X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第11話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:06:03

機動新世紀ガンダムXSEED        第十一話「その時の為に私がいます。」

ガロードがブリッジに行くと、ティファがしゅんとした顔で、ナタルが憤懣やる方無いという顔で、そして、マリューが複雑そうな顔でお互いに向き合っていた。
話を聞くと、確かにアークエンジェルが離脱したポイントに実際にジンが三十分程後にやってきたと言うのである。
まあ、その時には相手方より距離にして半径1500余りは離れていたから、流石にこちらの事を察知されると言う事はなかったそうだが。
ナタルが一番の問題としている事はやはり、勝手にブリッジに入ってきて、更に勝手にCICの通信機を使って作業を強制的に終了させた事だ。
また、無駄な交戦を避けられたと言う周りのブリッジクルーの言葉を「そういう問題ではない !! 」と一喝しもする。
「おまけに ! ブリッジに通じるエレベーターのコードが分かった理由は何だ ?! 言っておくが、私はお前達を完全に信用しているかどうかは言うに及ばず、信用した訳ではないからな !! 」
その言葉にマリューは猛然と反発する。
「バジルール副長 ! 信用に関しての問題は尋問の時に既に決着済みです ! 確かに幾つかの軍務規定を無視したかのような行動を彼女がしたのは事実ですが…… !! 」
「したかのような、ではなくてしたのです !! 彼女は ! 」
軍人の家に生まれ、規定等に従う事が第一であると常々教えられた彼女にとっては、アルテミスの一件以来度々ブリッジにやって来るティファをどうしても信用する事が出来なかった。
一瞬言葉に詰まるマリューだったが、徐々に声のトーンを大きくする様に反論する。
「確かに一連の行動はこちらとしても問題にならざるを得ないけど……彼女がいなかったら、作業をしていたメンバーがどうなっていたかある程度想像できるわ。それを彼女は未然に防いだ。
おまけに、あなたも十日前にこの子が尋問を受けた時に居たでしょう ? この子が自分から傭兵になるっていう事を聞いた筈よ。一般人よりは多少のリークがあっても不思議ではないわ。」
「ですが…… ! 」
収まりの着かない言い争いをガロードが何とか宥める。
「まあまあ。艦長さん落ち着いてくれよ。副長さんもさあ。信用がどうのこうのって所はちょっとこちんときたけど、結果オーライなんじゃね ?
誰も怪我したわけじゃねえし、船がどっかやられたって訳でもないし。」
そのガロードをマリューはやれやれといった感じの薄く両口端を上げた表情で見るが、ナタルはギロリと睨んでくる。

そこに助け舟を出したのが、後ろで聞いていたムウだった。
「ともかく、こっから先は艦長さんの判断だろ ? それで、結局どうすんの ? 」
ティファは不安そうにガロードの方を見つめる。
それを「心配すんなって」とでも言うような表情で応えるガロード。
やがて、マリューから一つの結論が口に出された。
「今回の件に関しては不問に付します。
但し、ティファさん。この次からは私に通信を取り次いでから行動を起こして下さい。良いですね ? 」
「はい…… ! 」
温情による判断が下った。
ガロードは人目も憚らず、「よっしゃあ ! 」と言ってガッツポーズをする。
ナタルは憮然とした表情をしたまま、下部にある自分の席に座った。
ある意味でティファの力がブリッジクルーだけにとは言え、認められた瞬間だった。
ガロード達がブリッジを出た後にナタルはマリューに質問した。
「艦長は信用なされるのですか ? その……彼等は否定しましたが、ニュータイプという力を。」
それに関してマリューは深く一息吐いて答える。
「今回の一件があるまでは私もあなたと同じだったわ。でも、あそこまでその……見せ付けられると、反論できないわね。
敵のスパイなんじゃないかと言ってしまえばそれまでだけど、そうだとしたら今までの行動には明らかに矛盾点が出るもの。
その辺を含めて今回の判断を下しもしたし、あの子の力を信じてみようと思ったの。」
一応の答えは聞いた。だが、ナタルにはどうしても腑に落ちない。
そのまま自分の仕事に戻る事にした。

その日の昼頃、食堂ではキラの友人達の自己紹介が始まっていた。
「じゃあ紹介するね。僕の名前はキラ。キラ・ヤマト。ってもう知っているよね。」
「俺の名前はサイ・アーガイル。よろしく。」
「俺、トール・ケーニヒ。一緒に頑張ろうな。」
「僕はカズイ・バズカーク。よろしく。」
「私はミリアリア・ハウ。CICじゃもう会ったよね ! 改めてよろしくね ! 」
「私はフレイ・アルスター。よろしく。」
キラの友人達から一通りの自己紹介があったので自分達も自己紹介をする。
「俺はガロード・ラン。呼ぶ時はガロードで良いぜ ! 」
「ティファ・アディールです。これから色々とよろしくお願いします。」
和やかな雰囲気でお互いがそれぞれ握手する。
「ねえ、二人って何処の出身なの ? 」
「えっと、大西洋連邦ってトコ。」
ミリアリアの質問にガロードが艦長達から言われた、返答の仕方に関してのマニュアルを思い出す。
艦長達が言うには、異世界から来たなどという事を誤解しかねない事を気安く喋る訳にいかないとの事だ。
その点は二人とも納得していたが、自分達が嘘を言うのは性格上些か気が引けた。
「それじゃあさ、ヘリオポリスに居たのは何で ? 」
「それは、ちょっと旅行みたいな感じで、かな ? 」
サイの質問にガロードはちょっと苦しいかなという感じで答える。
あの尋問の時にカレッジに編入する予定だったというのは ? という案がクルーの中から出た。
が、この世界での知識をロクに持っていない二人にそれはちょっと……というのが大半だった為、無難に旅行で来たという事になった。
「よくザフト兵と一緒に居て無事だったなあ ! って言うかどうやって ? 」
「へへっ、上手くやったんだよ。っても、結構ドキドキしたけどな ! 」
そればかりは事実だから、気兼ね無く話せる。
そこまで言うとガロードはラスティの事がちらと思い起こされた。
あいつ、大丈夫なのかな ? と。
他愛も無いそれは何事も終わるかと思われた。
が、その時、またもティファは何かを望まずして察知してしまう。
幻の様にはっきりとせず、薄ぼんやりとしたそれは全員に深く絡み付いている様に何かが存在している。
「ティファ ? どうかしたのか ? 」
ガロードがティファの変化に気付いて声をかける。
「ううん、何でもないの。ちょっと、疲れただけだから……心配してくれて有り難う。」
「ホントか ? あまり無理しないでくれよ ? 」
「うん。無理はしないわ。……ガロードに心配させたくないから……」
そう言ってティファは顔を少し赤らめる。
その様子を見ていたヘリオポリス組みから華やいだ嬌声が上がる。
その声の意味するところを知ったガロードは真っ赤になって反論する。
「そ、そんなんじゃねぇ~ ! 俺はなあ……」
喚きかけるガロードに後ろから声がかかった。

「よお、坊主 ! ここに居たか !! ちと話したい事が色々あるから、ハンガーまで来てくれねえかな ? 」
マードックが食堂のドアを開けて、ガロードに話しかける。
「整備のおっさん ! どうかしたのか ? 」
「例のジンの改造についてなんだけどよ、ちょっといいか ? 」
ガロードはヘリオポリス組の方を見る。
色々と話したい事はまだまだあったが、まだ時間はあるのだからそこまで急ぐ事でもないかと思って、オッケーサインを出す。
「あ、それとそっちの坊主も一緒に来てくれないか ? 」
と言ってキラの方を向く。
「えっ ? 僕もですか ? 」
「ああ、こっちの坊主の為にジンのOSの書き換えを、ちっとばかし手伝ってもらえないかと思ってな。」
キラは少し考える。
だが、マードックは自分の事を好意的に見ている。
自分の能力の事を、ヘリオポリスにいた時にお世話になったカトウ教授と同じ様に、一個人の個性として見てくれているのは、有り難かったが。
手伝わないと言う理由は特に見当たらなかった。
「分かりました。ガロードと一緒に直ぐに行きます。」
「よし、じゃあ頼んだぜ。」
マードックはその場を後にする。
ガロードがキラを誘って直ぐに向かおうとする。
そこにティファがついて行く。
その直後、フレイが小声で呟いた。
「ジンって、今医務室に居るザフトの兵隊が乗ってたやつでしょ ? 」
「そうだけど、どうかしたのかよ ? 」
ガロードがなんて事は無いようにフレイに聞き返す。
しかし、次の瞬間彼女が発した言葉はそこに居た全員が耳を疑う様な物だった。
「何でヘリオポリスに置いて来なかったの ? 」

「何でって……見捨てられねえだろ。まあ……ティファが助けたいってのもあったし、俺MSの事さっぱりだからって事もあったけど……」
その時、ティファがすっとフレイの前に立つ。
「な、何 ? 」
「恐れないで。自分が恐れていたら相手もあなたに近づこうとはしなくなってしまいます。優しく相手に手を差し伸べる事がお互いを理解する始めの一歩だと思います。」
「ちょっ……それじゃ、相手がその手を振り払って自分にナイフを向けようとしたらどうするの ? 」
「ナイフを向けられたら、銃を向けられるよりまだ話し合う余地はあると思います。」
「それじゃ、その銃を向けられたらどうするの ? 問答無用で撃たれちゃうのよ ! 」
「銃で撃たれても、自分が『あなたに敵意は無い』と、伝えられます。それに、自分の意思を継ぐ人がその人の前に立つ事が出来るでしょう。」
「じゃあ……じゃあ……撃たれて死んじゃったらどうするのよっ ! 」
「……死ぬ事は悲しいです。確かにその死を悲しむ人もいるでしょう。でも、その人の意志が無視されてしまう事より、一度接触して嫌われるよりもっと悲しい事です。
一人ひとりが手を差し伸べる意志を持てば大きな力となると私は思っています。彼も一人の人です。私達と同じです……」
フレイの言い方は最早最後は喚き散らしに近かったが、ティファはそれを極力やんわりと応対した。
言葉に詰まって困惑した顔になったフレイに、ティファは優しい顔を向けて言う。
「安心してください。あなたは、本当は優しい思いを持っている人……素直になれたらそれが出ます。ですから、死んで良いなんて考えないで下さい。」
言われてフレイは表情をすっきり晴らす事はなかったが、幾分先程より優しい口調で「分かったわ。」と答えた。
それを聞き遂げたティファはガロードの側に寄り添い、ヘリオポリス組の囃し立てに送られてハンガーへと向かった。

「これがあのプロトジンなのかよ ? 」
「もうこんなに武装してりゃあ、プロトなんて名前はお飾りだなあ。ジンなんとかカスタムって言った方が早いぞ。」
目の前に立つ冴えた青と純白の白のツートーンでカラーリングのされたジンを前にガロードは惚れ惚れとする。
コクピット内部は複座式にきちんとなっているし、ガロードが座る位置には色々な説明が箇条書きになってメモの様にあちこち貼られていた。
メインカメラレールの辺りのガードも取れてかなり見やすい視界となっている。
武装にしても、デブリベルトで必死に作業した時の成果が出ていた。
標準装備のMMI-M8A3 76mm重突撃機銃とMA-M3 重斬刀は勿論の事、足の部分にM68 パルデュス3連装短距離誘導弾発射筒、更に左手にはM69 バルルス改特火重粒子砲が備え付けられている。
但し、重粒子砲はガロードにとってかなり使い回しの悪い武器といえる。
相手が実体弾を無効にするフェイズシフト装甲を持っていると聞いた時、説明に小一時間程かかって、貴重な武器だという事は理解できたが、それでも素直にうなずけない面がある。
装弾数が少ない、エネルギー摂取は外部カートリッジから、汎用的である訳でもないのが正にそうだった。
それに関して愚痴っていると、ティファがガロードの側にやって来て悩みを解消させるように言った。
「大丈夫。その時の為に私がいます。」
「ティファ……」
「この世界で……ガロードにまた……力を……」
それを聞いてガロードは心の中に強い力を感じた。
自分は今傭兵という立場だが、本当の望みはティファと平和に何処かで静かに暮らす事。
その為には何でもやらなくてはと息巻いていた。
その様子を見ていたキラが話しかけてくる。
「整備終わったの ? 」
「ああ、まあな。ところで何か浮かない顔してっけど、どうしたんだよ ? 」
キラは言葉に詰まる。
言った方がいいだろうか、それとも言わない方が……
「友達がいるんですね……相手の船に。」
「「ええっ ?!!! 」」
その言葉に二人は驚くが、驚く理由が違っている。
ガロードはキラの友人がザフトの船に乗っている事に関して、キラはそれをなぜティファが分かったのかという事だった。
その二人の表情をものともせず、ティファはキラに向かって優しくアドバイスらしき事を言った。
「あなたが抱えている問題は、あなた自身がどうしたいか考えて動けば解決すると思います。
その心をしっかり持っていれば悲しい明日は避ける事が出来ると私は信じています。」
「君は……一体 ? 」
「御免なさい、今はこれ以上は……失礼します。ガロード……部屋で先に待ってるから……」
「おう、直ぐ行くぜ ! 」
ティファはそう言うと一礼して、その場を去る。
ガロードは何事も無かったかのように、さあ仕事仕事、と言いながら自分のジンの方に戻っていった。
しかし、キラは相変わらずその場に立ちつくし、ティファが去っていった方を見ていた。
自分を待ち受けている悲しい明日というのはどういう事なのか懸命に考えながら。