Seed-NANOHA_129氏_第03話

Last-modified: 2007-12-23 (日) 01:51:36

「んなっ……ここは……!?」



光の晴れたそこにあったのは、

燦々と太陽の輝く、真っ昼間の公園だった。

何故。どうして。ついさっきまで胡散臭い、どこかの基地に自分はいたはずなのに。

シンは目を丸くし、周囲を見渡す。



「フェイトちゃーん、クロノくーん」

少女が一人、こちらへと走ってくる。

茶色の髪を左右で結った子だ。彼らと顔見知りらしく、

ものものしい制服姿の彼らを見ても、なんら驚いている様子は見られない。

「えと、その人が?」

「ああ、そうだ。二人とも準備を頼む」

「「はーい」」

「準備?」

頷き合って駆けていく二人の少女を見ながら、シンは呟いた。

一体、何を準備するというのだ?

「そうさ、準備だよ」

クロノとかいう少年が、見ていてやっぱり腹の立つ笑みを浮かべ答える。

「君に……魔法というものを、見せてやるためのね」





魔法少女リリカルなのはA’s~destiny~(仮)



第三話 魔法





「……ふふっ」

美しい金髪の親友と相対し、なのはの心は次第に高揚していく。

すごく。人に見せるためのものではあるけれど、本当にすごく楽しみだ。

「久しぶりだよね。フェイトちゃんと模擬戦するのって」

首にかかった紅い宝石もまた、心躍らせるようにきらりと光り輝く。

「うん。ほんと、久しぶり」

フェイトもまた、高揚した笑顔を返してくる。

彼女の掌のうちにある金色の宝石、待機状態の閃光の戦斧も同様の気持ちだろう。



「本気だよね、もちろん」

「うん。全力全開」

「負けないよ」

「私だって」

二人の少女は、それぞれに相棒の宝石を天高く掲げ、戦闘態勢の起動を命じる。

今この瞬間からは、二人は親友であるけれど、好敵手でもある。



「レイジングハート・エクセリオン」

「バルディッシュ・アサルト」

観客達の前で、戦闘の開始を告げる少女達の声が高らかに響いた。



「「セットアップ!!」」



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これは夢だ。

そうだ、夢に決まっている。でなければ、幻だ。



「な……な……」

向かい合って立った二人の少女が光に包まれたと思ったら。

それぞれに白と黒の変わった服装に着替えていて。

「……なん……だよ、これ……」

その彼女達が生身で空に舞い上がって、光り輝くビーム(のようなもの)

で出来た弾丸や砲撃で打ち合い、刃で斬り合っているのだから。

モビルスーツ並みの速さ、高度で。



「だから言っただろう。これが『魔法』だよ」

「あ……が」

「君のいた世界には、ない概念なんだろうが」



見たことか、といった感じの表情を浮かべるクロノとは逆に、

シンは口をぱくぱくと開いて唖然とするより他にない。

もはや、言葉もないくらいだ。



『Divine buster. Extension.』

『Plasma smasher.』



「うわっ!?」



まるでMSのビーム砲にも匹敵しそうな光弾同士のぶつかりあいによって起きた突風、

衝撃波にシンは顔を背ける。砂塵が舞い、視界は何も見えない。

目に入った埃の痛みが伝える。これは笑えないことに、現実だ。



「信じてもらえたかい?」

「っあ……」



包み込むように発生した水色の壁が、一同を守っていた。

なにやらクロノの前には、円形の文様が浮かび上がっている。



「あんたら……一体……?」

「魔導士さ。時空管理局所属のね」



クロノは病室で最初に名乗った身分を、

再びシンに向かって繰り返した。

今度はシンにも、頭ごなしに否定する元気はなかった。



「話を、聞いて。それから君の話を、聞かせてもらえるね?」



上空で鍔迫り合いを繰り返し、砲弾をぶつけあう二人の少女を見上げ。

彼女達によって地面へと穿たれたいくつもの弾着の痕を見回してから、

ようやくシンは放心したように小さく頷いた。

それより他になかった。



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「それじゃあ君はその『ザフト』とかいうところの軍人で、戦闘の最中に転移に巻き込まれた……ってことか?」

「ああ、そーだよ」



クロノに訊かれ、シンはふてくされたように返した。

再度例の『転移魔法』とやらで元の病室に戻ってきたはいいが、無性に腹が立って仕方がない。

『魔法』とかいうばかげたものを信じざるをえなくなったのも癪だが、

このくそ生意気な少年そのものが気に入らない。見るからに年下のくせして、何様のつもりだ。



「真剣に答えてくれないか。こっちも仕事なんだ」

「うっせーな!!お前みたいな子供、真面目に相手してられっか!!」

「なんだと?……そういう君は何歳なんだ、じゃあ」

「16だよ!!こちとらもう十分に───……」

「なんだ、ひとつしか変わらないじゃないか」

「……嘘」

なのはという茶髪おさげの少女も、彼の妹らしきフェイトという子も。

シャマルと呼ばれていた栗毛の女性も、苦笑しながら頷いていた。

「嘘だろっ!?せいぜい小学生……」

「悪かったなっ!!どうせ僕は身長が低いよ!!」

「あー悪いねこの!!ちーび!!ちーび!!」

「なっ……こいつ……!!」

「お、お兄ちゃん。落ち着いて」

「シンさんも。まあまあ」

きっとコンプレックスだったのだろう。

互いに立ち上がり罵りあい出した彼らの間に二人の少女が入り、なだめたことによって

シンもクロノも睨み合いつつも腰を下ろす。



「で?いつ俺は元の世界に帰れるんだ?」

「……ひとまずは、君とあの機体の調査が終わるまではなんとも。

 それから君の元いた世界の座標を特定することになる。そう時間はかからないと思うが」

目を逸らし尋ねたシンに、渋々といった感じでクロノが答える。

悠長なことはしていられないのに、とシンは内心思ったが、

自分ひとりでどうこうできることでもないので精一杯言葉を飲み込む。

「だが……奇妙だな?」

「何がだよ」

「君の話だと君の世界にも『地球』があるということだが……?」

「は?何言ってるんだよ。地球は地球だろ。他にあるかよ」

「君をさっき連れて行ったあの公園。あれも地球……日本なんだが」

「……はあ!?」



ニホン?ニホンというと確か今は東アジア共和国の一部になっているはず。

その国がこの世界にも、あるだと?どうして?



「現に、彼女が出身者だ」

「!?」

「あ、えと。高町なのはです。普段は日本の小学生やってます」

「どういうことだよっ!?」

「わからないが、やっかいなことになっているのかもしれないな。時間が少々必要かもしれない」

「マジか……」

「ああ、マジだ」

なんにせよ、機体の調査と整備にはいささかの時間がかかる。

それまではこの世界で暮らしていってもらわねばならない。

クロノの言を聞き、シンはうな垂れていた頭をさらにがっくりと落とす。

どうすればいいんだ、この状況はまったく。



「とすると、きみの滞在先を探さないといけないわけだが……」

「へ?」

もう好きにしてくれ、とばかりに気のない返事で憔悴した顔をあげたシンを、

クロノは呆れたように見返す。お前のことだろうと言わんばかりに。

「当たり前だろう。ずっと入院させておくわけにもいかないだろう」

「……はい」

おっしゃる通りで。



「じゃあ、うち?」

「んー、それでもいいんだが。みんな家を空けることが多いからな」

フェイトが挙げた手は、却下。

「それじゃあうちは?」

「ユーノ以外の若い男なんて連れて帰ったら、士郎さんや恭也さんが発狂するぞ」

「ははは……」

なのはのほうも然り。となると、

監視と保護ができて、条件的に問題がないのは───、



「うちですか」

「そうなるな」

残るシャマルのところしかなかった。

「というわけで済まないがシン、君はしばらく八神家にやっかいになってくれ」

「わかったよ。ったく」



流されていることを自覚しつつも、シンは頷いた。

仮にも医師の家ならば、少しはまともだろう。

元々選択肢も何もないのだし。

それは、かなり後ろ向きな同意であった。



つづく。