Seed-NANOHA魔法少年_第05話前編

Last-modified: 2008-06-24 (火) 20:31:45

私は、他人のことなんてそんなに思ってもいない。
そりゃあ、コミュニケーションや意思疎通は大切だってこともわかってるし、私も全部のことを無視するほどひどいことはしない。
それでも、ある程度は相手と距離を置くようにする。
そんな奴だった。
だけど、意外な事実を知ってしまったとき。
無理やり相手の領域に踏み込んでしまったとき、相手が無理やり自分の領域に踏み込んだとき、一体どうしたらいいのかわからない。
特に、ルームメイトのユマ・アカス。
そして32班のスバル・ナカジマ。
なにか、この二人と出会ってから、私は何かが変わってしまったような気がする……

 

「えーとぉ……」

 

ここはミッドチルダ東部にあるレジャー施設のひとつ「ロードパーク」
周りを囲む草や花々が周りを生い茂る、平たく言えば大きな公園だ。
休日にもなれば、家族やカップルなどが訪れ、散歩を楽しんで日々のストレスを発散する。
そんな場所にスバル・ナカジマ、シン・アスカ、ユマ・アカス、ティアナ・ランスターの4人はいた。

 

「スバルさんのお姉さんはどこにいるんですか?」
「えーと、たぶんこのあたりで待ってるって言ってたんだけど……」

 

その中、スバルとユマは和気藹々と周囲を散策している。
どうやら楽しんでいるようだ。

 

「「……はぁ」」

 

しかし、後ろの年長組みは、やや呆れてその光景を見る。
その胸中もおなじだ。

 

((何で、俺(私)がここにいるんだろう……))

 

確か、今日はただスバルが久しぶりに姉と会うだけである。
なのに、何で自分までもがここにいるのか……
時間があれば小1時間をかけて問い正したいぐらいだった。
ただ、スバルが姉に会いに行くだけなのに……

 

では、なぜ他の3人までもがここにいるのか、それにはまず時を数日ほど前まで戻さなくてはならない。
成績順位発表の件以降、32班と39班は何かとよくあって話をするようになっていた。
いや、32班と39班というよりも、スバルとユマが意気投合したといったほうが正しい。
それにシンとティアナも仕方なく、という形である。
そんなある日の夕食。
食事も、このメンバーで取るようにしている。

 

「食事はみんなで楽しく」

 

というスバルとユマの提案に、まあいいかとシンは承諾し、ティアナもしぶしぶ従っていた。

 

「そういえば、皆さんってこの週末はどうするの?」

 

夕食であるカレーを頬張り、スバルはこの週末をどうするのかを尋ねた。
いつもなら、このメンバーは自主練習に当てているのだが、今週はグラウンドの整備があるから使えないらしい。
ということで、突然のことだから休日の予定なんて何もないといってもいい自主練習組。

 

「別にない。ずっと寝てるかそこらへんをぶらつくだけだと思う」

 

時空漂流者であるシンにとって、別に帰る場所もないから実家に帰るという選択儀はない。
ミゼットに顔を出してもいいのだが、あの忙しい提督さんだ。突然戻っても家にいるかどうかわからない。
だから、この週末はのんびりと眠ることに決めた。
それはティアナも同じらしく、あたしもね、といって頷いた。

 

「じゃあさ」

 

そこに、スバルはある提案をした。
これがきっかけだった。

 

「今度、ギン姉と会う約束してるんだけど、みんなも一緒に行かない?」

 

スバルの突然の言葉に、「「はぁ?」」とシンとティアナが同時に声を上げる。

 

「ギン姉がみんなにも会いたいって言ってて……だめかな?」

 

スバルは申し訳なさそうに尋ねる。
それは、まるで小動物のように愛くるしい姿だった。

 

「あ、私はいいですよ。ロードパークにも、1回行ってみたいって思ってましたから」

 

ユマはその答えに二つ返事でOKを出し、スバルもありがとう!と本当にうれしそうにしている。
やっぱり、この二人は気が合う……
さて、続いてのターゲットは……

 

「私はパスするわ。少しやりたい事あるし」

 

と、その誘いを断ろうとする。
そのとき、シンはため息をつく。
こいつはこの二人の何もわかっていない……
シンの予想通り、え……と二人はとても残念そうな顔をした。

 

「どうしてもだめなんですか?」
「私たちと一緒に行くのは嫌なんですか……」

 

と、スバルとユマ、最年少組二人が瞳をキラキラとさせてティアナに迫る。
それは、本当にかわいく、愛くるしかった。

 

(ひ、卑怯だわ……)

 

ティアナは何とか目をそらし、シンに助けをもらおうと視線を向ける。

 

お願い、助けて……

 

だが、無常にもシンはため息をつく。
それだけでティアナにも十分に伝わった。
つまり、諦めろ……ということだ。
シンは、スバルのしつこさは十分にわかっている。
おそらく、暇といった時点でもう自分たちは負けていたのだ。
先に訪ねて、危険を察知して用事がある、といい逃れたほうが良かったのだ。
もう、何もかもが遅かったのだ。

 

といういきさつがあり、4人は今ここにいる。
やはり、かわいげのある女の子は恐ろしい……
そういう自覚がないのならなおさらだ。
ある意味、質量兵器並に危険な物かもしれない。
などとシンとティアナが呆れている中、スバルとユマはいまだにわいわいと騒いでいる。
そのときだった。

 

「あ、いたいた。スバルーー!」

 

突然スバルを呼ぶ声に、ん?と呼ばれた本人は探し物を見つけて、その声のほうを見る。
そこには、紫の髪を長く伸ばしている、スバルよりもやや年上の少女がいた。
彼女はスバルの姉、ギンガ・ナカジマだった。
スバルはギンガの姿を確認すると、すぐさまその方へ駆け寄る。

 

「ギン姉~~~~~!!」
「スバル~~~~~!!」

 

なにか、しばらく音信不通の末数ヶ月ぶりの再会、というような雰囲気で再開する二人。
どこのドラマだよアンタたちは……と突っ込みたくなるぐらいだ。
それだけでも不思議な光景なのだが……

 

「1ヶ月ぶり~~、元気だったー?」

 

シュパパパパパパパ

 

「もちろん。スバルも元気そうね」

 

パシパシパシパシパシパシ

 

再開直後、突然軽いスパーリングをこなすこの姉妹に、一同はもはや唖然とするしかなかった。
スパーリングの終了後、ギンガはシンたちを見る。
「皆さん、始めまして。スバルの姉、ギンガ・ナカジマです」

 

その後、5人はずっと立って話すわけにもいかないので、近くのテーブルに座ることにした。
この「ロードパーク」にはさまざまな出店があり、昼食やおやつ時にはいろいろなところで賑わいを見せている。

 

「私、アイスクリームかってくるね」
「あ、私もいきます」

 

と、最年少組は少しはなれた場所にあるアイスクリーム屋に出かけた。
ギンガは念のために転ばないでよ~と注意する。
さすがにそれはないだろう……とシンは呆れるが、少し考えるとあいつならありえるかも……などと思ったりもする。
まあ、その二人がいない間、一応年長者組は年長者組でちょっとした話を咲かせる。

 

「ごめんなさいね。うちのスバルが迷惑かけちゃってるみたいで」
「いや、そんなことはない……おっちょこちょいなところもあるけど、個人戦闘じゃ上位なんじゃないか?」

 

ここ最近とシン達32班の進歩はすさまじかった。
入学当初は駄目駄目だった魔法訓練も、最近ではメキメキと上達している。
お前ら、この短期間でなにが起こったんだ?と教官も驚いていたほどだった。
まあ、シンは魔法の事さえ覚えてしまえば、アカデミーで習ったことが応用できるところもあるので、その点では問題はなかった。
伊達に赤を着ていたわけではない。
スバルのほうも、魔力を制御できるようになってからは急激に伸びたような気もする。
それで、でこぼこ32班と呼ばれていたシンたちは、今は今年度を代表する班といっても言いぐらいに成長していた。

 

「ただ、ちょっとわがままなところぐらいだな」
「ああ、確かに」
「や、やっぱり……」

 

コクコクとうなずくシンとティアナに、ギンガはただ苦笑するしかない。
やっぱり、どこでもスバルはスバルだったか……

 

「と、ところで、二人ともスバルの付き合ってくれたのは嬉しいんだけど、家族とは会わないの?」
「え……」

 

ギンガの家族、という言葉に、二人は黙り込んだ。
あれ?とギンガはまずったかな?と恐る恐る二人の顔を見る。
最初に口をあけたのはティアナだった。

 

「ええと、私は一人です。私が生まれてすぐに両親が亡くなって。育ててくれた兄も、3年前に……」

 

天涯孤独ってやつですね、と自称気味に笑うティアナ。
それからは、彼女は管理局員だった兄の遺族補償で生計を立てていた。

 

「寮制の魔法学校から訓練校なんで、暮らしに不安もありませんしね」

 

自分の過去を語るティアナの姿は、どこかはかなげであった。
今、ティアナが思い浮かべるのは、自分を育ててくれた自分の兄の姿だった。
彼女は、管理局員であった兄を誇りに思っている。
その兄を遺志を継ぐためにも、自分は局員になると決めたのだ。
だが、そんなことを知らないギンガは話してはいけないことだったかと申し訳なさそうな顔をする。

 

「そういえば、スバルから聞いた話だと、あいつも母親をなくしてるらしいな……」

 

シンはスバルが話していたときのことを思い出す。
そのシンの言葉に、ええとギンガも頷いた。

 

「あいつが管理局に入ったのも、それが原因なのか?」

 

家族を失って軍や管理局に入る。
良くある話しだし、自分も家族を失って座フトに入った。
てっきり、スバルもそれが原因で管理局に入ったのかと思った。

 

「いいえ、違うわ。スバルが管理局に入ったのは、ある人と出会ったのが原因なの」
「ある人?」

 

ええ、とギンガは頷き、ギンガは青空を見る。

 

「1年前、空港火災があったのは覚えてる?」

 

ギンガの言葉に、ええと……とシンは思い返す。
ちょうど、そのときはこの世界に飛ばされた時期なので、重なっていつのかも知れない。

 

「はい、覚えてます。空港ひとつが燃えた大事故でしたよね?ニュースでも話題になってましたし」

 

ティアナはその事件のことは知っていたらしく、ギンガもうんと頷いた。
空港丸々ひとつが燃え盛った空港火災。
それは大々的にニュースで報道され、現在でも修復作業が進んでいる。

 

「実は、私とスバルが、その事故に巻き込まれたの」
「え?」
「その日、父さんと会う約束をしてたんだけど、ちょうどその時にあの事故があって……スバルはかなり奥のほうにいたらしいわ」

 

そして、そのときに出会ったらしい。その運命の人と。

 

「管理局のエース・オブ・エースって知ってる?」

 

ギンガに言われて、シンは何かを思い出す。
確か、雑誌に載っていた気が……

 

「確か、高町なのは」

 

病院の雑誌で見かけた、管理局のエースオブエース、高町なのは。
スバルは、彼女に助けられた。

 

「あの子、痛いのとか怖いのとか、他人を委託するのが嫌だったんだけど……」

 

しかし、なのはと出会って、彼女は今までの自分は嫌だ、強くなりたい。
そう思って、局員になることを決めた。

 

「あれ?みんなして何を話してたの?」

 

そこに、人数分のアイスクリームを買いに離れていたスバルとユマが戻ってきた。
ただ、シンは目を半目にしながら二人を見る。

 

「ど、どうしたの?」

 

ぎくり、とスバルは少しそっぽを向く。
その笑みは少し引きつっている。
今回買ったのは、コーンの上に4種類のアイスが乗っているものだった。
だが、シンが見る限りはどれも4段だが、スバル、そしてユマに口元には少しだけアイスがついていた。
おそらく、自分達だけ5段にして、来る前にひとつ食べたのだろう。
卑しいやつ、と思ったが、自分はそこまで食べ物に執着しないから何も突っ込まない。
ティアナとギンガもすでに気づいていて、ティアナは呆れ、ギンガは苦笑していた。
やっぱりスバルだな、と。

 

「なんでもないわよ。ただ、みんなの家族の話をしてたの」

 

いまだに苦笑を浮かべながら、ギンガは二人からアイスを受け取る。
家族かぁ……とスバルはあることを思い出す。

 

「そういえば、ユマの家族のことも聞きたいなあ」
「ん?」

 

スバルは興味の目線でユマのほうを見る。

 

「あ、そういえば話してませんでしたね」

 

ぽんと相槌を打ち、ユマは少し天を見上げて話す。
その口からはなされたのは、誰もが思っても見ないものだった。

 

「私、本当の家族はぜんぜん知らないんです」
「え?」

 

突然で、それも全く予想不能の答えに、少し唖然としたシン。
本当の家族を知らない?
どういうことだ?
かなり失礼な考え方だが、親に捨てられたのだろうか……

 

「私は、3年前からの記憶が全然ないんです」

 

ユマは話す。
自分は、3年ほど前の記憶が全然ない。
いわゆる記憶喪失だ。
気づけば、病院の医務室にいて、それよりも前のことがぜんぜん思い出せない。
自分の本当の名前すらもわからないのだ。
それから、ユマは自分を病院に預けてくれた夫妻によって引き取られることになった。
本当に予想外の出来事に、みんなは唖然とした。
その話もそうだが、ユマ自身がそれをなんとも内容に話しているのだ。

 

「ただひとつわかってるのは、二度と治らないほどの大怪我を負っていたことだけなんです」
「大怪我?」

 

ギンガが怪訝そうに尋ねる。
見た限りでは、どこも不自由そうには見えないのだが……
ユマははい、うなずいて服をめくり、腹部をみんなに見せる。
それを見て、皆は愕然とした。
そこには、生々しいほどの傷跡が複数あった。
腹部を覆うような大きな傷跡。
ほかにも体中に似たような傷があるという。
しかし、そのなぜこうなったのかがさっぱりわからないらしい。
もしかしたらそれが記憶喪失に関係しているかもしれないと医者は言った
そして、ティアナは理解した。
何で、ユマがずっと長袖の訓練着を着ていたのかを。
体中の傷を見せないためだったのだ。
いつも着替えるのは襲うのも、自分に見られたくないからだろうか……

 

「ですから、局員になって、いろんな事件に関わっていけば、自分の記憶も見つかるんじゃないかって思って……それで管理局に入ろうって決めたんです」

 

何かを決意したような、そんな顔をするユマに、みんなは呆然とユマの話を聞くだけしかできなかった。
特に、ディアナは本当に驚いて夢を見る。

 

(ユマに、こんな過去か……)

 

いつも笑顔を絶やさないユマ。
しかし、その裏には衝撃的な過去があった。

 

(そうよね……私だけじゃないのよね……)

 

自分も家族を亡くし、周囲から見れば不幸、といわれるかもしれない。
自分はもう、その事は気にしてはいない。
そういう過去を持つのが自分だけじゃないというのもわかっている。
そんなときだった。
突然、公園内にバァン!というなぞの音が聞こえてきたのだ。

 

「な、何、さっきの音?」
「何か、イベントのようなものでもあるんでしょうか?」
「さあ……」

 

それを聞いたとき、イベントで使う空砲だと思っている4人。
しかし、その音を聞いたとたん、シンは立ち上がり、その方角へと向かっていった。

 

「あ、シン!」

 

スバルの静止も聞かず、シンは一目散に向かっていく。
イベント用の空砲? まさか……
質量兵器が禁止されているこの世界の人々とは違い、軍に入り、実際に手にしていたシンなら解る。
あれは、確実に実銃の銃声だ。
それをすぐに確認すると、シンは走り出した。