X-seed_Exceed4000 ◆mGmRyCfjPw氏_第30話

Last-modified: 2008-01-21 (月) 21:58:50

機動戦士ガンダムXSEED 第三十話「お疲れ様。」

 

ガロードはトリケロスからビームサーベルを繰り出し、バクゥを切りつけにかかる。
「おりゃああああっ !!! 」
前の右足をもらおうと切りつけると、案の定敵機は一歩引いた姿勢でそれを避ける。
その次の出方は……既に掴んでいた。
バクゥは足をキャタピラに変形させ更に後方に下がって距離を取った後レールガンを発射する態勢に移る。
だがそれは火を噴く事は無い。
ガロードがブリッツの姿勢を下げ、思いっきり前に踏み込みバクゥの様に出来るだけ高速で撹乱する様に移動しながら接近し、目標としていた右の前足を刎ね飛ばしたからである。
正直な話、そこまでコクピットを集中的に狙う必要性はそこまでない。
寧ろ足の一本でも切り落とすか圧し折るかしてやれば機動性に相当な枷が出ると踏んでいたからだ。
それに獣の様な姿で右へ左へと飛び回る動きは、目が慣れてくると案外掴みやすいものとなった。
ザフトの軍人は『このMSに乗った時はこのように動かなくてはならない。』というのを地でいっているのがよく分かるきっかけともなったが。
しかし相手もなかなかにしてしぶとい。
残された足を必死に動かして地面を這いずり、ブリッツに再び狙いを定めようとする。
だがその様子に気づいたキラが後方からビームライフルで上手く撃ち抜いた。
腹部が貫かれたバクゥはその場で一瞬スパークし、爆発する。
そのキラも別の二機のバクゥにとりつかれだしたので身動きが上手く取れなくなった。
その様子はまるでうっかり野犬の群れに襲われだした新米兵といった感じだ。
ガロードはストライクの援護に行きたかったが、あっという間に両側からサブフライトシステムをやられ地上に降りたジンが二機同時に迫ってくる。
先ず左側の一機に向かってグレイプニールを放った。
クローが相手機の頭部を吹き飛ばし、その場に硬直したのと同時に右側の機体は反対側の味方機に当たらぬよう位置を変えて射撃を始める。
クローを戻してその方向を向いたブリッツは直ぐに猛然と走り出す。
そしてトリケロスからビームサーベルを出し、必死に動きで惑わそうとする相手の右腕を切り落す。
そして仕上げとばかりに、ほぼ零距離から上下半身の境目辺りにグレイプニールを撃ちこんで相手機を沈黙させた。
これで前方から来たジンオーカーと後方から来たジンは全て屠った事になる。
そして目的の物……射撃の出来る飛び道具、重突撃機銃も手に入れる事が出来た。
レーザー砲から出されるレーザー波は確かに空気中では見えないが、その波が拡散して味方に当たりでもしたら洒落にもならない。
尤も、右腕に持つのは最初から無理だとして左手に持つとしても、グレイプニールが邪魔にならないか心配だったが。
ふとメインカメラを少し離れた場所にやると、二隻のピートリー級の戦艦が出撃した直後の時よりかなり突出していた。
それぞれは単装砲と連装広角砲の合計9門を絶え間なく撃ち、既に傷だらけのアークエンジェルに更に新たな傷を作っていく。

 

再びモニターを元の位置に戻すと、今度はキラの相手をしていた一機のバクゥが、骨のある相手を見つけたとばかりにこちらに向かって突っ込んできた。
また少し離れたアークエンジェル側からも最後に残されたザウートが駆動系の限界を無視したかのような動きで向かってくる。
ガロードはジンの落とした重突撃機銃を左手に持ち、バクゥにその狙いを定めて思いっきり引き金を引く。
しかし標的は左右に上手く避けながらこちらにミサイルを乱れ撃ちしてくる。
ガロードはここまでにザウートは動きが遅いというのを、キラが戦っていた時に一種の見方として出していた。
そこで、先ず動きの速い相手を優先的にしとめるべくバクゥの方向に時計回りに回り込むようにして接近する。
そしてバクゥとすれ違う一瞬に残された一本のランサーダートをそのボディの首筋付近に撃ちこむ。
流石の威力にバクゥは頭部と胴体部が完全に分離し、胴体部は轟音と共に四散する。
そして火の粉混じりに立ち昇る爆煙の脇からあのザウートが出て来る。
今度はこの重突撃機銃でもどうにかなるだろうと思ったガロードは、相手に狙ってトリガーを引く。
しかし、敵機は当たりそうになる寸前でタンク形態となって回避し、弾丸は虚空を空しく薙いでいく。
次に角度や方向を様々な物にして撃ってみるが、上手く当たらない。
当たったとしてもボディの、それも活動には何の支障もなさそうな場所を掠めていく程度だ。
お返しとばかりにザウートが、両肩合計4門のキャノン砲を殆ど一発の無駄も無くブリッツに発射する。
その命中精度と動きからガロードは被弾しながらも気づく。
乗っているのはかなり戦闘慣れしたプロなのだと。
それの更なる証拠にMS形態の時は鈍重極まりない動きだというのが分かっているのか、殆どがタンク形態での攻撃に絞られていた。
また格闘攻撃を持たないが為に迂闊に近づくといった動作もしない。
なら、そういう人間が出くわした事の無いような戦法を取って対処すればいい。
とは言ってもそうそう簡単にそんな戦法が思いつくわけではないが。
そんな時、ブリッツのメインモニター隅に先程の爆発で吹き飛ばされたバクゥの頭部がちらと映った。
これを使えば、或いは…… ?
その時止めといわんばかりにザウートが全ての砲を撃ってくる。
ブリッツは右方向に前転しながらグレイプニールを開き煙に紛れながら相手に分からぬようバクゥの頭部を掴む。
中距離以上を保ちながら戦っている相手には接近戦を持ちかけるしかないし、意表をつく手段としてはこれぐらいしか無い。
機体にキャノン砲や副砲の弾が度々直撃するのも構わず、ガロードはブリッツのバーニアを吹かし敵機に接近する。
「こいつを喰らってみやがれええっっ !!! 」
互いの距離が20m程をきった時、ガロードはグレイプニールを相手の真正面に撃ちこみ、勢いを付けた状態でバクゥの頭部を相手のメインカメラの辺りに叩きつける。
接近戦を挑んでくると思い込んでいた相手は、いきなり正面に有り得ない物を映し出されたせいか一瞬動きを硬直させる。
その次の瞬間には大質量に因る攻撃の為、ザウートの頭部は大きく拉げスパークを繰り返す回線が機体との間に見え隠れしていた。
その機を逃さずガロードはザウートの前部を踏み台にしながら前転し、空中ですれ違い様にビームサーベルの付け根をその回線の集中している所に零距離で当てスイッチをオンにする。
ザウートは凄まじい音をあげ爆発し、ブリッツはその衝撃の為に上手く着地できずごろごろと転げる。

 

ザウートも、ジンオーカーも、空中を飛んでいたジンも全機連係プレーで墜としきった。
後はキラの援護に回らなくては…… !!
だがその時遂に恐れていた事が起こった。
けたたましい警告音がコクピットに鳴り響き、ブリッツのフェイズシフトがダウンしたのだ。
また時をほぼ同じくしてアークエンジェルも機関部とバランサーが持たなくなったのか、地表に力尽きたかのごとく機体が落ちた。
空中の様子は最早飛んでいる戦闘ヘリと戦闘機はムウとカリスを除けば残り一機になっている。
ガロードは再び右手で重突撃機銃を握りキラの方向へと走る。
キラは丁度その時ビームサーベルをバクゥの頭部に突き刺し、止めとばかりにその胴体にビームライフルを撃って二機目をしとめていた。
だがそこに生まれた一瞬の隙を突いて残された最後のバクゥが、ストライクの死角を突いて突進してくる。
ガロードはブリッツを走らせながら大急ぎで機銃を構えバクゥに向かって撃った。
弾丸はレールガン発射機の付け根を捉えそれと機体とを分けるには至ったが、機体自体を捉える事はなかった。
後方からの攻撃にバクゥはその方向に向かって猛然と走り出す。
ガロードは再び機銃を撃とうと試みたが、最悪な事にトリガーを引いても何の反応もない。
機銃は既に弾を切らしてしまっていたのだ。
「ガロード !!! 」
ブリッツのフェイズシフトが落ちている事に気が付いたキラの大声がガロードの耳に入ってくる。
敵機はどんどん近づいてくる。
その時、モニターに戦闘の最初の段階でジンオーカーをしとめた際に使ったランサーダートの一本が映った。
ブリッツはバクゥの方向に向かって用の為さなくなった機銃を残された力で放り投げ、よろめくような姿勢でその一本を掴みにかかる。
バクゥはその鼻っ面に思いっきり機銃を当てられたせいか、その場で数秒硬直してしまう。
その数秒だけでも十分と言えた。
「うおおおっっっ !!! 」
ガロードが発する、あらん限りの声がその場に響き渡る。
槍の如きランサーダートの一本はその数秒の間にバクゥの機体をメインカメラから首の付け根までの間をあっという間に突き抜けた。
相手機は機体全体からスパークを起こしながらその場にドテッと倒れこみ、次いで強烈な爆発を起こす。
その炎と衝撃は自分を沈めた事への最後の足掻きの如く、直ぐ側にいたブリッツを巻き込んだ。
「ぐああぁぁっ !!! 」
コクピットの中でむち打ちを起こしかねない衝撃に襲われたガロードが呻く。
更に機体は激しく地面に叩きつけられ、ブリッツは後背部のバーニアを大きく破損してしまう。
だが遂に最後のバクゥも沈んだ。
ノイズと砂嵐混じりのブリッツのモニターが映す空を仰げば敵機は一機もいなかったが、やはり機体のあちこちに損傷を負ったスカイグラスパーと、
実体弾の爆発に因る煤で黒ずんだベルティゴが滞空していた。
肝心の敵戦艦は全てのMSと戦闘機、戦闘ヘリが墜とされた事から、砲撃は一種の小康状態となっていた。
「……終わった……のか ? 」
苛烈極まりない戦闘が一時的にせよ終わった事に因る安堵感からか心なしか口にする言葉が震える。
終わったとそう信じたい。
だがそうとは思えていない者が一人いた。

 
 

キラの頭の中は戦闘に関すること以外は相変わらず穏やかで静まり返っていた。
フェイズシフトダウンしたブリッツの事は気がかりになってはいたが、それ以上に敵戦艦の動きが気になる。
断続的に続いている砲撃は見過ごせた物ではないからだ。
最早ほぼ全ての火器が使用不能になっているアークエンジェルがこれ以上砲撃を受ければ確実に沈む。
次に何をするべきか……決心したキラは二隻の敵戦艦を凄惨な目つきで睨みつける。
そして未だ黒煙を上げ続けているバクゥの残骸から、真っ黒に変色したランサーダートの一本を左手に持ち、バーニアを吹かして敵戦艦に向かった。
通信機からはマリュー、ナタル、ガロード、ムウの声が混線している様にごちゃごちゃになって聞こえてくる。
しかし誰の言葉もキラの耳には入って来なかった。
絶対に守ってみせる……沈めさせるものか……沈められてたまるか…… !!
キラの心ではその言葉が輪の様に何度も何度もやって来ていた。
アークエンジェルに向けられていた砲門が直ぐに自分を捕捉し砲撃を開始する。
しかし、小回りの効くMS専用に作られた代物ではないが故に弾は易々と避けられてしまう。
ストライクは左腕を大きく振りかぶってランサーダートを投擲する姿勢に入る。
狙う場所はたった一箇所……艦橋(ブリッジ)。
だが左腕でそんな所にこれを刺す事など出来るだろうか。
相手との距離がおおよそ100mをきった所でキラはつい自問してしまう。
やるしかないだろ !! でなきゃ皆が死んでしまう !!
ブリッツはフェイズシフトダウンして、且つあの爆発のせいで損傷したからかまともに動く事は出来ていない。
スカイグラスパーもエネルギー切れが近いし、ザフトから来た少年の乗っているあの白い機体も殆ど満身創痍の様なものだ。
アークエンジェルはこれまでの攻撃で全ての火器が死んだし、あの損害状況であと10発でも攻撃を喰らったら轟沈してしまう !!
キラはそれ以外もう何も考えなかった。
そして直ぐにランサーダートが確実に命中するであろう距離に達した。
だが何とも間の悪い事に、そこでキラのストライクもまたフェイズシフトもダウンした。
と言ってもこの距離では最早選択の余地等有りはしない。
「いっけえええぇぇっっ !!! 」
ストライクが放ったランサーダートは、風を切り鋭い矢となって艦橋へ鈍い音と共に突き刺さった。
次の瞬間艦橋が閃光に飲み込まれ、艦の上方部を中心として爆発が起きた。
しかし更に惰性ともいえる力でアークエンジェル側に進もうとする戦艦に対し、キラはそれだけでは済ませようとはしない。
炎が赤々と燃え上がるその場所に向かって弾が尽きんばかりの勢いでイーゲルシュテルンを叩き込む。
その結果、艦全体に大規模な誘爆が引き起こされ、忽ち砲台やMS発進口から勢い良く紅蓮の炎が吹き上がった。
そして遂に機関部にそれが到達したのか戦艦はやっとその場で停止する。

 

キラは自機のフェイズシフトダウンの事も忘れて、次の獲物はお前かとばかりにもう一隻の戦艦の方に目をやる。
しかしそこにあったのは、こちらに向けて砲を構える戦艦の姿ではなく全速で撤退していく戦艦だった。
距離にして3~400m程離れているが狙えないという距離ではない。
キラは尚もイーゲルシュテルンで相手の機関部を狙おうとしたが、その時に通信機からアークエンジェルの艦橋にいるマリューから通信が入る。
「キラ君、戻って !! 敵は撤退し始めているわ ! 深追いする必要は無いのよ !!
それに、フェイズシフトがダウンして、イーゲルシュテルンしか使えない今の状況じゃどうにもしようが出来ないわ ! 」
その声が聞こえてからキラははっとした。
どこか遠くへ追いやっていた意識が急激に自分の方に向かって引き戻されたかのような感覚だった。
周囲に散らばったMSの残骸、自分の今目の前で原形を残しながらも黒煙と真っ赤な炎をあげて燃え盛る戦艦。
これを自分がやったというのだろうか ?
息はやけに荒っぽくなって視界も一瞬ぐゎら二重三重にぶれる。
体のあちこちからも汗が吹き出し、いやにパイロットスーツがじっとりとした感触を持ってもいた。
「損害は大きかったけどアークエンジェルは何とか持ち堪えたわ。お疲れ様。他の皆は回収したから貴方も早く帰投してちょうだい。」
マリューのその声がやけに心地よくキラの耳に入ってくる。
そしてその先は……何も聞こえなかった。

 
 
 

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