Seed-NANOHA_129氏_第05話

Last-modified: 2007-12-23 (日) 01:54:00

「あーん、これもいいわねー」

「……あの」

「シンくんの身長と細さなら、こっちも……」

「シャマルさん」

「はい?」



何着もの服を手にとって悶えていたシャマルが我に返り、振り向く。

両手一杯に袋を抱えたシンがそこでは、がっくりと肩を落とし、

げんなりとした表情を浮かべ立っていた。



「……まだ、買うんですか?」

それらの袋は一部シンが選んだものを除き、全てシャマルが

勢いで買っていったものだった。



これ全部、シンの服である。





魔法少女リリカルなのはA’sdestiny



第五話 海鳴の人々





「お兄ちゃん、いる?」



例のデスティニーといったか、巨大ロボットが係留されているドックにいると聞き、

兄を探してフェイトは顔を出した。

「……ああ、フェイト。学校、はやかったんだな」

「もう。今日、土曜日だよ。私立のうちは午前中で授業おわり」



相変わらず、仕事中毒な人だ。

曜日感覚がなくなっているのか、それともまだあっちの世界の学校のシステムを

理解していないのかはわからないが、もう少しこういったことにも

気を配るべきだろう。エイミィも大変だ。



「どうした?」

「あ、ううん。大したことじゃないんだけど。こっちにいるって聞いたから」

「シンの様子はどうだって?はやてからなにか聞いたか?」

「えっと」



なんて言ってたかな。顎に人差し指を当て、上目で思い出すフェイト。



「元気だって言ってたよ。ヴィータがなついてるって」

「それはまた、意外だな」

苦笑するクロノに、今度はフェイトが尋ねる。

「こっちは?どう?」

「ん?ああ。なかなか面白いよ」

手元の液晶ボードを渡してくるクロノ。

フェイトは受け取り、ざっとそれに目を通す。

見ている彼女に、簡単にクロノが説明してくれた。

「魔法なしで、このサイズの人型マシンを制御してる。なのは達の世界でも実用化されてないし、

 こういった技術は魔法中心の僕たちの技術じゃあちょっとまだ無理だな。すごいよ、この機体は」

「はあ……」



興味津々、といった感じでクロノは機体……デスティニーのほうを見上げる。

もともと機械いじりも好きな彼のことだ、この任務はやっていて楽しいに違いない。



「今のところロストロギアの深刻な影響はなさそうだし。近々シンに立ち会ってもらって、詳しい性能調査だな」

「そっか」

「一応、その旨はやてから伝えておくように言っておいてもらえるか?」

「うん、わかった」



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シンがようやく買い物地獄から解放されたのは、昼も過ぎたあたりだった。

昼食も作らねばと気付いたシャマルが慌てて、

食料品を買ってから帰宅の途につくと言い出したためである。

正直、シンとしてはもうすきっ腹を押さえるのが非常に困難な状態にまで追い込まれていた。

「腹、減ったなぁ……」

両腕いっぱいに服や日用品の入った買い物袋をさげて、

シャマルがカートを押して食料品を籠に放り込んでいくのをとぼとぼと追っていく。

一応は軍人だから、このくらいの荷物ではそこまで重いとは感じないが。



それでも空腹ばかりはどうしようもない。



「あら、ノエルさん」



そしてシャマルが、知り合いらしき女性と会話をはじめた。

銀色の髪とでも言えばいいのだろうか。短く切りそろえられた髪型がパンツルックの

服装によく似合っている。

シンのほうをちらちら見ながらの会話のようだから、おそらくはシンのことについても

簡単に説明しているのだろう。



「シンくん、シンくん」

「はい?」

シャマルの手招きに寄っていくと、女性に紹介された。

「こちら、ノエルさん。はやてちゃんのお友達のおうちで働いてるメイドさんよ」

「あ、どうも。…………メイド?」

メイドっていうとあれか?常にエプロンドレスを身に着けて、頭にはヘッドドレスを着けて。

それで───……。

「ああ、さすがに街中までは制服で出てきたりはしませんよ」

疑問が顔に出ていたらしく、ノエルは照れくさそうに笑ってみせる。

物静かな、大人の笑顔であった。



(メイドって……なに?ひょっとしてその友達ってブルジョワ?)

もといた世界では、そのような存在とは無縁であったシンとしては、

珍しいものを見た気分である。ああ、オーブにメイドだらけの喫茶店があったか。

昔住んでいた頃ニュースで見たような気がする。

だが少なくとも実物を見たのははじめてだ。

議長の息子のような存在であるレイならば、さして珍しくもないのかもしれないが。



(……この世界、やっぱわっかんねぇ……)



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「あ。シャマルさん、ノエルさーん!!」



店を三人、連れ立って出ると、向かい側から白い制服姿の少女達が4人、手を振っているのが見えた。

ひとりははやて、ひとりはなのはといったか、シンの前でフェイトと激しい戦闘を繰り広げてみせた

少女。あれでも本人たちが言うにはまだまだやりたりなかったらしいが───、そしてシンのまだ

見知らぬ、二人組であった。

「シンさんも、こんにちは」

「ああ。なのは……だっけ」

「はい!!」

戦っているときの真剣そのものの表情とはうってかわって、元気一杯の笑顔でなのはが答える。

そのギャップに、シンはわずかに戸惑いを感じていた。

こうも違うものなのか、と。



「ノエルも一緒だったの?」

「はい。丁度食料品を購入中に一緒になりまして」

「へ?」



ぺこりと頭を下げるノエル。何故こんな小さな子に?とシンが狐につままれたような

顔をすると、すかさずなのはが教えてくれる。



「ノエルさん、すずかちゃん家のメイドさんなんです。ね、すずかちゃん」

「はー……」

それはそれは。

こんな小さな子が、メイドを顎で使ってるのか。

呆れというか感心というか、妙な気分で白いカチューシャの少女のことを見つめてしまう。

「あの、……月村すずかです」

「ん、シン・アスカ。よろしくな」

少し、内気なきらいがあるようだ。そのようにシンは彼女の第一印象を分析する。

していると、袖を横からひっぱられる。

「ちょっとちょっと、おにーさん」

「あん?」



ひっぱっていたのは、栗毛の気の強そうな少女。

その横ではやてが苦笑いを浮かべている。

「あたしのことはスルーなわけ?」

「え?いや。きみは?」

「アリサ。アリサ・バニングス。おにーさんでしょ?はやてのとこに転がり込んでるのって」

「転がり……」

いや、それは断じて違うぞ。他にいくところがわからないから

仕方なく八神家に居候することになっただけであって。反論したいが、

少女は肩をすくめて踵を返し背を向ける。こいつもまた話を聞かないな。

シンは内心、居候先の赤毛の三つ編み少女の顔を連想する。



「ま、いいわ。シグナムさんやザフィーラがいる以上、変なことはやてにさせないでしょーし」

「はあ?」



変なこと、って。



「俺に幼女趣味はねーぞ」

「そうであることを祈っておくわ」



だから、違うってば。心中でつっこみを入れながらシンは、

これからまたあのぎすぎすした雰囲気の人と同じ家に戻らねばならないのかと

彼女の言った名前で思い出し、深く溜息をついた。

こんなことをしていて、いつ元の世界に帰れるのであろうか、先行きが不安だった。



つづく。