W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第57話

Last-modified: 2008-03-03 (月) 01:46:22

 ハワードと、オデル・バーネットがコルペニクス市街の高級ホテルに駆け込
んだとき、そこにロッシェ・ナトゥーノの姿はなかった。
 それもそのはず、ロッシェは彼らがいた宇宙港にいきなり現れると、会話も
せずにレオスに乗り込んだかと思うと、制止も聞かず飛びだしてしまったのだ。

 

「一体、何があった!」

 

 ホテルのスイートルームでは、ミーアが一人へたり込むように床に座ってい
た。ハワードの声に気がついて顔を上げたミーアだが、彼女の顔は涙でくしゃ
くしゃになっていた。

 

「ロッシェが、ロッシェが急に出て行っちゃって……」
「それはわかってる。奴はレオスに飛び乗ってどこかに行ってしまった。奴は
一体、どうしたというんだ?」

 

 ハワードの問いに、ミーアは首を振った。

 

「わかんない! そのパソコンのファイルをみたら、怖い顔になって、それで」

 

 オデルがパソコンに駆け寄り、ファイルを見た。画像ファイルにはアスラン
と見知らぬ男が写っており、音声ファイルには……

 

『現在、メリクリウスとヴァイエイトのデータを下に、ビルゴの起動を最優先
にしています。ですが――』

 

 アスランとは違う男の声、恐らく画像に写る会話相手と思わしき声が、音声
ファイルから流れている。

 

「これはっ!」

 

 オデルの顔色が変わった。ハワードも慌てて駆け寄り、音声ファイルの会話
を確認する。要所要所に、ウルカヌスやビルゴといった単語が入り交じってい
るではないか。
 二人は顔を見合わせる。

 

「それ聴いた途端、ロッシェが怖い顔して叫びだして……私が止めても聴かな
くて、それで」

 

 オデルは泣きじゃくるミーアにハンカチを渡し、背中をさすって宥める。だ
が、顔は真剣その物だった。何故なら、オデルはアスランと面識があり、一時
でも同じ艦で共に戦った仲間だったのだ。

 

「まさか、彼がウルカヌスを手に入れていたのか……」
「ロッシェはそれを知ったから、出撃したというわけか。アスランとやらを捕
らえるつもりかな?」
「いや、ロッシェはそんな生易しいことはしないはずです」

 

 ロッシェは、見つけ次第アスランを殺すつもりだ。
 何故ならロッシェは、気付いてしまったのだ。ハイネ・ヴェステンフルスが
死んだ、真実を。
 状況がわからぬミーアは、オデルとハワードの顔を見る。ロッシェは説明す
る間もなく飛び出していったのだ。仕方なく、オデルが事態を説明しようとし
たとき、突如パソコンの画面が映像に切り替わった。
「ア、アスラン!」
 叫ぶミーアと、注視するオデルとハワード。映像には、アスラン・ザラが映
っていた。

 
 

           第57話「不滅の正義」

 
 
 
 

 ザフト軍宇宙要塞メサイアと、ファントムペイン月面基地ダイダロスを同時
襲撃し、これを陥落させることに成功したアスランたちは、全世界に向けて声
明を発表した。彼らには、自分たちの行いと立場を強調し、明確化する必要が
あった。

 

「我々プラントと、そこに住まうコーディネイターは、ずっと平和な世界の存
在を願ってきた」

 

 始めにマイクを取ったのはサトーである。古風な出で立ちをし、武人らしい
風格を持って彼は熱弁する。

 

「そんな我々に対し、今まで地球は、ナチュラルは何をしてきたか? 常に武
力を持って威嚇をしてきた。そして、威嚇が通用しないとわかれば、今度は本
当に攻撃を仕掛けてきた! 忘れもしない旧連合時代、ユニウス・セブンに核
を打ち込んだのだ!」

 

 旧連合とプラントの開戦の合図となった一発で、サトーは妻と娘を、アスラ
ンは母親を失っている。

 

「旧連合が解体された後も、連合軍はファントムペインと名を変えただけで何
ら変わりはしなかった。コーディネイターを敵視し、ザフトと激しい戦闘を繰
り広げた……ファントムペインが世界統一国家になった時、何が起こったか?
 そう、またプラントに対して攻撃が行われたのだ! 宇宙にあって平和を願
うプラントと、そこに住む市民が無惨にも虐殺された」

 

 崩壊したヤヌアリウスとディゼンベルの映像が映し出され、サトーの演説を
みるものに息を呑ませた。プラント側は怒りと悲しみに震え、地球側は恐怖に
打ちひしがれた。

 

「だが、我々は既に大量破壊兵器によって虐殺を指示した張本人、ブルーコス
モス盟主にしてファンとペインの総大将、ロード・ジブリールを武力によって
抹殺した! ダイダロス基地は破壊され、残るはアルザッヘルのみである。こ
れも破壊すれば、残る敵は地球だけだ。我々はプラントとコーディネイターに
仇なす存在を打倒するべく立ちあがった正義の集団である!」

 

 振りかざした拳を、高々と突き上げるサトー。

 

「では、この崇高なる目的を達成するために立ちあがった我らのリーダーを紹
介しよう!」

 

 その名が告げられたとき、世界の様々な場所で時が止まったかのように空気
が凍り付いた。世界統一国家の仮本部ビルで演説を見るカガリが、オーブ行政
府で画面を見つめるユウナが、ダイダロスから撤退しメサイアとの合流を急ぐ
ミネルバのクルーたちが、コルペニクスのホテルで呆然とするミーアが。
 誰もがその名を、画面に映った年若い少年を、知っていた。この人物と会話
を交わしたことがあり、人によってはともに食事をしたり、休日一緒に出掛け
たことだってある。彼には親友がいて、幼馴染みだという彼の名は……。
 オーブの海辺にある館にて、主の一人が低いうなり声を上げた。もう一人の
主である少女、本物のラクス・クラインがその声に振り向いた。
 キラ・ヤマトが、強い瞳で画面を見ていた。大きく見開かれた瞳が、画面に
映るその姿を見つめ、普段とは明らかに違い彼の反応に、ラクスは驚きを隠せ
なかった。ラクスはその視線の先、キラが見つめる少年の姿を改めてみる。
 キラの親友にして、彼女の婚約者でもあった、アスラン・ザラの姿を。

 
 
 

 マイクを手にしたアスランの服装は、紫色の軍服であった。これはプラント
の軍官僚、主にザフト出身の主戦派議員が着る服であり、彼の父親であるパト
リック・ザラが好んで愛用していたものだ。

 

「かつて、プラント最高評議会議長の座にあったシーゲル・クラインは、幾度
となく地球との対話を試みた。争いを回避し、平和的な話し合いを持って戦争
の終結を目指した」

 

 アスランはゆっくりと、世界に向けて語り始める。

 

「その結果、戦争は終わったのだろうか? 終わらなかった。それどころか戦
争は激しさを増し、旧連合は二度目の核を使った。多くの血を流して集結した
前大戦。これで戦争は終わると、父の死は無駄ではなかったと私は思った。だ
が、どうだろうか? 地球の政治家も、プラント最高評議会もまた戦争を始め
た。まるで前大戦と今大戦の間にあったのは戦争の準備期間に過ぎないとでも
言うように」

 

 画面が切り替わり、そこに何かの残骸が映し出された。岩と金属の入り交じ
った残骸、そうこれは――

 

「現プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、国を統治する指導
者としてはあるまじき行いをしてきた。自身の野心と野望、最高権力者として
の地位を守るために戦争を食い物とし、利用してきた! 自分のことしか考え
ない身勝手な彼に、幾度となくプラントは危機に晒され、地球にさえその余波
は広がった。こんな男に、最高評議会議長をやらせる資格はない」
 だから、排除した。アスランは残骸が何であるか、岩と鉄屑の塊が、宇宙要
塞メサイアの破片であること告げた。

 

「ギルバート・デュランダル、プラントを危機に陥れた低脳なる小物は、この
俺が排除した。彼には議長としての資格もなければ、プラントを守る資格もな
いからだ! これからのプラントは変わらなければいけない。強い指導者の下、
戦わなければいけないのだ!」

 

 ミネルバにおいて、多くの人間が息を呑んだ。中でも、艦長のタリア・グラ
ディスと、モビルスーツパイロットのレイ・ザ・バレルが受けた衝撃は、決し
て小さいものではなかった。

 

「ギルバート……」

 

 普段は議長と公称で呼ぶ、かつての恋人の名をタリアは小さく呟いた。

 

「嘘だ、ギルが……死んだ?」

 

 信じられないことを聴くかのように、レイが青ざめた顔で身体をふらつかせ
る。ルナマリアが慌てたようにその身体を支え、咄嗟にシンの方を見る。シン
もまた驚きを隠せない表情で、ただただ画面に映るアスランを見つめている。

 

「デュランダルはかつて、戦いが無くならぬから力が必要なのであると言った。
では、戦いの原因とは、争いが起こる理由とは何だ? 何故人々は戦争を行い、
戦場で多くの血が流れるのか……その答えは簡単だ。地球とプラント、この二
つの存在こそが対立と戦争の図式を生み出すのだ。ならば、それを絶ってしま
えばいい。私の名はアスラン・ザラ、今は亡き父パトリック・ザラの志を受け
継ぎ、プラントの代表者としてプラントに対立する存在、地球の排除をここに
宣言する!」

 

 アスランもまた、サトーと同じように拳を高々と振り上げ、突き上げた。
「我々の名は、真なる正義を示す集団、インフィニットジャスティス!」

 
 
 
 

「インフィニットジャスティス……不滅の正義」

 

 映像が消えた画面を見ながら、オデルが呟いた。

 

「まさか、アスラン・ザラがこんなことを裏で行っていたとは」
「強すぎる力を持つと、人は誰しも錯覚を起こし、欲が芽生えるものさ。野望
という名の、欲望がな」

 

 苦々しげに、ハワードが言う。古いことを思い出したのか、その口調はどこ
か辛口だ。

 

「アスラン……どうしちゃったの? 議長を殺したって、なんで?」

 

 わけがわからないと言わんばかりに、ミーアは早口で喋っていた。オデルは
そんな彼女に、今更隠すことも出来ないので真実を告げた。

 

「どうやら、アスラン・ザラはクーデターを起こしたらしい。彼は、それだけ
の力を手に入れたんだ」
「力……?」
「ミーアさん、あなたはロッシェから、我々がこの世界に迷い込んだ理由を聞
いていますか?」

 

 言われて、ミーアは思い出すかのように考え込む。

 

「確か……何か大事なものを探す調査任務の最中に、光に包まれたと思ったら
この世界に来たって」
「大事なものの中身については?」

 

 ミーアは首を横に振った。どうやら、ロッシェはそこまでは話していないら
しい。

 

「実は、その中身とは我々の世界から消失した、軍事兵器なんです」

 

 オデルはミーアに対し、彼らが元いた世界に存在した軍事兵器工場であるウ
ルカヌスという名の衛星が消失し、自分とロッシェ、そしてハワードが調査を
担当していたこと、捜索最中に光に包まれこの世界に迷い込んだこと、ウルカ
ヌスには大量の無人機動兵器が眠っていたことなどを話した。

 

「恐らくアスランは、時間を掛けて機動兵器、モビルドールの起動させること
に成功したんだと思います。だからこそ、プラントに対して反旗を翻し、地球
に対し宣戦布告を行った」
「そんな……あのアスランが、そんなことを」

 

 信じられないミーアだが、これは事実だ。アスランは、ギルバート・デュラ
ンダルとロード・ジブリールというプラントと地球、双方の指導者を倒した。
地球を排除するというのがどこまで本気かは知らないが、ビルゴを手に入れた
ことで清新に増長を来していることもある。

 

「じゃ、じゃあ、ロッシェは!? ロッシェは、アスランを止めるために出撃
したの?」
「恐らくは……」
「ならすぐに止めて! アスランがそんなに凄い力を持ってるなら、ロッシェ
一人じゃ危険じゃない!」

 

 言われて、オデルはそのことに気がついた。確かにロッシェは一流のパイロ
ットであり、実力はオデルも認めるところだ。愛機レオスにしてみてもこの世
界のモビルスーツでは相手にならない性能を持っているが、彼らが元いた世界、
A.C.ではどうだ? レオスは多少強化されてるとはいえ、量産機であるリーオ
ーをカスタマイズしただけのカスタム機であるし、ガンダムタイプは勿論、ビ
ルゴにすら勝てるとは思えない。

 

「ハワード、私が追いかけてロッシェを連れ戻しますか?」

 

 彼は怒りで我を忘れることもあり、無謀な突撃を行う可能性が高い。ミーア
の言うとおり、今すぐ追いかけないと危険である。

 
 

 しかし、ハワードは首を横に振った。

 

「いや、奴が出撃してからの時間を考えると、今から追いかけても間に合わん
だろう」
「ロッシェを見捨てるっていうの!?」
 ミーアが批難の声を上げ、オデルも若干ではあるが批難めいた目でハワード
を見る。
「そうは言っておらん。ジェミナスを今から動かしたのでは間に合わんと言っ
てるだけだ。なら、他の奴に行かせればいい」
「他の奴……まさか」
「いるだろう? 一人、宇宙で活動している奴が。奴なら、ロッシェの性格も
弁えているし、大丈夫だ。なにせ……」

 

 ハワードは一旦言葉を切って、窓の外を見る。あんな演説が行われたのに、
コルペニクスは平穏その物を保っていた。

 

「奴とロッシェは、共に剣をかかげた仲なのだから」

 
 

 その頃、ミネルバではレイが暴れていた。稚拙な表現になるが、そうとしか
形容が出来ないのだ。彼は今すぐ愛機であるザクファントムに飛び乗って、ア
スランを殺しに行くというのだ。

 

「離せ! 止めるな、俺を行かせてくれ!」

 

 ヨウランやヴィーノ、そしてルナマリアに羽交い締めにされるレイ。騒動を
聞きつけ、タリアとアーサーが駆けつけてきた。

 

「レイ、落ち着け!」

 

 アーサーが強い声で叱咤するが、レイは止まらない。何が何でも出撃しよう
と、ギルの仇を討とうとしている。無理もない、肉親ではないにしろ、この世
で二人目の保護者を、レイは失ったのだ。

 

「無理よ、ザクで出撃したってアスランに勝てるわけないじゃない!」
「勝てる、勝てないかじゃない! 俺は奴を殺す、それだけだ!」

 

ここまで冷静さを欠いたレイを見るのは、誰もが初めてだった。タリアは、
そんなレイの姿を気の毒そうに見つめている。

 

「レイ、気持ちはわかるけど……冷静に、なりなさい」

 

 震える声で呼びかけたとき、レイの動きが止まった。レイだけじゃない、周
囲に人間が皆、驚いていた。あの気丈な艦長が、タリア・グラディスが、泣い
ている――?
 その顔を見て、レイのガクリと膝をついた。彼が堪えていたものが、決壊し
たのだ。

 

「ギル…どうして、ギル……」

 

 泣き叫ぶレイの肩を、誰かが叩いた。ハッとしてレイが振り返ると、そこに
はシンが立っていた。
 ザフトレッドの証である、赤いパイロットスーツに身を包みながら。
 そして、シンは強い面持ちでタリアを見て、口を開いた。

 

「俺が行きます。艦長、俺に出撃許可を」

 

 タリアがそれを了承するまで、長い時間は掛からなかった。

 
 
 
 

「私は馬鹿だ。救いようのない大馬鹿野郎だ!」

 

 漆黒の宇宙を、一機のモビルスーツが突き抜けて行く。マントをたなびかせ、
ひたすら前へと進む機体は、カスタムリーオーレオス。ロッシェ・ナトゥーノ
が乗る機体であった。

 

「私がもっと早くディスクの中身を見ていれば、いや、ディオキアで会ったと
き、ハイネから全てを聞いていればこんなことには!」

 

 何故、あれほどの実力者であったハイネが戦死したのか。その場にいたとい
うアスランはこのように報告した、彼は自分を庇ったと。しかし、真実は違っ
た。ハイネはアスランの秘密を知ったが故に、アスランによって殺されたのだ。

 

「許さんぞアスラン・ザラ……」

 

 アスランの演説を、レオスのコクピット内で聞いていたロッシェだが、不快
な内容を聞く代わりに、彼は映像の発信源、即ちウルカヌスの位置を突き止め
ていた。このまま一機にウルカヌスに斬り込んで、アスランの首を奪ってくれ
ると、ロッシェは考えていたのだ。

 

「貴様だけは…………!?」

 

 その時、前方から高エネルギー反応が起こった。ロッシェが機体を動かすと、
直前まで居た位置をビームの太い光が通過した。

 

「ビーム攻撃、誰だ!」

 

 ビームライフルを突きつけるレオスの前に、二機のモビルスーツが現れた。
偶然にも、ロッシェはその二機を知っていた。

 

「メリクリウスと、ヴァイエイトだと!?」

 

 かつてA.C.において破壊将軍の異名を持ったヴァルダー・ファーキル、その
彼の部下である二人の姉妹が、これと同型の機体に乗っていた。メリクリウス
・シュイヴァンと、ヴァイエイト・シュイヴァン、ガンダムタイプにも劣らぬ
性能を持つ、強力な機体であった。

 

『久しぶりだな、ロッシェ・ナトゥーノ!』

 

 メリクリウスから、レオスに向かって通信が送られてきた。この声の主を、
ロッシェは憶えていた。

 

「その声は……イザーク・ジュールか」
『ほぅ、俺の名を憶えていたか。光栄だが、今となってはどうでもいいことだ。
どうせ貴様は、すぐ死ぬんだからな』

 

 メリクリウスがビームサーベルを引き抜いた。レオスが持つそれよりも、明
らかに出力が上であるビームの光がそこにはあった。

 

「いつぞや貴様はこのようにほざいたな、今度は俺の得意なモビルスーツで勝
負がしたいと。それを果たしに来た!」

 

 ビームサーベルを真っ直ぐとレオスに、ロッシェへと突きつけるイザーク。

 

「ディアッカ、絶対に手出しするな! これは俺と奴の一騎打ちだ」

 

 熱く燃えるイザークに呆れながら、ディアッカは頷いた。
 一方、その姿を見たロッシェは、これが避けて通れない戦いであることを悟
り、レオスのビームライフルの銃口を、メリクリウスへと突きつけた。

 

「良いだろう、勝負だ!」

 

 ロッシェが、ビームライフルを撃ち放った。

 
 

 その頃メサイアのあった宙域では、アスランによる掃討作業が行われていた。
抵抗を止めないファントムペインや、アスランに賛同を示さないザフト軍など
を排除しているのだ。
 アスラン自身もジャスティスで再出撃し、ビルゴによって破壊されるモビル
スーツや艦艇を眺めていた。来るであろうロッシェ・ナトゥーノの追撃に向か
ったイザークから、ジュール隊には手出しをするなと言われていたが、ジュー
ル隊は指揮官が良かったのかさっさと宙域を離脱していた。

 

「抵抗しないザフトには手出しする必要はないが、ファントムペインは一機た
りとも逃がすな!」

 

 既にザフトの中には、進んでアスランに降伏するものや、恭順の意思を示すも
のが出てきている。これらはコーディネイターであるわけだから殺す必要はど
こにもないが、ファントムペインは別だった。

 

「サトーにアルザッヘルの攻略は任せたし、ここまでは予定通りか」

 

 アスランは自己の持つ圧倒的な力を表現するために、わざとおおげさで、派
手な方法を選んだ。ザフトとファントムペインの軍事拠点土同時に破壊し、双
方の指導者を粛正する。ここまで鮮烈なインパクトを与えれば、誰しもがアス
ランに対し畏怖を憶えるに違いがない。地球側の抵抗意識を削ぎ、プラント側
の反発を抑える目的もあった。

 

「カガリが賢明な判断を取ることを祈ろう……ん?」

 

 ほとんど瞬間的に、アスランが機体を操作した。すると、ビームの閃光が、
ジャスティスの機体を掠めるように放たれていた。

 

「まだ、雑魚が残っていたか」

 

 舌打ちしながら、アスランは機影を確認する。一度か二度、地球で見たこと
のある機体であった。

 

「アスラン・ザラ、貴様はここで倒す」

 

 スウェン・カル・バヤン、ファントムペインのエースが乗る、ストライクノ
ワールであった。ストライクはビームライフルの銃口を、ジャスティスへと突
きつけている。

 

「無駄なことを…力の差がわからないのか?」
『確かにあの機体には攻撃も通用しない。だが、貴様は別だ』
「なるほど、大将首を取ろうというわけか……良い判断だが」

 

 アスランは、ジャスティスのビームサーベルを引き抜いた。

 

「俺の実力を、無視して貰っては困るな!」

 

 一瞬、一機に距離を詰めたジャスティスに、ストライクがグレネードを放っ
た。しかし、所詮は実体弾。PS装甲の前には通用しない。ジャスティスはビー
ムサーベルを一閃、ストライクのビームライフルの銃身を叩き斬った。
「チィッ!」
 スウェンは使い物にならなくなったビームライフルを捨てると、距離を開け
て二刀のフラガラッハビームブレイドを構えた。
 さらに斬りかかってくるジャスティスに対し、大振りの一撃を繰り出した。

 

「遅いな!」

 

 アスランは叫ぶと、ストライクの一撃を避けてビームサーベルを叩き込む。
スウェンはそれを受け止め、ビームとビームの刃が激しく混じり合った。

 

「そこだ!」

 

 その瞬間であった。ジャスティスが二刀目のビームサーベルを引き抜き、ス
トライクに横薙ぎの一閃を加えた。咄嗟に気付いたスウェンが回避行動を取る
も、ストライクは股から脚部を両断され、続けざまに放たれた一撃が胸部を掠
めた。

 

「ぐあっ!?」

 

 コクピットにも衝撃が伝わり、飛び散る火花が軽い爆発を起こす。スウェン
はコクピットの中で気を失ってしまった。

 

「あっけないな……ファントムペインのエースも、所詮は英雄にはなれずか」

 

 アスランは嘲笑すると、もはや動くことも出来ず、ただ宇宙に浮いているだ
けのストライクにトドメの一撃を与えようとした。

 

「なんだっ!?」

 

 そんな二機の間を、強力なビーム砲の光が遮った。アスランが慌てて攻撃の
方向を見ると、見慣れたモビルスーツが一機、突っ込んでくる。

 

「デスティニーインパルス、シンか!」

 

 速射砲を放って牽制するも、インパルスは全てを避けるとエクスカリバーを
引き抜き斬りかかってきた。

 

「アスラァァァァァァァァンッ!」

 

 当たれば一撃で機体を切断するであろう斬撃を、アスランは寸前のところで
避けた。

 

「シン、まさかお前が来るとは思わなかったぞ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、アスランはインパルスに通信を送った。

 

「アスラン、どうして裏切った!」
『裏切る? 俺はこの世界に対して、正しい正義を示しただけだ。プラントを
守るためにな』
「なら、どうして議長を、ザフトを襲ったんだ!」

 

 アスランが真にプラントのことを考えているというのなら、議長を含めたザ
フトに攻撃をする必要など、どこにもないはずである。

 

『彼らの死は……必要な犠牲だったんだよ。新しい世界を作るために』
「なっ……犠牲だって?」

 

 シンの脳裏に、かつての記憶が蘇る。一隻の空母がそこにはあった。国と、
人を守るため、自ら犠牲になった一人の男。
 彼は、自らの死は必要な犠牲であると、シンに言った。

 

「こんな……こんな犠牲が」

 

 シンはコクピット内で震えていた。悲しみではない、これは明確なる、怒り
の震え。

 

「こんなものが、必要な犠牲であるもんかぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 インパルスは恐るべき速度でジャスティスに迫ると、二刀の斬撃を繰り出し
た。しかし、アスランはそれを上回るスピードでこれを回避し、インパルスか
ら距離を取った。

 

「貰ったっ!」

 

 シンは、ケルベロスの砲口をジャスティスに突きつけ、力の限りぶっ放した。
狙いは完璧、確実に捕らえた――

 

「甘いな、シン」

 

 アスランは苦笑すると、機体をくねらせるように横に動かし、あっさりとケ
ルベロスの砲火を避けた。速射砲が放たれ、ケルベロスの砲身が正確に撃ち抜
かれ、破損した。

 

「そん、な……」

 

 一瞬の攻防であったが、アスランはシンを打ち負かしていた。デスティニー
シルエットを装備したインパルスは、決して弱い機体ではない。ジャスティス
がいくら核動力機でも、戦えないはずはない、はずだった。

 

「ここまでだな、シン・アスカ」

 

 ジャスティスの回りを取り囲むように、ビルゴが集結してきた。全ての掃討
作業を完了したのだろう。

 
 

「お前とは同じ艦に所属し、共に戦った中だ。仲間にしてやるといいたいが、
どうせお前は拒むんだろう? なら、今日の所は見逃してやる」
『なんだと!?』
「お前じゃ俺には勝てないと言ってるんだよ。さっさとこの場から逃げて、ど
こかで俺の覇権が確立されるのを指を咥えてみてるんだな」
 シンはギリッと歯ぎしりをするが、アスランの言うとおり、今の彼ではアス
ランに勝ち目はなかった。戦闘を続けるだけ、不利だろう。
「いいぜ……わかった、俺は逃げる。逃げてやる!」

 

 シンは叫ぶと、インパルスを動かした。近くに浮遊していたストライクノワ
ールを掴むと、そのまま宙域を離脱するため全速力で飛び去っていった。
 わざわざストライクを連れて逃げたのを見て、アスランは苦笑しながら溜息
を付いた。

 

「相変わらず、甘い奴だな」

 

 アスランはビルゴから送られてきた戦局図を見た。全ての掃討作業は完了し、
ファントムペインは一機残らず葬り去られた。中にはホアキンが艦長を務める
戦艦ナナバルクが撃沈した情報などもあったが、アスランは気にも止めなかっ
た。

 

「こちらアスラン・ザラ。掃討作業は完了した。ビルゴと共にウルカヌスへ帰
還する」

 

 この戦いにおいて、ビルゴは一機たりとも損失していない。それどころか、
一切の損傷や破損をビルゴはしておらず、全くの無傷だった。

 
 

 ウルカヌスのある戦場から少し離れた宙域で、ロッシェとイザークが激しい
死闘を繰り広げていた。

 

「くらえっ!」

 

 レオスからビームライフルが連射され、正確な標準を持ってメリクリウスへ
と命中する。しかし、二十基のプラネイトディファンサーを展開したメリクリ
ウスの防御は完璧で、レオスのビームライフルは全て弾き飛ばされていた。

 

「どうした、どうした! アレだけデカイ口を叩いておきながら、貴様の力は
その程度か!」

 

 距離を詰め、ビームサーベルの一撃を繰り出すイザーク。ロッシェもまたレ
オスのビームサーベルでこれを受け止めるが、ビームの出力が違いすぎる。数
合に渡る剣戟を繰り広げたが、レオスのサーベルが弾き返されてしまう。明ら
かに力負けをしていた。

 

「プラネイトディファンサーさえ無ければ、あんな奴に」

 

 言い訳がましいことをロッシェは呟くが、レオスとメリクリウスでは性能差
がありすぎる。かつて、同じ機体とロッシェが戦ったとき、彼はG-UNITの一機
であるL.O.ブースターに乗っていた。レオスよりもずっと強いガンダムタイプ
のモビルスーツであったが、それに搭乗していてもメリクリウスを単機で倒す
ことは出来なかったのだ。

 

「L.O.ブースターのビームキャノンを完全防御するような機体だ。レオスのビ
ームライフルなど通用するものか……」

 

 悔しそうにロッシェは言う。
 さらに認めたくない話ではあるが、イザークはメリクリウスを完全に乗りこ
なしており、その技量はロッシェに勝るとも劣らないほどだった。機体の特性
を理解し、完璧な攻撃を繰り出してくる。

 

「だが、私とて!」

 

 機体に加速を掛け、ビームサーベルを突き出しレオスが突撃した。勢いのあ
る攻撃でメリクリウスを貫こうとしたのだが、

 

「無駄だぁっ!」

 

 円盤形の大型シールドと、その回りに展開されたプラネイトディファンサー
が作る防御フィールドを前に、突き出したビームサーベルは完全に止められた。
ビームが弾かれ、フィールドを突破できないのだ。

 

「ぐっ……この程度!」

 

 ロッシェは歯を食いしばりながら操縦桿を握る手に力を込めるが、何をした
ところで無駄だった。ビームの出力が足りなすぎる。レオスのビームサーベル
はリーオーのを改良して出力を上げた特注品であるが、それでもガンダムタイ
プの持つものには遠く及ばない。そして、メリクリウスはガンダムに匹敵する
機体だ。

 

「力の差が歴然としたところで、そろそろ処刑の時間といこうか!」

 

 イザークが叫んだ瞬間、メリクリウスの機体を守っていたプラネイトディフ
ァンサーが突如機体を離れ、レオスの周囲を取り囲んだ。

 

「しまった!」

 

 途端、レオスの回りに強力な電磁フィールドが発生した。

 

「見たか、これぞディフェンサーネットだ! 防御兵器であるプラネイトディ
ファンサーを利用し、敵を強力な電磁フィールドに閉じこめる……ロッシェ、
貴様の機体はもう動かすことも出来まい?」

 

 ロッシェは操縦桿を動かしたり各種スイッチを押すが、イザークの言うとお
りレオスはピクリとも反応しなくなった。

 

「馬鹿な、私がこんな……」

 

 動かそうにも、ディフェンサーネットはG-UNITの発展機であるガンダムグリ
ープでさえ動きを封じ込まれて捕らえられたほどだ。レオスではどう足掻いて
も脱出のしようがない。

 

「さて、ここからがショータイムだ。貴様の機体を少しずつ切り刻む。まずは
どこからがいい? 手か? 足か? ハハ、泣き叫んで命乞いをしろ! そう
すれば楽に殺してやるぞ」

 

 如何にも楽しそうにロッシェの無様な姿を堪能するイザーク。今やレオスは
捕らえられ、ロッシェの命はイザークの手の中だ。

 

「教えてやるよ、俺が貴様を圧倒したわけを。俺には見えるのさ、お前の動き
が、次にどう動き、どのような攻撃をするのかがな!」

 

 敵の動きを正確に予想し、如何に効率よく倒すかをゼロシステムが計算して
いるのだ。

 

「わかっただろう? 貴様は俺には勝てない。絶対にな! さぁ、わかったな
ら命乞いをしろ。助けてくださいと泣いて叫べ!」

 

 イザークは嘲笑するが、そんな彼に返ってきたのは、冷たい声だった。

 

『断る……』
「なに? 良く聞こえなかったが、今、何と言った?」
『断ると言ったんだ。私は降伏などしないし、貴様に殺されるつもりもない』

 

 ロッシェは絶体絶命の事態に、コクピットで腕を組みながら答えていた。

 

「私はアスラン・ザラという愚かな野望を抱いた男を倒し、私の帰りを待って
いる女性の元に帰らねばならないのでな。貴様なんかに殺されてたまるか」

 

 あくまで淡々と喋るロッシェに、イザークは憤怒の表情を浮かべた。

 
 

「女性だと……それは、それは」

 

 ワナワナとイザークは震えている。彼の頭の中に、彼が唯一愛し続ける少女
の姿が映っては消えていく。

 

「貴様は死ぬんだよ。今、ここで! この俺に殺されるんだ。彼女の元に帰る
のは、貴様ではない!」

 

 そうだこいつさえ殺せば、彼女が手にはいる。ラクス・クラインが、幼きあ
の日、あの場所で出会ってからずっと恋い焦がれ、愛し続けてきた少女が、自
分のものになるのだ。

 

「貴様は邪魔だ。さっさと、死んでしまえ!」

 

 ビームサーベルを突きつけ、メリクリウスは一機にレオスを突き刺そうとし
た。
 だが、それを遮るように細かいビームの雨がメリクリウスに降り注いだ。

 

「攻撃だと!」

 

 緑色をしたビームはこの世界のモビルスーツが放つ特有の色で、プラネイト
ディファンサーを展開していなくとも、メリクリウスのガンダニュウム合金を
前に次々と弾かれていく。
 イザークが怒りに満ちた顔で攻撃を行った機体を見るが、それは意外なこと
に彼がよく知る機体であった。

 

「紫色のザク……シホか!」

 

 スラッシュウィザードを装備した紫色のザクウォーリアー。イザークの部下
である、シホ・ハーネンフースの搭乗する機体だ。

 

「シホ! 貴様、どういうつもりだ!」

 

 イザークが叫びながら通信を送ると、気圧されたような弱々しい声でシホが
答えた。

 

『その機体、やっぱり隊長が乗ってるんですね?』
「そうだ、貴様上官に攻撃するとはどういうつもりだ!」
『た、隊長こそ、これはどういうことなんですか。さっきのアスラン・ザラの
演説もそうですし、どうしてその機体と戦って……』

 

 シホとしては当然の疑問である。突然、ザフトとファントムペインが戦って
いた戦場に謎の機体が乱入し、戦場をメチャクチャにした。メサイアは破壊さ
れ、シホは命からがら戦場を離脱してきたのだ。

 

「あぁ……そういえばお前には何の説明もしていなかった」

 

 イザークは思い出したように呟いた。そして機体の手を広げ、シホに語り始
めた。

 

「喜べシホ、これから世界はアスランをリーダーに、俺達の正義で統一されて
いく。このメリクリウスやビルゴが持つ圧倒的な力で、世界に真なる秩序をも
たらすのだ」
『……本気で、言ってるんですか?』
「俺は本気だし、正気だ。信じられないのは無理もないが、お前も見ただろ
う? ビルゴの強さを。なに、お前は俺の可愛い部下だし、さっきの攻撃は俺
を俺と気付かなかったものとして、忘れてやろう。シホ、お前も俺達の元に来
い。プラントを守るために、共に戦おうではないか!」

 

 熱烈な言葉でシホを誘うイザークだが、シホはコクピットの中で首を横に振
った。

 
 

「隊長、私には隊長のしようとしていることがわかりません。あなたはプラン
トを守ると言った。でも、あなたが今剣を突きつけている相手は、かつてプラ
ントを救ってくれた機体で、一緒に戦った機体じゃないですか!」

 

 ロッシェはかつて、ファントムペインの核攻撃隊を撃破し、プラントを救っ
たことがある。そして、イザーク率いるジュール隊と作戦行動を共にしたこと
だってあるのだ。

 

「シホ……俺が訊いているのはそんなことじゃない。俺達の仲間になるのか、
ならないのか、それだけだ……答えろシホ・ハーネンフース!」

 

 強い口調で答えを求めるイザークに、シホはザクのビームアックスを引き抜
き叫んだ。

 

「プラントを、ザフトを裏切ったあなたを私は許さない! イザーク・ジュー
ル、あなたにその機体はやらせないわ!」

 

 シホの気丈な姿は、ロッシェに好感を覚えさせるものだったが、いくら何で
も無茶だ。接近戦仕様のザクといっても、ザク程度では例えプラネイトディフ
ァンサーがなくとも、メリクリウスに傷一つ付けられまい。

 

「そうかシホ、それがお前の答えか」

 

 レオスに突きつけていたビームサーベルを、イザークはシホが乗るザクへと
突きつけた。

 

「お前は所詮、そこまでの女だったか。俺達の理想に、強さに着いてこられな
いというのなら……いいだろう、俺が直接、この手で引導を渡してくれる!」

 

 ビームサーベルを構えるメリクリウスに対し、先に動いたのはシホのザクだ
った。狙うはメリクリウスの右腕、ビームサーベルを持つ腕を切断し、攻撃力
を奪う!

 

「ハァッ!」

 

 勢いよく繰り出されたビームアックスの一撃は、確実にメリクリウスの右腕
を捕らえ、直撃した。

 

「取った!」

 

 シホは腕一本切断したと思いメリクリウスを見るが、そこには衝撃的な光景
があった。

 

「そんな!?」

 

 右腕にザクのビームアックスを叩き込まれたメリクリウスだったが、何と装
甲がビームを弾き飛ばし、切断どころか傷すら付いていないのだ。

 

「ぬぅんっ!」

 

 イザークは唸ると、ビームアックスを弾き飛ばし、アックスの柄をビームサ
ーベルで切断した。シホがビームガトリングを乱射させながら機体を後退させ
る。ビームガトリングもメリクリウスの機体に確実に直撃しているが、全て弾
き飛ばされている。

 

「残念だったな……お前の渾身の一撃、実に見事だったぞ。あるいはビルゴの
装甲なら、僅かなダメージも与えられたかもしれんな」

 

 量産機のビルゴと、メリクリウス・シュイヴァンでは装甲に使われているガ
ンダニュウム合金の純度や精度に差があるのだ。ましてや、C.E.世界のモビル
スーツの攻撃など、プラネイトディファンサーで防御するまでもなかった。

 

「俺とお前の仲だ。苦しまぬよう、コクピットを一突きにしてやる」

 

 悪魔のように顔を歪ませるイザーク。そんな彼を止めるべきか否か、ディア
ッカは判断を迷っていた。
 シホがイザークに好意を寄せていることを、ディアッカは知っていたのだ。
この二人が戦っていること自体、既に見ていられないというのに、イザークが
シホを殺すなどと……

 

「イザーク、お前その辺に――!? 避けろ、イザーク!」

 

 ディアッカが声を上げてイザークに通信を送った。イザークも気付いたのか、
慌ててシホとの距離を開いた。途端、一条の光がその場を突き抜けていった。

 

「この攻撃は!?」

 

 ディアッカがレーダーに反応する機体を割り出し、ヴァイエイトの砲口を向
ける。
 そこには一機のモビルスーツがいた。プラント製とも地球製とも違う、全く
見たことがない機体。緑色のボディカラーに、肩と頭部にある鶏冠のような角
は金色に輝いている。ガッシリとした機体はモビルスーツであるのに、どこか
筋骨たくましいイメージを沸かせずにはいられなかった。
 この機体、どことなくであるがレオスに似ている。

 

「まったく、情けないなロッシェ。お前ともあろう者が、そんな奴らに後れを
取るとは」

 

 新たに現れた機体は、砲身の長いランチャーを持っており、メリクリウスを
狙い撃った。

 

「チッ、これに当たるのは危険か」

 

 イザークはそのビームがメリクリウスにも通用すると見抜いて、咄嗟に回避
行動を取った。しかし、連射される射撃を前に危機感を憶えずにはいられない。

 

「…………戻れっ!」

 

 イザークが叫ぶのに呼応するように、レオスを捕獲していたディファンサー
ネットが解かれ、メリクリウスの元に戻ってきた。再び展開されたプラネイト
ディファンサーが、敵機のビームを弾き飛ばした。

 

「貴様、何者だ! 名を名乗れ!」

 

 怒りに震えて叫ぶイザークに、攻撃を仕掛けてきた機体のパイロットが答え
た。

 

「星屑の騎士が一人ブルム・ブロックス。同じ剣をかかげた仲間を助けるべく、
ここに参上した!」

 

                                つづく