W-DESTINY_第24話1

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:03:18

オーブには経済大国に相応しく、大きなデパートが幾つもあった。その巨大な建物は買い物には便利で
あったが、同時に子供が迷子に成り易いという欠点を持っていた。
「こっちだ!」
「本当なの?」
シンは狭い通路を駆ける。後ろに着いて来る母は半信半疑だが、シンは間違いなく、その先にマユがいると感じていた。
「見つけた!」
「……お兄ちゃん?」
家族から逸れて涙ぐんでいるマユが、兄の姿を見つけて嬉しそうな顔に替わる。
「本当にいた」
後ろから追ってきた母は、しばらくの間、呆然としていたが、やがて笑みを浮かべる。迷子の娘が見つかったのと、2人の子供の絆の強さを知り、純粋に嬉しかった。
「お兄ちゃん!」
シンは、抱きついてくるマユを受け止めて頭を撫でてやる。その顔は妹を見つけ出して誇らしげであり、同時に幸せそうだった。
「お兄ちゃんは、マユが困っていたら直ぐに分かるからな」
「うん♪」
兄妹の絆か、シンにはマユが苦しんだりしていると、何故かそれが感じられた。
腕の中にいる妹の温もりを感じる。この時シンは、確かに幸せだった。それがずっと続くと信じていた。
「お兄ちゃん……だったら何故、あの時助けてくれなかったの?」
「え?」
シンの胸に顔を埋めていたマユが顔を上げる。その顔は先程までと違い大きな傷跡があった。
「どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? 」
シンは自分の身体が動かなくなるのを感じた。身体が振るえ身動きが取れない。
そんな中、マユが右手を挙げる。その手は怪物のように巨大で歪な形。それがシンに振り下ろされた。
「うわぁぁぁぁ!」
シンはベッドから跳ね起きようとして、痛みに身体の動きを制限される。
「……夢?」
シンは先程まで自分が夢を見ていたのだと悟った。だが……
「あれは……夢じゃ無い……マユ、生きてたんだ」
身体の痛みが、その傷を与えた人間が幻ではない事を教える。
「俺……」
思考が纏まらない、辛い現実に考える事を拒否している。そしてシンは辛い現実を見詰めるのを止め、思考するのを止めると、再び夢の世界へ……妹が笑っている世界へと逃避した。

ジブラルタル基地から出発するシャトルに、アルトロンを積んだ後、ゼクスは五飛の元へと向かった。
「貴様のガンダム。積み終わったぞ」
「すまない。手間をかけたな」
「いや、元はと言えば、こちらの落ち度だ」
「こちらか……随分と馴染んでるな」
五飛の言葉にゼクスは驚いた表情を浮かべる。自分でも知らない内に、この世界の空気に馴染んでいる事に気付く。
「そうかも知れん……いや事実そうなのだろう。ここでの私はピースクラフトの名に思い悩む事は無い」
一国の王子として生きた幼少時代。復讐鬼として生きたOZでの生活。そして完全平和を願い、結果はリリーナを傷つけたホワイトファングでの行為。その全てがピースクラフトの名が強く影響している。
「まるで、ずっとこの世界にいたいと言ってるように聞こえるが?」
「そうでは無いさ……」
本当なら死んでいるはずだった。生きたところで、どの顔を下げてリリーナやノインの前に出れると言うのか。ゼクス・マーキスは史上稀に無い大虐殺を行おうとした男なのだ。
「……私はこの世界で死にたいと思っているだけだ」
「そうか……まあ、貴様が何処で野垂れ死にをしようと、俺には関係は無いが…」
「分かってるさ、ビルゴの破壊と貴様等が戻るのには協力する。それにヒイロのこともな」
五飛は頷くとヒイロの件を話す。
「奴は貴様同様、自分がリリーナの側に居るべきでないと思っているのだろうな」
「ああ、そうでなくては……もし戻るつもりで情報収集を続けているとしたら、とっくに私に気付いているだろう。随分とメディアにも顔を出しているのだから」
今、この世界で最も注目を浴びているのがアスランだった。その横に付き従うゼクスもミネルバのMS部隊の隊長として紹介される事があった。それに気付かないのは、今は情報を集めていない証拠だった。
「ところで帰る当ては見つかったのか?」
ゼクスの質問に五飛は黙って首を横に振る。
「そうか、どの道、今はそれどころでは無いが……1つ頼みごとがある」
「何だ?」
「カトルに伝えて欲しい。貴様のガンダムを修理するついでにエピオンの修復を頼みたい」
アルトロンのコクピットの損傷は簡単には直せないダメージだった。五飛もある程度の技能は持ち合わせているが、アルトロンのコクピットは中で怪獣が暴れた様な有様で五飛にはお手上げだった。
そこで考え付いたのがカトルに修復の依頼をする事である。
彼は開発は無理でも1機のMSを……ゼロを作り上げた実績があった。それに比べればコクピットを作り直す事も切断された左腕を取り付ける事も遥かに簡単だ。
ラクスの所持するビルゴに飛行能力が与えられた事を考えると、こちらも飛行可能なMSが必要だった。
さらに連合にもビルゴのデーターが流れた以上は、今までのように、悠長なことは言っていられない。
もし連合がモビルドールを実戦に投入したら、ゼクスはエピオンで迎え撃つ覚悟を決めていた。
「左腕はビルゴのを流用すれば、いいはずだ」
「エピオンにプラネイトディフェンサーをつける気か?」
「まさか、AMBACが欲しいだけだ。あんなもの動きの邪魔にしかならん」
現状でエピオンの脅威になるのは、ビルゴのビームキャノンだが、あんなものに当たる気はしなかった。
そんなゼクスにとってプラネイトディフェンサーは動きの邪魔でしか無い。
「だから、肩のアーマーは外して貰った方が助かる」
「ヒートロッドは?」
「無いもの強請りはせんよ」
ゼクスが苦笑しながら答えると、五飛が頭を振っていた。彼は話が噛みあっていない理由に今更ながらに気付いた。
「そうだったな。貴様には伝えていなかったか」
「何をだ?」
「エピオンの左腕が見つかった」
五飛はゼクスがあえてエピオンの左腕では無くビルゴの左腕を望んでいると勘違いをしたのだ。
「クライン派の連中がビルゴと共に回収していた」
「本当か?」
「ああ、それでどうする?」
「無論エピオンの腕を付けてくれ」
「分かった。伝えよう」
そして話している内に五飛の乗るシャトルの発射時刻が近付いてきた。
「それでは俺は宇宙に戻る」
「ああ、それと……」
「何だ?」
「シンの事だが……」
「俺には関係ない」
重傷を負った……実際は外傷より心理的なダメージが大きいのだが、それを考慮して、シンは暫くプラントで休養を与えられる事になり、五飛の乗るシャトルに同乗することになっていた。
「フン……貴様、奴に自分を重ねているな?」
「あれは……あの様な目に会うのはシンでは無く私の方だろうに」
妹に恨まれるのだったら、シンより自分の方が罪が大きいとゼクスは思っていた。
「自覚があるのは結構だが、無駄な感傷だ」
だが、五飛は鼻で笑うと、そのまま背中を向け立ち去っていった。ゼクスは誰かに責めて欲しかったが、五飛はそれを悟ったのか、何も言わずに突き放した。その厳しい背中を見詰めながらゼクスは、1人で取り残され、己の罪に沈んでいった。

「そんな……バカな?」
ラクス・クラインの忠臣を自認するウカラリクはナスカ級の艦長席に座ったまま呆然としていた。
彼は自分が発見したリーブラの破片から見つかった物が敬愛するラクスの力になると伝えられ、その後クライン派に合流したザフトの軍人だった。
今回、彼は地上に降りたラクスに増援のビルゴを送るべく地球に近付いていた。
そんな彼の前で悪夢と言える光景が続く。キラの能力をインプットされた、言わばキラの化身とも言えるビルゴが次々と破壊されていくのだ。
彼にとっては、雨の様に弾丸を撒き散らすMSは悪魔に見えた。
「バカな! 有り得ん! キラ様の力を持つビルゴが負けるなど!」
『勘違いが過ぎるな。キラ・ヤマトがどれ程かは知らんが、所詮モビルドールは人形だ。ところで降伏する気は無いか? これ以上の抵抗は無意味だ』
ビルゴを破壊するMSのパイロットが冷たい声で通信を入れてくる。
その台詞はウカラリクを2重の意味で激怒させた。彼にとって偉大な英雄であるキラを知らないと言い放った暴言。そして自分の功績であるビルゴを人形と言ったのだ。
「黙れ! 卑怯者! ビルゴはコクピットを狙っていないのに、それにガトリングガンを撃つとは恥を知れ!」
『生憎だが戦争でコクピットを狙ってはいけないなど初耳だ。また相手が狙っていないから、それに合わせろと言う話も聞いたことが無い』
「ぬぐぐ」
『だが、お前が降伏する気が無い事は理解できた。また、お前のような人間がラクスを戦争に駆り立てる
 のだろうという事も」
「何だと!」
『これ以上の問答は無意味だ。デュランダルには貴様等を殺すなとまでは言われていない。死んでもらう』
トロワはナスカ級のブリッジに照準を合わせるとトリガーを引く。
「戦闘の終了を報告。ビルゴ9機破壊。およびナスカ級を一隻撃沈した」
『了解した。これより残骸の回収を行う。帰還して……ん?」
「どうした?」
暫くの沈黙の後、答えが返ってくる。
『ああ、シャトルが一隻上がってくる。お前の仲間が乗ってるらしい』
「五飛か?」
『そうだ。カトルのいる艦の所在を聞いてきた。どうやら五飛のMSが故障したそうだ』
トロワには五飛が敗れるなど信じられなかった。だが、現に自分で修理出来ない損傷を受けているらしい。
「気になるな」
『ああ、どの道、地球での事を詳しく聞きたい。暫くはクライン派も大人しくしてるだろうし、全艦合流しようと思う。トロワは帰還してくれ』
「了解した」

「なるほどな……そいつは災難だったな」
五飛が報告を終えると、デュオが同情する。自分の機体に愛着を持っている者同士、五飛のショックは理解出来る。ましてや破壊したのが幼い少女では尚更だ。
「わかりました。アルトロンの修復は任せてください。エピオンも」
「だが、カトルが修復している間、2機で守るのか?」
カトルが修復にプラントに戻り、その間、五飛がMS無しでは当然そうなる。
「五飛、よろしければ僕のサンドロックを使ってもらえますか」
「貴様の?」
「はい、2機ではフォローが大変ですし、五飛には残っていて欲しいんです」
「賛成だな。連中は今回ので俺達の存在に気付いただろう。暫くはこのまま大人しくしている気もするがもしかすると、思い切った行動、例えば分散して強引に突破を試みるかもしれない。その場合は1機でも多く居る必要がある」
トロワの発言に、部屋に集まった者が全員頷く。代表してハイネが五飛の肩に手を置く。
「他人の機体ってのは、確かに乗りづらいだろうが、それでも俺達のMSよりはマシだろ? 頼む」
「了解した。そうさせてもらおう」
「じゃあ、話がまとまったところで…」
「ああ、ワリイ、カトルが出る前に一寸だけシンに会っておきたいんだけど良いか?」
「それは構わねえが、そう言や、お前等会ってるんだっけ?」
「ああ、地上に降りた時にな」
だが、デュオの行動を止めたのは五飛だった。
「今は止めとけ」
「何でだよ」
「アレは貴様の知り合いでは無い……ただの抜け殻だ」
「え?」

カトルはシャトルに移り、シンという少年を見た後、五飛の言葉を理解した。
そこにはピンク色の携帯を眺めながら、虚ろな表情でブツブツと独り言を喋る少年が座っていた。
「マユ……クッキー焼いたんだ……うん、美味しいよ」

「そうだ。レジェンドと共にジャスティスの強化型を送ってくれ、ゼクスに使わせる」
まだ、ヘブンズベース攻略は決まってはいないが、スエズ戦での消耗は激しく、各地に補給が送られていた。その中でもつい先日にロールアウトした新型のレジェンドとクライン派から接収したインフニットジャスティスをミネルバに送る指示をデュランダルは下した。
「あの、デスティニーは?」
だが、指示を受けた者は疑問をぶつける。レジェンドと共にロールアウトしたもう一機のMSの存在だ。
そのMSはデュランダル自身が開発に関与し、彼が並々ならぬ熱意を注いでいた事から、開発陣は養子のレイに与えるのだろうと思っていたのだ。
「あのMSを乗せるパイロットは決まっている。彼は、今プラントにいるのだよ」
心の中で、正確に言えば先程戻ってきたのだが、と付け加える。
「そう言うわけだから、まずはレジェンドとジャスティスを送ってくれ」
「了解しました」
そして、指示を出し終えると部屋に1人残されたところで溜息を付いた。だが、直ぐに次の来客がドアをノックする。
「入りたまえ」
「失礼します」
カトルは部屋に入ると、デュランダルが少し憔悴している事に気付いた。
「少しお休みになられては?」
「このくらい構わんさ。ところで、設備の方は足りるかね?」
「ハイ、充分です。勝手を言って申し訳ありませんが」
カトルはアルトロンとエピオンの修復をするためにMS工場を1つ貸しきっていた。絶対にこの世界に残しておくわけにはいかない技術、ガンダニュウムの加工方法を見られるわけには行かなかった。
アルトロンはコクピットだけだから良いが、エピオンはそうは行かない。どうしてもガンダニュウム合金を加工しなければならなかった。
デュランダルは、その返事を聞き頷いた。そして暫く躊躇った後、口を開く。
「借りと言う程のものでは無いが、良ければ頼みを聞いて欲しいのだが」
「……何でしょう?」
カトルは、おそらくこの部屋に呼ばれた理由だと思った。デュランダルの様子から只事では無いらしい。
「まずは、これを見て欲しい」
デュランダルは手元のパソコンから、ある情報をカトルに見せた。
「これは?……そんな普通のMSの倍のサイズじゃ無いですか!」
「連合が開発しているMSだ。これが少し厄介でね」

ネオはヘブンズベースにあるMS工場に、スティングとステラ、そしてマユを連れてきていた。
「こんな所で何するんだ?」
「ああ、マユのMSを見せようと思ってね」
マユは先の戦闘でカラミティを失っていた。そのため代わりのMSを必要としていた。
「俺たちまで?」
「どうせだから、お前等も見ろよ」
ネオがからかうように薦めるからには、何かあるのだろうとスティングは感じていた。
「な!」
だが、そこにはスティングの予想を超えるモノがあった。マユとステラも呆然と呟く。
「すごい……何なのこれ?」
「……大きい」
「GFAS-X1、デストロイだ。ざっと本体だけで40m近い」
「こんなデカブツ動かせるのかよ?」
「何か鈍そうなんだけど」
スティングがもっともな質問を、そしてマユは自分が乗る機体だから不安そうに尋ねる。
「そうだな……コイツはザムザザーなんかが使ってる陽電子リフレクターを広範囲に展開出来る上に、PS装甲を採用してるから、防御に関しては無敵だ。さらに四方を攻撃するのに向いたMA形態と正面の敵に集中砲火を浴びせる事に向いたMS形態に瞬時に可変する事で攻撃への死角も無い」
「動きは? それに格闘能力」
「重量があるから普通のMSより速くとは行かんが、充分に対応出来るスピードだ。それにPS装甲だから普通に殴る蹴るだけでもかなりのダメージを与えられるし、こっちはキズ付かん。
 おまけに両手部はドラグーンシステムで遠隔操作も可能だ。このドラグーンシステムは最新型で空間認識能力が無い人間でも使える。ちなみに腕には陽電子リフレクターと指先から放つビームガンが付いてる」
「……凄い……」
その化け物じみた性能にマユが溜息を漏らす。まさに圧倒的な性能だ。
しかし、スティングは怪訝そうな表情で質問してくる。
「なあ、このMSに本当にそれだけの性能があるのか?」
「イヤ、コイツには無い。作りたかったんだが問題があってな。エネルギーの効率から色々と修正されて、PS装甲は諦めて運動能力も低下。格闘能力は皆無だな。ついでに変形はゆっくりと……」
「MSの意味無ぁ~い!」
「ゴフッ!」
マユの放った裏拳の突っ込みはネオの肋骨に大きなダメージを与えた。
「ちょっと……マユは突っ込み禁止……」
胸を押さえながらネオは呻くように注意する。
「う、うん。ごめんネオ」
「そんな事より、マユの言う通りMSの意味無えだろ」
「俺の肋骨をそんな事呼ばわりか!」
「うるせえ! 質問に答えろ」
スティングとしては優秀なパイロットのマユを、そんなMA……断固MSとは認めない……に乗せるのは反対だった。
「いや、まずは話を聞けって。当初は最初に説明したようなMSを目指して作っていたんだが、途中で不可能だと分かったんだ。だがな科学者って奴はそれでも完成に近づけようとするわけよ」
「それで、MSの意味なしじゃ話にならねえな。普通に小型艦サイズのMAにしちまえばコストだって安くなるだろ? 第一、回避能力が低いならエースパイロットを乗せる意味が無え」
「それが普通のパイロットでは無理らしい」
「何でだ?」
「知らん……って上官を殴るな!」
「うるせえ! そんな怪しげなMSにマユを乗せるな!」
「俺だって……って俺が反対せんでも盟主が乗せんだろ普通」
「ああ……そうか、マユは大将の直属だったよな……って、だったら何故?」
「だから今ここにあるのは出来損ないなんだ。こんなモノにマユやお前たちを乗せんよ。と言うよりこいつは時期に解体され大幅な改修を受ける」
「は?」
「問題が……エネルギーの件が片付いたのさ」
「じゃあ?」
「最初に説明した化け物が産まれる」
「だが、どうして急に?」
「マユがこの前持ち帰ったMSがあったろ。アイツには核融合エンジン、しかもかなりの出力を
 得られる設計のヤツが付いていた」
「マジかよ……」
「ああ、おまけにあのMSは色々と面白いヤツでな装甲に関しては解析不能だが、一番の特徴はコクピットが付いてないのさ」
「は?……そんなものどうやって動かすんだよ」
「自動操作……解析中だがな」

カトルはデュランダルの説明を聞き終えると、沈痛な表情で黙り込む。
「カトル、君が必要以上に責任を感じる事は無い」
「ですが……僕たちが起動前にビルゴを破壊していれば」
後悔で済む問題では無かった。本来なら実現不可能だったオーバースペックのMSが誕生してしまうのだ。
「もし、この機体が出てくれば僕たちが」
「そうして貰いたい気はするが、頼みとは別でね……これを」
そう言ってデュランダルは、パソコンのモニターに別のMSを映し出す。
「これは?」
「我々が開発したMS、デスティニーだ。頼みと言うのはね……」
デュランダルの真剣な眼差しがカトルを貫く。
「君にデストロイを破壊できる剣を作ってほしいのだよ。このMSのね」
「ガンダニュウム合金で?」
デュランダルは頷いた。
「返事をする前に君に聞いて欲しい話があるのだ。少し長くなるが構わんかね」
「それは構いませんが」
「まずはこれを見てもらいたい……デスティニープラン、私が評議会に入る前に研究していたプランだ」
「……遺伝子によって人の才能を調べ、適性に合った職に就かせる……」
「ああ、そもそもこの世界の争いの根幹にはナチュラルとコーディネーターの能力差がある。しかし、ナチュラルでも時にはコーディネーターを上回るものがあるのだ。例えばPS装甲を開発したのも、MSにビーム兵器を最初に付けたのもナチュラルの科学者だ」
「つまり、ナチュラルでも才能のある職に就けばコーディネーターに劣らないと考えたのですね?」
「その通りだよ。そうすれば必要以上にナチュラルはコーディネーターを恐れなくなる」
「たしかに……」
カトルは遺伝子で職を決めると言う話には首を傾げた。だだ、あまり政治に口を挟みたくは無かった。
彼の世界は最初からコーディネーターが居ないのだ。彼は自分の価値観を押し付けるほど傲慢では無い。
「やはり不自然だと思うかね?」
だが、カトルの考えを見透かしたようにデュランダルは微笑む。
「僕には分かりません。この世界にはこの世界の価値観があるでしょうし」
「心配しなくとも、このプランは否定されている。何の事は無い。ある少年が証明したのだよ。
 努力に勝る才能など無いとね」

ネオの言葉にスティングは唖然としていた。あのMSが自動操縦だったのだ。だが同時に納得もする。
あのMSには、シンやゼクスと戦った時の高揚感が感じられなかったからだ。
「それでウィンダムにそのシステムを付ける事になった。データーは俺を始め何人かの優秀なパイロットのデーターを入れる事になってる」
「俺は?」
「マユは?」
優秀なパイロットに自分が入っていないのかと不服そうな声を上げる。
「お前等は、ある意味別格だろ? 実際ウィンダムを操縦してどう思う?」
「鈍い、重い、使えねえ」
「つまんない」
「だろ。だから、マユはコイツ」
ネオはデストロイを指差す。
「コイツも量産するのか?」
「最終的にはな。それとスティングには急遽開発が決まったカオスの強化型……なにしろ自動操縦だ。
 Gを無視した化け物を作る気らしいぞ。それにカオスだけでなくガイアも同様のプランがある」
「ふ~ん……化け物MSは操縦してみてえが……」
「何だ? 不服そうだな」
「自動操縦のMSだろ?……俺達の存在意義はどうなる?」
戦うために作られたエクステンデッドは維持だけでもコストが掛かる。だが、それでも必要とされるのは彼等以外にコーディネーターに対抗出来ないと思われているからだ。しかしモビルドールが現れた事で、前提が狂うのだ。より低コストで大量生産が可能な擬似パイロット、それがモビルドールなのだから。
「……正直わからん。だがな、今俺が言ったことは所詮机上のプランだ。何故なら現在、連合は和平を進めている。なにしろ眼の前に敵が迫っているんだ。だから先程言ったような自動操縦システムもカオスの強化型も開発が済んだ頃には連合はザフトに完敗した後って事に成りかねん」
そこまで言うと、全員を見渡し、厳かに告げる。
「おそらく次のザフトの目標は、ここヘブンズベースだ。そして良くてデストロイが間に合うだけでカオスもウィンダムの自動操縦化も間に合わん。だからこそ時間を稼がねば成らないんだ。ここを死守、最低でもザフトに次の進行を遅らせる程のダメージを与える。それが出来れば連合は劣勢を一気に挽回して優位に立てる。分かるか? お前等がここで踏ん張れば自軍を敗北から勝利に導けるんだ。その功績があれば後は盟主が上手く立ち回ってくれる。お前等に普通の生活を与えてやる事も出来るんだぞ」
「普通の生活?」
ステラはキョトンとし、スティングとマユは顔を見合わせ首を傾げていた。