PHASE―07 覚醒
#1
「くそっ…!?数が多い!!」
俺にルナ、アスランが出撃しているが、押され気味だ。
連合軍の艦隊に襲われている。戦艦6、MS18機。これに立ち向かう俺達は三機。それに、ミネルバ…正気の沙汰じゃないな。
『シン!あまり出過ぎるんじゃないぞ!?ミネルバの守りが薄くなる!!』
「分かってるさ!!でも…艦隊を墜とさないと、いくら攻撃しても無意味だ!!」
『二人共!口より手を動かしなさい!!私だけじゃキツイんだからね!!』
ルナとアスランは、ミネルバの上で近付く敵を狙い撃っている。俺はフォースシルエットの飛行能力を駆使して、敵陣に斬り込んでいる。しかし、ミネルバからあまり距離を離せないし、敵の数も数だから迂濶に近付けない。
「くそっ!!くそっ!!離れたところからチマチマと……!!
薙払ってやる!メイリン!!ブラストシルエットは出せるか!?」
『それが…さっきの攻撃で、カタパルトをやられちゃって…。』
「八方塞がりかよ!!くっ…」
敵の放ったビームが肩をかすめた。ダメージは何ともないが、回避の際に体制が崩された。
しかし、ルナの狙撃でビームを放ったそいつは撃ち墜とされる。
『シン!大丈夫か!?』
「何とかな…。ルナ、助かった。」
『ふふん♪私も赤なのよ♪援護は任せなさい。』
こういう時は頼りになるな。
でも、ルナに頼ってばかりもいられないな。
「斬り込む!狙撃は任せた!!」
『OK♪狙い撃ってやるわ!!』
固まっている奴等を狙うのは危険が伴うな…。はぐれた奴を狙う事にしよう。
#2
一機…二機と、徐々に墜とせてはいるが、シルエットを換装出来ない上にエネルギーが残り半分近くしかない。
デュートリオンビームを受けようにも、敵の猛攻の最中そんな暇は無い。
「くらえっ……!!」
ビームサーベルで斬り掛かるが、シールドで防がれる。でも、罠には引っ掛かってくれたな。
スカートからナイフを引き抜き、一気に胴体に突き立てる。これでまた一機か。
『シン、そっちに数機向かったぞ!!囲まれるなよ?』
「チッ…次から次へと…!!」
三機が迫って来る。ルナは敵をミネルバに取り付かせない為に手一杯だ。援護は期待出来そうに無い。
一機目が斬り掛かって来る。それはビームサーベルを避け、すれ違い様にナイフを突き立て墜とした。
二機目と三機目は、少し距離が離れたところからビームライフルで俺を執拗に狙って来る。此方も応戦したいが、エネルギー残料を考えると、無闇やたらには撃てない。
くそっ!何か無いのか!?
『うっとうしいわね…しつこいのは嫌われるのよ!!っと…。あーもう、くど過ぎだわ!!』
『同感だな…。シン、エネルギーの方は大丈夫か?』
「大丈夫だったらこんなに苦労は…って危ね!?」
ビームが脇腹をかすめる。長期戦に持ち込まれたらアウトだな。とっとと潰すしかない!!
フル加速し、距離を詰める。相手はどんどん撃って来るが、それはシールドで何とか対処する事にした。
「いい加減に………しろ!!」
斬り掛かるも防御される。でも、サーベルは一本じゃない。もう一本で脇腹から串刺しにしてやる。
「次っ……!!」
#3
徐々に数を減らせてはいる。だけど油断は出来ないな。
「っ…!やっと九機目!!」
『いい加減…辛くなってきたな。 ルナマリア、弾幕を張るぞ!!
シン、俺とルナマリアで弾幕を張る!君は急いでエネルギーを補給してくれ!!』
「分かった…メイリン、頼む!!」
『任せて!!デュートリオンビーム発射用意……』
その時だった。インパルスの脚が“何か”に掴まれた。そしてそれは海中に引きずりこもうとしている。当然、デュートリオンビームなんか受けていられる状況じゃない。
「何だ……!!!?」
『なっ……!?戦艦がもう一隻…潜水艦が増えました!!どうして…今までレーダーには映ってなかったのに!!!?』
まさか…またミラージュコロイド…?まさか…連合は…条約を破ったのかよ!!
くっ…今は考えてる場合じゃない、早く振りほどかないと……。
インパルスの脚を掴んだそいつは、蜘蛛の様な蟹の様な…何だか気味の悪い奴だった。
「離せ!!」
『ふんっ…連合の猿真似で造った蚊トンボの様なMSなど…粉砕してくれるわ!!』
『シイィィィィン!!!!』
『離しなさいよ!!このっ!!』
ビーム砲の一撃が直撃した…かの様に見えた。
「なっ……!?」
『嘘っ!?ビームが効かない!!』
『ハハハハハハ!効かぬわ!!所詮コーディネーターの技術等、こんなものだ!!!!』
「離せ…離せよっ!!」
ビームの盾に全て防がれる。前方しかカバーしていないが、ミネルバの位置からして狙えないし、俺も狙えない。
撃っても盾に防がれる。
『あの艦を潰せ!!あれを墜とすのだ!!!!』
#4
MAの砲がミネルバに向いた。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
それを阻止しようとするも、ビームは全て防がれて話にならない。
『てえぇぇぇぇぇ!!!!』
『回避ぃぃぃぃ!!!!』
放たれたビームは、ブリッジこそ反れたが左翼を薙払って、爆砕させた。
『艦長…大変です!ラクス様が…ラクス様が!!先程の衝撃で頭を打ったそうです!!!!意識も失ったと連絡が……!!』
『なっ…!?至急、医務室に連れて行きなさい!!』
……何だって?今…なんて?
ミーアが…頭を打った?意識が無い……?
『シン!?どうしたんだ!!動け、動かないと墜とされるぞ!!!!』
俺は…また……“あの時”みたいに何も守れやしないのか?“あの時”と同じで俺は……俺は…………
『シン、今は闘う事だけ考えて!ミネルバが墜とされたら一環の終わりなのよ!!』
墜とされる…?コイツに?こんな奴等に?
「ハァ……ハァ…―――」
『シン、応答して!!』
『どうしたんだ!?シン!!』
また奪うのか?お前等は…俺から…また何もかも奪っていこうっていうのか?
「うおおおぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁああ!!!!!」
『シ…シン?』
また、“あの感覚”……。
ユニウスの時の…テロリストとの戦いで芽生えた感覚。
何だかそれは、夢でも見ている様な感覚だった。再びビームを放とうとしていた砲に、ビームサーベルを投げつけ突き刺す。既にエネルギーを蓄えていた砲が吹き飛ぶ。
『ぐわぁぁぁぁ―――!!』
それと同時に、脚を掴んでいたクローが緩み、俺はようやく離脱する事が出来た。
「メイリン!一瞬で良い!!デュートリオンビーム!!!」
『は…はい!?』
#5
デュートリオンビームを額で受ける。ただし、ほんの一瞬だけだったのでエネルギーが完全に戻った訳でない。でも、今ならやれる。やらなきゃいけない。
頭の中はすっきりと余計な雑念が振り払われている。
『アレを墜とせば全てが終わるのだ……!!何を今更…あんな蚊トンボ如きに!!!!』
インパルスを射抜こうと、ビームを放つも当たらない。どういう理屈かは分からないが、全て“見える”のだ。
「無駄だ!!」
残りの前肢をビームサーベルで削ぎ落とし、ブーストの勢いを利用して背後に回る。
そもそも、MAが小回りでMSに勝てはしない。サイズの問題も有るし、何よりその型だ。
『何だと……―――』
「……消えちまえ…」
深々とビームサーベルを突き刺した。これでコイツとの決着は着いた。
後は雑魚だけだ!!ルナとアスランが奮闘してくれていたからか、敵の数はもう五機まで減っていた。
俺がMAを墜としたのを期に、撤退信号を撃ち出して退却をはじめた。
「逃がすか……!!」
『その必要は無いわ。もう大幅の戦力は駆逐したし、何より新型MAについても知る事が出来たのだもの。これで十分よ。』
「ですが―――」
『艦長命令よ。』
俺の言葉はあっさり遮られる。 確かに艦長の言う通りだけど、俺は……。
「……了解、シン・アスカ。帰投します。」
結局、俺はそのまま帰投する事になった。
#6
………うん…?あれ?此処は医務室のベッドだったっけ?
何で私…あ、そっか。あの時ちょっとバランス崩して、頭打っちゃって…。でも痛みとかは無いから大丈夫かな?
「ご心配お掛けしました。すみません、皆様。」
「いえ…ラクス様、もうお身体の方はよろしいのですか?」
「はい、特に痛みも有りませんので、問題はございませんわ。」
安堵したかの様に胸を撫で降ろすグラディス艦長。結構心配掛けちゃったなぁ…。
「あの…シンは?」
そう、シンが居ない。艦長が苦笑いを浮かべ、手で指した先にはシンが椅子に座って寝息を立てていた。
これは新しい発見だわ。寝顔は可愛いのね♪写真撮っちゃおうかしら?…怒られるか。
「起きるまで絶対に離れない。と言って全く聞かなかったので…ずっと傍に居ましたよ。シンは。」
「…シンにも心配を掛けてしまいましたね。」
そっか、ずっと傍に居てくれたんだ…シン。
「あ、グラディス艦長?」
「なんでしょう?」
「毛布を一枚お借りしてもよろしいですか?風邪でもひかれては困りますので。」
シンは舟を漕ぎながら、まるで独り言みたいにブツブツと寝言を言っている。
「……ん…ルナ…メイリン……卵掛けご飯……邪道…」
ど…どんな夢を見てるのかしら?何だか激しく気になるわ。
「ふふ…そうですね。本当、手の掛かる子は困りますね。ラクス様。」
そう言って笑いながら、シンに毛布を掛ける艦長。何だか、子供とお母さんみたい…。って、グラディス艦長は…そういえば子供が居たんだっけ?
「では、私は軍務の方に戻らせていただきます。何かございましたら、そちらのボタンを押して下さい。」
「はい、お気遣いありがとうございます。」
#7
艦長が出ていって数分。今度は、ルナさんとメイリンさんの二人が部屋に来た。シンは眠ったままだけどね。
「失礼します。お身体の方は大丈夫ですか?ラクス様。」
「はい、問題ありませんわ。ご心配お掛けしてしまいましたね。私。」
「いえ、お守りする我々の不備以外のなにものでもありません。」
ルナさんも平静を装ってはいるけど、やっぱり気にしているみたい。表情が少しそんな感じ。
「ふふ…私は大丈夫ですわ。それに、一度失敗しても次があるのでしたら、次にその失敗を活かす事が大事です。」
「頭だと分かってはいるんですけどね。」
苦笑いしながら、ルナさんはそう言う。そう簡単に割り切れるものでもないものね。
「メイリン?さっきから黙り込んでどうしたの?」
「は…はい!?わ…私はとても元気です!!」
「メイリン、とりあえず外に出て深呼吸して来なさい。いや、本当に。」
「ふふ…仲が良いのですね。お二人は。」
「あははは…実は、メイリンは凄いラクス様のファンでして…緊張してるのだと…。あ、そういえば…シンがずっと居座ってるみたいで…連れて行きます?」
シンはまだ寝てる。本当に寝ないで私の傍に居てくれたんだね。
「いえ、大丈夫ですわ。」
「そうですか。それにしても、本当に間抜けな顔して寝ちゃって…しょうがない子ね。」
「そうですわね。」
「後、二日程でオーブに着くみたいなんですが…ただ、当初予定していたライヴは中止になるみたいです。」
え…?そんな……。
「議長が大事を取ってラクス様を休ませると…。」
「そうですか…残念ですわ。」
ライヴは無しかぁ…まぁ、議長にも心配掛けちゃったし、仕方ない事なのかな……?
うん、今は怪我を早く治さなきゃね。
PHASE07―END