Seed-NANOHA_神隠しStriker'S_第08話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:37:59

レイジングハートの尖端から桜色の複数の奔流がシン目がけて矢のごとく向かっていくが、それらはシンを捕えきれず、空を走っていく。
シン本人がめまぐるしく飛び回り、幾重にも発生した残像がなのはのアクセルシューターの命中精度を格段に下げていた。
それに加え、これだけのスピードを出されるとなのは自身による厳格なコントロールが必要となってくる。
そんなアクセルシューターの隙間を縫うようにして間合いを刹那のうちにつめてくるシン。
両エクスカリバーが振り上げられ、なのはが張るラウンドシールドの上から容赦なく斬撃を叩き込んだ。
突然のシンの豹変に戸惑いつつもなのはは距離を取ろうと離れようとするが…。
「このォッ!逃がすか!!」
なのはの回避速度を上回るスピードで追い撃ちをかけてくる。
「これって…。」
戸惑いつつも反撃に出るなのは。レイジングハートとエクスカリバーが衝突。
「俺はあんたをとめようとしたんだ…。なのに…なのにぃ!!!」
『デリュージー』
カートリッジを消費した。

「止めには僕が行きます。シンを止めれば済むんでしょ?」
「言い方はきにいらねぇけど…そうだな。」
ヴィータは険しい表情のままそう言った。
キラは魔力の翼を開くと、シンを止めるため、なのはとシンの元へとむかった。

『パルマフィオキーナ』
「うぉぉおおお!!!」
カートリッジを消費し、更に加速するシン。
アクセルシューターが雨のように連射されるなかを突っ込んでいく。
桜色の魔力弾が数発被弾し、
『リアクターパージ』
危険と判断したシンのデバイス、デスティニーは最終防衛機能を駆使。
「デスティニー!!バリアジャケットフォースシルエット!!」
しかし、それでもシンは怯まない。新たにバリアジャケットを装着し、更に加速する。
「うぉぉぉおおお!!!」
「そんなっ!?」
たまらず障壁をはるなのは。
障壁は砕かれ、桜色の魔力の破片が舞い、空気に溶けこむようにして霧散してゆく。
パルマフィオキーナを放った手とは逆の手、つまり、エクスカリバーで突きを放つ。
なのははレイジングハートで防御の体勢にはいった。

エクスカリバーに着弾する蒼い魔力弾。
「なっ!?」
軌道が大きくそれ、体勢を崩すシン。
太陽を背に八枚の蒼い翼を広げ、降下してくるシルエット。
シンは怒りに歪んだ顔をキラへ向け言った。
「やっぱあんたも、この人の言うことが正しいって…そう言いたいのかよ!」
首をふるキラ。
「そうじゃなくて…。
今はティアナをシャマルさんのところへ連れていこう…。」
キラはシンからティアナを抱きかかえているスバルへと視線を移す。
シンも同様にし、
「……。」
無言で頷き、それから、なのはを睨みつける。
そんなシンをキラは促し、二人ともティアナの元へと飛んでいった。
あとには複雑な表情で二人を見送るなのはだけが取り残された。

うっすらと視界に写る天井。それからの意識の覚醒は早かった。
疑問符を浮かべ、体を起こすティアナ。
すると、ドアがスライドし、シャマルが丁度、部屋へ入ってくるところだった。「あら、ティアナ、起きた?」
ティアナに気付いたシャマルが声をかける。
「シャマル先生…。えと…あれ…。」
何だかティアナが混乱しているようなので、シャマルは椅子に腰かけてから、状況をティアナに説明した。
「ここは医務室ね。昼間の模擬戦で撃墜されちゃったのは覚えてる?」
この言葉に途端に表情を暗くするティアナ。
フラッシュバックするなのはの顔、自分の情けない姿。
「…はい…。」
「なのはちゃんの訓練用魔法弾は優秀だから…。
体にダメージはないと思うんだけど…。どこか痛いところある?」
「…いいえ…大丈夫です。」
バツの悪そうな顔をシャマルからそらし、時計を見ると夜九時を過ぎていた。
それに驚いたティアナにシャマルが言う。
「すごく熟睡してたわよ。死んでるんじゃないかって思うぐらい。」
おかしそうに微笑むシャマル。
「最近…あんまり眠ってなかったでしょ?
溜ってた疲れがまとめてきたのよ。」
そういって、シャマルはまだ少し表情の固いティアナにもう一度微笑んだ。

一方、ティアナが目を覚ましたのとは別に、月明かりが照らすなか、訓練施設の前でモニターを開き、何やらいじくっているなのはの姿があった。
「なのは。」
そんななのはに声をかけたのはフェイトだった。
隊舎へと戻る道をなのはとフェイトは歩きながら話をする。
「さっき、ティアナが目を覚ましてね、スバルとシンと一緒に謝りに来てたよ。」
「うん…。」
「なのはは訓練場だから明日朝一で話したらって伝えちゃったんだけど…。」
「うん…ありがとう。」
どこか元気のないなのは。
「でもごめんね…。監督不行き届きで…。フェイトちゃんやライトニング三人まで巻き込んじゃって…。」
「ううん、私は…全然。」
慌て気味に否定するフェイト。
「ティアナとスバル…、シン…、どんな感じだった?」
フェイトに不安な表情で聞くなのは。
「やっぱりまだ、ご機嫌斜めだったかな…。」
フェイトが言う。なのははしばらく考えこんでから
「まぁ…、明日の朝、ちゃんと話すよ。フォワードのみんなと…。」
と言った。ここで話をいったん区切り、あとは明日の訓練をどうするか、何てことを話ながら隊舎へと戻る。
玄関口をくぐったところで、館内に警報がなり響いた。

とある研究施設。
スカリエッティが暇を持て余していると、ルーテシアからの通信がはいった。
「おや…、これは珍しい…。君から連絡をくれるとは嬉しいじゃないか…。
ゼストとアギトはどうしたね?」
『今、別行動…。遠くの空にドクターのおもちゃが飛んでるみたいだけど…。』
ルーテシアの質問に、スカリエッティは鼻で笑いながら答えた。
「時期に綺麗な花火が見えるはずだよ。」
『レリック…。』
ルーテシアはガジェットがレリックを発見したのではないかと思っているようだ。
スカリエッティは肩をすくめ、近くのキーボードを素早く叩く。
「だったら、真っ先に君に連絡が行くさ。」
次々と代わりゆくモニター。
「私のおもちゃの動作テストだよ。破壊されるまでのデータが欲しくてね。」
『壊されちゃうよ?』
「私はあんな鉄屑に直接戦力は期待してないのだよ。私の作品たちがより輝くためにデコイとして使うガラクタさ…。」
『そう…レリックじゃないなら…私には関係ないけど…。
ところで…アレックスとラウは?あの二人も…デコイとして使うの?』
首を左右にふるスカリエッティ。
「彼らの戦闘データが欲しくてね…。まぁ撃墜されれば仕方ないが…だが、ものはためしだろう?」
『そう…。じゃあ、頑張ってねドクター。』
「あぁ、ありがとう。優しいルーテシア。」
通信が切り、スカリエッティは一人、笑った。「やはりすばらしい、私の作品は…。クククク…。」

管理局管制は困惑していた。通常、ガジェットが集まる場所には何らかの原因がある。
レリックを確認、もしくはロストロギアをレリックだと誤認すると集まってくるのが普通なのだが…。
「航空二型、四機編隊が三隊。十二機編隊が一隊。」
「発見時から変わらず、それぞれ別の低円軌道で旋回飛行中です。」
管制局員からの報告を聞き、はやても疑問に首を傾げる。
ガジェットが旋回飛行している場所は何もない海域なのだ。
誘ってる様にしか見えない。
犯人がスカリエッティであればこちらの出方をうかがっているのだろう。
というのは、アラートを聞き、駆け付けたフェイトだ。
正直なところ、超長距離砲撃を一発放り込めば楽勝ではあるのだが、こちらの出方をうかがっているのであれば、あまりに強力な魔法なんかは使わないほうがいいだろう。
恐らく、この程度ならば、隊長たちのリミッター解除は許可出来ないし、できるなら新しい情報を与えず処理したいところだ。

以上の様な理由で、フォワード部隊の出撃が決まった。
ヘリポートに集合する十名。
「今回の任務は空戦だから、出撃は私とフェイト隊長。ヴィータ副隊長の三人。キラと…シンは今回はみんなと一緒に待機してね。」
なのはから指示が出される。
「みんなはロビーで出動待機。」
「そっちの指揮はシグナムだ。留守を頼むぞ。」
フェイトとヴィータの言葉にはいっと返事をするエリオ、キャロ、スバル、キラ。
シンも何だか機嫌は悪いようだが、それでも返事はちゃんとした。
ただ、ティアナだけは心ここにあらずと言った感じで、何だかやる気のない返事をした。
それをみかねたなのはが付け加えた。
「あぁ…、それからティアナ。」
えっ?とうつ向いた顔をあげ、なのはを見ると
「ティアナは出撃待機から外れとこうか…。」
そう言われ、フォワードメンバーは驚き、視線が一斉になのはに集中する。
一瞬にして場の空気が沈んだ。

「そのほうがいいな…。そうしとけ。」
とヴィータ。
「今夜は体調も魔力もベストじゃないみたいだし…。」
なのはとしては気を使って言ったつもりなのだろう。
しかし、ティアナはそうはとらなかった。
「言うことを聞かないやつは…使えない…ってことですか?」
声の調子を落とし、低い声音でティアナは言う。
なのはもさすがにあきれたのか、気に触ったのかはわからないが、表情を厳しくしてティアナの目を見る。
「はぁ…、自分で言っててわからない?
当たり前の事だよ?それ…。」
「現場での指示は聞いてます。教導だってサボらずやってます。」
ヴィータがティアナのもとへ眉間に皺をよせ歩を進めようとするが、なのはがそれを制した。
目に涙が溜って行くティアナ。
「それ以外の場所での努力まで教えられた通りの努力じゃないと駄目なんですか?
私は!…なのはさんたちみたいにエリートじゃないし、スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルも、シンやキラみたいに特殊でもない。」
不安な表情でティアナを見守るスバル、エリオ、キャロ、キラ。
「少しくらい無茶したって!死ぬ気でやらなきゃ強くなんてなれないじゃないですか!!!」
なのはにくってかかるティアナ。そんな二人の間にシグナムの腕が割込み、ティアナの胸ぐらを掴み引き寄せ、殴り飛ばした。
スバルとシンはティアナに駆け寄り抱き起こす。
「だだをこねるだけの馬鹿は、なまじ付き合ってやるからつけ上がる。」
早く行けとシグナムはなのはたちを促し、ヴィータに引きずられなのはもヘリへと乗り込んだ。
ヘリが飛び立つのを見送ってからシグナムが言う。
「目障りだ、いつまでも甘ったれてないでさっさと部屋に戻れ。」
「何で…どうして、なのは隊長も、シグナム副隊長も…こんなことするんですか?」
とシグナムの前に出るキラ。
「別に殴らなくても後でじっくり話せばいいことじゃないですか?」
シグナムは無言でキラへと向き直る。
「ティアナだって、何か考えがあってあの技を編み出したんだ!
もう、あんな自分のミスのせいで誰かが傷付くのがいやで、もう誰かを亡くしたくなくて今泣いてるんだ!
どうしてあなたたちにはそれがわからない!?
ただ、無茶をしたのはティアナが意地になってるだけだからって、模擬戦ときも…そう言いたいんですか!?」

珍しく声を張り上げるキラにあっけにとられていたシンがキラに続く。
「確に、命令違反は駄目だと思う。ティアの言い方は悪かったかもしれないし、それをとめられなかった俺たちも…。」
シンは一呼吸おいてから真っ直ぐにシグナムを見た。
「けど、だけど、自分なりに努力して強くなろうとすることや、きつい状況でも何とかしようとかすんのがそんなにいけないことなのかよ!!」
シンの問いに答えたのはシグナムではなかった。
「自主練習はいいことだし…、自分で強くなろうとするのはいいことだよ。」
突然の声に振り向くと、そこにはシャーリーが立っていた。
「皆、ロビーに集まって、私が説明するから…。なのはさんのことと、なのはさんの教導の意味を…。」

ロビー。
シャーリーはロビーについてからずっとキーボードを叩き続ける。
その横にはシャマル、シグナムが座り、向かい側にスバル、ティアナ、キャロ、エリオが座っていて、その横にシンとキラが向かい合うように座っている。
沈黙続く中、シャーリーが口を開いた。
「昔ね、一人の女の子がいたの。」
モニターに映るその女の子は高町なのはだった。

魔法を知らなかった。そして、戦いをするような子でもなかった。今では想像すらつかないなのはの姿。
シャーリーは語る。
なのはには特別なスキルもなかったこと、ただ魔力が大きかっただけだったこと。
たった九歳で、魔法とであってから数ヵ月の間に、命がけの戦いを何度も繰り返したこと。

モニターに映るのはバルディッシュを振るうフェイトとレイジングハートを振るうなのはの戦い。

「これって…フェイトさん?」
エリオとキャロが驚く。

当時のフェイトとなのはは、とあるロストロギアをめぐっての敵同士だったことを説明する。

次にモニターに映るのは闇の書事件だ。

なのはの敗北。そして勝つために選んだのは安全性の危ういカートリッジシステム使用。
体にかける負担を無視して出力を出そうとするエクセリオンモード。
誰かを救うために無茶を繰り返したこと。
しかし、無茶を繰り返していたばかりに、ある任務で不意に現れた未確認体によって瀕死の重症をおったこと。

それがいつもなら簡単に倒せたはずの相手だったこと。
溜りにたまっていた疲労、続けて来た無茶がその怪我のもととなったこと。

「その結果が…これ。」
そういってシャマルがキーを叩くと、モニターが切り替わり、ほぼ上半身全身を包帯で巻かれたなのはが映る。
「もう飛べなくなる、立って歩けなくなる…そんなことを聞かされてどんな気持ちだったか…。」
シャマルが目を臥せる。

「無茶をしても、命をかけてでも譲れぬ場は、確にある。
だが、ティアナ、お前がミスショットをした場面は仲間の安全や、命をかけてでも、どうしても撃たねばならない状況だったか?」
シグナムの言葉にハッとするティアナ。
「訓練中のあの技は一体誰のための、なんのための技だ?」
確にと思うティアナ。
「なのはさん…さ、自分と同じ思い…させたくないんだよ…。
だから、無茶なんてしなくていいように、絶対絶対、皆が元気に帰ってこられるようにって…。
本当に丁寧に…一生懸命考えて教えてくれるんだよ?」
震えているシャーリーの声に皆が沈黙した。

ミッドチルダ、海上。
「ヴィータ、ラスト一機お願い!!」
他のガジェットは全て撃墜し、ラスト一機を撃墜すれば片はつく。
ヴィータは張り切ってカートリッジを消費、ラケーテンフォームを利用して最後の一機を撃墜した。
『スターズ2、24機目を撃墜。』
『これで全め…、いや、上空からアンノウン接近。』管制からの通信が現場に緊張を走らせた。
『ドラグーンフルバースト』
降り注ぐ九本の灰色に輝く奔流。ヴィータは管制の通信の異常を察知し、すぐさま回避行動に移る。
そのすぐあとに奔流は海面に激突、渋きをあげた。
「ヴィータ!!」
ヴィータの名前を叫ぶフェイト。
『スーパーフォルティス』今度はフェイトのすぐそばを駆け抜ける朱色の奔流。中距離支援していたなのはには
『ドラグーン・スパイク』
直線的な不規則な動きでなのはを襲ういくつもの光のランサー。
なのはは回避するが、それは何処までもついてくるので、アクセルシューターを使い、破壊。
ガジェットの迎撃に出ていた三人は、はやてからの通信ですぐに迎撃を開始した。
赤紫を主体とするバリアジャケットを身に纏う少年と灰色と紺を主体とするバリアジャケットを身に纏う少年は、向かってくる金色、真紅、桜色の光を迎えうつ。
「ジャスティス!!」
『Ok, Boss!!』
「行くぞ!レジェンド!!」
『Yes, Let's Go!!』

「バルディッシュ!!」
『Yes, sir!プラズマランサー』
フェイトの周囲に現れる金色の発射体リング八つ。
対するアレックスは、フェイトの出方を窺っているのか、盾を構える動きすらない。
バルディッシュを横薙一閃、プラズマランサーを放つフェイト。
アレックスに向け放たれたそれらが確に目標を捉え、爆煙をあげた。
フェイトはバルディッシュを構え直し、警戒を怠らない。
『シャイニングエッジ』
煙を裂いて出てきたのは朱色の大型の魔力刃によるブーメラン。
バルディッシュを用いてシャイニングエッジを弾くフェイト。
しかし、対処法を誤った。シャイニングエッジを弾いた次の瞬間には盾を構えたアレックスが突っ込んで来ていたのだ。
『ディバインバスターEX』今度は桜色の奔流がアレックス目がけ、なのはによって放たれる。
盾を構えるアレックス。すると中心から朱色の魔力が波状に噴射され、ディバインバスターはそれに当たり、散った。
「何、あの盾!?」
驚いたのはなのはだけではなかった。
フェイト、ヴィータ、管制局員たちもである。
いくら能力限定されているとはいえ、あの大威力の砲撃魔法を容易く受けきったのだ。
フェイトからなのはへと矛先をかえ、左腕付属の盾型デバイス、ジャスティスを構えるアレックス。
「させない!」
フェイトがバルディッシュを構え、アレックスへと向かっていく。
「させるか!レジェンド」
『ドラグーン』
剣型デバイス、レジェンドを横一閃すると魔力刃が外れ、十の魔力の塊に分割される。
それぞれに発射体リング、そして何故か発射口前に展開される環状魔法陣。
それらをまとったまま直線的な不規則な動きでフェイトとヴィータに向かっていき、二人をオールレンジから攻撃する。
発射体リングの中央の魔力の塊から放たれる奔流が環状魔法陣にぶつかり、九の奔流に拡散される。
上下左右360度。
「これってッ!?形式は違うけど…。」
「キラの使う魔法に似てる…。」
フェイトはシールドを用い、移動しながらかわし、ヴィータも同様にする。
空域を九十の灰色の魔力の奔流が飛び交っていた。

アクセルシューターを放つなのは。
それはなのはのコントロールにより、アレックスへと向かっていく。
両腰に装備している白い筒状の何かを右手で抜き取り、連結させるアレックス。
『シュペールラケルタ・アンビデクストラス・ハルバート』
すると、朱色の魔力刃が発生し、そのままジャスティスでアクセルシューターを防御。
爆煙を突抜け、なのはへと斬りかかり、下段から斬り上げる用に手首をかえす。
なのはの作り出す強固な障壁がアレックスの斬撃を阻んだ。
桜色と朱色の魔力光が不快なまでに明滅を繰り返す。
『ブレフィスラケルタ&シュペールラケルタ』
斬撃を防いでいるなのはが目を見開いた。
アレックスの頭上に用意される大型ランサーとその両サイドに現れる中型ランサー。
「撃て…ジャスティス」
『OK, Boss.』
発射体から放たれる三つのランサーがなのはのラウンドシールドに突き刺さる。
「えっ!?」
間抜けな声をあげるなのは。障壁にランサーが触れた瞬間、高速でなのはは無理矢理に後退させられていた。
一瞬にして戦闘区域から離脱させられるなのは。
「「なのは!!!」」
ヴィータとフェイトが気付いた時にはすでに、なのはの姿は見えなくなっていた。
「ラウ、お前は紅い方を頼む…。俺は…。」
といってフェイトへとその視線を向けるアレックス。
「了解した。レジェンド!!」
『ドラグーン・スパイク』フェイトとヴィータを囲んでいたドラグーンがランサーへと変化し、ヴィータ一人に集中する。
「上等!!行くぞ!アイゼン!!」
『Jar』
直進してくるランサーをラウンドシールドで受けるヴィータ。しかし、異変はすぐに起きた。
弾かれるはずのランサーがシールドを破壊せず貫通。
「何っ!?」
慌てて回避するヴィータ。しかし、背後にも複数のランサーが待機していた。
「なんなんだよ、この魔法はッ!!」
悪態をつきながら、それでも、グラーフアイゼンを用いてヴィータは叩き落としていた。

一方、フェイトはシグナムが見ておけと言っていた戦闘データのことを思い出していた。

障壁を張ってもその上から後退させられるシグナム。

(鍔競り合い、障壁を張るのは危険か…。なら!!)
『ソニック・ムーヴ』
金色の閃光がアレックスへと超高速で向かっていった。

バルディッシュを縦一閃で叩き込むが、魔力刃によりとめられる。
フェイトはすぐに次の攻撃へと移るため、バルディッシュでアレックスを強引に弾き飛ばし、体制を崩したところへ。
『プラズマスマッシャー』を放つ。
金色の大型の魔力の奔流がアレックスを飲み込もうとするが
『スキュラ』
朱色の閃光がプラズマスマッシャーを相殺した。
『ファトゥム01』
赤く輝く戦闘機を思わせるような翼がアレックスの両肩部に発生する。そして、ジャスティスを構えフェイトへと向かっていく。
(スピードが、上がった!?)
フェイトもバルディッシュを構え、迎え撃つために動き出す。
バルディッシュを横薙一閃しようとするが、盾、ジャスティスによって阻まれる。
しかし、今度、力で押しきられたのはフェイトだった。
瞬時に体勢を建て直す。それと同時、連結されていたサーベルを解除した二刀の魔力刃を振り上げ、今まさに振り下ろそうとしているアレックスの姿が視界に入った。
斧形態のバルディッシュの刃と柄で左右の縦一閃を受けるフェイト。
(これを弾いて、一旦距離を取る!)
フェイトはそう考え両腕に力を込めた刹那
『グリフォン』
耳に響く機械的な女性の声。
いつのまにか振り上げられているアレックスの右足。そして、膝から足までを繋ぐ魔力刃。
目を見開くフェイト。
ヒュッ!!
振り抜かれる蹴り、空気を切り裂く音。
しかし、それがフェイトに当たることはなかった。
再びのディバインバスターがアレックスを邪魔したのだ。
騎士甲冑を所々損傷しているヴィータをアクセルシューターがフォローする。
なのはの遥か遠方からの砲撃。
「(戦闘データは取れた。離脱は出来るかい?)」
スカリエッティからの通信がラウとアレックスに入る。
二人はそれを了解し、アレックスはラウのもとへと飛翔する。
『ディバインバスターEX』
『プラズマスマッシャー』
『シュワルベフリーゲン』三種の魔法が二人に向けられ発動準備された。

「アレックス、やるぞ…」
「あぁ…。」
魔法陣を展開する二人。
「「ターゲットマルチロック」」
放たれる桜色と金色の奔流と紅の魔力弾。
盾型デバイス、ジャスティスと剣型デバイス、レジェンドから排出される計六発のカートリッジ。
『『Complete マルチロック・Combination Asult Fire!』』
なのは、フェイト、ヴィータは回避行動をとる。
全方位360度から放たれる極大の奔流と膨大な魔力の塊が空を駆け抜けていき、光が晴れたときには二人の姿は確認できなかった。

ロビーに流れる沈黙。それを破ったのはシンだった。
「さすが綺麗ごとは管理局のお家芸だな。
同じ思いをさせたくない?だったら、戦わせるなよ。戦わせればどっちかが傷付くか、死ぬかするんだ!
命をかけてでも譲れない場面?
そんなの、戦場にでればいつだってそうだ。自分のために、家族のために、皆のために、国のために…、理由は一杯あるさ。
ホテル・アグスタでも、ヴィータ副隊長がガジェットの館内侵入前に間に合ったとは言い切れない!
館内警備にいる隊長たちも、一人の犠牲も出さず乗りきれたとは言えないだろ!」
突然、シンが声を張り上げたので、周りは再び沈黙。しかし、今度の沈黙はそう長くはなかった。
「でも、なのはさんは、皆のことちゃんと…。」
「そうやって、なんでもなのは隊長が正しいみたいな言い方して…、まぁあんたたちにとっちゃ神みたいな存在なんだろうこど。
俺にとっちゃ、ただの悪魔だね。」
シャーリーの言葉を遮り、シンが言った。
「シンッ!!」
言い過ぎだと言うように席を立つキラ。おどおどしだすスバル、エリオ、キャロ。
そして、そのやりとりを不安そうに見つめるシャマルと、冷静な面持ちで見つめているシグナム。
「俺は間違ったことは言っちゃいませんよ?
あんな過去を見せて…、同情を誘いたいだけなんじゃないの?」
言い切ると肩で呼吸するシン。
そして、丁度帰ってきたなのはがシンの後ろに立っていた。

ばつの悪そうな顔をするシン。一方、なのははシンの発言よりも、シャーリーに詰め寄る。
「シャーリー、かってに話ちゃったの?」
「すみません、でも…、見てられなくて…。
説得したかったんですけど…。」
はぁっと嘆息し、なのはは困ったような笑みを浮かべシャーリーを落ち着かせると、シンへと向き直った。
「私のやったことが…そんなに気に入らない?」
「えぇ、気に入りませんね。ていうか、仲間のあんな光景見せられて、気に入る奴なんかいませんよ!!」
半、挑発的な笑みを浮かべるシン。
「じゃあ、今からとことん話し合おうか?
シン、ティアナ、キラが納得行くまで…」
「はぁ?今から?散々やっといてから、はいそーですかってあんたの提案に従えるもんか!!」
「そうだねぇ、でも私にだって言いたいことはあるから、あの時、私がティアナに伝えたかったのは、無茶ばっかりやってたらいつか必ずその代償を払う日がくるからって、それを伝えたくて!!」
「だから、撃ったってのかよ?あんたはぁ!!」
「二人とも!!」
ヒートアップして行くシンとなのはの間に割って入ったのはキラだった。
「勝手に熱くなるのはいいけど…もう少しティアナのことを考えて…」
「「だから、ティアのことを…!!!」」
なのはとシン、二人の剣幕を押しきり、キラが声を張り上げた。
「そうじゃなくて!!!ティアナ本人の気持も聞けって言ってるんだ!!!」
静まる二人。
キラはずっとうつ向いているティアナへと視線を向ける。
「それで、ティアナはどう思ってるの?自分が間違ってると思う?それとも、まだ正しいと思ってる?」
「私は…正しいと思ってます。」
震える声でティアナがいった。
「ほら、見てみろ!」
とシンがなのはを挑発するが、
「シン、ちょっと黙ってて…。なのは隊長は何か言いたいことはありますか?」
キラの質問に頷くなのは。「本当は事前に話しておくべきことだったんだけど、ティアナのデバイス、クロスミラージュの第二形態はダガー形態なの。」
顔を上げ、えっと声をあげるティアナ。
「ティアナは執務間志望だから、どの道、近接戦闘は必須になってくると思うから…。
でも、今は教導しながらこなさないといけない任務があるし、中途半端に教えるよりも、今ティアナが得意とする射撃魔法をより完璧なものにしたかったからね。」

一旦、間を置いてから再び口を開くなのは。
「今は前衛が出来なくても、スバルやエリオ、シンがいるからって思ったんだ。
三人に前衛をまかせて、訓練で研いてきた得意の射撃を今度は実戦で確実なものにしてあげたかった。」
声のトーンを落としたなのはに、今度はキラが言う。
「だったら、どうしてそれを言ってあげないの?
まずは、話し合おう。君は、敵だった僕やヴィータ副隊長にでさえ、そう言ってくれたじゃない?
その言葉は…どうしたの?
デバイスだって、どんな機能がついているか、データを渡して上げてもよかったでしょ?」
「………。」
一瞬、驚いたような顔をするシグナム、シャマル、なのは。尚も続けるキラ。
「データを渡して上げただけでも、結果は違ったでしょ?」
流れる沈黙。階段から降りてきたフェイトとヴィータも、皆が視線を注ぐなのはとキラへ視線を移し、足をとめた。
「……そっか…、そうだよね…。
ごめんね、ティア。
コミュニケーションが足りなかったよね…。」
そんな続く沈黙を破りなのはが言う。
「…いえ…そんな…。」
うまく言葉にできないティアナ。
「今回のことは私が悪かったよ。
でも、一つだけ、ティアナにはわかって欲しいんだ。
ティアナは自分のこと凡人だなんて言うけど、そんなことはないんだよ?
ティアナのクロスファイアだって自分でいろんなバリエーションを増やしていけば、強力で状況に応じて使い分けができる強力な魔法なんだよ?」
ティアナの肩をポンッと叩くなのは。
「これからは、ちゃんとコミュニケーションがとれるように気を付けるね。
今回は、ほんと、ティアナの気持ち、考えなくてごめんね。」
「そ、そんな、ことは…私も…無茶をしたのは確だし…。ごめんなさい。」
ティアナは何だか浮かない顔をしているが、そんなティアナになのはは言う。
「ほら、今日はもういいでしょう?
ゆっくり休んで…。
明日からは、いつも通りだから…ね?」
そういって微笑んだ。

「さぁ、みんなも、もう夜も遅いんだからお風呂はいって寝ないと、明日も訓練はあるんだから…。」
自分達の部屋へもどっていくスバル、ティアナ、エリオ、キャロ。
「シン君、キラ君…。」
他の四人と同じくして戻ろうとする二人をなのはが呼び止めた。
「ありがとう…。」
そんななのはにキラは首を振った。
「話し合いで解決できるなら、そうした方がいいとおもったから…。
一応、僕は経験者だからね。」
シンを見てから、それに…と続けるキラ。
「話して合っても、どうにもならなくて戦ったこともあるからね…。
それは、今回のこととは関係ないんだけど。」
C.E.71の戦争初期を思い出す。ザフトと連合、己の前に現れた敵は親友だった。
刃を交えながら話し合っても、結局、互いに殺し合うところまで言ってしまった。
「こんな、皆が納得しないまま、組織の内部から反乱が起こったりしたら、堪らないからね。」
「キラ・ヤマト、お前…記憶が…」
とシグナムとシャマルにヴィータの元へと腕を引っ張られ連れていかれるキラ。
そんな光景を微笑ましく思いながら今度はシンに
「ありがとう」
というなのは。
「別に…、俺はただ、あんた…いや、隊長について思った事を言っただけで…。」
「刃も向けたよね?」
「いや、あの時は、ついカッとなって…。
すみません。」
「ううん、謝るのはこっちの方。ごめんね。」
でも、と続けるなのは。
「模擬戦のときの戦いだけど…、負けたつもりはないからね?本気出してなかったし…。」
「じゃあ、そのうち勝負しますか?なのは隊長?」
「そうだね、そのときは一対一、全力全開で…。」
シンの言葉に笑って答え、シンは部屋へと戻っていった。
その日の深夜、なぜか痣だらけのキラが部屋へ戻ってきたが、シンもエリオも何も聞かなかった。

翌日、昼休み。
キラとシンははやてに呼び出され、部隊長室にいた。空間にモニターを開かれ、そこに映る二人の少年の顔。
一人は、青く肩まで伸びた髪に、もう一人も同じく金髪を肩まで伸ばしている。青い髪の少年は赤紫とワインレッドのバリアジャケット。
金髪の少年は灰色と紺をのバリアジャケットに身を包んでいる。
そんな二人を見たキラとシンは震える声でモニターに写る少年らの名前を呟いた。
「そんな…アス…ラン?」
「…レイ…?」

あとがき

なのはたちの戦闘終了後、機動六課隊舎ロビーにて
沈黙を破るキラ「確に、ティアナの無茶が過ぎたかも知れないけど…、だったら尚更、撃つ必要が、殴る必要があったの?
これを今伝えてどうするの?
知ってるのに、分かってるのに黙ってたら駄目でしょ?
泣いてるのに、苦しんでるのに殴って終らせるのも駄目でしょ?」
同じ場面シンの場合「さすが綺麗ごとは管理局のお家芸だな。
同じ思いをさせたくない?だったら、戦わせるなよ。戦わせればどっちかが傷付くか、死ぬかするんだ!
命をかけてでも譲れない場面?
そんなの、戦場にでればいつだってそうだ。自分のために、家族のために、皆のために、国のために…、理由は一杯あるさ。
ホテル・アグスタでも、ヴィータ副隊長がガジェットの館内侵入前に間に合ったとは言い切れない!
館内警備にいる隊長たちも、一人の犠牲も出さず乗りきれたとは言えないだろ!」

以上、ボツにしたセリフでした。(他にもあるんだけどね)

次回 第九話 Interlude ~休暇~
シン「休日かぁ~って、どうせ途中で任務が入るんでしょ?」
キラ「そうじゃないらしいよ?完全に休日の物語だってさ。シンが言ってるのは第十話のこと。」
エリオ「休日って、僕らなにするんですか?」
キラ「何か、旅館行くみたいなんだ…。」
シン「そう、そこではケースバイケースの話や、俺たち六人で買い物いったりするんだ。」
キャロ「と言うわけで、
次回シンとヤマトの神隠し~Striker'S~
第九話 Interlude~休暇~
お楽しみに!」
シン「『エリオ・モンディアルの憂鬱』にご期待ください!」
キラ「いや、そんなのないから…!」
エリオ「ありますよ!…えと…多分…。」
次(8.5話) 次(9話)