Seed-NANOHA_神隠しStriker'S_第8.5話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:51:35

記憶が戻った祝い、そんなわけで機動六課隊舎の一室を借りきってのちょっとした食事会の様なものを開いている。
場所の都合上、はやてとリインフォース、ヴォルケンズ、それからキラの七人だけだ。
ちなみに、なのは、フェイトたちはシンのお祝いである。
テーブルの上にはおお皿に盛られたはやての手作り料理。
それらを個皿に取り分け皆で食べて行く。
肉から魚、野菜までレパートリー豊富なはやてが忙しいなか用意したものだ。
「リイン、紹介するな、こちらキラ・ヤマトさん。
一時期はうちらの家族やったんよ。」
「よろしくですぅ~。
キラさんのことは前からはやてちゃんに聞いてるです。」
飛んでくるリインに笑顔で答えるキラ。それから二人で会話しているとはやてが混ざってきた。
「帰ってくる~って約束したのに、キラくん帰ってけぇへんかったから、なんや寂しかったわ~。」
「ホントに…ごめん。あの時は僕も帰るつもりで…」
キラの口許に人指し指を立て、
「し~っ」
と言葉を遮るはやて。
「それよか、キラくんおいしい?」
目をパチクリさせるキラ。それから笑って
「うん、おいしいよ。ありがとう。」
ドンッと脇腹をついてくるのはヴィータだ。
「なぁ~に雰囲気だしてたんだ?キラ。」
「うっ、ヴィータ副…あっ…いや、ヴィータは相変わらず元気だね。」
「話してばっかじゃなくてお前も食え、忘れたのか?はやての料理はギガうまなんだ。
次はいつ食えるか分かんねーぞ。」
個皿に肉料理をこれでもかと言わんばかりに盛ってくるヴィータ。
「キラ・ヤマト、肉ばかりではなく野菜もだな…」
「いや、あの…それ以上お皿にのりませんよ?」
「皿ならシャマルのがある、使え。」
さりげなくザフィーラが魚料理を盛っている。
「ちょっと、ザフィーラさんまで!?」
そんな四人と一ぴきを近くで見ながらはやては微笑み、そして気付いた。
「そう言えばシャマルは?」

「シャマルなら、張りきって料理を振る舞うんだ…とか言ってましたよ。」
シグナムが恐ろしいことをいい始めた。
「まぁ頑張ってくれるんやし…最低、一口だけでも食べてあげよ、な?」
「ま、はやてが言うならしかたねぇーよな…。」
ザフィーラは同意と言った感じで首を縦に振った。
「キラくんも出来るだけ頑張ってな。」
苦笑いのはやてが言った。

さて、そんなシャマルが用意したのは一口サイズに斬ったじゃが芋を茹でたもの。
玉葱、トマトのスライス、りんごジャム、クリームヨーグルト、薄焼きパン、赤すぐり、赤かぶ、チーズ。
そして…パンパンに膨れ上がった缶詰数個だった。

「みんなぁ、お待たせ~。」
トレーに食材を載せシャマルが入ってきた。
「おぉ、シャマル、遅かったなぁ。何つくっとったんや?」
一同覗き見るが、どうやら自分で薄焼きパンの上に好みの具材を乗せ食べるものらしい。
はてさて、挟むものの主役となるものはどれだろう?
「じゃ~ん、これです!」
シャマルが取りだしたるは三つの缶詰。
「缶詰かぁ~、これなら心配いらないなぁ…。」
ヴィータが心底安堵に胸を撫で下ろした。
「この缶詰…結構な珍味だそうですよ?」
シャマル、缶切りをポケットから取り出した。
「そうかぁ、でも何処からもらってきたんや?」
「108部隊の……」
会話するはやてとシャマル、安堵するヴィータとシグナム、リイン。
だが、そろりと部屋から出ようとするザフィーラ。
キラはシャマルが持ってきた缶詰が何か知っていた。
知識だけだが
(確か…名前はシュールストレミング。ニシンの漬物で、食べ方は缶開封時に注意。内部にたまったガスが勢いよく噴射するからだ。開封時は水中推奨。
それから臭いも強烈だとか、部屋の中で開けると臭いが中々消えないため、外での開封が望ましい。
クサヤの六倍臭う…らしいって…)
「あのシャマルさん…缶詰ここで開けるんですか?」
畳十二畳のスペース、窓は雨のため閉めきってある。
つまるところ、この部屋は密室だった。

「あ、ザフィーラ。」
シャマルはザフィーラの尻尾をひっ掴み、たぐり寄せる。
「これを開けてくれる?缶切り二つしか見付からなくて、あなたの牙なら開けられるでしょう?
それからこっちはシグナム、お願いね。」
「任せろ。」
缶切りの爪をシグナムが引っ掛けた。
ザフィーラは嫌々ながらもゆっくりと己の牙を掛けようとした刹那。
「あの…、本当に…それを開けるつもりなんですか?」
キラが言った。
はっ?と一同。
「その缶詰…シュールストレミングですけど…開けるなら水中か、外の方が…」
「酷い…。」
よよよっとシャマルが手で顔を覆う。
「私は確かに料理が下手ですけど…缶詰なんですから、失敗なんかしません!」
ジトッと睨んでくるヴィータ、シグナム、はやて、リイン。
「すまない、トイレに行ってくる。」
そんな中、ザフィーラが部屋から出ていった。
「キラ、てめぇ、シャマルはお前の為に!」
「違う、違うんだ。ヴィータ、僕が言いたかったのはシャマルさんの料理音痴云々じゃなくて…」
「ならば異存はなかろう。」
カシュ
シグナムはふかぶかと缶切りの刃を缶詰の蓋にさしこんだ。
「シグナムさん!!」
破裂音とともに形容しがたい色の液体が噴き出され、シグナムの顔面を直撃。
「………。」
うじゅる、ぶじゅじゅ…と唸る缶詰。

タパタパとシグナムの髪から滴る液体。
「…………くさっ…。」
キラが鼻を摘んだ。
「オェっ…くっせぇ~、何だこりゃ…つーか早くその缶詰外にだせ!
リイン!窓開けろ!」
「はいです!」
「シグナム…タオル…。」
はやてが放心状態のシグナムに言った。
「は…はい…主…うぷっ」
うぷって。
はやてからタオルを受取り、拭き取る。
「しっかし、すっごい匂いやなぁ~。」
缶切りを使い、綺麗に開けるはやて。
中にはニシンの切身の姿。腐臭を放つ液体にとっぷりと使っている。
それを箸でつまみ薄焼きパンにのせ、玉葱、トマト、チーズ等を加え、挟むとキラに渡す。
「えッ?」
「(シャマルが見とるで、食べるんや、キラ君。)」
念話。
うるうると揺れるシャマルの双眸。
キラは口で呼吸しながら、はやての手からサンドイッチを受けとった。
妙に味の有る唾液がキラの口の中に溢れた。

高鳴る鼓動。
目の前にははやてから手渡されたサンドイッチ。
ゆっくりと、確実に口へと運んで行く。
それと同じくして、表情が綻んで行くシャマル。
一口、キラはかじった。因みにわりと大きめな一口だ。
生ごみを直射日光の下、一日放置したような臭いが鼻からぬけ、ブリ、ブリとニシンを噛む度にグロテスクな音がする。
「おいしいですか?キラさん」
ここでおいしいと言えば絶対にもう一口食べろと、そういう流れになってしまう。
鼻を摘んだまま八神家一同の視線がキラに集中する。

一口目は乗りきった。だが二口目は自信がない。胃が拒否を示している。口に含もうものならきっと…。
でも…。
ヴィータを見る。
でも…。
シグナムを見る
でも…。
はやてとリインを見る。
でも…。
シャマルを見る。
それでも、食べたくなかった。
「…残念だけど…もう駄目だ。」
「おい、キラ・ヤマト、まだ、一口だぞ?」
「これ以上食べたくない、食べさせないで…。ッ!?」
「…リンカーコア…摘出。」
声。
「そんなに食べたくないならもういいです。」
キラの胸から生えるシャマルの腕。
キラは意識を失った。
因みにその日、機動六課では異臭騒ぎがおこっていたとかいないとか