X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第16話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:07:04

機動新世紀ガンダムXSEED       第十六話「生きて帰ってきた事が何よりよ。」

ローラシア級戦艦、ガモフ、ツィーグラー、マルピーギからそれぞれ三機ずつジンが発進し、ガモフからは更にデュエル、バスター、ブリッツが出る。
その様子をモニターで確認していたガロードにムウから通信が入る。
「ガロード、俺とお前でジンの相手をしつつ艦を守る。キラはXナンバーの相手になる。それで良いな ?! 」
「俺と兄ちゃんだけでジンの相手すんのかよ ?! おまけにキラ一人で三機の相手って……またヘビーな作戦だな !! 」
「イージスを動かせる奴が、こっちの陣営にいない以上仕方ないだろ !
おまけにフェイズシフト装甲持ってるあいつらを俺達が迎え撃とうとしても、無駄弾撃つ事になるだけだ ! 」
それには流石に反論できなかった。
何しろこちらはジン改のお荷物的な重粒子砲以外ビーム兵器が無い。
その時、ガロードの頭にそれに対する以外に簡単な解決方法が浮かんできた。
なんて事は無い。自分がこのジンにやった事と同じ事をこの戦場ですればいいのだ。
但し、その為にはかなり高度な操縦技術と戦闘テクニックが必要となる。
一か八かに賭けるも同じだが、素直に相手機に付き合っていれば、隙を見たザフト軍が母艦を潰しにかかるだろう。
遂にガロードは得る物大きい方に賭ける事にする。
「兄ちゃん !! 二分、いや一分で良い。全部のジン、相手してくれ !! 」
「な、何ぃっ ?! 」
ムウはコンマ一秒機体のコントロールを失ってしまう。
確かに自分は過去にグリマルディ戦線でジン五機を屠った事がある。
だがそれは、全体を通しての時の事であって、今ガロードが言った様にいっぺんに相手をした訳ではない。
それもその時より確実に多い敵機を。
何か策でもあると言うのだろうか ?
「何考えてるかは知らねえけど、そんな事出来る訳ねえだろぉっ !! 」
「その無理を承知で頼んでんだよ !! 頼む ! 時間がねえんだ !! 」
ムウは怪訝な表情になる。
が、少し考えて通信機に返答を送る。
「一分 ! 一分でこっちに戻って来い !! 良いなっ ?! 」
「オッケー ! サンキュー、兄ちゃん ! 」
そう言ってジン改はまっしぐらにXナンバーの方向に向かう。
ムウは彼が何をやらかそうとしているのか皆目検討つかなかったが、それでも賭けてみることにした。
先遣隊を守りきり、イージスを奪還したあの少年に。

「どれにしよっかな~ ? ……うし ! あれにすっか ! 」
ガロードは混戦模様のXナンバーの中から、こちらに向かっているデュエルに狙いを定める。
ブリッツは姿が見えないし、バスターはランチャー装備のストライクと距離を取りながら戦っている。
彼が導き出したこの戦況の解決方法。
それは、相手機からビーム兵器を奪う事だった。
そうすればビーム兵器に対してあまり対策の為されていないジンや、敵艦に損害を与えられると踏んだのだ。
先ずジン改は挨拶代わりにとライフルを放つ。
勿論相手はフェイズシフト装甲を持っているので効くわけが無い。
その方向を向いたデュエルはイーゲルシュテルンで応戦する。
それに対しジン改は射線が半ば分かっているかの様に、当たりそうになる直前、最小限の動きでそれを避ける。
効き目が無いと判断したデュエルは射撃を止め、ビームサーベルを抜いてジン改に接近戦を挑んで来た。
振り下ろされるそれの動きをガロードは必死になって見切る。
それでもそれには限界があって、僅かに触れたジン改の一部が損傷を受ける。
だがその内、ふと気付いた事があった。それは結構その動きが直線的だという事。
その事に関しては敵機の操縦者には悪いが見切るのに申し分ない。
とは言え、時間を無駄にしていればジンの相手をしているゼロの方が危なくなってしまう。
次の瞬間、デュエルが逆さ袈裟切りにしようとしているのが、動線で分かった。
「待ってたぜ、接近戦の瞬間 !! 伊達に毎日毎日睡眠時間削ってシミュレーターやってねえんだぞ !! 」
ガロードはコクピットでそう叫ぶ。
ジン改はタイミングを計って懐に重粒子砲の照準を定める。
その直後にバーニアをフルに吹かしてデュエルに急速接近し、ビームサーベルが振り下ろされる直前に懐をほぼゼロ距離で射撃する。
その攻撃にさすがのフェイズシフト装甲も用を成さず、デュエルは両足を爆発させて後方に大きく吹き飛ぶ。
しかし、ガロードの狙いはこれではない。
そのデュエルに再度バーニアを吹かして急接近する。
寄せ付けはしないとばかりにイーゲルシュテルンが放たれ、ジン改も避けはするもののあちこち被弾する。
だが、ガロードはそれに構っている事は出来ない。
約束した一分まで後十秒を切っていた。
「もうちょい……あと、もうちょいで……」
デュエルの状態に気付いたブリッツが死角から急速接近する。
そして、ブリッツがデュエルの右手を掴んで、抱える様に離脱しようとした瞬間、ジン改はデュエルの目の前に漂っていた57mm高エネルギービームライフルを掠め取った。
そこまでは良かった。
突然止まる事等出来ないジン改は姿勢を変えたものの、二機を繋いでいる腕に思いっきり衝突する。
そしてその衝突がきっかけになったのか、デュエルはそれきり沈黙した。
強烈な衝撃にガロードは頭をくらくらさせられるが、頭を自分の手でヘルメット越しに叩き、意識をはっきりさせ直してからゼロが奮戦している方向に全速力で向かう。
そこにブリッツの追撃の手がかかった。

ジン改に衝突されたブリッツのパイロット、ニコルもあまりの衝撃の大きさに吐き気を覚えるほどだった。
だが、それ以上に気になったのは相手の戦い方だった。
戦場で相手の武装を奪取しながら戦うなぞアカデミーでは教わらないし、自分自身やってみようと思った事はおろか、考えつきもしない。
それは、もし戦場に誰かが取り落とした武器が転がっていなかったらどうするのか、と訊かれたら答えに詰まってしまう場当たり的な戦法だからだ。
あんなのは出鱈目だと、つい自分達の杓子定規で思ってしまう。
「これがこの状況における正攻法だ」と教えられ反復練習するのが自分のいたアカデミーの教え故に、ジン改の戦法は余計奇妙に映る。
だがそんな事に気を取られている場合ではない。
先ず3連装超高速運動体貫徹弾 ランサーダートを構え、時間差をかけて三本の杭が放つ。
後ろから撃たれたのではまず避けようが無いとニコルは確信しきっていた。
だが、次の瞬間信じられない事が起こる。
放たれた三本の杭をジン改はまるで後ろに目があるかの如く、機敏な動きで避けたのだ。
それならばと、ミラージュコロイドを展開し、50mm高エネルギーレーザーライフルを構える。
威力は少ないが、レーザー波なら宇宙空間では不可視だ。
隠密接近して闇討ちをかけるなら避けられはしないと思い、数発角度を違えて撃ってみる。
だが、またしてもジン改は射線上から大きく動き、レーザー波は空を切っていく。
あんまりにも異常な現象が次々と起こった為に、ニコルはその場で動きを止めてしまう。
だが、それが不味かった。
次の瞬間にジン改はくるりとこちらを向いて、デュエルから奪ったビームライフルを数発撃ってきたのだ。
それは間違いなく自分のいる所。
そして、ミラージュコロイドを展開中ではビームは勿論、実弾兵器も無効化することは出来ない。
ジン改が機体を反転した時点でニコルは慌ててミラージュコロイドを切ろうとしたが、そうなる前にビームがブリッツの両肩の付け根を撃ち抜く。
姿を現したブリッツは両腕を失った状態で呆然とそこに静止してしまう。
ブリッツに戦闘能力が無くなったのを確認した様に、ジン改は身を翻し九機のジンを相手にしているゼロの方へ向かっていった。
自分の攻撃が全部読まれている…… ?
ニコルは、えもいわれぬ不快感を覚えた。

「バリアント、ゴットフリート一番、二番照準 ! てェーッ !! 」
「敵ローラシア級を撃つ ! ローエングリン一番、二番発射準備 !! 」
アークエンジェルのブリッジでは怒号の様な号令が飛び交い、サイとミリアリアが向かっているモニターには次々と変わっていく戦局の様子が映し出されている。
そんな中、戦闘をモニタリングしていたマリューは、表情には出さなかったが非常な驚きをもって戦闘の様子を見ていた。
ほんの数分前までブリッジの中はかなり絶望的な雰囲気だった。
敵がこちらを潰す為にMSを合計十二機、戦艦三隻を向けてきたのだから。
だが、ジン改が敵のデュエルからビームライフルを奪った時、彼女はその戦法に驚いたのと同時に、図らずも一つの光明を見出したと思ってしまう。
敵の武装を奪い、自分の物の様に使って難局を乗り切る。
改めて、ジン改に乗っているガロードという少年が持つサバイバル性の高さを知らされる。
自分で考え、工夫して対処法を見つけ、それを発展させて独自の戦法を編み出す。
自分の上官でも、そんな事を実際に現場でやれと言われても、そうそう出来る者はいないだろう。いやいた方が余計おかしい。
そう思っていると、急に艦が大きな揺れに襲われる。
「どうした ?! 」
「CIWS被弾 ! その他に艦底部にも被弾が ! 」
悲鳴の様な声でミリアリアが報告する。
モニターを確認すると、ゼロのガンバレルを逃れたバズーカを構えたジンが一機取り付こうとしていた。
「取り付かせるな ! 残っているCIWSを迎撃に ! 」
ナタルが必死になってミリアリアに向かって答える。
更にバーナード、ローにも同型のジンが一機ずつ向かって行く。
最早一片の予断も許さない状況に戦局は変貌しつつあった。

いつまでかかってるんだ……っ ?!
ムウは機体の中でイライラしながらジンの相手をする。
ガロードと約束した一分はとうに過ぎ、彼が戻ってくるまでのいつまでとも知れない時間が何十倍、何百倍にも長く感じられる。
ジンは九機の内、五機がムウの相手をし、残りの四機が一機ずつアークエンジェルと護衛艦の迎撃に向かっていた。
既にバーナードはジンに取り付かれて直ぐに主砲を潰されてからかなり経っていて、ローに至っては誘爆を避けるために迎撃を受けた機関部を切り離し、戦線から脱落していく。
焦ってはいけないと思いつつも、機体を動かす腕は思わずその意に反した動きをしてしまう。
そして、ガンバレルの一つが撃ち落された。
これまでかっ…… ?!
そんな時だった。ジン改が猛スピードで駆けつけてきた。
「おまたせっ !! 」
『遅いんだよ、バカヤロウッ !!! 一分どころか、じき三分経つトコじゃねえか !! 何やってたんだ ?!! 』
通信機からムウが怒鳴りつける。
既にゼロの機体には大小の傷が付き、ガンバレルも残り一つしかない。
対して相手のジンは大半が損傷を受けているが、撃墜された機体は二機程しか見当たらない。
「すまねぇ、手間取っちまって !! でもこいつで全部確実に撃ち落とすっ !!! 」
そう言ってジン改がゼロに見せ付ける様にデュエルのビームライフルを掲げる。
『おいおい、デュエルから奪ってきたって言うのかよ ??! 』
ムウは驚きの声をあげる。
しかし、使えるのだろうか ?
Xナンバーのライフルは本体のバッテリーにコネクタを通して直結だったはずで、撃てたとしても直ぐバッテリー切れする代物だが。
だがそんなを事実を知らないガロードは極めて明るく答える。
「まあね。……さっきはありがとな、ティファ。あの黒い奴から逃げる時に力を……」
「そ、そんな……」
ティファは消え入りそうな声で答える。
そこに再びゼロから怒鳴り声が聞こえてくる。
『こんな所で見せ付けてる場合か !! それがあるんならこっちを手伝ってくれ !!! 』
「わあったよ ! 今行く ! ……よおしティファ、あと一息だ !! 頑張ろうぜっ !!! 」
「うんっ !! 」
ジン改は、先ずゼロを取り巻いているジンを一機ずつ迎撃していく。
それは相手機にビームライフルの先が吸い付いている様な正確な射撃だった。
あたかも磁石と鉄の関係の如く……
ガロードの辞書には外すと言う言葉が無いかの様に。
エンデュミオンの鷹と呼ばれるムウもしばし唖然としてその様子を見ていた。
が、直ぐに気を取り直し、残ったガンバレルで更に二機を撃墜する。
一機ずつに向かって狙いを定める時間は長いものの、コクピットへの確実な一撃で三機を撃墜したジン改は次にアークエンジェルの方に向かう。
そこでは一機のジンが至近距離からライフルを連射していた。
アークエンジェルは必死に応戦するが、機動兵器が離れてしまっている為に思う様に一撃を加えられない。
やがて外装の一部から火を噴き始める。
決定打を加えるべく、ジンが後部機関部に回りこんでライフルを構えるが、その瞬間にジンは爆散した。
間一髪でジン改のコクピットへの一撃が間に合ったのである。
だが一息吐いている暇は無い。
機関をやられたローの方に行かなくては……
その時、別の方向をちらと見ると、バスターが右手でデュエルの左腕を、左手でブリッツの左肩の方から出た幾つかの配線を握って撤退していた。
そして、ストライクがこちらの事情に気づいたのか、モントゴメリの方へ向かう。
ところが、その時目を見張る出来事が起きる。
それまでは装備のせいか割合緩慢だったストライクの動きが、目が覚める様に速くなったのである。
イーゲルシュテルンで牽制し、間を取りながら相手をモントゴメリから引き離したところで120mm対艦バルカン砲を撃ち、戦闘不能にさせる。
更にガロードが向かおうとしていたローに取り付いていたジンに向け、ローが射程に被らない様に320mm超高インパルス砲 アグニを叩き込んだ。
その働き振りにゼロもジン改も動きが止まってしまう。
運動性も反応速度もかなり変わっているからだ。
まるで中のパイロット、キラの人格がいきなり豹変したかのように。
一体キラに何が起こったのか……

その時、敵母艦が転進を始めた。
ジンを九機、連合から奪ったXナンバーを三機も投入してこの結果なのだから転進しない方がおかしい。
と、同時にアグニを構えたままのストライクがその母艦へ向かって急発進する。
ガロードはその行動を深追いだと思い、ストライクに通信を入れる。
「キラ、おいキラ ! 聞こえるか ?! どうしたんだよっ、敵は撤退し始めてるのに ! キラッ !! 」
何の返答も無い。ノイズの混じる無機質な音しか聞こえてこなかった。
ガロードは急いで今度は艦長に向けて通信を入れる。
「艦長さんか ?! 」
『ガロード君 ?! キラ君はどうしたの ?! 』
通信が開いて真っ先にキラの事を訊くあたり、マリューもキラの様子がおかしい事に気づいていた様だ。
「どうもこうも、あいつ一人だけで敵さんの母艦叩こうとしてやがる !! 相手が転進してんのにだぜ ! これってさ、はっきり言って『深追い』だろ ?! 」
「ええ……そうね。月艦隊が敵を射程に入れるまであと一分も無いし……既にジンは全機撃墜が確認されているし、Xナンバーもバスターを除いて全て中破の状態……こちらから彼を呼び戻します。
混線を防ぐ為にそちらの回線は切っていて !! 」
「りょーかいっ !! 」
だがガロードが返事をした瞬間、敵艦のある方向がパッと明るくなる。
ストライクがアグニをローラシア級戦艦の後部機関部に撃ち込んで爆散させたのだ。
Xナンバーの機体を間の距離に挟んでのかなり正確な攻撃。
更に次の獲物を見つけたかの如く、ストライクは進路とアグニの照準を変える。
その位置から躊躇いも無く放たれた次の一射は同型艦の同じ部分を貫き屠った。
その瞬間、アグニの連射の為かストライクのフェイズシフトが落ちる。
今Xナンバーの機体がストライクの方に転進して攻撃をしだしたらストライクに攻撃を防ぐ術は無い。
「キラ君 ! 今すぐアークエンジェルに戻りなさい ! フェイズシフトがダウンした今戦闘続行は不可能よ !! 」
しかし、乗っているキラは入っているであろう通信にも、フェイズシフトダウンにも全く気が付かないと言わんばかりに、350mmガンランチャーを構え最後に残った戦艦にありったけの銃弾を叩き込む。
敵艦の砲台の片方が火を噴き、流れ弾もスラスターに当たる。
ストライクは尚も追撃の手を止めない。
見るに耐えかねたナタルは、今から再度通信を入れようとしたマリューから通話機を引ったくり、あらん限りの大声で怒鳴った。
「キラ・ヤマトッ !! 何をしているかっ !! 今すぐアークエンジェルに戻れッ !!! 深追いの必要は無いっ !! 」
その叱咤があって数秒後、キラはアークエンジェルに向けて転進する。
Xナンバーも全機が母艦に向けて帰投して行く。
その直後キラの方から通信が入ってきた。
『済みません。……アークエンジェルが討たれると思って……夢中で……』
「お前……」
続けようとしたナタルからマリューは通話機をすっと取り、キラに返す。
「処分に関しては月艦隊と合流してから考慮します。……生きて帰ってきた事が何よりよ。とにかく、お疲れ様。あなたはこの艦を守りきれたのよ。」
それっきり通信機は静かになるが、僅かにキラの嗚咽が聞こえて来ていた。