ自分の娘が入る訓練校の入学式が始まるところだろう。
「しかし、ちゃんとあいつはうまくやれてんのかね」
ゲンヤは心配でならなかった。
あの泣き虫だった娘が管理局に入りたいと言ったときは、本当に驚いた。
「大丈夫ですよ、あの子はちゃんとやれているはずです。ちょっと内気なところが心配ですけど」
そこに、自分のデスクにお茶を置き、彼に笑みを浮かべる少女がいた。
その少女はスバルほどではないが、まだ幼い。
大体14歳くらいといったところだろうか。
「俺は、お前やスバルが管理局に入るのは反対だったんだがなぁ」
はぁ、と出されたお茶を飲み、のどを潤すゲンヤ。
彼はスバル、そして目の前の少女、ギンガ・ナカジマの父親である。
彼は、娘が管理局でいることにあまり賛同的ではない。
娘の身を案じるのは、親であれば当たり前なのだが、もしかしたら証書独活が過ぎているのかもしれない。
「だけど、あの子はもう決めちゃったから。あの子の頑固さはすさまじいですから……」
「ああ、まったくだ」
と、二人はあのときの何を言っても聞かないスバルを思い出す。
ゲンヤはだめだ、ギンガがもう少し考えたら?というが、スバルはずっと反論したのだ。
あの娘の頑固さは、
「けど、あの子はもう決めちゃった。出会っちゃったから……あの子が進む道を。そのきっかけを作った人を」
そう、1年前、あのときにスバルは出会った。出会ってしまった。
自分の道を決定付けることになったあの人と。
そういって、ギンガはゲンヤのデスクにあるひとつの写真を見る。
そこに移っていたのは、ギンガにそっくりな女性だった。
「きっと、母さんも喜んでくれているはずです。あの子が自分の道を進んでくれていることに」
「だといいんだがな……」
と、ゲンヤもその写真を見て、ふぅっと一息入れるのだった。
はたして、あの子がこれからどうなることやら……

 

「次!Cグループ!ラン&シフト!」
「はい!」
そのころ、訓練校では、早速訓練が始まっていた。
今行っているのはラン&シフト。
目標物を確保し(今回の目標物はフラッグ)即座に陣形を展開させる訓練である。
これは、ロストロギアなどの危険物、あるいは人命救助後などに迅速に行動するための訓練である。
そこに、出番を告ぐに控えた心とスバルがいた。
そのシンが持っているのはひとつのライフル。
入院時、デバイスを聞かされたとき、ためしにシンがそのデスティニーの翼を模したデバイスとやらにためしにデスティニーと語りかける。
すると、『音声認証受任、了解しました』という言葉とともに、シンはいつの間にかこの銃が握られていた。
『おはようございます、マスター』
シンは、起動させた後にデバイスがしゃべりだしたのも本当に驚いた。
何でも、デバイスには高度なOS(オペレーションシステム)のようなものがあるらしい。
入院時、暇だったシンはデスティニーを話し相手にしていたとか……
まあ、今となってはそんな過ぎ去ったことなので、もうどうでもいいのだが……
今、シンがもっている銃は、シンが元の時代で乗っていたMS、デスティニーのライフルに酷似していた。
これ以外にも、デスティニーの装備を模したものも使えるとデスティニーは言っていた。
ただ、今は訓練中だから別にアロンダイトや長射程ビーム砲といった強力な武器を使う必要はないし、今のシンでは扱うことは難しい。
ミゼットも「最初は少しずつ慣らしていくのが普通」と言っていた。
(けど、いつかすべてを使いこなしてやる!)
ライフルを見て、シンは決意し、しばらく相棒となるスバルを見る。
その姿から、いかにも緊張しているといった表情で前を見る。
「えっと……あんま緊張すんなよ」

 

「は、はい……わかっています!」
本当にわかってんのかよ……と不安に思ったが、なるようにしかならないと前を見る。
「お前は前衛タイプだ。俺がサポートするから先行を頼む」
「は、はい!」
もうすぐで晩なので、二人は所定の位置について構える。
すでにこういう訓練には慣れ、落ち着いている(実戦を幾度となく経験済み)シンに比べ、スバルは心臓の鼓動があふれるのがいやでも理解できた。
(これから、私が目指す道が始まるんだ)
今日から、自分はスタートする。昔とは違う、新しい自分に。
そう決意し、スバルもクラウチングポーズをとり、そのときを待つ。
そして、すぐにそのときは訪れた。
「つぎ、32番。用意はいいな!」
自分達の番号場呼ばれ、二人ははい!と返事をする。
「よし、それじゃセット……」
教官の言葉に、二人はさっと構える。
スバルは、スタートダッシュのためにローラーブーツのローラーを回転させ、ギュイイィィーーンという高い回転音が周囲に響き渡る。
ただ、シンはなぜかそれがいやな感じを余計に膨張させた。
そして、GOという言葉とともに、スバルのローラーブーツがうねりを上げた。
「いっくぞーーー!!」
「どわぁ!!」
その瞬間に発生した余波、そして砂煙がシンを襲う。
とてつもなくいやな予感は、やはり当たったようだ。
そんなことを知るはずもないスバルは、フラッグに向かって一直線に進む。
それはもう気持ちのいいほどに。
途中にあるコーンをも吹き飛ばして……
「よし!フラッグポイント獲得!!」
そして、そのままフラッグを獲得し、いわれたとおりに陣駅を展開しようとしていた。
しかし、ふと見るとそこにはシンは折らず、ピピーーーー!!という笛の音が聞こえるだけだった。
「32!馬鹿者、何をやっている!!」
「へ?」
突然じぶんを呼ばれ、スバルはそのほうを見る。
そこには、かんかんに怒っている教官と……
「えっほ、えっほ……」
スタート人の砂塵でむせ返っているシンの姿だった。
「安全確認違反!コンビネーション不良!視野狭絞!連帯責任でナカジマは腕立て20回!!アスカは40回!」
「は、はい!」
「うえっほ……はい……」
こうして、訓練が始まりいきなりの罰則を受けることになった二人。
「頼むから、ちゃんとしてくれ……」
「ご、ごめんなさい……」
スバルはしょぼくれながら腕立てをする。
「ま、そう気を落とすな。失敗は誰もあるさ」
そういって、シンもさっさと腕立て40回を済ませようとする。
失敗は誰でもする。
自分もアカデミー時代ではいろいろとやらかしてきたのだ。
そこで、シンはスバルが自分を見ていることに気づいた。
「す、すごいですね……」
「ん?」
スバルの視線にああ、と気づいたシンは腕立てをしながら体を支えている左手を見る。
スバルは両手でしているのに、シンは片手で行っているのだ。
「前はずっとこれをやらされてるからな」
「前?」
シンはあ……、と気まずそうな顔をする、
さすがに「俺は時空漂流者で、前の世界で軍人していてそれでそう習った」なんていえるはずもない。
どうしたものか……
「おい32、終わったのならさっさと来い!」
「は、はい!」
そこに、救いの手を差し伸べてくれた教官の声に、シンはそのほうへ向かい、スバルもそれを応用にして走っていく。
どうにかこれでうやむやにできた。
ありがとう、教官。

 

シンは珍しく教官に礼を言いながら、そそくさをそのほうへ向かう。
「次は垂直飛超か……」
シンは、目の前に立つ壁を見てつぶやく。
押し上げたり、引っ張ってもらったりして、協力しあいながら二人で高い壁や段差をよじ登る訓練。
アカデミーでも腐るほどやった訓練だ。
けど……とシンはスバルをみる。
リボルバーナックルなんてものを持つから、腕力には自身があるのだろうが、
どう考えても12歳ほどの女の子がもうすぐ17歳になる男を持ち上げたり、支えたりできるはずがない。
(しょうがない……)
と、シンはため息をついてスバルをもいる。
もう失敗しないようにと、どこか気持ちを引き締めているようだ。
「俺がお前と持ち上げるから、お前が上から引っ張りあげてくれ」
と無難な案を出し、スバルもそれにうなずいた。
「いくぞ!」
「わかった!」
まず、シンはスバルを押し上げるのだが、ローラーが食い込んで痛かったことを除けば、うまくいったといえるだろう。
さて、問題は次だ。
スバルが自分を持ちあげられるか……
まあ、やってみてだめならほかの手段を考えるまで。
「スバル、頼むぞ」
「う、うん!」
スバルは集中して、シンの右腕をがっちりと持支える。
(今度こそ…)
今度はミスをしないようにシンを持ち上げる。
ただ、やはり男性のシンは重く、少々苦戦していた。
う~~ん……ちと苦しそうにするスバル。
それを見て「やっぱ無理か……」とシンは一人で上ろうとする。
(やっぱり、一気にいかないと……)
そう思ったスバルは一気に力を入れて、一気に持ち上げようとする。
「うおりゃぁーーーーー!!」
スバルは懇親の力を入れて、シンを持ち上げようとする。
一気に魔力を放出し、それによって上げられた身体能力でシンを引き上げる。
しかし……
がら……
「ん?」
「へ?」
足場は悪いせいか、ローラーが邪魔になり、ガクンと体制を崩すスバル。
そのまま、二人は仲良く地面に落ちることとなった。
「ご、ごめんなさい……」
「………はぁ……」
必死で謝っているスバルに、シンは黙ってため息をつくしかない。
「32ーーー-!」
そこへ、先ほどのように教官の叫び声が聞こえていきた。
「練習を一時中断して一度引っ込め!!」
「は、はい!」
「はいはい」
教官の怒鳴り声にスバルは急いで、シンは諦めを入れてとぼとぼと。
「こらアスカ!さっさと動け!」
「はいはい!!」
「はいは一回だ!罰として反省清掃のあと、もう一度腕立て40回!」
「はい!!」
いちいちやかましい教官、そしてくすくすと笑っている同僚たちを尻目に、シンもさっさと移動する。
(あの時も、こんなことあったっけ?)
アカデミーのときでも、自分はいろいろと教官に絞られたし、衝突しあったことを思い出す。
あのときの懐かしい日々。
おそらく、これからも繰り返していくのだろう……

 

「あ、あの……本当にごめんなさい!!」
少し離れた場所に移り、大きくため息をつく真に、スバルは深々と頭を下げて誤る。
さっきからこの少女、謝ってばかりだ。
「いいって。さっきのは俺の判断ミスだ。おまえの体格のことだけしか考えてなかった」
あんなローラーをはいていて、人を支えることは難しいと最初に気づくべきだった。
「こ、今度はちゃんとやるから、アスカさんに迷惑かけないようにがんばるから……」
それでもどこかいじいじした、それでいて謝るときのありきたりたりな誤り方をする彼女を見て、シンもさすがに少しいらいらしてきた。
「だから、別にいいって言ってるだろ?それとも、今までは遊びだったのか?」
少々きつめに言ってしまったシンだが、遊び、という言葉おきいて、スバルはむっとして反論した。
「ち、違います。遊びなんかじゃありません、ちゃんとまじめに、真剣でやってます!」
先ほどまでとは違い、スバルはりんとした、それで決意を見せた目でシンを見る。
さっきまでの気弱そうな分意図一変した雰囲気に、シンは少し後ずさる。
なんなんだ、こいつは……
「わ、わかった。とりあえずさっさと掃除して、反省を言ってから散会するから、さっさと掃除道具を取ってきてくれ。
俺はその間に腕たてを済ませておく」
シンの手っ取り早い説明にうんとうなずいて、スバルは用具倉庫へと向かう。
「あと…」
「ん?」
こんどはなんだろう、とスバルはシンを見る。
「アスカさんなんて行儀よくしないで、シンって呼んでいいし、敬語で話す必要はない」
「え……」
「今はチームメイトだろ?スバル。なのにいちいち丁寧に言われるのは変だからな」
シンの言葉に、最初はぽかんとしたスバル。
だが、すぐにその顔が笑顔になって、うんとうなずく。
「じゃあとってくるね、シン!」
そういって、スバルは駆け出していった。
それを見たシンは、笑みをこぼしながらさっさと腕立てを済ませようとする。

 

スバルは道具を取りに行きながら少し考えていた。
あこがれて、見上げて……希望で進んだ魔道師への道。
(あたしは、やっぱりだめで弱くて、情けないけど……)
でも、決めてしまった。出会ってしまった。
あの日から……
スバルは肌身離さず持っている、一つの写真を取り出す。
その写真の写っている人みたいに、星の空みたいなあの人にほんの少しでも近づきたい。
だから、今時分はここにいる。
スバルはそう思いながら、ほうきとちりとりを持つ。
「よし!がんばるぞーーー!!」
気合ともに、おーー!と叫ぶスバル。
すべては自分が決めたことだから……