Seed-NANOHA_342氏_第01話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 14:20:43

シンは目を覚ました。
見慣れぬ場所に不安を覚えるも、恐らく、戦艦内だろうと予測する。設備はミネルバとそう変わらない。しかし、どうして自分はミネルバで治療を受けられなかったのだろう?設備が足りなかったのか?その前に
「なんでこんなことになったんだっけ?」
自分が何故、ベッドの上で寝ているのか、こうなった経緯が空白になっている。ベッドの上に座り込み、しばし記憶を辿るため、考え込む。
蘇った記憶。
『あんたは、俺が討つんだ!今日!ここで!!』
フリーダムを追い詰めていく、シン・アスカ機ことインパルス。
『はぁぁぁぁぁぁ!!!』
エクスカリバーで串刺にし、フリーダムは爆発を起こした。
「ここまでは覚えてるんだよな。」
自分も確かに爆発に巻き込まれた。爆発の衝撃で自分も意識を失ったのか?
考えても分からないので、医務室に誰か来たら聞くことにした。
しかし、とベッドに再び寝転がり、自分の右手を天井に向けて伸ばしてそれを眺める。
フリーダム、前大戦でプロヴィデンスを破り、今回も驚異的な力を見せた最強のMS…それを、俺が討った。ステラの仇を討った。
「く…、くっくっくっ…。ははは…、やった…やったよ。ステラ」
涙が頬を伝う。ステラのことを思い出して泣いてるわけじゃない。もちろん、悲しい。けれど、この涙は?ステラの仇を討てた、フリーダムを討てたことが嬉しいんだ。
「…また…後で来た方がいいかな?」
突然の声に驚き、シンはベッドから跳ねるようにして移動し、構えをとって、何者かと対峙する。
「っ!?」
「こ、子供?」
シンの目の前には、金髪ツインテールの女の子が立っていた。
「驚かせちゃってごめんね。フェイト、フェイト・テスタロッサっていいます。あなたは?」
(何で?こんな子供が…?)「俺は、シン・アスカ。インパルスのパイロットだよ。」
「…?インパルス?」
フェイトと名乗った少女は困り顔になってしまった。
しかも、インパルスと言う単語に聞き覚えがないようだった。
子供じゃあ仕方ない。
シンはそう割りきった。子供じゃ分からないこともあるだろうと…。

キラは目を覚ました。
起き上がる気さえしなかった。だからベッドに寝転んだまま己を責めた。
彼女との誓いを守れなかった。それどころか、剣を失ってしまった。フリーダム、かつてラクス・クラインが身を危険にさらしてまで、自分に託した機体。
「僕は…、どうして、また…。」
また繰り返すのか?前大戦の時のように…守りたい人を守れない。フレイを失ったときに十分に味わった悲しみ。あんなのもう二度とごめんだ。けど、僕にはもう剣が
「傲っていたのかな…僕は」そんなことを呟いた時だった。
「どうやら、意識は戻ったようだな。」
キラはぎょっとする。
そして今更ながらに周囲の状況を確認した。
「アーク・エンジェルじゃ…ない」
「大天使がどうかしたか?」声の主がキラの顔を覗きこむ。
「あなたは?」
「私はシグナムだ。お前は?」
「キラ・ヤマトです。」
「キラ・ヤマトか、変わった名だな。食事はそこにおいておく。食べられるなら食べるように。」
「あ、ありがとうございます。」
「礼なら主ハヤテに言ってくれ。」
パタンッとドアがしまった。シチューの匂いが立ち込める。なんだかわけの解らない状況だが、とりあえず空腹感を覚えたキラはベッドから体を起こし、スプーンを手に取った。
「……いただきます。」
誰がつくったかわからないシチューだったが、それはとてもおいしく、傷ついたキラの体を暖かく包みこんだ。

艦内、食堂。
テーブルに六人集まっていた。一人はシン、もう一人はフェイトと言う少女。
「じゃあ、自己紹介しましょう。私はこの艦の艦長を勤めるリンディ・ハラオウンよ。」
「僕は、執務官のクロノ・ハラオウンだ。よろしく。」
「僕はユーノ・スクライア」「私は、フェイト・テスタロッサ。」
「あたしゃ、フェイトの使い魔、アルフってんだ。」自己紹介してくれる面々。シンもとりあえずは自己紹介する。
(使い魔ってなに?)
「シン・アスカです。シンって呼んでください。」
「それで、君が聞きたいことと言うのは?」
最初にシンに質問してきたのは紺色の妙な服(軍服だろうか?)に身をつつんだ、クロノと名乗った少年だった。
「ここどこですか?連合やオーブ、ザフトの船でもないみたいですし、それにしては軍みたいな…」
「ちょっと待て君。連合、オーブ、ザフトってなんだ?」
「えっ?だから、今ロゴスを討つために…」
「シン君待ってくれる?」
話を遮ったのはリンディだった。
「どうも会話が一方通行ね。まず君は何故この艦内に現れたのか説明してくださらない?」
そう、シンは本当に、なんの前ぶれもなくこのアースラ内部に現れたのだ。警報がなったときには廊下に倒れていたらしい。アースラに侵入するなんてこと、そうそう簡単にはできない。「それはこっちが聞きたいですよ。」
「と言うことは、君は自分がどうしてここにいるのか、分からないって事だよね?」
ユーノと名乗った少年が言った。
「目が覚めたときにはベッドに寝かされてましたし…。」
「そっか…」

一同は黙りこんでしまう。「じゃあ、君の件に関しては後回しってことで。みたところ危険な人物でもなさそうだし…。しばらくはアースラにいて、自分の世界を探してみるといい。ただ、しばらく監視役にエイミィをつけるけど、普段の行動はエイミィと行ってくれ。」
クロノは何だか憔悴しきったような声で続ける。
「それよりも問題なのは裁判だ。今回はアルフにもそこのフェレットもどきにも証人喚問に出てもらう。」
「あぁ」
犬耳が生えてる女性。アルフが相槌をうつ。
「わかった…って誰がフェレットもどきだ!誰が!」
フェレットもどきことユーノは机を叩いて立ち上がった。
「誰って…君のことだが…?」
「クロノあんまり、ユーノをいじめちゃ駄目だよ。」
「場を和ます冗談だよ。だが、事実上百パーセント無罪確定の裁判とはいえ、各自、受け答えはしっかりするように…。」
「うん。」
「わかった。」
「了解。」
と三者それぞれ返事をする。
「艦長、僕達はこれから裁判なので失礼します。それから…えっとシン君だっけ?君のデバイスは預かってあるから、エイミィから受け取ってくれ。」
それだけ告げるとクロノ、フェイト、ユーノ、アルフは席を立ち、食堂からでて行った。
「艦長…」
「何かしら?」
「デバイスってなんですか?」

同刻
キラはベッドから起き上がった。まだ頭部の傷が痛むがそれだけだ。
キラはベッド脇の台に置かれたお椀に目を止める。
それを手にとり、部屋から出ると、かすかに人の話声が聞こえた。
声の元をたどり、廊下を歩く。リビングの部屋の戸の前まで歩いていくと、ピタリと声がやんだ。
(入って…いいのかな?)
「立ち聞きとは趣味が悪いな。入ってきたらどうだ?」
戸が開いた。
「あっ…いや、そんなつもりじゃ…」
「入れ。お前には少々聞きたいことがある。」
シグナムとなのった女性。彼女の凛とした声がキラを緊張させる。金髪の女性がソファに座っていた。
シグナムに座れと命じられる。キラはそれに従いつつ、時計を見た。
12時丁度だった。
「キラと言ったな?」
頷くキラ。
「お前はここの世界の人間か?」
「……ここの…世界って、どういう意味ですか?」
シグナムと金髪の女性は顔を見合わせる。
「すみません、ちょっと混乱していて…」
「前後の記憶とかってないんですか?」
金髪の女性がキラに聞いた。
「えぇ、あります。」
キラはここに来る前のことを話した。自分の兄弟をオーブに連れていくために、MSでザフト軍と戦ったこと。そして換装型MSにやられたこと。
「それで、目が覚めたらベッドの上だったと?あ、私、シャマルです。」
自分がまだ名乗っていないことに気付き、慌てて名前を付け加えた。

「僕が覚えてるのはこれだけです。」
「わからんな。そんな世界、聞いたこともないし見たこともない。」
とシグナム。
「そう…ですか…。」
キラは肩を落とした。
「だが、もっと解せんのはこれだ」
シグナムは言葉と同時にキラの前にそれを突き出していた。最初にキラが抱いた感想は何かのシンボルマークのキーホルダーだった。しかし、よくよくみるとそれはフリーダムの片翼だった。縮小されキーホルダーサイズになっている。
「これが…何ですか?」
シグナムとシャマルはまたも顔を見合わせる。
「キラさん、本当にしらないんですか?」
「はい…ていうか、これのどこに問題が?」
「単刀直入に聞くぞ?これはなんだと思う?」
それがどうしたんだろう?そう思いつつもキラは答えた。
「キーホルダーかなんかですよね?」
またもや、顔を見合わせるシグナムとシャマル。
「まぁいい、それは一旦保留だ。シャマル、先に主を病院へ迎えに行ってくれ。私は後で行く。」
「そうですか。なら図書館に来てくだい。はやてちゃん、今日は図書館に行くって言ってましたんで。」
「わかった」
シャマルはリビングから出ていった。
シグナムもキラもそれを見送って、また、互いに向き直る。
「…お前がキーホルダーと言ったこれだが、」
机においたままのそれを手にとりシグナムは続ける。「デバイスだ。」
「デバイス?」
「あぁ、私も持っている。」首にかかっているアクセサリーをはずした。剣の形をした装飾品が取りつけられている。
「あの…、シグナムさん…。デバイスってなんですか?」

月村すずかは友人二人と別れた後、海鳴市にある図書館に来ていた。
本を借りに来たと言うのもあるが、目的はもうひとつある。時々見かける車椅子に乗った少女に話しかけることだ。
同じぐらいの年頃で、実は前々から声をかけようとは思うのだが、そのきっかけがなかなか掴めないでいた。今日こそはと思いつつ、館内へと入りザッと見回す。
(今日は来てないのかな?)車椅子の少女の姿を見付けることができなかった。
それならばと、自分が借りに来た本を探す。ジャンル別、五十音順に並んでいるため、自分の探している本が陳列されている棚へと向かった。
「え~と…」
指でなぞりつつ本を探していると、棚の隙間から手が見えた。続いて頭。肩まで伸ばした髪、そして車椅子。
どうやら、棚の上の方に陳列されている本を取りたいらしい。
(あの子だ。)
すずかはその子の元へとかけより、本をとってあげた。
「これですか?」
少女はニコッと笑いお礼をいった。
「はい、ありがとうございます。」

「そっかぁ、同い年なんだ。」
「うん、時々ここで見掛けてたんよ、あぁ、同い年ぐらいの子やって。」
「あっ、実は私も…。」
すずかと少女は顔を見合わせてクスリと笑った。
「わたし、月村すずか。」
「すずかちゃん…、八神はやていいます。」
「はやてちゃん…」
「平仮名ではやて…変な名前やろ?」
「そんなことないよ。綺麗な名前だと思う。」
すずかとはやてはそれから二、三言葉を交した。
「ほな、私、そろそろ時間やから…」
はやてはそう言って、車椅子のハンドルに手をかけた。
「はやてちゃん、出口まで送るよ?」
「えぇよ、そんな気ぃ使わんでも…」
「私もそろそろ帰るから」
「せやったら、お願いしよか。」
すずかは車椅子の背中のハンドルを握った。

『フラッシュ・エッジ』
シンの持っている剣から機械的な男性の声が響く。同時、連結エクスカリバーの片方が外れ、二刀流になった。
「でやぁ!!」
それの片方をブーメラン状にして投げる。投げたそれは、ターゲットを真っ二つ切断し、シンの手元へと戻ってくる。
「やった!」
「へぇ~、シン君やるもんだねぇ。」
エイミィ・リミエッタは感嘆の声を漏らした。
先程、デバイスを返した時。
「なんですか?コレ」
「なんですかって、君のデバイスじゃない。」
「あぁ…コレが、艦長とクロノって人が言ってた。」
「なんか、自分のものじゃないみたいね。」
「あぁ、俺、こんなの持ってなかったと思うんですよね。それにデバイスってなんなんですか?
さっき艦長に聞いたんですが、エイミィさんに聞けって言うんで…」
シンはエイミィの手からデバイスを受け取った。
剣の形をしている。柄の部分に紐が通されていて、首にかけられるようになっていた。
「魔法を使うための補助道具っていったら分かりやすいかな?」
「魔法?何言ってるんですか?魔法なんて、そんな非科…」
「じゃあ、実際にやってみる?」

と言うことで戦技室にいる。出てくる敵はハリボテばかりなのだが、さっきまで魔法の魔の字も知らなかった少年がここまでやるとは思わなかった。
ターゲット、100体中73体を撃破している。バリアジャケットも三着あるようだ。先程の双剣の時は赤いバリアジャケット。
スピードを重視するときは一本の剣に青いバリアジャケット。
そして緑、これは恐らくパワー重視なのだろう。
魔力刃でつくられたジャベリンと常時シンの両脇腹で待機している赤い魔力の塊。シン唯一の遠距離魔法のようだ。
ちなみに、シンの魔法陣の色は深紅だった。

「どうでした?」
模擬戦闘をモニターしていたエイミィのもとへとシンが息を切らしながらやって来る。
「いや、まぁなんというか…よくもまぁあれだけのバリエーションを考えたね。特にあの砲撃は凄い破壊力だったよ。
君は…シン君だったよね?デバイス使うの本当に初めて?」
「はい。魔法なんて、ここに来る前にいた世界じゃ使えませんでしたからね。」
バリアジャケットが解除され、双剣がアクセサリーに戻った。
「ここに来る前はどこにいたの?」
「説明が難しいんですが、魔法が使えない世界にいましたよ。代わりにモビルスーツに乗ってましたけど…」
「モビルスーツ?」
「人型戦闘機っていったら、わかりやすいんですかね?話せば長くなるんですけど…、それにさっきのバリアジャケットでしたっけ?あれって、自分で想像しなきゃいけないじゃないですか?
だから、モビルスーツをベースに想像してみたんですよね。」
「ふ~ん。なんか難しいね。」
「あの…、エイミィさん、食堂行きません?運動したら、お腹すいちゃって…」
「いいよ。」
とエイミィ。
「エイミィさん…」
「何?わかんないことがあったらなんでもエイミィさんに聞きなさい。」
エッヘンと胸を張る。
「俺、お金もってないんですけど…」
「……はいはい、エイミィさんが立て替えてあげます。」
「ありがとうございます」

「よかったな、デバイスがちゃんと起動して…」
「えっ?あ、はい、でもどうして僕に魔力が?」
はやてを迎えに行くために、図書館までの道のりを歩くキラとシグナム。シグナムは家にキラ一人を残しておくわけにはいかないと判断したのだろう。
キラは頭に包帯を巻きっぱなしだが、外に連れ出した。ちなみに、服はザフィーラという人?のものを借りているので、キラには大きかった。
ズボンは裾をまくり、長袖は袖をまくっているが、その上からロングコートを着用しているので、外見上不格好には見えない。
シグナム曰く、ザフィーラは守護獣だ。
とのことだが、キラには意味が分からなかった。
「これは、あくまで私の仮説だが、お前がいた世界と今いる世界は別世界なのだと思う。」
「それは…信じがたいですけど、ここが同じ地球である以上、認めないといけないんでしょうね。」
平和だ。
キラは思った。自分達がいた世界、地球には、こんなに呑気に一日を過ごしている人たちなんていなかった。
戦争、内乱、デモ、テロ。いやというほど人が死んだ。そして、キラも人を殺した。
「そして、お前が乗っていフリーダムはこちら側に来るにあたってデバイス化したのだろう。」
「でも、魔力は?」
「それは、わからん。
ついたぞ。とりあえず、主には礼を言え。」
「はい…。」

「シグナムも来てくれたん?」
図書館から車椅子に乗った少女と、車椅子を押すシャマルが姿を現した。
「はい。」
ジクナムは返事をする。そして、キラに目配せをした。うなずくキラ。
「えと…キラ・ヤマトです。助けてもらったうえに、食べ物まで…ありがとうございます。」
「あはっ、そんなに、かしこまらんでもえぇよ。年もそっちが上なんやし…私は八神はやて」
「はやてちゃ…、はやてさんありがとう、助かった。」
「呼び捨てでええよ。はやてって、それがいややったらちゃんづけでえぇよ。」
と笑顔で言った。

(笑顔…か。最近笑った覚えがないな。でも…、戦争中なんだし、当たり前と言えば当たり前か…)
「…ラ君?……キラ君?」
「えっ?…あっ、なに?はやてちゃん?」
「何や考え事しとったんか?」
「あ、う、うん。ちょっとね…。」
「キラ君はこれからどうするん?」
「あ、いや、どうするって…。どうするんだろ?」
「なんだ、考えてなかったのか?」
「キラさんて結構抜けてるんですね」
シグナムには呆れられ、シャマルとはやてには笑われていた。
「…てか、笑い事じゃないですよ。」
キラは溜め息をついた。

「キラ君は、夕飯なんがえぇ?」
「夕飯…ですか?僕は別に、何でも…。」
あれからシグナムと別れ、キラとシャマル、はやてはスーパーへ買い物に来ていた。
「あかん、そう言うのが一番困る…」
「ごめん。じゃあ、シチューで…。今日食べて、すごく美味しかったし…。」
「あはっ、気に入ってくれたん?嬉しいわぁ…。
あっ、でもシャマル達は二日連続でシチューやな。」
「いいですよ、私たちは。はやてちゃんが作る料理なら何回食べてもおいしいですから…。」
「ふ~ん、そっかぁ、それなら、キラ君の意見が優先やな。よかったなぁ、キラ君。」
「えっと…はやてちゃん、僕のことは別に呼び捨てで構わないよ。キラって」
「うん、じゃあ、次からそーするわ。」
シャマル、キラははやての指示のもと食材集めに散った。

高町なのはは部屋で学校の宿題をやっていた。
(今日裁判の最終日だっけ?)
フェイトがビデオメールで裁判の最終日が今日だと言っていた事を思い出す。
もうすぐフェイトちゃんに会えるんだ。
そう思うと、宿題の方に身が入らなかったりする。
そんな時だった…。
『Caution』
突然、レイジングハートが反応し、なのはに警戒を促す。
部屋の窓から外をみると、結界がはられていた。
(ミッドチルダ式じゃない。じゃあ、この結界は…。)
なのはは家を飛び出し、近くのビルの屋上へと向かった。

とあるビルの屋上。
『ホーミングボール』
誘導弾。
レイジングハートはそう識別した。
オレンジ色に光る球体がなのはに向かって飛んでくる。
(私、なんでねらわれてるんだろう?)
そんな疑問を抱きつつも、とりあえずは防御魔法を展開した。
ラウンドシールド、なのはが最も多用する防御障壁。もともとなのはは防御力が高い。
それはなのは自身も自覚していた。
だから、思った。
誘導弾一つくらい簡単に防げるだろう。
しかし、想定以上の負荷が左腕にかかる。
「テートリヒ!!」
突然の声に振り向けば、全身を真っ赤な服(なのは達で言えばバリアジャケットなのだが)につつんだ少女がハンマー型の杖を
「シュラーク!!」
横一線。
しかし、なのはもこの事態を予想していなかったわけではない。魔法攻撃を受ければ当然、使用者がいる。
なのはは逆手、つまり右手ですぐさまラウンドシールドを展開した。
バチバチッ!!
展開した障壁が赤い服の少女の攻撃を全力で拒絶する。だが、おかしい。
(障壁が……もたな…。)
なのはは障壁が限界なのを察知し、自らその障壁を炸裂させた。
轟音が響き、赤い服の少女は煙に包まれた。
一方、なのはは先程の衝撃でビルから落下中である。そして、意を決する。
「レイジングハート、お願い!!」
なのはの首にかかっている赤く丸い宝石のようなものが反応した。
『All right, my master.
Stand by ready...』
なのはは淡い光に包まれた。

「艦長!」
シンとエイミィが何やら話をしながら通路を歩いていると、リンディが通りかかったのでエイミィが声をかけた。
「あら?エイミィにシン君。」
どもっと頭を下げるシン。「ちょうどよかったわ。エイミィ、クロノ執務官から連絡があって、フェイトさんの裁判が終わって判決待ちだそうよ。」
「そうなんですか?結構、早かったですね。じゃあ、私からなのはちゃんに連絡しときますね。」
「えぇ、お願いね。まぁあの子のことだから自分で連絡するとは思うけど、こういうことは早い方がいいでしょう。
じゃあ、よろしくね。エイミィ。」
「はい。」

「あれ?おっかしいなぁ。」なのはに連絡するために端末を使うが、繋がらない。もう三度かけなおしをしている。
「番号、あってるんですか?」
シンが聞いた。
「うん、なのはちゃんの携帯の番号は端末に登録してるんだけど…。駄目だ、でない。」
エイミィはいくつかキーボードなのだろうか?透明なボードの様なものを叩くと、モニターが写った。
しかし…
「写らない…」
なおもキーボードを叩くエイミィ。モニターが空間に増えていく。しかし、写らない。
考えられる可能性は一つだった。
「空間…結界…。」
エイミィは最後にキーボードを叩いた。
艦内中にアラートが表示され、警報が成り響いた。

「エイミィどういうこと?」「なのはちゃんに、連絡がとれないんです。モニターにも写りません。」
リンディはその場にいる局員に指示を出す。
「アースラの整備は一旦保留。現場に戦闘局員を送って」
「駄目です。今は別件で局員が出払っています。」
考え込むリンディ。
フェイト達はこれから判決待ちだ。だからまだ現地には向かえない。
本局から局員を回してもらう。これも却下、手続きに時間がかかりすぎる。
「艦長…。」
「何?エイミィ。」
エイミィはちらりとシンを見た。
「シン君を?でも、彼はデバイスの使い方…」
「技術班が言うには構造がインテリジェントデバイスと似通っているとのことで、先程、戦技室で起動を確認しました。
戦闘シュミレーションもモニタしましたし、魔力もその時に計測完了しています。
魔力だけならなのはちゃんやフェイトちゃんと同等かと…。」
リンディは視線をシンに向けた。

「ちょ、何言ってるんですか?あんた…、あなた達は!シュミレーションって言ってもたかが一回しかやってないんですよ?それに…」
「シン君、何もあなたに戦えとは言ってないわ。
狙われたら逃げるだけでいい。
もしなのはさんが怪我をしているようなら、なのはさんを連れて逃げるだけでいい。」
「……。」
(あんたたちが行けばいいじゃないですか。)
とはとても言えなかった。それに、自分が知らないことばかりで戸惑っていたときに、親切にしてくれたのはこの人たちだ。
恩がある。
ならば…
「…わかりましたよ。
逃げるだけでいいんですか?」
シンは覚悟を決め、リンディの申し出を承諾した。
「エイミィは転送位置を設定。シン君は私ときて、転送ゲートまで案内するわ。」

圧倒的な差だった。
相手の魔法ラケーテンハンマーをラウンドシールドで受けたが、障壁は破壊され、レイジングハートはリカバリーが効かないまでに損壊。
あげく、吹っ飛ばされ、建物の窓ガラスをぶち破り、床を転がる始末。
立てないこともないが、障壁を破壊されたことで魔力は大幅に削られていた。
赤い服を着た少女が建物の中まで追ってくる。
「……うっ。」
『Protection』
なのはの代わりにレイジングハートが防御する。
ラウンドシールドと違い、強度を固めた障壁だが…。ラケーテンハンマーの前に脆くも崩れさった。
吹き飛び、建物内のいろんなものに体を打ちつけるなのは。
バリアジャケットも先程の攻撃からなのはに致命傷を追わせないため、レイジングハートがリアクターパージ(最終防衛機能)を駆使ししたため、もう後がない。障壁を二度も割られ、魔力を消費してしまったなのはは、満足に体を動かすことさえできなかった。
ゆっくりと近づいてくる赤い服を身に纏った少女。
手にはもちろんハンマー状のデバイスが握られている。
ブシュウウゥゥッ!!!
デバイスから蒸気が吹き出し、何かが飛び出す。
その、何かは金属的な音をたてて床を転がった。
少女はデバイスを振り上げた。
(もう…、終わり?
そんなの…嫌だよ…クロノ君、ユーノ君、フェイトちゃん)
なのはが目を瞑ろうとしたまさにその時だった。
『フラッシュ・エッジ』
バルディシュとは違う機械的な男の声。
空気を切り裂く光の刃と共に、なのはの眼前に一人の少年が姿を現した。
「なんだ?テメェーは?こいつの仲間か。」
フラッシュ・エッジをかわし、少女はシンを睨みつけた。
「……。」
シンは答えない。
なのはの近くに魔法陣が現れ、フェイトとユーノが現れた。
「なのは!大丈夫?」
現れて間もなくなのはヘと駆け寄るユーノ。
右手をかざして何かをし始めた。
手が発光している。
一方フェイトは、バルディッシュを構えた。
『サイズ・フォーム』
ガシャンッと音をたてバルディシュが斧形態から変形し、金色の魔力刃が飛び出す。
「シン、さがって…」
「えっ?あ…うん。」
シンはフェイトより後ろへ下がった。
「なんだテメェーら?次から次へと…。」
「時空監理局嘱託魔導士、フェイト・テスタロッサ。民間人への魔法攻撃…。ただではすまないぞ。」
「……。」
少女は答えない。
「抵抗しなければ君には弁護の機会がある。おとなしく投…」
「誰が投降なんかするかよ!!」
少女は建物内から飛び去った。
「ユーノ、シン。なのはをお願い。私はあの子を…」
「わかった。」
「あぁ…。」
フェイトの姿を見送ってからシンはなのはへと向き直る。
「大丈夫かよ?あんた…」
力なく頷くなのは。
「裁判が終わった後、すぐになのはに連絡をとろうとしたんだよ。
けど、通信は繋がらないし空間結界は、はられてるし…。
それで慌ててこっちに来たんだ。」
「そう…なんだ。」
「うん、クロノやリンディさんたちもアースラの整備を一旦保留にして、みんなで対応してくれてる。
もう、大丈夫だから…フェイトもシン君もいるし…、それにアルフもいるから」
「シン…君?とアルフさんも?」
「うん。」
ユーノは頷いた。