Seed-NANOHA_神隠しStriker'S_第24話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:47:45

クリスタルケージに閉じ込められたキラは、自分の体の異変に気付いた。
体が薄くなってきている。
血、と言えば正しいのか、キラの精神体から流れだした赤い液体は雪の様に白い空間に吸収去れていく。
「…これ…は…。」
自分の脇腹の傷が修復されはするものの…。
驚いているキラを眺めていたもう一人のキラはそんなキラを目の前に面白おかしそうに目を細め笑っていた。

ミッド地上での事件は群を抜いて多かった。
戦力、人員何もかも足りず、守れずに亡くなった一般市民、戦場半、倒れた局員たちも少なくなかった。
そして、地上の優秀な魔導士は本局に引き抜かれるという現状。
つまりは、いくら優秀な局員を育てても地上部隊の戦力にはならない…そういうことだ。
決して魔法の才に秀でていなかったレジアスは局内の高い地位を目指した。
自分が権力者になれば、今の地上部隊の現状も変えられる…そう願い、その願いはレジアスの努力と、惜しまず力を貸してくれたゼストのお陰でそう遠くなく叶えることが出来た。
それからだった、レジアスが豹変したのは…。
「お前に問いたかった…。
俺はいい…、お前の正義の為ならば、殉じる覚悟があった。」
ゼストの脳裏に浮かぶのは自分の部下たちの顔。
「だが、俺の部下たちは何の為に死んでいった?
どうして、こんなことになってしまった?
俺たちが守りたかった世界は…俺たちが欲しかった力は…俺とお前が夢見た正義は?
いつのまに…こんな姿になってしまった?」
ゼストは吐き出すようにそういうと、レジアスの答えを待った。
だが、レジアスはその問いに答えられなかった。
鋭い音ともに、レジアスの胸部から噴き出す血。
滴り、流れる血液が机の上の二枚の写真を濡らす。
「ッ!?」
ゼストにかけられる緑色のバインド。異変に気付いたオーリスが自分の背後を見ると、いつのまにか、一人の女性が立っていた。
レジアスの胸部から突き出たままの冷たい金属の輝き、ナンバーズ2番、ドゥーエ。
すがるような目でゼストを見、レジアスは力なくその体を机に預けた。
駆け寄るオーリスをドゥーエは吹き飛ばし、眠らせる。
「お役目…ご苦労様です。あなたはもう、ドクターの今後にとってお邪魔ですので…。
さぁ、これであなたの役目も復讐も終りです。」
ドゥーエはゼストへと視線を映した。
「いつでもそうだ…、俺はいつも遅すぎる。」
ゼストはバインドを砕いた。

シグナムはリインと別れ、アギトと共にゼストのもとへと向かっていた。
破られたドアから中を見渡せば、レジアスが机に突っ伏し、その横にはナンバーズと思われる女が横たわっていた。
そして、こちらは恐らく気を失っているのだろう、本棚に背を預けて座っているオーリス。
生きているのはゼストだけだった。
「旦那…。」
「これは…貴方が?」
シグナムが言った。
「そうだ…、俺が殺した…。俺が弱く…遅すぎた。」
ゼストは低い声音、思いつめた表情でそう答えた。

スカリエッティアジト。
「君はあんな男の為に…、こんなことをするのか!!?」
フェイトは力強くフロアを蹴り、跳躍してザンバーを一閃。ラウに当たることはなかったが、大剣はフロアを切り裂いた。
飛び散る灰色の魔力光。
「俺は…どの道そう遠くない未来に死ぬ人間だ…。
死ぬ前に、恩を返す…それだけだ。
本来、ドクターに救われることがなければ、俺は森でのたれ死んでいただろう。
死んでいた方が楽だったろうに…。」
『ドラグーン・スパイク』
悲しげに呟くラウ。
全包囲から一斉に一点へと集中する魔力の槍。
『ソニック・ムーブ』
煙の尾を引きながら一閃を見舞うフェイト。しかし、ラウは見きっていたかのように距離をとり、近付けさせない。
再びラウの魔力で練られた発射体つき魔力弾が周囲にポツポツと産み出されて行く。
「俺はお前と同じクローンだ…。だが、お前とは違い、完璧なクローンではない。」
奔流の嵐をザンバーで受け、回避しながら間合いを詰めるも、どうも誘導されているようだ。
あっという間にドラグーンで包囲され、一斉射。ソニック・ムーブでかわす、それの繰り返しを行っていた。
「完璧?私は完璧なクローンじゃない!!」
ドラグーンをかわしながらフェイトは言う。
「その証拠に…私はアリシアにはなれなかった!!」
「そんなことは問題ではない。お前はまだ、生きようと思えば生きられる。
だが、俺はどうだ?
生まれつきテロメアが短く、自分の手で友を…」
痛み。脳が思い出すのを拒否する。
顔は見えない。黒い髪が印象的だった。
「欺き…利用…」
周囲のドラグーンが霧散して消えていく。
フェイトはラウの異変に気付き様子を窺っていると血のように赤いバインドの様なものにザンバーを絡め取られ、さらに足にも巻き付く、それ。
「ッ!?」
ザンバーが砕かれ、足を地上に引っ張られて、そのバインドの様なものが檻を形成、閉じ込められてしまった。

「おやおや…、彼にとって『友』と言う言葉は禁句だったようだね…。」
暗がりから足音と共に姿を現したのはスカリエッティだった。
完全に動きを止めてしまったラウを一瞥してから、フェイトへと視線を移すスカリエッティ。
「まぁ…いいがね…、正直、彼がここまで動けた事だけでも驚きなんだがね。
さて、以前トーレから聞いているかね?
私と君が…親子の様なものだと…。」
スカリエッティは空間モニターを開いた。
「君の母親…プレシア・テスタロッサは実に優秀な魔導士だった。
私が原案のクローンニング技術を見事完成させてくれた。
だが肝心の君は…彼女にとって失敗作だった。
蘇らせたかった実の娘、アリシアとは似ても似つかない…。
単なる粗悪な模造品…クククク…。」
笑うスカリエッティ。
「それ故、まともな名前すら貰えず、プロジェクトの名をそのまま与えられた。
記憶転写クローン技術…、プロジェクトF.A.T.Eの最初の一葉。
フェイト・テスタロッサ…。」
フェイトはスカリエッティを睨みつけ、そして立ち上がった。
「ライオット!」
『ライオット・ブレイド』
カートリッジを消費、バルディッシュザンバーは大剣からもう一つの剣の姿へと姿を変えた。
大剣よりも扱いやすい、小回りの効く剣。
それを横一閃、スカリエッティの作った檻を切り裂き、壊した。
「それが君の切札か?」
ぜぇはぁと息を切らすフェイトを目の前にして、スカリエッティが言った。
「成程…、このAMF状況下では消耗が激しそうだ。
だが、使ってしまっていいのかい?
ここにいる私を倒したとしても、ゆりかごも私の作品達も止まらんのだよ?
プロジェクトFはうまく使えば便利なものでね。
私のコピーは戦闘機人12名の体内に仕込んである。
どれか一つでも生き残れば、すぐに復活し、一月もすれば私と同じ記憶を持って蘇る。」
「馬鹿げてる…。」
フェイトが静かに呟いた。
「旧暦の時代…アルハザード時代の統率者にとっては常識の技術さ。
つまり君は、ここにいる私だけでなく、各地に散った十二人の戦闘機人、その全員を倒さねば、私も…この事件も、止められないのだよ。」

興奮気味に笑うスカリエッティ。
再び先ほどのバインドがフェイトの自由を奪う。
「絶望したかい?君と私はよくにているんだよ。
私は自分で作り出した生体兵器たち、君は自分で見付だした自分に反抗することが出来ない子供たち…。
それを自分の思うように作り上げ、自分の目的の為に使っている。」
「黙れッ!!」
プラズマランサーを放つも、スカリエッティにの張る障壁に防がれてしまう。
「違うかね?君もあの子たちが自分に逆らわないように教え込んで、戦わせているだろう?
私がそうだし、君の母親もそうだった。
回りの全ての人間は、自分のための道具にすぎない、そのくせ君達は、自分に向けられる愛情が薄れるのには臆病だ…。
実の母親がそうだったんだ、君もいずれ、あぁなるよ。
間違いを犯すことに脅え、薄い絆にすがって震え、そんな人生など無意味だとは思わんかね?」
フェイトがスカリエッティの言葉に惑わされそうになった時だった。
恐らく、スカリエッティの仕業でエリオやキャロにも今の自分の様子が見えるようになっていたのだろう。
『『違う!!!』』
二人の声が、フェイトの耳に飛込んできた。
『無意味なんかじゃない!!』
キャロが叫ぶ、腕にルーテシアを抱えていることから恐らく、戦闘は無事に終了したのだろう。
『僕たちは自分で自分の道を選んだ!』
『フェイトさんは行き場のなかった私にあったかい居場所を見つけてくれた!!』
『たくさんの優しさをくれた!!』
エリオが、キャロが叫ぶ。
『助けてもらって、守ってもらって…自分一人の力でやっと少しだけ歩き出せるようになった!』
『だから負けないで!迷わないで!!『戦って!!!』』

フェイトは笑った。
まさか、自分の子供たちから教えられるとは思わなかった。
いずれは成長し、自分の元を離れ、一人で歩けるようになっていく。
そう思っていた。
まだ自分が支えてあげなければと。
『Get set』
「オーバードライブ…新・ソニックフォーム!」
『Sonic Drive』
溢れ出す膨大な魔力。天に向かって伸びる金色の魔力光。
「ごめんね…ありがとうね…エリオ、キャロ!」
変化するバリアジャケット。
『ライオット・ザンバー』
二刀一対の剣が両手に握られる。
二刀の切っ先をスカリエッティに向け構えるフェイト。
その前に頭痛に顔を歪めるラウが立ちはだかる。
「それだけ装甲が薄ければ、ドラグーン一発当たれば墜ちるぞ?」
灰色の魔力光が飛び散る。
「ッ!?消えた?いや、」
頭上を覆う陰
「うちおとせ、レジェンド。」
『OK』
フェイトを囲むように展開されるドラグーンによる攻撃。
しかし、フェイトは華麗にかわしてドラグーンの発射体を破壊して行く。
一つ、また一つ。
フェイトの突如として上がったスピードと頭痛がドラグーンのコントロールを妨げる。
「所詮は出来損ないか…。」
スカリエッティが小さく呟く。

フェイトはラウに追い討ちを掛けながら口を開いた。
「私はアリシアにはなれなかった!
なれるはずがなかった!!」
ラウ、本名はレイ・ザ・バレル。彼についてはシンとキラから事情を聞いたことがあった。
「あなたも!」
レイ・ザ・バレルという名を持ちながらも、ラウ・ル・クルーゼとして生きてきた少年。
「でも、それは何も失敗作だからじゃない!」
発射体のコントロールがフェイトの迎撃に間に合わない。
「当たり前なんだ、命は何にだって一つだから!!だから私はアリシアじゃなくフェイトととして生きてきた。
だからあなたはラウなんかじゃない!その命はレイ・ザ・バレル…君のものだ!!!!」
ラウの動きが止まった。脳内で再生される似たような言葉。
『命は、何にだって一つだ!だからその命は君だ!彼じゃない!!!』
目の前に迫り来る二刀の斬撃にぶっ飛ばされ、ラウは気を失った。

フェイトはスカリエッティに向き直ると、二刀を一刀へと束ねる。
咆哮と共に縦一閃。
だが、スカリエッティは両手でそれを受け止めた。
手にはデバイスのようなグローブをはめている。
溢れ、弾ける魔力の欠片。
「あっはっはっはっはは…素晴らしい…やはり、素晴らしい…。
あぁぁ…この力、欲しかったなぁ!!」
目を見開き、狂喜の笑みを顔一杯に浮かべるスカリエッティ。
「だが、君は私を捕える代償に…君はここで足止めだ…。
私がゆりかごに託した思いは、とまらんよ!!!」
フェイトは一旦距離をとり、そして
「オォォォォォッ!!!」
ライオットザンバーの側面でおもいっきりぶっ飛ばした。
壁に全身を強打し、壁に背中を預けているスカリエッティにフェイトは言い放つ。
「広域次元犯罪者…、ジェイル・スカリエッティ…あなたを逮捕します。」

『スカリエッティ、アジト。アコース査察官からの連絡、戦闘機人の配置と現在の最終可動が判明!残り、四番のみです。』

現在状況が機動六課全員に知らされる。

暗闇でパネルを操作するクアットロは空間モニターを閉じ、溜め息を着いた。
「はぁ…、どの子も使えないこと…。」
眼鏡を放りなげ、結んでいた髪を解く。
「まぁ、私がいれば何とかなります…そうですよね?ドクター」
クアットロは愛しそうに自分の下腹部に手をあてた。

そして、玉座の間では息を荒げるヴィヴィオの前でなのはが壁に背中を預け、気を失っていた。

「向こうの切札も、もうじき潰れますしね。」
クアットロの笑い声が、誰もいない闇の中に響きわたった。

「ゆりかご」軌道ポイント到達まで
あと1時間35分