「マ……ユ……」
シンは呆然としてマユを見る。
まさか、本当に生きているとは思わなかった。
自然と涙がこみ上げてくる。
「お兄ちゃん……」
それはマユも同じで、出来れば今すぐにでも兄のところへ行きたかった。
「どういうこと?彼女は家族のことを忘れていたんじゃなかったの?」
それを見ていたプレシアはクルーゼに問う。
「さあ、忘れていたのか家族の顔だけといっていたのだから、声は覚えていたのでしょう。そして、声を聞いてふと思い出した、といったところでしょうか……」
それはともかく……
「感動の再開のところ悪いが、私の目的のために君には死んでもらうよ。ザフトのパイロット君」
そう言ってクルーゼは攻撃を仕掛ける。
今、シンはコックピットを開いたままラウの攻撃をシールドで防ぐ。
「チッ!お構いなしかよ!」
「お兄ちゃん!」
マユの言葉も耳に入れず、シンはコックピットを閉じる。
眉に当たらないように、出来るだけマユから離れるシン。
マユは、それが二度と会えないような気がして仕方がなかった。
「勝手に暴れて……」
プレシアはクルーゼを見て悪態をつく。
まあいい、あのMSというものをひきつけてくれればこちらも行動しやすい。
『マユ、あなたは下がってなさい』
プレシアの言葉を聞いて、驚くマユ。
「ここは私に任せてね」
そういってプレシアは念話を切る。
確かに、敵はランクAAA+の魔術師がほとんど、まだ魔法を覚えて間もないマユには敵わないことはわかっていた。
わかっているが………
「お兄ちゃん……」
マユは、兄のことが気になって仕方がなかった。
そこへ……
「プレシア・テスタロッサに協力している魔術師だな」
ふと、後ろから声が聞こえた。
「僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」
クロノは自分のデバイス、デュランダルを起動させる。
「悪いけど、拘束させてもらうよ」
どうしよう、そう思うが、逃げられる相手ではなさそうだ。
結局……
(どこまで戦えるかどうかわかんないけど……)
そういってマユも構える。
勝つ気なんてない、逃げればそれでいい。そう思って
(やっぱり、シンとマユちゃんって……)
はやては、二人を見て思う。
さっきの二人のやりとりはこっちには聞こえていなかったが、あの二人に何かあるのは間違いないだろう。
だが、いまはそれよりも目の前の問題を優先させる。
「フェイト、こっちへいらっしゃい」
さっきからフェイトはプレシアの登場で動揺している。
さらに……
「フェイト、私達のところへ来なさい。そうすれば、あなたを私の子供として迎えるわ。そして、アリシアの妹として」
そういってフェイトに微笑みかけるアリシア。
そしてフェイトは思い出す。
アリシアの記憶あるプレシアの微笑み。
そして闇の所で見た夢の世界のプレシアの笑み。
この二つを思い出し、フェイトは俯く。
「ふざけんじゃないよ!アンタ今までフェイトにどんなことをしてきたと思ってんだい!!だいたい、あの時フェイトのことを嫌いって言っておきながら、」
逆にアルフはプレシアを睨みつける。
「あなたも同等の扱いにしてあげるわよ」
プレシアの言葉を聞いて、アルフはふざけるな!と一括する。
「フェイト!どうせコイツは都合が良いときだけそういうのさ!!だまされちゃいけないよ!!」
確かにアルフの言っていることもわかる。
彼女が今までしてきたことは自分が一番知っている。
プレシアに笑ってもらうために一生懸命がんばった。
失敗したときの仕打ちにも耐えた。
だが、それはもろくも崩れ去った。
プレシアがフェイトに言った「大嫌い」という言葉とともに。
「フェイトちゃん!」
なのははフェイトにちかよる。
だが、フェイトはまだ俯いたまま黙り込む、
そこへ……
「あ!」
「フェイト!」
フェイトにバインドが駆けられ、ゆっくりとプレシアの元へつれていかれる。
「出来れば無理やりはしたくはなかったけど……」
だが、すべてはアリシアのため。
「貴様―!よくもフェイトをー!!」
アルフは手に魔力を込め、プレシアにむけて叩きつける。
それを簡単に防ぐプレシア。
「私達も行くぞ、ヴィータ」
シグナムの言葉に、ああ!とヴィータも向かうが……
「あんまり攻撃しすぎると、フェイトにあたるわよ」
そう言われて、二人は下がり、アルフも攻撃をやめる。
「フェイトちゃんを盾にするって、卑怯や!」
これでは攻撃も何も出来ない。
どうしようか模索すると……
「だったら、これでどうだ?」
上から男の声が聞こえ、上を向くと……
「く…クロノ君?」
そこには、マユをバインドで拘束したクロノの姿があった。
「このぉ!!」
シンはアロンダイトを構え、プロヴィデンスに突撃する。
いくら高性能といっても、2年前の機体。
そしてシンは、そのプロヴィデンスの発展系であるレジェンドのデータも頭に入っている。
いくら相手が強いといっても勝機はある。
地上にいるアカツキを含めてこちらは3対1。
数の上では有利。
それが功を奏して、最初はシンたちが押していた。
しかし……
「あまいのだよ……」
クルーゼは微笑し、ドラグーンを飛ばす。
「何!?」
3人はドラグーンを見て驚く。
何故地上でドラグーンが!?
地上では重力があるから無理なはず。
あるはずがないと思ったシンに隙が出来、プロヴィデンスのドラグーンの一斉攻撃がデスティニーを襲う。
「く!」
直撃は免れたが、左手と両足を撃ち貫かれた。
その時、アースラから通信が入る。
「あのちっちゃいやつに、魔力反応があるから気をつけて」
エイミィの言葉を聞いて種がわかった。
なるほど、魔法で飛ばしていたのか。
なら納得がいく。
問題は、それをどうやって回避するか。
飛行可能とはいえ、重力で宇宙空間みたいな動きは出来ない。
「シン、下がっていろ、この状態では無理だ」
レイに言われ、悔しいが後ろに下がるシン。
左手だけでは戦えるはずがない。
「ラウ!」
今度はレイがドラグーンについているビーム砲でプロヴィデンスを攻撃する。
「悲しいよレイ。君だけは、君だけは私の理解者だと思っていたのだがね」
クルーゼは攻撃をよけて、残念そうにレイを見る。
「デュランダルに感化されたか……」
ギルバート・デュランダル。クルーゼの数少ない友人関係を持つ男。
「俺だって……世界を憎んでいる……けど、ギルの恩に報いるためにも!俺は!!」
レイは、レジェンドのサーベルを結合し、プロヴィデンスに攻撃を仕掛ける。
「俺も忘れるなよ!クルーゼ!!」
ムゥも援護射撃として地上からライフルを連射する。
「チィ!」
クルーゼはムゥのライフルを盾で防ぎ、レイの攻撃はビームサーベルで切り払う。
「2対2でも……くそ!」
確かに大気圏内でドラグーンが使えるというメリットを持つが、3対1でも戴せないでいる。
これが自分とやつのパイロットとしての差。
「おや?」
クルーゼは、モニターでマユが捕まっていることに気づく。
「これはこれは」
ちょうどいい、そう思いドラグーンを展開する。
だが、それはレイたちを狙っているわけではなかった。
「まさか!?」
レイが気付いたときには一足遅く、ドラグーンはなのは達を狙っていた。
「弱ったわね……」
リンディは戦況を見て悩む。
あのMSの性能が、こちらの予想を遥かに上回っている。
なのはたちを囲んでいる妙な物体を何とかしなければ、フェイトがつれさらわれてしまう。
そんなときだった。
「あの、リンディさん?」
後ろから本来ここアースラにいない人物が現れる。
「ユ…ユーノ君?」
何でこんなところに、と思ったときに思い出す。
「言われた資料を持ってきたんですけど……なんか…大変な状況ですね」
ユーノは目の前のモニターをみて思う。
数体のロボットになのは達の周囲にある奇妙な突起物。
ちかごろ疲れていて、さっさと帰りたかったが、これを見たらそうは言っていられない。
「何か手伝いましょうか?」
「人質交換といこうか」
クロノは、プレシアにデュランダルを向ける。
横にはバインドで縛られたマユ。
なのはたちは少しクロノにあっけを取られる。
「へえ、管理局の人間って、意外と乱暴なのね」
そんなプレシアの言葉にも全く動じないクロノ。
「残念だけど、僕はなのはたちとは違って甘い考えはしない」
どこの敵キャラよそれ、と突っ込むところだったが、これで状況は五分。
だが、やはりあまりい感じはしない。
しかし……
「ならば、これでどうだね?」
不意に声が聞こえ、気付くとなにやら妙な物体がなのは立ちの周囲に妙な機械が現れる。
そのうちの一つ、はやてのそばにあるドラグーンがビームを発射し、横を通り過ぎる。
「っ熱」
あたりはしないが、ビームの熱がはやてを襲う。
「くってめえ、よくもはやてを!!」
ヴィータはグラーフアイゼンを構えるが、同時にヴィータの前にもドラグーンが現れる。
「奇妙な真似をしたら、一斉に攻撃させてもらう」
完全に包囲されている。そういうことだった。
あの程度の威力なら簡単に防げるが、全部をいろんな角度から撃たれたらひとたまりもない。
「さあ、マユを開放してもらおうか」
クルーゼに言われて、バインドを解きクロノ。
「プレシア。さっさとこの領域から離脱するがいい」
クルーゼに言われ、転移を開始しようとするプレシア。
「フェイト!」
アルフがフェイトの名前を叫ぶ。
そこへ……
「ストラグルバインド!!」
多数の鎖状のバインドが、ドラグーンとマユ、そしてプレシアを捕らえる。
「何!?」
完全なる奇襲で反応が遅れたプレシア。
クルーゼが鎖が伸びてきた方向を見ると……
「アルフ、早くフェイトを!!」
そこには、本来いないはずの人物、ユーノ・スクライアがいた。
「あいよ!!」
いきなりのことで動転するが、フェイトを助ける絶好のチャンスを逃すまいと、もう一度プレシアに攻撃を仕掛ける。
「く!」
バインドを駆けられたまま、アルフの攻撃を受けるプレシア。
それによってフェイトにかけられていたバインドが解ける。
「フェイト!!」
アルフはフェイトを抱いて後ろに下がる。
「アルフ……」
フェイトの目がまだどこかに曇りがあった。
「すまないなフェレットもどき。出来ればしばらくこのままにしておいてくれ。後は僕が何とかする」
フェレットもどきという言葉にむっとするが、今は喧嘩をしている場合ではないのでグッとこらえるユーノ。
「ちぃ」
クルーゼは舌打ちしてユーノを見る。
まさか向こう側の仲間がもう一人いたとは……
しかし……
「切り札は最後まで取っておくべきだよ……」
そういい、腰にあるドラグーンを飛ばし、ユーノにビームを発射する。
まだあれがあったのか、ユーノは舌打ちする。
この体勢じゃシールドも貼れない。
「うおおおーーーー!!」
そこへ、右手しかないデスティニーが割って入り、ビームシールドを張って攻撃を防ぐ。
「アンタは俺があ!!」
何かが弾け、シンは何度目かわからない感覚に陥る。
シンは背中のウイングを展開し、同時にアロンダイトを持ち、クルーゼに襲いかかる。
クルーゼはライフルで応戦するが、シンはギリギリのところで避け、アロンダイトを振る。
しかし、片手で振るアロンダイトは簡単に避けられ、逆にサーベルでアロンダイトをおられてしまう。
「シン!」
シンの劣勢にはやては心配する。
しかし……
「シン!!」
レイとムゥの援護射撃で、クルーゼがシンに止めをさせられなかった。
その隙に、シンはフラッシュエッジを持ち、もう一度襲いかかる。
クルーゼもサーベルをもつ。
先に仕掛けたのはクルーゼだが、シンはあえて壊れている左腕を壊させる。
その時に出来た隙に、フラッシュエッジでサーベルをもつ右腕を切る。
肉を切らせて骨を絶つ、だ。
まだシンの攻撃は続く。
今度はそのままフラッシュエッジをブーメランとして投げる。
しかし、ブーメランはただ胸部を少し掠めるだけだった。
「チ!」
舌打ちをするシン。
「まずいな、もうアスカには武器がない」
シグナムの言葉に、はやての不安は募る。
だが、シンはかまわずプロヴィデンスに突撃する。
「ふざけないで……」
プレシアは魔力を込め、無理やりユーノのバインドを解く。
それと同時に、ドラグーンやマユにかかっていたバインドも同時に解かれた。
それを察知したクルーゼは、すぐさまドラグーンをデスティニーに向ける。
「させるかーーー!!」
シンはデスティニーの右手を突き出す。
「は!何が出来る!?そんなもので!!」
それと同時に、デスティニーの手が光る。
デスティニー最後の武器、パルマフィオキーナがレジェンドを襲う。
そして、ドラグーンも同時にデスティニーを狙う。
どちらが勝つのか……
「く!」
クルーゼは、急速に後退するが、スピードはデスティニーのほうが上であった。
そのままパルマフィオキーナはプロヴィデンスのコックピットに直撃しようとする。
しかし、クルーゼは意外な方法を取る。
わざと高度を下げ、攻撃をずらす。
パルマフィオキーナはコックピットではなく頭部を掴む。
そこに、頭部のCIWSを発射し、自身の頭部とデスティニーの右腕を破壊する。
「しまった!!」
倒し損ねた、それはドラグーンの一斉攻撃がデスティニーを襲う。
複数のビームがデスティニーのコックピットを貫く。
「シン!!」
はやては大粒の涙を流しながら叫ぶ。
だが、はやての叫びもむなしくデスティニーは爆発する。
普通とは違う、なにか優しい光を帯びた爆発で……
プレシアは周囲を見る。
クルーゼがあのMSを倒したことで向こうの戦意はほとんどない。
しかし、ここは引くのが得策だと思った。
手負いの獣は怖い。
それに、先ほどのMSが爆発するのを見て、マユが気を失ってしまった。
そうなればいったん引くしかない。
「フェイト、覚えておいて、アリシアは妹を欲しがっていた。だから、あなたがなるのよ、アリシアの妹に……」
そういい残し、プレシアと中破したプロヴィデンスは消えていった。
「シ……ン……」
はやては呆然としてデスティニーが爆発したあとを見る。
「はやて……」
ヴィータも涙目ではやてを見る。
「いや、そんなことない…きっと生きてるはずや……」
だが、そんなはやての言葉をあざ笑うかのようにレイが言う。
「これより帰還する。お前達も早く帰還しろ」
そんな言葉に、なのはたちは反応する。
「そんな!?まだシン君をさがしてないのに!」
そんななのはの言葉に、ムゥは冷たくいう。
「あれで生きているはずないだろ…それに、お前さん達も早くもどんないと、体に悪いぜ」
ムゥの言葉にえ?と疑問を持つ。
「前に坊主が言ってただろうが、あの機体は核を積んである。核はお前さんたちの体に悪いことだって知ってるだろ」
そういうと、ちょっとまったぁ!とエイミィが通信を入れる。
「そういう反応は出てないみたいだから、安心して探してください!!」
エイミィの言葉にはぁ?とムゥは疑問を浮かべる。
そして、アルフはあるものを見つける。
「あれって……あいつじゃないのかい?」
アルフが指差した方向を見ると、赤い服を着た少年が水上付近で浮いている。
近くにいたシグナムはそれに近づく。
「アスカ?」
シグナムは抱えあげると、間違いなくシンだった。
気を失っているようだが、まだ生きている。
「シャマル、急いで手当ての準備を。アスカはまだ生きている」
シグナムの言葉に、はやてたちは喜び、レイたちは唖然とする。
あれで生きているのか。
まあ、確かに自分達もあまり人のことを言えないが……
そこでシグナムはあることに気付いた。
(何で浮いているんだ?)
シンは海面近くで浮いたまま倒れていたのだ。
シンは魔法が使えないはず。
気付くと、シンの首に何かあった。
それは、デスティニーの翼に似たアクセサリーのようなもの。
そのアクセサリーからは魔力が感知された。
「これは……デバイス?」
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