X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第10話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:51:24

第10話 「オーブは貴様達の蛮行を決して許さない!」

ユウナは、行政府の執務室にいた。

最初、プラントへ旅立ったアスランにユウナが渡したデュランダル宛ての親書の内容は、
オーブにいるラクス・クラインを不法入国者としてプラントに強制送還したい、というものであった。

ユウナにとっては、キラは厄介者でしかない。

キラ・ヤマト達がカガリや各地のクライン派から手に入れた資金で
極秘にフリーダムを修復・保持していることは調査の末、判明しており、
いつ、どのような直接的行動を取るかわかったものではなかったし、
カガリがキラ達と繋がっている限り、仮にユウナが正しかったとしても、
カガリはかつての仲間達の言葉のみに耳を傾け、理想主義者としていつ国を焼く結果となるかを考えるだけでも恐ろしい。

だが、キラ・ヤマトはあくまでもオーブの国民であり、オーブから排除することはできない。

そこでユウナはラクス・クラインに目をつけた。
事実上のキラ・ヤマト達のリーダーであり、キラ・ヤマトとフリーダムという世界最強の剣を自在に操ることができる存在。
ラクス・クラインを排除できれば、キラ・ヤマトは大きく力を失い、
ひいてはカガリを、理想主義を通り越した妄想主義から脱出させ、
一人前の指導者となれるよう導くことができると考えたのである。
もちろん、そのような指導者になることをカガリが真に望めば、の話であるが。

それ故、あくまでも穏便に、適法に、ラクス・クラインをオーブから排除しようと考えたのである。

とはいえ、ラクス・クラインをおおっぴらに送還したのでは、国内のクライン派が何をしてかすか分からない上、
プラントとの関係を悪化させたくなかったために、デュランダルに意見を求めたのである。

それに対する返事が、ウィッツが運んできたデュランダルの親書、であった。
そしてその内容は、

色々ありましょうが、ラクス・クラインはそのままにしておいて欲しい

というものだった。

色々、という言葉とウィッツがプラントを出発した日がカガリ誘拐から数日後であったことから、
デュランダルの意思としては、カガリ誘拐犯のグループのメンバーであることも伏せておいて欲しい、という意味である。
これをオーブ政府としてどのように考えるか、それが先日行なわれた緊急閣議の議題であった。

結論としては、今回はプラントの意向を尊重しようということとなった。

理由としてはいくつか挙げられるが、主だったものは、
連合との同盟締結の白紙撤回を内部的には決定しているオーブがプラントとの関係を悪化させることは望ましくないこと、
内国のクライン派への牽制、
プラントに「恩」を売っておこうとするもの、であった。

その結果、犯人としてはフリーダムに乗った実行犯であり、
世界的にも前大戦の英雄として世界に知られているキラ・ヤマトが首謀者である、と発表することになった。

話を執務室のユウナに戻すと、ユウナは準備完了の知らせを受け、彼はそのテラスの外へと出てゆく。
オーブ国内のテレビでは一斉にユウナの姿が映し出され、人々は何が起こったのかとそれを一斉に見た。

そして、ユウナが口を開く。
「国民の皆様、私はユウナ・ロマ・セイランであります。
 本日は、先日の式典で発表できなかった重大な事項の発表を行なうべく、この場をお借りすることにしました。
 我々オーブはかつて連合の傘下へ入ることを拒否し、国を焼かれました。
 戦後、独立を取り戻した我が国ですが今、連合は再び我が国に手を貸すよう求めてきております。
 ですが、私は今こそ、ここに宣言する。
 他国を侵略しない、他国の侵略を許さない、というオーブの理念は絶対に曲げない。
 今度こそは我々はこのオーブを守り抜いてみせる。
 先日、フリーダム率いる卑劣なテロリストどもに連れ去られたアスハ代表のためにも、
 その命を以ってこの国を、理念を守ろうとなされたウズミ前代表のためにも、
 皆様の力をこの私に貸していただきたい!
 そして、皆さんにご報告があります。アスハ代表を拉致したグループの首謀者が判明致しました。
 それは、キラ・ヤマト、そしてかつての大戦の折、我が国に亡命してきたマリュー・ラミアス、
 そして、我が国にいつ入国したのかは不明ですが、ザフトの砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドの3名であります。
 彼らはいずれもかつての大戦でアークエンジェルに関わっていた人間であるようですが、
 今は、彼らが代表を拉致し、甚大な損害を我らに与えたテロリストであることは遺憾ながら間違いありません。
 よって私は決意いたしました。アスハ代表を連れ去ったテロリストに告ぐ!
 今、すぐにアスハ代表を解放して法の裁きを受けよ!
 貴様達のしていることはオーブへの侵略行為である。
 故にオーブは貴様達の蛮行を決して許さない!」
そして同時に、フリーダムがカガリを連れ去る映像と
ダブルエックスがフリーダムの腕を切り落とした映像が映し出されていた。

オーブの国内は一瞬、静まり返った。

今までユウナは、表舞台で声を大にして叫んだり、国民に訴えかけるような演説をする政治家ではなかった、と
非常に多くの国民は考えていたため、普段とのギャップに呆然としてしまっていたのである。
特にオーブへの侵略を許さない、という言葉の力強さは、突如として発生した嵐のようなものであった。

やがて国内の多くは歓声に包まれた。
国民とて、好きで同盟締結を望んでいた訳ではない。
同盟を望んだ国民も、それは安全が欲しかったからである。
かつて自国を滅ぼした連合との同盟など結ばないに越したことはない。

人間は人それぞれ異なる考え方を持っているのが普通であるが、基本的に、皆、身勝手なのである。
連合と手を結ぶことなく、しかもそれを実現する力が今のオーブにあるのであれば、それを主張する統治者は支持を受けることができる。
そして人々は知っているのである。
今のオーブにはダブルエックスという、フリーダムという剣をも上回る強さを誇る剣があることを。

これが、後にオーブの青き嵐と呼ばれるユウナ・ロマ・セイランが、
世界の前に大きく姿を現した最初の舞台であった。

一方、ユウナの演説をとある隠れ基地で聞いている者たちがいた。
カガリを誘拐したキラ・ヤマト一行である。

「だから言ったじゃないか!ユウナは連合と同盟を結んだりなんてしないと!」
白い軍服を身に纏い、金色の髪を震わせてカガリが声を張り上げる。

「だからって僕達をテロリストだなんて…それに侵略してるつもりなんてないのに」
「いきなり式典に乱入して国家元首を誘拐して、追手のMSや戦艦に大打撃を与えた人間のどこが
 テロリストに当たらないと言うんだ!?わかったなら今すぐ私をオーブへ帰せ」
「でも…」
「でもなんだ?他に言いたいことでもあるのか?」
「……じゃあなんで犯人の中にラクスがいないんだ!?それにプラントにいるあの…」

キラの視線の先には、コンサート会場でハツラツとして歌いながらその豊かな乳房を震わせるピンク色の髪の女性がいる。

「プラントにいるあの人は何?」

(明らかに見て偽者と分かるパチモノだろ)
そう思ったコーヒー中毒者がいたかは定かではないが、それに対してカガリが答えに窮しながらも答える。

「それは…偽者じゃないのか?」
「僕達はコーディネーターの特殊部隊に襲われた。あの人達が狙っていたのがラクスだ。
 そしてオーブの中にMSが侵入しても誰も気付かないなんておかしいじゃないか。
 それなら裏でセイランとプラントが手引きしたんじゃないの?」

(それ、この前僕が言った事そのまんまじゃないか)
キツネウドンの汁を飲み干しながらそう思った人間がいるかも定かではない。

「馬鹿なことを言うな!もしユウナ達がお前たちを殺そうと思えば殺せただろう!
 お前達が襲われた時点でダブルエックスの姿形を私ですら知らなかったんだぞ。
 それならダブルエックスでお前達をフリーダムごと殺すことだって簡単にできる。
 それに今のあいつは策略を巡らせることがあっても暗殺みたいな真似はしない」
「カガリは何でそんなにセイランを信じられるの!?僕達とセイランのどっちを信じるの?」
「じゃあ、私だけでも解放しろ。確かに少し前のユウナはあまり信用できなかったが、あいつは変わって来ている。
 然るべき態度をとればお前達の罪を軽くしてくれるかもしれんし、私からも頼んでやる」

「それはできませんわ」
そこに今まで沈黙を守っていた声の主が立ち上がった。
「どうしてだ!?」
「セイランはカガリさんがいない最中にあのような発表を行なって国を動かしています。
 そんな中にカガリさんを帰してしまってはどのような危険な目に貴女があるか分かりません。
 また今までのように貴女を飾りとして扱い、オーブを欲しいままにするでしょう。
 それに先ほどキラが申しましたように、私の名前だけがあそこで呼ばれなかったことの意義と、
 プラントにいる私とそっくりの姿をしている方…」
「そうだよ、オーブはカガリの国じゃないか!僕達はそれを守ろうとしているのに…」
「キラ、カガリさんも疲れておいででしょう、ですからゆっくりと休んでいただきましょう」
「私は元気そのものだ!お前たち離せ!離せと言っているだろう!やめろ!」

護衛部隊に、部屋の外にカガリが連行されるのを見届け、マリューが口を開く。
「でもこれからどうするの?いつまでもこのクライン派の隠れ基地に篭っていても仕方ないわ」
「はい。ファクトリーの皆様に新型の完成を急いでもらっていますが、エターナルの準備ができるまでまだ時間がかかるでしょう。
 今の私達には世界に訴えかけるための足が必要です。
 ですから、まずはアークエンジェルを奪還いたしましょう。あれはオーブの艦(ふね)です。
 お願いできますか、キラ?」
「もちろんだよ。新型が来る前に僕がなんとかしてみせるさ」

「ラクス、このまま、カガリを返して僕らはどこかで隠れ住むと言うわけにはいかないのか?」
この様子を見ていたバルトフェルドが手にしたコーヒーを飲み干して口をはさんだ。
「何を言ってるんですかバルトフェルドさん!?」
「よく考えてもみろ。今のオーブにはダブルエックスがあるし、
 カガリを返せば、ユウナ・ロマ・セイランが暴走してもカガリがそれを抑止できるかもしれん。
 とりたてて今のオーブに僕達が介入する必要がそんなにあるのか?」
「でも…じゃあ僕達を狙ってきたあのMSは…」
「それをセイランと結び付ける確たる根拠はない」
「でも…それでも僕達は・・・・・・・」

「今のオーブはセイランの思うがままになっているだけでなく、ダブルエックスという強大な力を持っています。
 元より連合との繋がりがあるセイランの統治を放って置いては、オーブがいつ連合と結び、
 世界を蹂躙するやもしれません。オーブは強い国です。ですからその力の使い方を誤らせてはならないのです」
「だからと言ってカガリをオーブに返さない理由にはならないだろう?」
「今までもカガリさんの影で実権を握っていたのはセイランです。
 今、そのような中にカガリさんを再び放り入れることはできません」
「そうか…」

バルトフェルドは諦めの顔を浮かべてブリッジを後にした。

「どうして僕はここにいるんだろうねぇ…」

カーペンタリアではアークエンジェルと牽引されてきたミネルバが点検と修理を受けていた。

「まさか、あの艦が我々の基地に入ってくることになろうとはな…」
「まったくですな。アラスカといいヤキンといい、我々にとっては大天使という名の悪魔でしかない」
「複雑なものだ、味方となれば頼もしいが、我が軍の最新鋭艦ミネルバが航行不能だからな…」
「例えるなら、天使の姿をした死神に女神が縛り上げられて連れてこられた、とでもいうべきしょうな」

基地の司令室では幹部達が口々に思いでを語りながらかつての大戦を思い出していた。

他方、アークエンジェルの艦長室ではタリア・グラディスの前に見覚えのある男がいた。
だが、その身に纏うのはザフトのエリートの証である赤服であり、その襟にはフェイスの紋章が輝いている。

「それで、議長はあなたをフェイスに戻して、私もフェイスに…一体何を考えているのかしらね…」
「それは分かりません、私は議長より、命令書と艦長への贈り物としてその紋章を持ってきただけですから。
 それより、アスハ代表の拉致というのはどういうことなのですか?」
「報道の通りよ。極秘に決定していた連合との同盟締結拒否を
 発表することになっていた式典にフリーダムとアークエンジェルが乱入。
 フリーダムはミネルバを大破させて逃走。残されたアークエンジェルを私達ザフトが接収して、
 あとはユウナ・ロマ・セイラン氏の演説の通り。まったく、何がどうなってるんだかこっちが聞きたいくらいよ」
「そんな…」

「こんなことを言いたくないけれど、彼らはあなたの仲間だったんでしょう?どうしてあんなことを…」
「きっと、連合との同盟を阻止しようとしていたんだと思います。
 自分達はウズミ氏が命を賭けてくれたおかげで燃え盛るオーブから脱出することができましたから…」
「だからと言ってMSまで持ち出すのは常軌を逸してるわ。
 それにどうしてユニウス条約に抵触するフリーダムを彼らが保有しているの?
 …ってあなたに聞いても仕方ないわね。ごめんなさい」
「いえ・・・私が彼らと共に戦っていたことは事実ですから…」

「それと…下手にフリーダムやオーブを擁護するようなことは言わないでね。
 うちの『暴れん坊』がまた騒ぎを起こさないとも限らないわ」
「暴れん坊?・・・・・・もしかしてインパルスの?」
「ええ。普段は少し柄が悪いだけで、そんなに悪い子じゃないんだけども・・・」
「はぁ、でもそれでどうしてフリーダムが?」
「これはアカデミーの人間から聞いた話なんだけれども、
オーブにいた彼の家族が連合によるオーブ解放作戦の時に亡くなったことは聞いてるわよね?
 どうやら、彼の家族は避難中に、上空から飛んできた攻撃で家族が亡くなられたらしいわ。
 そして、その時に上空を飛んでいたのが、フリーダムだったそうよ」
「・・・・・・・」
アスランは何も言うことはできなかった。
父を、祖国を、ザフトを裏切って、オーブ防衛に参加しても、守りきることはできなかった彼としては当然と言えよう。

「ジャスティスとフリーダムがヤキンで大暴れしたというのは有名な話だから貴方も注意してね。
 貴方とシンはMSのパイロットなんですから、不仲になってそれを戦場で持ち込まれたら迷惑どころじゃないわ。
 なんだか注文つけるか嫌味ばかりで悪いけれど、頼んだわよ」
「はい…」

「んで、俺達はこれからどうすんだって?」
ヴィーノ、ヨウラン、レイと食堂でドリンクを飲みながらシンが誰となく尋ねる。

「地中海を抜けて…」
「それより、聞いたかよ、あのアスラン・ザラが戻ってきたらしいぜ。しかもアークエンジェルのパイロットに配属だってよ」
ヴィーノが仕入れてきたばっかりの情報を自慢げに披露する。

「アスランって、アスハといた?」
シンの顔がやや強張る。
「そうよ。ほら私が言った通りだったでしょ、アスハ代表といるのがアスラン・ザラだって」
その場にルナマリアが現れる。

アスランとカガリがミネルバに乗っていたとき、アレックスと名乗っていたアスランを、
カガリがうっかりアスランと呼んでしまったのを聞いていたのがルナマリアだったのである。

「しかもフェイスよ、フェイス。凄いわよね~憧れちゃうわ」
「なんだ、お前、あんな髪が薄い奴が好みなのか?」
「少なくともあんたみたいなお子ちゃまよりはマシでしょうね~」
そう言ってルナマリアは足軽に食堂を去っていった。
「ったく、何しに来たんだ、あいつは…」
シンが呟く。するとそこにレイが口を挟んだ。

「気にするな。アスラン・ザラがアカデミーを主席で卒業したエリートであり、その実力が相当なものであることは事実だ。
 それはユニウスセブンでアスラン達の戦いを見たお前もよく知っているだろう。
 そして女とはエリートという言葉に惹かれる性質を大なり小なりは持っている。
 人格は大切だが、ファーストインプレッションはどうしても形式的なものがモノを言う」
「ふーん、そういうもんかねぇ」

シンとしてはルナマリアの恋愛には興味がなかったが、
アークエンジェルにやってきた人間が「アスラン・ザラ」であることに強い不快感を覚えていた。
自分の家族を殺したフリーダムと戦った男、アスラン・ザラ。
彼は自分の家族の仇である人物のことをよく知っている人間であり、
さらには、「奇麗事」と評したようなことを言っているカガリ・ユラ・アスハと一緒にいたのである。
フリーダムとアスハ、シンにとってはいくら憎んでもお釣りが来るようなものと密接な関係にあるアスランを
よく思わなかったとしても仕方がなかったのかもしれない。

「それよりお前がそんなに長い台詞を喋ったのが初めてな気がするのは俺だけか?」
ヨウランが横からツッコミを入れる。
「気にするな。たまにはそういうこともある」
(たまにはいつもとキャラを変えてみてもいいではないか)
そんなことをレイが思ったのを回りは知る由もなかったが。

アスランが新たな愛機セイバーの調整をすべく、格納庫内を歩いていると、後ろから、誰かが駆け寄ってきた。
ガロードである。

「あんた…アレックスさんだよな、カガリさんと一緒にいた」

自分がオーブで、カガリの随行をしていたことをどうして知っているのか、アスランに緊張が走る。
「どうしてそれを?それに君は?」
「あーそういや話す機会がなかったもんな。ガロード・ラン、って言えば分かってくれるかい?」
「!?ダブルエックスの…」
「みんな二言目にはそれだなぁ。まあいいや。そういうことなんでよろしく。
 でもなんでオーブにいたあんたがザフトにいるんだ?」
「俺は元々ザフトにいたんだ。それよりどうしてダブルエックスのパイロットがアークエンジェルに?
 まさかダブルエックスがここに?」
「俺達は元々フリーのMS乗りだからな。今は俺個人がザフトに雇われてるだけさ。
 ダブルエックスは仲間がオーブで使ってるよ」

ガロードのあっけない答えにアスランは拍子抜けする。
とはいえ、世界に配信されている、フリーダムの腕を切り裂く映像。
自分でもそれを行なうのは難しいのに、それほどの腕をもった人物が目の前にいる。
とてもそんな人物には見えないというのがアスランの感想であった。
ただ、アスランにとっての主要な関心事は、ダブルエックスという強大な力を持つ彼らが、
セイラン家とどのようなつながりを持っているのか、ということである。
何せ、カガリと共に行動してそれなりの機密情報をも知っていた彼も、
セイラン家が、ユニウスセブンを吹き飛ばすほどの威力を持った兵器を隠し持っていたとは夢にも思っていなかったからである。

「そうか…ところで、君達はセイラン家で世話になっていたらしいが、彼らはその…どうだった?
 こう、接触していてどんな人物だと思ったか教えてくれないか」
「どんな、ねぇ。最初は胡散臭さがプンプンしてたな。何か腹に一物も二物も隠してる感じで。
 だけど、話をしているうちに、あの人達もオーブのことが大切なんだな、って感じたぜ。
 もし、間違った道を選んだと思ったら背中からサテライトキャノンぶちかましてくれって言ってたし、
 悪い人じゃないし、ちょっと違うかもしんねーけど信用できる人だと思ってる」

セイランが信用できる?アスランにとっては信じられない言葉が出てくる。
しかも、さっきは気付かなかったがガロードは、「フリー」のMS乗りと言っていた。
そしてその仲間が今はダブルエックスを使っている。
つまり、ダブルエックスは傭兵である彼ら個人のモノということなのだろうか。

「じゃあダブルエックスはセイラン家のモノではないのか?」
「ああ。ダブルエックスは俺の機体だ。今はGXを使ってるけどな」

アスランにとってはわからないことばかりだ。
ユニウスセブンを吹き飛ばすとんでもない威力を誇るサテライトキャノンを持つダブルエックス、
親友であるキラ・ヤマトと互角以上に戦うことが出来るパイロットであるガロード・ラン、
そしてダブルエックスはガロード・ラン個人の持つ機体であるという事実。
確実に彼の頭皮は大きなダメージを受けていた。

数日後、アークエンジェルはカーペンタリアを出発し、まずは地中海を抜けるべく、マハムール基地を目指すこととなった。
だが、洋上を雄大に進む大天使の姿を見つめる男がいることに彼らはまだ気付いていなかった。
ファントムペイン旗艦JPジョーンズの艦長席に仮面を被った男がいた。
「ようやく出会えたぜ、大天使様?」