Sin-Jule-IF_101氏_第18話

Last-modified: 2007-12-26 (水) 20:41:11

 本日もユウナ・ロマは平素のように静けさの中でエレガントなティータイムを楽しむ
はずだった。

 

「どういうつもりです!」

 

 響くのは優雅なクラシックではなく、似つかわしくない机を叩く荒っぽい音と、がな
る怒鳴り声だ。参謀という名の監視役であるトダカは、ユウナが口にしたアスランとの
同盟関係を聞き、思わず声を荒げた。

 

「あまり大声を上げないでほしいな。これは父上にも秘密にするつもりなんだ」

 

 怒りを露にするトダカとは対照的に、ユウナは冷静なままティーカップを煽る。

 

「僕なりの譲歩なんだけどなあ。君ら、オーブ軍を使うことに反対でしょ?」
「それとこれとは話が別です!」

 

 オーブ軍の人間はカガリを“救い出した”アークエンジェルを撃つことに、特に躊躇
いを持っている。さらに相手は前大戦を終わらせ、平和を作り上げたフリーダムだ。非
戦を謳うオーブ人にとっては、殊更銃口を向けたくないものだろう。
 ユウナはトダカが自分に不審を抱いていることを承知している。ここで腹を割って話
すのは危険を孕んでいたが、自分の腹の内を明かしておかなければ、いつぶん殴られる
か解ったものではない。武の人ではないというのに、痛い思いをするのはごめんだ。

 

「アスラン・ザラは有用なんだよ。今や彼はラクス・クラインを憎んでいるしね」

 

 ユウナは説明を続けた。
 プラントの腐り具合を聞くにつけ、防げたはずの地球の大被害を起こしたクライン派
に対する失望は募っていた。プラントが勝つにしろ負けるにしろ、よりザラ派の力が大
きくなることは想像に難くない。
 いくらかつてのパトリック・ザラに殉ずるといっても、地球全てを敵に回すほど馬鹿
でもないだろう。

 

「ですが、もしこれが連合に知れたら……」
「やり方次第でなんとかなるでしょ。連中、ユニウスだって落とすんだからね」

 

 何せオーブは数年前に崩壊寸前にまで追い込まれている。脅されたことにでもしてア
スランの一派の情報を引き渡し、後は根回しさえ上手くやれば最悪の結果は免れること
ができるはずだ。
 もっとも、それでも甚大な被害を被るだろうが――、

 

「――真っ先に人死にを出すよりはよっぽどマシだよねえ?」

 

 セイランの息のかかったホテルが現在のアスランの拠点である。オーブで盛を極める
セイラン家に相応しい見事なまでの厚待遇に、自他共に認めるテロリストである彼らは
戸惑わざるを得なかった。サトーなどは未だに悪態をついてはいるものの、拠点を得た
ことで悪い気はしていない様子だ。
 曰く、ゲストを大事にするのは当たり前でしょ、とのことである。カガリの専属の部
下だった時分に比べての扱いの変貌に、アスランは苦笑しながら礼を述べていた。

 

 ひとまずの休息を得た彼らだったが、元々の空気も手伝って雰囲気は重い。
 最大の障害になるだろうフリーダムを落とす最大の機会を失ったのは、紛れもない事
実だ。本来ならば相手が油断と戸惑いに囚われているうちに無力化、もしくは撃破せね
ばならなかった。
 敵と認識された場合、いかに厄介かは前大戦で思い知っている。

 

 さらに、彼らの戦力はそう多くない。満足に動けるMSはジャスティスだけだ。補給
すらままならなかったため、他のジンはジュール隊との戦い以降、満足な修復をなされ
ていない。
 そんな中で、ユウナは技術力の提供をアスランに持ちかけた。一騎当千の猛威を振る
う核搭載MSを所持しているとはいえ、多勢に無勢では心許ない。

 

「ずいぶん都合のいい話だな」
『君らにも頑張ってほしいからね。持ちつ持たれつってトコロかな』
「ただで、という訳ではないのだろう」
『話が早くて助かるよ』

 

 応対したのはアスランではなくサトーだった。喧嘩を吹っかけるのではとアスランは
気が気でなかったが、意外にも繰り広げられたのは真っ当な対話だった。通信画面の端
に映った間抜け面は、後々までユウナにからかわれるものになる。
 ユウナの持ちかけた条件は一つだけだ。フリーダム、アークエンジェルが戦場にいる
際は、最優先でそちらを狙うこと。

 

「ふてぶてしい悪人だ」

 

 通信の終わった後、サトーはアスランに言う。言葉とは裏腹に、含有している悪意は
少なかった。ほとんど呆けていたアスランは疑問符を頭上に浮かべる。

 

「どういうことだ?」
「ジンを直す代わりにドムトルーパーのデータを渡せと言ってきた」
「つまり、ユウナはドムを作るつもりだと?」
「それだけで、済めばいいがな」

 
 

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