Seed-NANOHA_543氏_第04話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 18:31:43

プレシアの幸せを願うキラは、彼女の過去を詮索する内にフェイト・テスタロッサという少女の存在に行き着いた。
今は無きアリシアのクローンとして。そしてアリシアを蘇らせる為に必要だった未知の世界―アルハザードへの
入り口を開く為にどうしても手に入れなければならなかった力―ジュエルシードを探す兵として創り出された彼女は、
しかしそれを巡る戦いの末にプレシアの元を離れていった。今のキラは、そこまでしかしらない。フェイトのことを
プレシアにそれとなく話しても、彼女は何も知らない様子だった。プレシアは自分の手となり足となって働いた
フェイトのことを忘れ去っていた。しかしそのことで、キラの中で一つの可能性が出来上がった。
 もしアリシアを蘇らせることが出来なくても、フェイトがいれば?そうすれば、全てが丸く収まる。
 だからキラの確保すべき存在は、かつてプレシアが求めたジュエルシードとそしてもう一つ。
 
 ‘フェイト・テスタロッサという名を持ったアリシア・テスタロッサ'が、キラにとってのある意味で
最も優先するべき目標だった。

 その頃、エイミィは医務室に向かって走っていた。
 フェイト達がここを訪れたのは、キラ対策だけではなかった。修理されたレイジングハートをなのはに
届ける為に本部からやってきたのだ。しかしエイミィは気掛かりだった。
 今のなのはに、‘新しくなったレイジングハート'が受け入れられるかどうか。
そして、今の精神状態で果たして再び立ち上がるかどうか。
 『レイジングハート』。不屈の心の意味を持つそのデバイスを担うなのはも、
強い心の持ち主だ。だが、それでも限界はある。なのははまだ幼い。そんな彼女を
あんな化け物の前に再び出すことになる現実に、エイミィは悲しくなった。
「でも……でも‘なのはちゃんじゃないと!'」
 エイミィが強く言い切った瞬間、アースラが大きく揺れた。

「ファイア!」
 戦斧―バルディッシュの指揮で槍状の魔力弾、フォトンランサーが放たれる。
フェイトの技量を以ってすれば同時に複数のフォトンランサーを生成出来るが、
場所が艦内である為、下手な射撃は控えていた。あくまで緻密な射撃を心がける。
この辺りはフェイトの親友にして戦友であるなのはの独壇場だったが、今は彼女の
猿真似で通すしかない。彼女はすでに、キラの情報をレティから得ていた。
それを元に彼女は対策を練っていた。
 接近戦で決める。自分が最も得意とする攻撃をぶつけるしかこの怪物を止める方法は
無いと確信していた。だがそれを当てるには相手との距離を縮める必要がある。無数に
飛び回り、こちらのデバイス―バルディッシュを正確に狙ってくる(腹立たしいことに
この魔道師は魔道師の半身たるデバイスを破壊する戦法を多用していると聞いていた。
そのことがフェイトの闘志を焚き付けていた)キラの遠隔魔法攻撃がそれを阻んでいた。
「アルフっ!」
フェイトの合図に合わせ、控えていたアルフとユーノが同時にバインドを仕掛ける。
拘束魔法で動きを殺そうと言う戦法だ。
『チェーンバインド!』
『リングバインド!』
ユーノが翳した手の前に回る小さな魔法陣から緑に光る鎖がキラの両手に巻き付く。
さらにアルフの円盤状のバインドが足を止めた。魔法を指揮するデバイスを封じ、
身動きを止める。強力な補助魔法の使い手であるユーノとアルフがいて成り立った作戦だ。
奇しくも、シンが提唱していた作戦にほぼ沿う形となっていた。
「今だよフェイト!」
アルフがバインドに込める力を強める。予想以上の反発だ。このままではすぐにバインドは破られる。
だがフェイトにとっては僅かな隙で十分。
「はあぁっ!」
バルディッシュをサイズモードへと変え、光子の鎌でキラへと斬りかかる。ユーノもアルフも、
フェイト自身も手ごたえを感じた。だが、キラはこの窮地を思わぬ方法で脱する。
 突然、キラのバリアジャケットが閃光を放って弾け飛び、フェイトをも吹っ飛ばした。
爆発に煽られ、ユーノとアルフも圧し飛ばされる。それがキラの反撃の狼煙だった。粉塵の中より、
黄金に輝く‘それ'を見つけ、迷うことなく丸腰で飛び掛る。一瞬の交錯。粉塵が晴れたとき、
そこに佇むは―
「悪いけど、着いてきてもらうよ」
 一撃でフェイトの意識を刈り取り、その小さな身体を肩に担ぐキラは、悲痛な面持ちで呟いた。

 ……僕は‘また’、死ぬんだろうか。
 蒼い翼のMSに家族が殺された時……今までの僕は死んだ。生きてるけど、死んだようなもんだ。
 こっちの世界に来て、レティさんに助けられて。何かに駆り立てるように走った魔道師への道。
 非力だった、自分が許せなかった。奪った力が、許せなかった。復讐すべき相手も、いないのに。
 それなのに……忘れていたのに……なんで!?
「―何で、何でお前はぁっ!」
 マユ
 父さん
 母さん
 皆殺された。殺したのは、蒼いMS。キラ……ヤマト!
 知らなかった筈の名が、僕の―俺の中に流れてくる。身体の痛みがひいてゆく。代わりに流れてくる
激情。そして知らぬはずの戦いの記憶。
 ルナ!
 ステラ!
 レイ!
 アスラン!
 護りたかった。あるいは共に歩いてゆきたかった、尊敬したかった人達。それを奪ったのは……!
「キラ……!キラ・ヤマトォッ!」
 今まで……あの蒼い魔道師と遭ってから、感じていたモヤモヤが、全て繋がった。ならばすべきことは一つ。
 あの男を、止める。
『往くのか?』
フォースが語りかけてくる。元から声に抑揚が無いヤツだったが、これはそれに輪をかけてない。
「ああ」
俺は答えた。すべきことが分かったのに、止まる必要は無い。
『魔力は殆ど残されていないぞ。その上で戦うか』
「ああ」
ブラストは使えない。フォースの機動力も活かせない。だけど俺には、聖剣がある。
「これだけで……十分だ」