「ここまでくれば……」
いきなり突っ込んできた局員が傀儡兵が攻撃を加え、傀儡兵が魔術師に気を向けている(本来傀儡兵に意識など無いのだが)隙にフェイトは少年を抱きかかえて避難させた。
「大丈夫?」
少年はさっきから怖がっていて、フェイトの声にはっと気付いて、助かったことがわかる。
その顔からもうれしいことがわかる。
「おいヴィーノ!まだ子供がいるぞ!!」
そこへ、どうやら避難し損ねている人を探している人が、フェイトたちを見つける。
「この子、さっきまで傀儡兵に襲われてて」
「わかりました」
自分よりも年下の男性二人組みがこどもをさらに安全な場所まで連れていく。
「お姉ちゃん、ありがとう」
助けてくれたお礼をする少年。
そこで、ふと少年は思い出す。
「あのお兄ちゃんにもお礼言わなきゃ」
傀儡兵の注意をひきつけ、自分を助けてくれた管理局員のことを少年は思い出す。
お礼をしたいが、どうすればいいかわからない。
そのかわりに、フェイトが微笑みながら答える。
「お礼だったら、私が変わりに言っておいてあげるから」
フェイトはそういって子供の髪をなでる。
そのあと子供は二人組みの局員によって安全な場所へと避難していく。
「あれと、急がなきゃ」
そしてフェイトは飛翔し、さっき戦っていた局員のところへと急いで戻っていく。
(そういえば……)
どうでもいいことだが、さっきの二人組みの肌が黒いほうの少年。
(少しだけ、兄さんに声が似てたかな?)
自分の義兄が、もう少し軽い性格だったらあんな感じなのかなと少し思った。
シンはジャベリンを構える。
正直、状況はあまりよくない。
子供を助けるために衝動的に突っ込んでしまったため、傀儡兵に囲まれてしまっている。
一方その子供は、シンが攻撃した隙を見て、さっき子供にシールドを貼っていた魔術師がすでに避難させていたみたいであった。
「さてと……流石に…ケルベロスは使えないか」
『始末書を書きたければお好きにどうぞ。しかしお勧めはしません』
ふいに、後ろにある二つの砲門から声が聞こえる。
自分が思っていたことを自分のデバイスに突っ込まれて苦笑してしまうシン。
『フォースかソードを使うべきでしたね。流石に市街戦でブラストは……』
相変わらず口うるさいデバイスだ。シンは心でそう思った。
確かに自分が持っているデバイスは少々特殊である。特殊ではあるのだが……
(なんでこうも一言多いんだ?)
まあ、まだ正しいことを言っているだけましなんだけど、と付け加える。
「いまさら言っても仕方ないだろ。まずはこの問題を切り抜けないと」
それよりも、まずはこの問題をどうするかである。
周囲にいた傀儡兵もこっちへきて、その数およそ10。
(ほかの局員どこへ行ったんだ?人手が足りないのわ解りきってるけど……少しはこっちへ来るだろう)
シンは援軍が来ないことへ憤りを感じる。
そのとき、囲んでいるうちの数機の傀儡兵が突っ込んでくる。
「くそ!こっちは初実践だってのに!インパルス!!」
『了解』
シンは愚痴りながら相棒である自分のデバイス、インパルスの合図とともに飛翔する。
だが、それを狙っているかのように残りの傀儡兵が魔術を放ってくる。
シンがそれをシールドを出して防ごうとしたそのときである
『オルトロス』
急に横から魔力の塊が流れ出し、シンを守るようにすべての砲撃を飲み込み、ついでに一つ傀儡兵を沈めさせる」
シンはその砲撃が誰なのかをすぐに察知して、そのほうへ向く。
「レイ、助かった」
そこには、赤いバリアジャケットを纏い、杖を構えたレイの姿があった。
「気を抜くなシン。後ろだ!」
レイに言われて振り向くと、囲んでいた中でも巨大な部類に入る一つが、獲物である剣型のデバイスを持つ傀儡兵が剣を振りかぶって真のほうへ向かっている。
初めての実戦で戸惑っていたこともあり、バリアを出すのが遅れたシンはとっさにジャベリンを盾にする。
簡単に叩きおられるジャベリン。しかし、その時に出来た隙に、シンはすぐに体制を立てなおして、折られたジャベリンを相手に向かって突き刺す。
どうやら動力炉を貫いたようで、運よく一撃で機能を停止させる。
しかし、他の傀儡兵が近くにいるシンに向かって攻撃を開始した。
(まずい)
シンがそう思い咄嗟にシールドを展開したが、急に自分の下に急に黄色の魔方陣が浮かび、すぐにシンを同じ黄色の光が包み込んだ。
敵の攻撃は自分のバリアと黄色のバリアによって完全に防いだ。
なんなんだ、そう思ったとき、急に横から何かが通り過ぎていく。
それは、さっき子供を避難させていた局員であった。
「バルディッシュ、ハーケンフォームを」
『ラジャ』
フェイトは局員にシールドをかけた後、バルディッシュをハーケンフォームにして突っ込む。
おそらくあの局員はまだ戦いに馴れていないのだろう。
フェイトは意識を傀儡兵に戻し、近くにいる傀儡兵を叩ききる。
ただでさえ執務管であるフェイトはこの惨状の後にある仕事を考えただけでもため息をつきたくなる。
さらに自分で大技を使って町を破壊して始末書を増やすわけにも行かない。
面倒だが、ここは一つ一つ破壊していくしかない。
一つ傀儡兵を倒したと判断すると、すぐさま別の傀儡兵に飛び込む。
傀儡兵は成す術も無く、ただバルディッシュに切られるだけだった。
一方シンとレイは、フェイトの戦いを見ていて唖然とする。
二人は新人ながらもAAランクの魔術師だが、戦い慣れしているS+の魔術師の実践を見るのははじめてである。(何回か行った同じS+の戦技教導官との模擬戦は省く)
『マスター、援護はどうしましょう?』
インパルスの問いに、シンははっと気付いて考える。
おそらく自分にシールドをかけてくれたのは彼女だろう。
だったらすることは決まっていた。
「決まってるだろ、借りは返さなきゃな。インパルス、ソードシルエットを頼む」
「了解、エクスカリバー、セット」
シンの指示とともに、シンのバリアジャケットはいったん灰色になり、そのあと緑色から赤いバリアジャケットへと変わる。
そして武器も二つの砲門から二つの巨大な剣、エクスカリバーへと変わっていく。
『スラッシュエッジ』
インパルスの声とともに、シンの周囲にブーメランのような魔力が複数現れる。
シンはエクスカリバーを振ってスラッシュエッジに合図する。
スラッシュエッジはそのままブーメランのように弧を描き左右から傀儡兵を襲う。
ス傀儡兵の両手両足を切り裂いてくスラッシュエッジ。
「はあぁぁーーーー!!」
だるま状態になった傀儡兵はそのままエクスカリバーによって二つに切られる。
「ファントム、トマホークを」
「OK」
レイも自分のデバイス、ファントムに指示を出す。
ファントムの先端に短い斧のような魔力刃が出現。
『トマホーク』
レイはファントムを縦に振りつける。
するとさっきまでついていた魔力刃が勢いよく飛び出し、別の傀儡兵の頭部を叩き割り、そのまま傀儡兵は地に屈する。
フェイトはそんな彼らの戦い少し見ていた。
最初は素人かと思ったが、思ったより戦いが出来ている。
ふと、黒い髪の少年の後ろに、まだ動いている傀儡兵を見つける。
「危ない、後ろ!」
シンもフェイトの声に気づく。
「そうそう何度もーー!!」
そういいながらシンの取った行動、それは……
「うぅおおぉぉーーーーー!!」
叫びとともに、二つあるうちのエクスカリバーの一つを………
ぶん!
回転をつけて放り投げた。
フェイトもシンの取った行動に唖然とする……
普通は相棒である自分のデバイスを投げ飛ばすなんて想像しない。
『マ、マイスター!?』
いきなりのことで流石に慌てるインパルス。
インパルスはそのまま傀儡兵の胴に深く刺さる。
シンはすぐさま刺さったエクスカリバーを持ち、そのままさらに切り込み、崩れ去っていった。
「もう終わりか」
ふぅ、と息をついて辺りを見渡すシン。
周辺にはもう敵はいないようだった。
「シン、大丈夫か?念話が妨害されているの言うのは面倒だな」
よこからレイが声をかけてくる。
確かに言われて見れば念話が出来ない。
おそらくテロリストが妨害する結界でも張っているのだろう。
用意周到だなとシンは思う。
「ああ、大丈夫だけど……」
シンはレイが自分を助けてくれたときを思い出す。
「よく街中であれを撃つ気になったよな、被害が出なかっただけ良かったけど」
街中で砲撃魔法を発射したときをシンは思い出す。
そのシンの問いに、レイは笑いながら答える。
「あとで始末書が増えるのと、目の前で仲間がやられているのを見る。どっちの取るかはわかってるだろ?」
まあ確かに、とシンは思う。
実際自分も少し前に似たようなことはしたからあまり言える立場ではない。
そのとき、インパルスの声が聞こえた。
『それよりもマイスター。お願いです、もうあんなことは二度としないでください』
インパルスを投げ飛ばしたことを思い出し、うっ、とばつが悪そうにするシン。
その時、また爆発がおこった。
「あの方角は……西地区か」
レイが場所を判断し、シンはちっと舌打ちする。
いったいテロリストはなぜここを襲ったのだろうか。
二人は、なんとなく分かった気がする。
「まさか……スクライア司書長を狙っているのか?」
詳しいことは聞いていないが、ユーノは確か図書館でなにか重要なものの受け取りに行くと聞いている。
もしかしたら事前にそれを知っていて、今回の反応に及んだのだとしたら、一応は納得できる。あくまで一応だが。
「シン、俺はスクライア司書長を探す。お前は結界を張っている奴を探してくれ」
そういって二人は爆発した方向とは違うところへと向かっていった。
「あの子達、どうして?」
それを見たフェイトは気になったが、自分は爆発が聞こえる方向へと飛んでいった。
「うぜぇ」
オルガ・サブナックはそう思いながら暴れまわる。
あのおっさんから言われたこと、
「合図があるまでとりあえず暴れててください」
そう言われて自分達を含む3人組は言われたとおりとりあえず暴れている。
なんか管理局の局員とかがいたからとりあえず遊びついでに戦っていたが……
「いたぞ、撃て!」
相変わらずそこまで実力を持ってないのに向かってくる局員に、オルガは飽き飽きしていた。
「雑魚ばっかってのも面白くねえ!!」
叫びながらオルガは意識を集中する。
周囲に魔法陣が浮かび、
『シュラーク』
「おらぁぁーー!」
叫びながら砲撃を発射する。
攻撃が来て、シールドを張った局員だがいとも簡単に破られ、そのまま倒れこむ。
とどめを刺そうと思ったが、そんな気も起こらなかった。
おそらく他の二人もそう思ってるだろう。
そろそろ敵も減ってきたので、場所を変えようと思ったときだった。
「!!」
いきなり上空から今までに無い砲撃が来たのでとっさに回避し、その方向を確認する。
そこには、白いバリアジャケットを身にまとった女が立っていた。
「おもしれぇ」
直感だが、ほかの奴とは違う。おそらくコイツだったら自分を楽しませてくれるだろう。
そう思うと楽しくて仕方が無い。
「おらぁ、いくぜ!!」
「く、こいつら……」
ユーノとアルフは舌打ちしつつ周囲を見る。
ロストロギアを回収した後に爆発が起こり、いつの間にか囲まれている。
しかも念話も使えないのでアルフもフェイトに連絡できない。
数は5人、がんばれば抜け切れないこともない。
「あなたが無限書庫司書長、ユーノ・スクライアですね」
丁寧に敬語で話す金髪の男性は、一歩一歩、少しずつユーノに近づいてゆく。
「私はムルタ・アズラエルと申します」
アズラエルは微笑みながらユーノに話す。
「私は今あなたが持っている本を探していまして、もしよければ譲ってくれませんか?」
変わってユーノは硬い表情のままアズラエルに問う。
「その前に聞きたいことがある。この騒ぎはあなたの仕業ですか?」
ユーノの問いに、ああ。と相槌を打ちながら答えるアズラエル。
「ええ、そのとおりですよ。それがどうかしましたか?」
アズラエルの物言いにアルフは噛み付く。
「ふざけんじゃないよ!どうしてそんなことを!!」
「アルフ、落ち着いて」
つい熱くなっているアルフをいさめるユーノ。
そんな二人を見てやれやれ、とため息をつくアズラエル。
「普通に渡せっていっても聞かないでしょあなたたち。だからこうしたまでですよ」
わからないですか?と手を両手に広げる。
そのとき
「さっきからぺちゃくちゃ言ってないで、どうすんだよおっさん!!」
さっきから取り囲んでいる中の一人の青い髪をした少年がぶつくさと文句を言っている。
それを見て、またか、と緑の髪の青年はため息をつく。
「アウル、あせるなって。その代わり、話が終ったらお前があいつらの相手してもいいから」
仮面の男が言って、少年、アウル・ニーダがおっしゃ、とすこしガッツポーズをする。
「アウルだけいいな……」
その横で、金髪の少女はアウルをうらやましそうに見ていた。
(この人たち、真面目にやってるのか?)
だが、むやみに戦わないほうがいい。相手の能力はわからないしこっちは囲まれている。
数も向こうが上。
さっきも言ったが、おそらく逃げるのが精一杯だろう。
「そこ、おしゃべりはもういいですか?」
アズラエルはアウルと仮面の男の話が終るのを確かめてから話を続ける。
「あ、そろそろ返してもらいますね。結界を張っているのでそうそう時間をかけるわけにもまいりませんので」
これって結構疲れるんですよ、とアズラエルは笑いながら言う。
ユーノは、さっきのアズラエルの言葉に何か引っかかりを覚える。
「どういうことだ、返してって言うのは……」
ユーノの言葉にアズラエルは言ってませんでしたね、といいながら答える。
「この書物…いや、ロストロギア、破壊の書といいましょうか。これはもともとある方のものでしてね」
何か昔話を話す用は口ぶりでアズラエルは言う。
「それが、少し前に起こったある事件をきっかけに行方がわからなくなりましてね。それで必死になって探してやっと見つけましてね」
苦労したんですよ、と念を押すアズラエル。
「ところが、みつけてまもなく管理局が破壊の書を回収するって言う情報を手に入れてね。それで今回の事を起こしたというわけです。わかりましたか?」
そういいながら時計を見るアズラエル。
「お話が終って間もないですが、さっきも言ったとおり、時間をかけるわけにも参りませんので返してもらいますよ」
そう言うとアズラエルは合図のように指を鳴らした。
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