コズミック・イラ7X年。
この世界に、一つのロストロギア(=古代遺物)と三人の魔導師が紛れ込む。
同時に、この世界から『常識』が失われてしまった。
その影響は三人の魔導師たちにもおよび、各々の精神に影響を受けてしまう。
本来ならあり得ないはずの介入。本来ならあり得ないはずの出来事。
これは、そんな『if』な話。
そう。例えば――
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ヤキン・ドゥーエ宙域にて、激化する戦闘。
その中で撃ち合う一機のMSと一人の魔導師。
核エンジン搭載MSプロヴィデンスのパイロット、ラウ・ル・クルーゼ。
金色の髪、閃光の刃を振るう黒衣の魔導師、フェイト・T・ハラオウン 。
互いの射撃を回避しながらの高速機動戦を行いつつ、二人は言葉をぶつけ合っていた。
「――やがてそれが何の為だったかも忘れ、命を大事と言いながら弄び殺し合う!」
「そんな事……」
「何を知ったとて! 何を手にしたとて変わらない! 最高だな人は。そして妬み、憎み、殺し合うのさ! ならば存分に殺し合うがいい!それが望みなら!」
「だからって、人類を滅ぼそうだなんて事が許されるわけない!」
「私にはあるのだよ! この宇宙でただ一人! 全ての人類を裁く権利がな!」
「なっ!?」
「私は、己の死すら、金で買えると思い上がった愚か者、アル・ダ・フラガの出来損ないのクローンなのだからな!」
「!?」
「君になら分かるだろう? 私と同じく偽りの存在、フェイト・テスタロッサ!!」
「くっ!」
動揺したフェイトは一瞬動きを止めてしまう。
プロヴィデンスの持つライフルの銃口がフェイトを捉える。
――その時だった。
「むっ!」
「くっ!」
自らの直感を信じて回避行動をとった二人のすれすれの所を桜色の砲撃が通り過ぎていく。
遅れてやって来たのは、白い防護服の少女。
「かわされた!?」
自分が放った砲撃をかわされて舌打ちするなのは。
「ちぃっ!『白い悪魔』か!?」
「フェイトちゃんは違う! フェイトちゃんを貴方なんかと一緒にしないで!」
「なのは!」
「フェイトちゃんは……フェイトちゃんは、私の大事な――」
(そうだ。私には、本当の私を真っ直ぐ見てくれる親友がい――)
「私の大事な囮役なの!」
「へ?」
「は?」
その空間が凍りついた。
その原因である当人は、そんな事に気づく事なく、捲くし立てる。
「フェイトちゃんがいないと、囮になって私のチャージタイムを稼いでくれる役は誰がやるの!?」
「え、え~と……あんな事を言っているが?」
同情を多分に含んだクルーゼの声もフェイトの耳には入らない。
「……は……あは……あははは……」
フェイトはいろんな意味で壊れた。
「バルディッシュ!」
《Sonic Form》
フェイトの纏う防護服が高速機動戦専用のものへと変わる。
「ちょ、ちょっと待て! 君はあれでいいのか!?」
言いながらも、ドラグーンによる射撃でフェイトの動きを阻もうとするクルーゼ。
「あれでも!」
襲いかかってくるビームの嵐を掻い潜り、プロヴィデンスへと迫るフェイト。
「守りたい友達なんだ!」
バルディッシュザンバーの魔力刃がプロヴィデンスの腹部を貫く。
フェイトがその場をすぐさま離脱すると、桜色の光の奔流がプロヴィデンスを飲み込んだ。
衝撃の余波を受けて、フェイトもきりもみ状態で吹き飛ばされる。
宇宙空間を漂うフェイト。その瞳からは涙が溢れていた。
「……私はいったい何なんだろう?」
「フェイトちゃ~ん」
声のする方へ顔を向けると、こちらへ向かって来るなのはの姿が見えた。
「良かった、フェイトちゃんが無事で」
なのはもまた泣いていた。
「フェイトちゃんがいなくなったら……私……私……」
フェイトの胸に顔を埋めて泣きじゃくるなのは。
――何を疑っていたのだろうか? 彼女は自分の無事をこんなにも案じてくれているというのに。
きっと先程の言葉も敵の同様を誘う為のものに違いない。自分まで影響される事はない。
「……なのは」
フェイトはなのはを抱きしめた。
――なのはの砲撃を回避した時、二度目の時も舌打ちが聞こえたのは、きっと幻聴に違いない。
そのフェイトからは見えない。
なのはの口元に浮かぶ笑みは。
(変体仮面の所為で、つい本音が出ちゃったけど、何とか有耶無耶にできたの)