X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第9話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:05:36

ティファ一人だけでは心配だという事でガロードも進んでマリュー、ナタル、ムウがメインとなる尋問に参加する。
更に、誰か大人が付いた方が良いだろうという事でそれを言ったテクスも臨席する事にした。
自分達の世界……第七次宇宙戦争のきっかけとその結果、自分達のかつての目的、ティファが人智を超えた力を持っている事とその例、そのせいで様々な人間から狙われていた事、それに伴うこれまでの旅の動向、宇宙でD.O.M.Eから聞かされた真実……
マリュー達はお互いに信じられないとばかりに顔を見合わせる。
絵空事にしてもこんな微に入り細に渡った話はそうそう簡単に思いつくものではない。
そもそも現実感が限りなく希薄に近い。それをいきなり信じろという方が酷だ。
ずっと黙ったままのアークエンジェル側の沈黙を破るようにムウが口を開く。
「まあ、何と言うか、下手な作り話よりかは大分マシだけど、その話が真実だったと仮定してどうしてこっちの世界に ? 」
それに対しテクス、ガロード、ティファが順番にその経緯を話す。
テクスはヘリオポリス内の医師の所に身を寄せていて、ザフトの襲撃があった時は他の避難民と共に避難ポッドで脱出し、その後ストライクにそれが拾われアークエンジェルに辿り着いたとの事。
ガロードはザフトの襲撃を利用してヘリオポリス内部に入り、ティファを救出した後、今医務室で昏々と眠り続けているラスティを使って脱出。そして今に至る。
ティファはヘリオポリス内の公園のベンチで眠っていたが、ニュータイプの勘か、モルゲンレーテの工場区、MS試験場に入って間も無くガロードと再会し今まで行動を共にしていること。
そこに至るまでに話はかれこれ三時間近くに及び、三人とも散々話したせいかいい加減に口が疲れてきた。
「如何なされますか、艦長。自分は上官にこの事を報告すべきと思いますが……」
ナタルがそう言うと、マリューはそちらを一瞥するものの、深く一息吐き静かにそれに反論する。
「報告したところで信じては貰えないでしょうし、寧ろ私達が気に触れたのではないかと思われるのが関の山ね。」
「では、どうしろと ?! 」
その声にうんざりした様な視線をナタルに向けた時だった。
「報酬を出すってのなら雇われてもいいぜ。傭兵って形になるだろうけどよ。」
えっ、という感じでマリュー達は前を見る。
腕組みをして前をじっと見ていたガロードが出した結論だった。
「確かにこの世界の事はこの世界の住人のあんた達が自力で解決しなきゃいけない。それは分かるぜ。でも俺達は過ちを犯しちまった世界を知ってる。自分達とは違う世界だけど、ここで生きるんなら過ちが犯されそうになるのを黙って見てるわけにもいかねえ。いつまでここに居るか分からなくてもな。って言っても一番やりたい、ってかやらなきゃならないことはティファを守る事だ。」
その言葉にティファが続く。
「私は自分のこの人を超えた力を、始めは嫌だと思っていました。ですが、自分以外の誰かを救う事が出来るなら……私もガロードと一緒に……」
「ティファ、それって…… !! 」
思いもかけぬティファの一言にガロードの腰が椅子から浮いてしまう。
だがガロードのその言葉の続きをいう前に、テクスが自分の意見を述べる。
「私は患者がいればそこに行って治療するだけです。ここに留まって傷ついた兵の治療をして欲しいと言うならそれでも宜しいですが、私達の当座の目的はこの世界の何処かに散らばってしまった仲間と合流する事にあります。その時は善処の程をお願いできますか ? 」
その言葉にアークエンジェル側一同はざわめくが、マリューは至極冷静な言葉を言う。
「分かりました。あなた方の事情については、未だ議論の余地も多く、あまり定まった事は言えませんが、ガロード・ラン、ティファ・アディール両名を傭兵として、テクス・ファーゼンバーグを軍医として採用します。しかし採用されたからには、それなりにこちらの軍規に従ってもらいます。それで宜しいですね ? 」
「お……おう。良いけど……ティファは」
「ガロード……あなたが私を守ろうとしている様に、私もあなたを守りたい。私も前に一度、あなたと同じ様に力が欲しいと思った事があるから……だから、お願い。」
その眼差しは本気の物だった。こうなると、もう何も言えない。
「分かった。でもあまり無理はしないでくれよ ? 」
「うん……」

「あんな物を極秘で、しかも中立国のコロニーで開発するなど、やはりナチュラルなぞ信用するだけ無駄でしたな。クライン等の様な腰抜け共は歯が浮くような事をまだ議場でいけしゃあしゃあと言っていますが、それも時間の問題でしょう。」
「顔で笑って握手を求めていても、内心で舌を出してもう片方の手でナイフを握っているのかもしれませんよ……」
「かもしれないではなくて、そうなのですよ。彼等は。そんな連中に良い様に踊らされていい筈がありません !! 」
「以前私がカナーバ氏の意見を取り入れた時は、ものの見事にナチュラルにナイフの方を握らされました。あの時彼女の意見をちらとでも疑っていれば、あのような事には……勿論血のバレンタイン以降の出来事で……ですけどね。」
プラントの市の一つ、アプリリウスのホテル高層階のカフェにその四人の姿はあった。
プラント最高評議会で急進派に属する、ヘルマン・グールド、ジェレミー・マクスウェル、エザリア・ジュール、そしてルイーズ・ライトナー。
彼等はこの日も行われていた議場でのやり取りに嘆息していた。
いつまで経っても議会での穏健派との主張は平行線を辿るばかりか、ますます険悪な物になっていたからだ。
「大体ライトナー氏はまだ手緩いですわ ! それに ! 忘れてはいけません ! 大体貴女は一年前のあのコーディネーターにとって忌まわしい悲劇が起こるまで、穏健派に属していたではありませんか !! 」
「そうでしたわね……」
ライトナー議員は猛火の様な勢いで捲し立てるジュール議員をやんわりと受け流し、カップで湯気を立てているアールグレイティーを二口三口啜る。
しかし飲んで一息吐いたライトナー議員の表情と言葉は、そこに居る三人を冷凍庫に突っ込まれたような感じにするのに十分だった。
「ですけど、私はいつでも自分の農業用敷地を工業用に転用するよう呼びかけられます。机上の平和論よりも今そこに迫る危機の方が遥かに雄弁だという事は、私の所の市民はあなた方の所の市民よりよく知っているとは思いますが。」
その静かだが苛烈な勢いを秘めた一言はかなり説得力があった。
彼女は側に近づいていた給仕に糖蜜パイを人数分頼み、もう少しカップの中身を啜る。
マクスウェル議員がちらりとライトナー議員を見る。
「イギリス料理ですか ? 」
「いえ、私が頼んだのは穏健派の方々です。」
一同が狐につままれた様な顔をするが、一番先にその理由が分かったのはそのマクスウェル議員だった。
「成程。食材に恵まれず、広く庶民に渡る事も無く、何より単純、か。」
「ええ、人材に恵まれず、思想が広く渡る事も無く、論理も単純……」
それから直ぐに出されたパイをライトナー議員は済ました顔で食べ始める。
「我々がそんな軟弱な穏健派の存在を跡形も無く消してしまうのです。」
したり笑いがその場を包む。
「ですが、ライトナー議員、穏健派もそれなりに力がありますからな。彼ら主導で戦争が終結したら我等が力を振るわぬ間に……」
「「何を言いますか ! マクスウェル議員 ! 」」
女性議員の二人が猛然と反発する。
「終わらせはしませんよ。あの連中でこの戦争を……」
と、ライトナー議員。
「私達こそが傲慢で無能なナチュラル共に正義の鉄槌を下すのですよ。」
と、ジュール議員がそれに続ける。
そうだ、その日の為に自分達は議員として奔走しているのだ。
カップのブラックコーヒーを見つめながらマクスウェルは思う。
彼はまだここに居る全員に伏せている事がある。
息子が、離婚した妻が引き取った息子がMIAになったという報だった。
最初は自分の耳を疑りもしたが、やがてそれが何でもない報の様に思えてきた。
あの馬鹿息子は今までのうのうとナチュラルに対して自分とは正反対の立場をとる母親の元にいたのだ。きっと色々と吹き込まれたに違いない。
その息子がのこのこと戦場へ出て行ってその結果どうなったかなぞ、最早彼は気にもかけたくない。
勿論そんな息子がいた事なぞ、自分と正反対の思想を持つ女と生活を共にした過去さえも葬り去りたかった。
涙なぞ流しはしない。流すのは自分の治めている市がライトナー議員の所の様な事態になった時だけだ。
そう思いマクスウェルは一口コーヒーを啜る。

ティファは人気のない展望デッキにいた。
ここに居て外を眺めるのが、彼女にとって今は一番の休息方法だった。
この世界に来て先ず始めに感じたのが、強烈な憎悪。そして悲しみ。
その理由は居住ブロックに居た者達からある程度聞かされた。
ティファはふと思ってしまう。
ここにもしガロードが一緒に居てくれていたら……と。
しかし、ガロードは今シミュレーター訓練にかかりきりになっている。
この世界でもMSの技術が無かったら、傭兵としては成り立たないのを聞かされたからだ。
それは分かっている。十分分かっているつもりだが……
無意識の内にふと、あの言葉を呟いてしまう。
ガロードが自分の事に集中しすぎてティファの事が見えなくなっていた時に呟いたあの言葉。
「ガロード……私を、見て……」
それは自分が出来る精一杯の我が儘だ。
自分はそれ以上の事は望んでいない。唯それだけで自分の心は満たされていく。
ガロードは一度その声に応えてくれた。
そして信じている。次も応えてくれると。
「ティファ……ここに居たんだ。」
その声は意外にも早く帰ってくる。
見ると、自分の後ろにいつの間にかガロードが立っていた。それを見たティファの表情は小さめだがすっと明るくなる。
隣に来たガロードは遠くの方を見ながら話しかけてきた。
「色々あったな、今日一日。」
「ええ、そうね。」
途端に気まずくなってしまう。会話が続かないのだ。
話のタネはないかとガロードが考えていると、ティファの方から話が振られてきた。
「ガロードにだけ教えたい事があるの……」
「えっ ? な、何 ? 」
「この世界は私達の世界と同じ道を辿ろうとしています。」
「何だって ?!! 」
それはあまり、いや絶対に御免こうむりたい予見だった。
自分達の世界と同じ事が、見ず知らずの世界とはいえ起きようとしているのだから。
しかし、ティファの心境は違う。
今まで何度もティファの予見した未来を覆してきたのがガロードだ。
ならば、その災厄も起きる前に防げると。
「でも心配しないで、ガロード。あなたは私の見た未来を変えた事がありますから……」
「俺が……変えるかも知れないって事 ? 」
「それは、まだ分かりません。でも、希望はあります。」
それを聞いたガロードは何だかやる気が出てくる。
直接的か、間接的なのか、そのどちらにせよ自分が悲観的な未来を変え、ティファと共に過ごす未来を作れるのなら、それで良いに越した事はない。
と、ガロードは何も言わずにティファをそっと抱き締める。
突然の事に慌てる彼女にガロードは優しく話し始める。
「俺さ、この世界の事は何にも知らねえ。けど、俺がやりたい事はティファと一緒に生きる事。それだけなんだな。勿論知らない世界の人間だからって、この世界の未来を放っておいてくって訳じゃねえけど。」
「ガロード……」
「だから、一緒に頑張ろうな。」
「うん ! 」
静寂だけが二人を取り巻く。
最早その空間において二人を邪魔する物は何も無かった。