Seed-NANOHA_神隠しStriker'S_第02話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:31:34

「それじゃあ、失礼します。」
「失礼します。」
「ちょっと待って、キラ君。」
取り合えず機動六課、フォワード部隊への入隊が決まったキラとシン。
話も一段落を終え、シンと一緒に部屋を出ようとすると、キラははやてに呼び止められた。
「…えと、なんですか?」
「今からキラ君はシグナムと一緒に新隊員二人を迎えにいってくれん?」
眉をひそめるキラ。
「はぁ…。」
シグナム…誰?って感じである。
「えと、シグナムはライトニング分隊の副隊長さんや。
ほんで、今から迎えに行く二人の隊員は、キラ君と同じ隊になる新人さんや。
顔合わせしとくんも悪ないやろ?」
「…そう…ですね。わかりました。
それで、シグナムさんはどこに…?」
「うちが呼び出すから、一階のホールで待っといたらえぇ。」
「わかりました…。失礼します。」
キラはドアを閉め廊下に出る。シンの姿はもうない。先にどこかへ行ってしまったようだ。
「…まぁ…いいけどね…。」そう呟き、階段を目指す。エレベーターを使おうとも考えたが、ここは三階。
階段を降りた方が早いかも知れない。そう考えての選択だった。

一方、廊下を歩くシン。
「…記憶喪失…か。」
わしわしと頭をかきながらどこに行くといった風でもなく、適当に局内をうろつくシン。
なのは、フェイト、はやての気遣いが、シンの気持をせかしていた。
早く思い出さねば、と。
考え事をしながら歩いていると、曲がり角から出てきた青い髪をした、少年を思わせるような髪型をした少女にぶつかった。
「きゃっ!!」
「っ!?。」
バランスを崩し、尻餅をつかんとする少女の手首を掴んで引き寄せ、抱きとめる。
「悪い、考え事をしてたもんで…。大丈夫か?」
「…はい…。って、よかった、丁度探してたんですよ。シン・アスカさんですよね?」
「えっ、あぁ。」
少女の肩を抱きとめている手をシンは放す。
「私は、スバル・ナカジマ。機動六課ではスターズ分隊、フロントアタッカーです。ヨロシクお願いします。」
「俺は、シン・アスカ。機動六課に本日付けで入隊。ポジションはたぶん君の援護だと思う。」
互いに手を差し出し、握手をする。
「これから、一緒に頑張りましょうね!シン…さん?」
「あぁ、スバルさんってさんづけで呼べばいいのか?」
「私は特に気にしないから呼び捨てでも構いませんよ?」
「じゃあ、よろしくな。スバル。」

「はぁ、スバル、やっと見付けた…。何やってんのよこんなところで…。」
「あっティア、いいところに!」
廊下の角から手招きするスバルへと不審に思いながらも向かって行くと、そこにはスバル以外にもう一人いた。
黒髪に赤い眼が印象的な少年だった年は同い年ぐらいだろうか。
「スバル、そちらの方は?」「こちらはシン・アスカさん、聞くところによると、隊も私達と同じらしいよ?三等空士だってさ。」
「よろしくな…えっと…?」「私はティアナ・ランスター二等陸士。よろしくね。名前で呼んだほうがいいかしら?」
「あぁ、シンて呼べばいいよ。」
「じゃあ、よろしく。シン。ところで、試験を見せてもらってたんだけど…。」
「スバルも見てたって言ってたな。」
「うん、凄かったよ。シンのあのキック。」
「蹴りだけかよ?」
「でも、私は剣の事はよく分かんないし、いいとか悪いとか分かんないしね。
あっ、でも迫力はあったね、あんな長い剣使ってる人はみたことなかったから…。」
「スバル、あんたちょっと黙ってて。」
「は~ぃ…。」
ショボくれるスバル。
「なんだよ?聞きたいことでもあるのか?」
「シンと一緒に試験を受けてたキラ・ヤマトって人どこにいるか知らない?」
シンの眉がピクンと動く。「どっかその辺にいるんじゃないの?」
「探してもいないからあんたに聞いてるんだけど…」
「知らない、別に仲がいいってわけでもないし…。」
「そぅ、まぁいいわ。そのうち会えるだろうし。」
「ところでこれから、模擬戦室にいかない?」
突然スバルが言い出した。「別に、構わないけど…。何しにいくんだよ?」
「シンのデバイスを起動させに…!ティアもみたいでしょ?」
「わ、私は…別に…。」
どうやら、シンのデバイスに興味があるようだ。
ティアナも口ではどうでもいいと言った感じだが、気になるのだろうか、スバルとシンと一緒に模擬戦室へと向かった。
「模擬戦室空いてるといいね?空いてたら使わせてもらおうよ。」
「あ、あぁ、そうだな。」
馴れ馴れしいなと思う反面、両手に花で嬉しいシンであった。

「事前に主から聞いてはいたが…。ここまで何も覚えていないとはな。」
「…すみません…。」
「いや…。別に謝るような事ではないが…。」
ミッドチルダ渡航施設、そこにシグナムとキラは新人隊員二人を迎えに一緒に来ていた。
道中、シグナムに八神家に関する色々な質問をされたが、しかしキラは何も答えられず渡航施設についてしまった。
「さて、着いたぞ。」
入り口をくぐるシグナムのあとをついていくキラ。
それから、エスカレーターを使い、二階の待合ロビーに向かう。
どうやら新人隊員二人とはこのエスカレーターの付近で待ち合わせているとのことだ。
「まだ来てないみたいだな…。」
「どんな人たちなんですか?」
そんなキラの問いにシグナムはポケットから携帯端末を取り出す。
画面に触れると電子音を立て起動し、少年少女、合わせて二人の幼い顔写真が表示された。
少年の名前はエリオ・モンディアル。
少女の名前はキャロ・ル・ルシェ。
「…子供?」
眉をひそめるキラ。
「とは言っても、この年齢で新設課、機動六課に選抜されるほどの実力の持ち主だ。
お前も油断すると、直ぐに追い抜かれてしまうぞ?」
「……。」
挑発するような笑みを浮かべ、シグナムは言ったのだが…、元々、あまり明るい表情をしていなかったキラの表情が更に暗くなる。
「お疲れ様です。遅れてすみません。
エリオ・モンディアル三等陸士です。」
突然の声に顔を向ければ、赤毛の、涼しげな雰囲気の少年がこちらに向かって敬礼していた。
「いや、私は遺失物管理部、機動六課のシグナム二等空尉だ。長旅ご苦労だったな。」
「いえ。……あの…。」
エリオの視線がキラへと移動する。
トンっとシグナムに背中を小突かれ、
「…えと…、キラ・ヤマト…。」
「三等空士だ。」
「よろしくね。」
シグナムに助けてもらいながら挨拶をすませる。
「よろしくお願いします。」エリオの爽やかさに好印象をもち少しだけ表情が和らぐキラとは別に、シグナムはキョロキョロと辺りを見回す。
「もう一人は?」
「はぁ、自分も今来たばかりなんで…。
あの、地方から出てくるとのことなんで迷っているのかもしれません。
探しに行ってもよろしいでしょうか?」
「頼んでいいか?」
「はい!」
と元気よく返事をするエリオ。
「じゃあ、手分けして探そうか?」

キラが提案する。
「これだけ広い駅だ。
そうだな…キラ・ヤマト頼めるか?」
「はい、じゃあ、僕はもう一つ上の階を探すから、エリオ君はこの階をお願いできるかな?」
「いいですよ。」
キラは身近なエスカレーターへと向かい、エリオは駆け足で人混みの中へと姿を消した

「ルシェさ~ん!ルシェさ~ん!!
管理局機動六課、新隊員のルシェさ~ん!いらっしゃいませんか?」
と声を上げながら探しているのはエリオ。
一旦足を止め、辺りを見回しては再び走り出す。

「見付からないな…。」
大体、三階を探し終えたキラはエリオに合流するため下りのエスカレーターを探しているところだ。
「ルシェさ~ん!!」
とキラのところまで声が聞こえてくる。
まだ見付かってないようだが、
「はい!私です!!」
と駆け足で大きな荷物を持ったフードを被った少女がキラの目の前を通りすぎて行った。
「あっ、待って!!」
キラの制止は届かない。のであとを追う。
「すみません、遅くなりましたぁ~。」
一方、そんな少女、つまりキャロ・ル・ルシェの声を聞いたエリオは自分が何者であるか説明しようとするが、
「キャロ・ル・ルシェさんですね?僕は…っ!?」
「きゃっ!!」
名乗る前に、キャロは階段から足を滑らせ、誰かに腕を捕まれる。
「危なかったね…。大じょ…ッ!?」
『Sonic Move』
そんな言葉を響かせ、閃く金色の閃光がキラとキャロに向かい、人と人との合間を縫って目にも止まらぬ早さでやって来る。
「…ッ!?キラさん!!」
「…エリオく…ッ!?」
慌ててキラはその場から跳びのき、エスカレーターに逆らって三階に戻り着地するが、目の前にエリオとキャロも着地する。
「わっ!?」
バランスを崩すキラ。
こちらのエリオとキャロもバランスを崩し、キラの方へとやって来る。
倒れる際に、なんとか自分を下にしようと、無理な体勢で、自分とキャロの体を入れ換えるエリオ。
それが不味かった。
キラの足を踏み、そしてそのまま三人は重なるようにして倒れた。
「あっ、いててて…、すみません。失敗しました。」エリオが素直に自分の失敗を謝ると、エリオの体の上に伏せるようにして倒れていたキャロが体を起こし、「いえ、ありがとうございます。助かりました。」
と笑顔でお礼を言った。

「んっ?」
キャロが何かに気付く。同時に、エリオも彼女の表情の変化に気付いたのか、何かに気付いた。
エリオの両の手がキャロの両の胸にあてがわれていた。
「あっ!!」
上がるエリオの声。一瞬、両者の間に沈黙が走る。
その合間に三人は思考した。
キャロ(私がこの方達を見下ろしてるって事は…、そっか、私が上にのっかってるのか…。そっか、そっか。早く退かないとね。)
エリオ(し、しまった。悲鳴をあげられたらどうしよう。
素直に謝ろうか、でも、これは事故なわけで、逆に意識して謝ったほうが、変に誤解をうんで事態をややこしくするのでは?)
キラ(何だか邪魔しちゃいけないような雰囲気に…。なら、二人のバランスをとりつつ気付かれないように自然にかつ、素早く抜け出し二人の世界を再設定。
…ちっ、左腕にキャロちゃんの膝が乗っていて動かない。
なら、背中をそっと浮かして素早くすり抜け、エリオ君を床に直結。駄目だ、気付かれる。
くっ、ニューロンネットワーク再構築、周辺環境データ更新……。)
「あっ、すみません。今退きますね。」
「あぁ!あのこちらこそ、すみません。」
キャロは体を起こし、キラの足の上だが…。
エリオもキラに手をついて体を起こす。
「…あ、あの…二人とも?」苦しそうなキラの声にようやく気付く二人。
「「す、すみません。」」
二人が退いたのを確認してキラも体を起こす。
すると、近くに落ちているキャロの鞄がもぞもぞとうごめきだした。
しばらくその様子を眺めているとバックの口が開き、「クー…。」
と可愛らしい鳴き声を漏らす生き物が姿を現した。
「あぁ、フリードもごめんね、大丈夫だった?」
キャロの問いにフリードは元気よく鳴く。
「ドラゴン…竜の子供?」
驚いているエリオ。キラも当然驚いているわけだが、この世界には魔法が存在するのだ。ドラゴンやその子供が存在しても不思議ではないといった感じだ。
もちろん希少価値などは分からないのだが…。
「あの~、すみませんでした。エリオ・モンディアル三等陸士と……?」
返事をするエリオから、キラへと視線を移すキャロ。「僕は、え~…キラ・ヤマト三等空士。よろしくね。」
「よろしくお願いします。私は、キャロ・ル・ルシェ三等陸士であります。
それからこの子はフリードリヒ、私の竜です。」
「クゥーゥ!」
こうして自己紹介も終り、ライトニング分隊の新人隊員は皆揃いシグナムとともに管理局局へと向かった。

075年四月

「ロビーに集合って…この格好でか?」
ネクタイをいじりながらシンは一人ぶつぶつと呟きながら廊下を歩く。
茶系等の色で全身は統一されてる。まぁ、色合い的に、確にシンには似合わないかもしれないが、シンにとってそれは問題外のようだ。

「これじゃあ、ザフトの軍服の方が動きやすいぞ…はぁ…。」
「おっはよう!シン。」
「おはよう、シン。どうしたの?朝から溜め息なんてついて。」
朝から元気なスバルと、相変わらずおとなしそうに見えるティアナもシンと同系色のスーツを身に纏っていた。
「いや、何か動きにくくないか、この服。」
「そうは言ってもねぇ、これが制服だし…。私も正直動きやすいとは思えないけどね。」
シンの問いに素直に答えるスバル。
「あんたたち、館内で一体何する気なのよ?」
「緊急なときこんな格好じゃ、迅速な対応は出来ないんじゃないか?」
「まぁそうだけど…出動するときは流石に着替えるから問題はないんじゃない?」
「ふ~ん、そんなもんか?」そんな会話をしながらスターズ分隊三人はロビーへと向かった。

「おはようございます。」
キャロは自分を待っていてくれたキラとエリオに声をかける。
「おはようございます。」
「おはよう、キャロちゃん。ッ?タイ曲がってるよ?」
「え、あ、本当です。」
キラがキャロのタイの結び目を軽く握り、引っ張って調整する。
「これで、よし。」
「ありがとうございます。」「うん、どういたしまして。じゃあ二人ともいこうか?」
「「はい!」」
「……でエリオ君、ロビーってどっちだっけ?」
こけるエリオ。
「僕が案内します。」
何だか、キラが面倒を見ているのか見られているのかは分からないがこれにはちょっとした理由がある。

つい先日、キラはフェイトに呼び出されていた。
何でも大事な話があるとか。
フェイトの執務室のブザーがなる。
フェイトはデスクにあるボタンを押してから
「はい。」
と答える。
『キラ・ヤマトです。』
スピーカー越しに聞こえる声はキラのもの。
それを確認すると、フェイトはキラを執務室に入れた。
「あの、それで用件は?」
取り合えずキラにはソファにかけてもらい。
お茶とちょっとしたお菓子をだすフェイト。
「うん、今日、キラを呼び出したのにはちょっとしたお願いというか…、頼みがあるからなんだ。」

「はぁ…。それで頼みって言うのは?」
「うん、キラはうちのフォワード部隊のメンバーとは自己紹介とかした?」
「えぇ、まぁ…。でも、なのはさんの部隊とすると凄い平均年齢の差ですよね?」
フェイトは頷き、カップの中のお茶を一すすりする。
「うん、あの子たちはまだ幼い。いくら優れていようが、それは変わらない…だから…。」
「だから…?」
「その…もし、何かあの子たちにどうしようもないことが起こったら守ってあげてほしいんだ。」
フェイトの目は真剣そのものだった。
「それは…まぁ…はい。」
「それから、仕事の関係上、私はあまりあの子たちとコミュニケーションがとれないから、キラにそれをお願いしたいんだ。」
何だかそわそわし始めるフェイト。
「本当はこういうことは部隊長であり、あの子たちの保護者でもある私の仕事なんだけど…。」
一息ついてから
「同じ分隊の仲間であり、キラは最年長だから…引き受けてくれると助かるなって…。
ダメ…かな?」
とキラに尋ねた。
「いいですよ…。僕も、その…シグナムさんとエリオ君とキャロちゃんを迎えに行ったとき、自分がしっかりしないとって思ってたところですから…。」

以上の様なことがあって、キラは二人の面倒を見ることになったのだが、正直な事を言うと、このミッドチルダという世界の右も左も分からないキラにとってはどう面倒をみたものかと悩まされている。
そこで、とりあえずは空中戦が出来る分、二人の援護、それから、暇なときの話相手にはなろうと決めた。「まぁ、二つ目は出来る限り…だけどね。」

指定された場所に結構な人数が集まっている。
機動六課技術班、医療班、補佐班、ライトニング分隊、スターズ分隊、その他etc...。
そしてその前にはスターズ分隊隊長高町なのは、副隊長のヴィータ。ライトニング分隊隊長フェイト・T・ハラオウン、副隊長シグナム。
そして機動六課を束ねる課長にして部隊長、八神はやて。
はやてが壇上に上がり挨拶を始めた。

機動六課遺失物管理部。
ロストロギア関連を専門とする部隊だ。
対策、捜索から封印、または確保、破壊までこの部隊に課せられる仕事は熾烈を極める。
「長い挨拶は嫌われるんで…、以上ここまで。機動六課課長及び部隊長、八神はやてでした。」
一通り、顔合わせし、フォワード陣やバックヤード、メカニック陣に挨拶を終え、はれて、機動六課は活動を開始することになった。

シグナムとフェイトは通路を会話しながら歩いている。こうして二人で顔を合わせて話をすることはじつに半年ぶりである。
「シグナム…、本当、久しぶりです。」
「あぁ、テスタロッサ。直接会うのは半年ぶりか?」
「はい…。同じ部隊になるのは初めてですね。
どうぞ、よろしくお願いします。」
と挨拶するフェイト。
「それはこっちの台詞だ。
大体、お前は私の直属の上司だぞ?」
ちょっと上司らしくないんじゃないか?っと言う感じでシグナムが言った。
「はぁ…それがまたなんとも落ち着かないんですが…。」
無理もないだろう、実際、フェイトが九歳の頃から、シグナムは変わらない大人の姿のままだ。
それが違和感の元だろう。
半困ったように笑うフェイトに対し、シグナムはいたずらっぽく笑みを浮かべながら
「上司と部下だからな。テスタロッサにお前呼ばわりはよくないか?
敬語で喋った方がいいか?」
こんなことを言う。
「ぁ…ぅ、そういう意地悪はやめてください。
いいですよ、お前で…、テスタロッサで…。」
「そうさせてもらおう。
ところで、シン・アスカはどうだ?記憶のほうは…。」
挨拶もそこそこ、シグナムがシンのことをフェイトに聞いてきた。
「それが…、ここ最近、忙しくて…まともに会話すらしてないというか…。
キラのほうはどうなんですか?」
「さぁな、わからん。実際、魔法に関してや闇の書の闇に関してはだいぶ戻ってはいるようだがな。」
しばらく黙って歩く二人。「正直、ショックでした。」
「主も相当なショックを受けていたぞ。」
そんなことを話ながら二人は機動六課活動開始早々、仕事に取り掛かった。

「そう言えば、お互いの自己紹介は済んだ?」
フェイト、シグナムの歩いている通路とは別の通路でフォワード陣六名はなのはに連れられて歩いていた。
「え、えっと…?」
スバルが言い淀む。
「名前と、経験やスキルの確認はしました。」
代わりにティアナが答え、さらにエリオが続ける。
「あと、部隊わけとコールサインもです。」
「そう、じゃあ、訓練に入りたいんだけど…いいかな?」
はいっと五人が一斉に返事と敬礼。
それから周りにワンテンポずれてキラが真似して敬礼する。
「シン…何、その敬礼?」
「えっ?」
ティアナに指摘され、シンが周囲を見回すと一人だけザフトの敬礼だった。

管理局本部周辺海。
「なのはさ~ん!」
と陽気な声に呼ばれ、フォワード陣六名を一人待つなのはが振り向くと、鞄を持った女性がこちらへと走ってくる。
「シャーリー!」
なのはが手を降ると、別方向から複数人数が駆けてくる足音がする。
そちらに視線を向けると六人と一匹、スバル、ティアナ、シン、エリオ、キャロ、フリードリヒ、キラが向かってくるところだった。
なのはの前までやって来てから、整列する六人はまず、技術部に預けていたデバイスをそれぞれ渡される。
「今返したデバイスにはデータ記録用のチップが入ってるから、ちょっとだけ、大切に扱ってね。」
それから、なのはは視線を六人からシャーリーに移し
「それから、メカニックのシャーリーから一言。」
「えぇ~、メカニックデザイナー兼機動六課通信主任のシャリオフィニーノ一等陸士です。
みんなはシャーリーって呼ぶので、よかったらそうよんでね。
皆のデバイスを改良したり、調整したりもするので時々、訓練を見せてもらったりもします。
デバイスについての相談とかあったら遠慮なくいってね。」
六人ははっきりと返事をする。
「じゃあ、早速訓練に入ろうか?」
「は、はぁ…。」
なのはとシャーリー以外は目をパチクリとさせる。
訓練をするとは言え、視線の先に広がるのは辺り一面青い海。
一体どこでやるのさ、って感じだ。
「ここでやるのか…いっっ!?」
「ここでやるんですか?」
いつもの調子で喋ろうとしたシンの足を踏み、黙らせ。
皆が疑問に思っていることを代表してティアナが聞いた。

そんな六人の反応を楽しんでいるのか、楽しそうに微笑みながら、
「シャーリー!」
と、彼女の名前を言うと、何やら準備をしていたシャーリーは右手をあげて
「は~い。」
元気よく返事をし、空間をなぜるようにして右手を滑らすと、複数のキーパネル、モニターが現れる。
「機動六課自慢の訓練スペース。なのはさん完全監修の陸専用空間シュミレーター。」
陽気に話ながらも指は絶え間なくキーパネルを走る。「ステージ、セット。」
ほぼ言うのと同時に海の真ん中に浮かぶ何もない平地に街が出来ていく。
口々にうわぁ~、とかへ~とか感嘆の声が漏れ、シンとキラも口を開けたまま、その光景にみいっている。

そんな光景を別の場所で見ている少女が一人いた。
「ヴィータ、ここにいたか…。」
「…シグナム。」
「新人たちは早速やっているようだな。
お前は参加しないのか?」
「四人はまだよちよち歩きのヒヨッコだ…、キラとシンにいたっては相当なブランクがあるし…。
私が教導を手伝うのはもうちょっと先だな。」
「そうか…。」
それに、とさらにヴィータが付け加える。
「自分の訓練もしたいしさ。同じ分隊だからな、私は空でなのはを守ってやらなきゃいけないんだ。」
「頼むぞ…、だが、同じ分隊にはシン・アスカが入った。お前の負担も、少しは減るだろう…。あまり、無理はするな、任せられるところはシン・アスカに任せればいい…。」
フン、と鼻で笑うヴィータ。あまりあてにはしていないようだ。
「ところで、ヴィータ、お前はキラ・ヤマトと話をしたか?」
「あぁ…。」
「どうだ、様子は?」
「こっちが何を聞いても、ごめん、とか、すみません、とか聞く度に暗くなっていってイラつくから、話すのはやめた。」
「そうか…。」
苦笑するシグナム。
「キラめ、記憶が戻ったらぼこってやる。
はやてを悲しませたんだからな。」
「そうだな…。」

『よしっと、皆、聞こえる?』
なのはから入る通信に六人はそれぞれ答える。
ちなみに、六人は先程出現した空間シュミレーターの中にいる。
『じゃあ、早速ターゲット出して行こうか…。』

通信をいったん切ったなのははシャーリーに指示を出す。
「まずは軽く12体から。」
は~いと返事を返し、パネル上に指を走らすシャーリー。
「動作レベルC、攻撃精度Dってとこですかね。」
シャーリーによって素早く準備は整えられていった。

空間シュミレーター内部。
『私たちの仕事は、ロストロギアの保守管理。
その目的のために私たちが戦うことになる相手は…。』
六人の付近に発生する複数の環状魔法陣。
『…これ!』
なのはの声とともに現れる12体の楕円形の機械。
『自律行動型の魔導機械。これは、近付くと攻撃してくるタイプね。攻撃は結構鋭いよ?』
シャーリーの解説に、六人は気を引き締める。
『では、第一回模擬戦訓練。ミッション目的、逃走する12体のターゲットの破壊、または捕獲、15分以内。』
さらに、ミッション目的、内容をなのはが告げる。
そして、
『それでは、』
『ミッションスタート!』シャーリーとなのはの言葉を合図に、模擬戦訓練が始まった。
12体が一斉に動きだし、逃走を開始した。

時空管理局、ミッドチルダ地上本部、中央議事センター。
はやてとフェイトは今そこにいた。
とある会議室、その会議室には窓がなくあるのは最低限の明かりとモニターのみ。
はやてとフェイトはモニターを使い、他のお偉い方に。
「捜索指定失物、ロストロギアについては、皆さんよくご存じのことと思います。
様々な世界で生じたオーバーテクノロジーの内、消滅した世界や、古代文明を歴史に持つ世界などで発見される危険度の高い古代遺産。
特に大規模な事件や災害を巻き起こす可能性のあるロストロギアは正しい管理を行わなければなりませんが、盗掘や密輸による流通ルートが存在するのも確です。」
次々と切り替わっていくモニター。
着席している多くの者も、はやての言葉に耳を傾け、資料に目を通している。
「さて、我々、機動六課が設立されたのには一つの理由があります。
第一種捜索指定ロストロギア、通称レリック。」
ここからはやてにかわり、フェイトが口を開く。
「このレリック。外観はただの宝石ですが、古代文明時に何らかの目的で作成された超高エネルギー結晶体であることが判明しています。
レリックは過去に四度発見され、」
画面の中央に大きく表示される真っ赤な画面。
空港が火の海に包まれている。
「そのうちニ件は周辺を巻き込む大規模な災害を起こしています。」
切り替わる画面、火に包まれる峠。
この場にいる全員が悲痛な表情を浮かべている。

「そして、後者二件では…」
再び切り替わる画面。
「このような拠点が発見されています。」
画面に写る光景はどこか研究所を彷彿とさせ、液体の入ったカプセル、宙につられている球体などが写っていた。
「極めて高度な魔力エネルギー研究施設です。
発見されたのはいづれも未開の世界。
こういった施設の建造は許可されていない世界で、災害発生時に、まるで足跡を消すように破棄されています。」
切り替わる画面には倒壊した建造物が必ず写っていた。
「悪意ある、少なくとも、法や、人々の平穏を守る気のない何者かがレリックを収集し、運用しようとしている。
広域次元犯罪の可能性が高いのです。」
モニターが消え、ただでさえ薄暗い部屋がさらに暗くなる。
「そして、その何者かが使用していると思われる魔導機械がこちら、通称ガジェットドローン。」
再び開かれるモニター。
「レリックを初めとし、特定のロストロギアを発見、発掘し、それを回収しようとする自律行動型の自動機械です。」
フェイトはそういって、目を細めた。

空間シュミレーター内部。
回転する車輪の音。
舞い散る火花。
歯を悔い縛り、自分の持てる限りのスピードでスバルはターゲットを追い掛ける。
「はあぁぁぁ!!」
跳躍し、並走する四体のターゲットに向かって、拳をつき出す。
もちろん距離が離れているので、スバルがとある実でも食べない限り、腕は伸びないし、攻撃も届かない。
だが、そのつき出された拳から、魔力が放出され、ターゲットに向かって飛んでいく。
スバル自身は捕えられたと思ったのだが…、すんでのところでターゲットは反応し、避け、放った攻撃は地に着弾する。
「ちょっ、何これ、動き早ッ!!」
だが、スバルの役目はこれだけではない。
ターゲットをある地点まで誘導することだ。
そしてその地点にはエリオとシンが待ち構えている。槍型のデバイス、ストラーダ、剣型デバイス、アロンダイト(デスティニー)、二人はそれぞれ自分のデバイスを構え、突進する。
無論、ターゲットもただ逃げるわけではない。
砲撃を放ってくる。
エリオとシンが近付けないように弾幕をはるが、エリオはそれをかいくぐり、一旦、弾幕外に跳躍。
壁を蹴ってさらに上昇、風の刃を二発放つ。
しかし、ターゲットが速度をあげたため、割合あっさりと回避された。
「はぁ…はぁ…。
駄目だ、ふわふわ避けられて当たらない…。」

一方、シン。
エリオとは別に跳躍して、対象の背後をとったのち、アロンダイトを振り上げ、『フラッシュエッジ・ホーミングシフト』
二対の緋い魔力刃が、ブーメラン状に回転しながら対象に向かって飛んでいく。
「これなら…!!」
尚も直進するターゲットが、突然方向転換し、角を曲がった。
フラッシュエッジは建物を切り裂き倒壊させる。
「スピードだけじゃなく、小回りも効くのかよ、あれは…。」
『前衛三人、分散しすぎ!後ろの事も考えて!
それからシン!建物壊してどうするのよ。』
「なっ!文句を言うなら、誰だって…」
『はぁ…。仕方ないわ。まずは一体を確実に破壊するわよ?
キラ!』

『うん、まず一体を足止めすればいいんだね?やってみる。』
通信を終えたキラの元にやって来るターゲット。
「行くよ、フリーダム!」
『Yes, my master!サーベルモード』
低飛行し、四体のうちの一体に狙いを定め、一気に加速する。
右のサーベルを振り上げ、縦一閃。一瞬、ターゲットが停まり、右のサーベルに負荷がかかった。

建物の屋上でそれを確認したティアナが動き出す。ティアナの銃型デバイスの銃口にオレンジ色の魔力が集中する。
「チビッコ、威力強化お願い!」
後ろに控えているキャロに指示を出す。
「はぃ、ケリュケイオン!」ピンク色の環状魔法陣を展開。
『Boost Up, Barret Power』
キャロがティアナに手をかざす。足元にオレンジ色の環状魔法陣が発生、ティアナの魔力弾がその大きさを増す。
「シューーート!!」
キラが足止めをしているターゲット、それから逃亡を図るターゲット三体に魔力弾を放つ。

右のフリーダムに抵抗を感じた直後キラは異変を感じていた。魔力刃が点滅しはじめたのだ。
「こ、これは…?」
フリーダムの魔力刃が消え、右のフリーダムをすぐさま引っ込め、逆手に持ち変えた左のフリーダムで横薙一閃。
しかし、今度も同じように刃が消えてしまう。
「あっ!しまった。」
キラの脇をすり抜け、足止めしていたターゲットが逃亡を開始。
「くっ!」
追跡しようとするキラに
『Warnning!!』
警告するフリーダムに振り向いてみれば、目前に迫るティアナの放った魔力弾。
「あっ…。」
ティアナは間の抜けた声を上げた。

キラは障壁を張ってティアナの射撃を防御。残りの三発は対象に当たる前にかき消えた。
「バリア?」
ティアナが声をあげる。
「違います…、フィールド系…。」
「魔力が消された!?」
スバルが驚きの声をあげる。ここで、なのはから説明が入る。
『そう、今回のターゲット、つまりガジェットドローンにはちょっと厄介な性質があるの。攻撃魔力をかき消すアンチマギリンクフィールド、通称AMF。普通の射撃は通じないし…』
スバルの目の前を付近から現れた四体のガジェットが通過し、建物を乗り越えていく。
「あっ!?この…。」
ウィングロードを展開。
飛翔魔法を持たないスバルはこれによって、空中を移動できる。青色に光る一筋の道が、建物屋上への架け橋を作る。
「スバル!バカ!!危ない!」ティアナが制止をかけるが、スバルに声は届かなかった。

そんな様子をみていたなのは、口元に笑みを浮かべ、
「AMFを全開にされちゃうと…。」
シャーリーがキーを叩く。

途端にAMFの効果範囲が増大。スバルのウイングロードは途中で断絶していた。
「えっ?あっ、嘘ぉ!!」
悲鳴をあげてビルに突っ込んでいった。
『飛翔系や足場造り、移動魔法の効果も消されちゃうからね。スバル、大丈夫?』
「な、なんとか…」
「てことは要するに…、AMFを展開する前に壊すか、物理的な手段で破壊すればいいんだろ?なら……!」
『ロードカートリッジ』
展開される翼。噴射する魔力。シンは、ガジェット一体に向け、アロンダイトをフラッシュエッジの用に、ブーメラン状にして投げた。
空気を切り裂く音が響き、そしてガジェットに突き刺さり爆散。アロンダイトの実体部分のみでの攻撃だ。残りは11体。

『ほら、みんな、素早く考えて、素早く動いて!
シンはもう一体倒しちゃったよ?』

その言葉に真っ先に火がついたのはティアナである。「チビッコ、名前、何て言ったっけ?」
「キャロであります。」
「キャロ、手持ちの魔法と、そのチビ竜の技で何とか出来そうなのある?」
「試してみたいのがいくつか…。」
「私も…。(スバル!)」
(オーケー、ティアが何か考えてるから、エリオと私、キラ、それからシンで足止めするよ!)
*1)


*1 (了解!!