XXXⅧスレ268 氏_Extreme Select

Last-modified: 2012-01-13 (金) 03:14:49
 

「あけましておめでとうございます、Dr・K」
「……あけたのか?」
「何で疑問系なんですか?」

 

C.E. xx年1月3日
モルゲンレーテ社MS開発部門主任Dr・Kと彼女の助手(非正式・不承認・本人受託拒否)
サイ・アーガイルの新年の挨拶は、上記の通りなんとも言えないグダグダ感を匂わせつつ終了した。

 

「そうか、あけたのか」
サイが持参したオーブ名物・ZO-NIに舌鼓を打ちつつ、Drは声を上げる。
そこに驚きや後悔と言ったニュアンスは見られない。
「そうかって事は、去年からずっと引きこもってたと…」
対するサイも特に驚いた様子もなく、パッパとこれまたオーブ名物・OSETIを机の上に並べていく。
実のところ、昨年と一昨年の1月にも今と同じ様な会話をしていた為、
こうなる事は有る程度予想していたからだ。
「で、今度は一体何の研究を?」
「…………」
サイの問いに、Drは無言を貫く。
別に勿体つけているわけではない。
唯ZO-NIの中に入っていたMOTIと呼ばれる食材がなかなか噛み切れないだけだ。
(子供かっ!)
内心でそう突っ込みつつも、彼女がMOTIを飲み込むのを素直に待つサイ。

 

「んっ……教えてやろう」
数拍の間の後、ようやくZO-NIを完食したDrは何時もの様にモニターの電源を入れる。
するとそこには以前彼女がサイに披露した彼女の趣味のかたまr……
もとい最高傑作『Fortune(フォーチュン)』の姿があった。
「これは先日お前に見せた私の最高傑作フォーチュンだ。覚えているな?」
「はい、もちろん」
MSの問いかけに、サイは素直に頷く。
この機体の元となった次世代量産型MS『マスラヲ』の開発費を
横領という形で費やして完成した問題のMS、という意味でだったが。
「その時私はこの機体は「完成した」と表現したが、実際には完成していなかった」
「えっ?そうだったんですか?」
「ああそうだ、私はある重大な事柄を見落としてた。それは……」
「それは?」
「核エンジンの搭載だ」
「………は?」
思いも寄らないDrの言葉に、思わず手元からKAMABOKOを滑り落とすサイ。

 

「今、何ていいました?」
「だから核エンジンの搭載だ」
冗談だと願いつつ聞き返したサイに対し、Drはいたって本気で口を開く。
「私のフォーチュンはNJCを使用し核エンジン搭載型MSとして運用できて、
 初めて最高のMSとして君臨する事ができるはずだった。
 にも関わらず、あの脳筋ジャジャ馬娘の横槍のおかげでその計画は頓挫してしまった」
「はぁ」
どこの世界に量産型MSの開発にNJCの搭載を許可する国家元首がいるだろう?……と考えたサイだったが、
ドム・トルーパーという前例があった事を思い出す。
まぁ元々ドム・トルーパーはバッテリー駆動だったのをクライン派が無理やり改造したのだが。
そもそもあの時点では国家元首ではなくただのテロリスry
彼の思考が明後日の方向を向き始めるが、Drはそれに気付かず言葉を続ける。
「そして『妥協』という形でデュートリオンビーム方式に一時は落ち着いてしまった訳だが、
 それでは私の名に傷が付く」
(付くか?)
「そこで核エンジンを搭載したら、と過程して新たにフォーチュンの設計を見直していたのだが、
 ある問題にぶち当たった」
「何ですか?」
「いや……寧ろこれは喜ばしい事なんだろうが、核エンジンを搭載すれば確かにある程度の
 スペック向上は 見込めるが、そこまで目覚しい強化部分が見られなかったんだ。これがその比較だ」
「これは……すごいですね」
モニターに映し出された比較表を見る限り、確かに核エンジン搭載前と搭載後に大きな変化はない。
バッテリー駆動から核駆動に変更してそこまでスペックに変化が見られない、
ということはそれだけ元の素体の設計に無駄がないという事だ。
MS開発者にとってそれは名誉な事であり、今目の前にいる女性が間違いなく天才であると
サイは改めて認識する……相変わらず見た目からは想像もできないが。
「これなら無理に核エンジンにする必要もないのでは?」
「それじゃつまらないだろう」
「つまらないって……」
「折角核エンジンを搭載しよう、と言うんだ。もっと画期的な変化がほしいじゃないか」
「…………」
実際に使用許可が下りてから考えましょうよ、とサイは頭の中で突っ込む。
無論口には出さないが。

 

「そこで私は、コレに目をつけた」
「!これは…」
そう言ってDrが端末を弄ると、モニターにある機体が表示される。
全高約100m、全幅約60m、MAと同等かそれ以上に巨大な戦艦の様な外見。
その真ん中には埋め込まれる、というか巨大戦艦を背負うような形で合体したMSの姿。
横には高エネルギー収束火線砲、対艦ミサイル発射管、超大型ビームサーベル発生装置など、
その機体の主力兵装と思われる名前がズラリと並んでいる。
頭がおかしいとしか思えないその戦略兵器の姿に、サイは見覚えがあった。
「モビルスーツ埋め込み式戦術強襲機、通称『Meteor(ミーティア)』
 前大戦中、フリーダムやジャスティスが使用していた核エンジン搭載型MS用の巨大補助兵装だ。」
「ええ、良く知ってます」
「なら説明は不要だな。私はコレに似た物を作りたいと思う」
「………は?」
サイは今度はDATEMAKIを口元からこぼした。
「……これを?」
「正確にはこれよりもっと汎用性の高い物だな。
 具体的には地上でも運用可能で、遠・中・近どの戦闘でも無双できる様な……」
「ちょ、ちょっと待ってください!正気ですか?」
淡々と話すDrに対し、サイは慌てて詰め寄る。
ミーティアはそれの2年後に開発された筈のゲルズゲーやデストロイが、オモチャに見えるほどの代物だ。
あんなmjkt兵器を超える兵器を開発するのは、いくらDrでも不可能だと考えたからだ。
「ん?もう雛型は設計済みだぞ」
ところがDrはサイの心境などつゆ知らず、といった様子で数枚の設計書を差し出す。
それと同時にモニターが切り替わり、姿を現す3つの機体。
それぞれ黒、赤、紫を主とした塗装がされたそれは、多少ゴツいが通常のMSに見えない事もない。
モニターに映されている関係か、僅かに小さく感じる頭部がすべてフォーチュンと同企画ということは、
レッドフレームパワードレットの様な追加アーマーだろうか?
「いつの間にこんな…もの……?」
だが予想していたより遥かにマトモだな、と感心しかけたサイだったが、
渡された設計書に視線を移した途端絶句する。

 

(……全高、40m?)
年末年始の疲れが幻覚でも見せているのだろうか?
サイは2、3度頭を振り再度設計書に目を通すが結果は変わらない。確かに全高40mとかかれている。
因みにフォーチュンの全高は通常のMSと同等の18m。
どこの世界に全高が2倍強になる追加アーマーがあるのか。
「あのDr、これ…」
「ああ、なぜ3種もバリエーションがあるのかか?
 最初から万能機として設計するには些か無理があったからな。
 取り敢えずそれぞれ遠・中・近に特化させてみたんだが」
(いや、そーでなくて)
まったく見当はずれな説明を始めるDrを無視したサイは、取り敢えず設計書を読み進める事にする。
(……なんだコレ?)
数分後、サイの頭上には夥しい数のクエスチョンマークが飛び回っていた。
どうやらコレは追加アーマーなどでは無く、本当にミーティアに近いドッキングユニットらしい。
つまり頭部の無い巨大MSの胴体部分に、子供向けアニメのスーパーロボットよろしく
フォーチュンが合体するシステムなんだそうだ。
頭部が小さく感じたのは錯覚でも何でも無く、本当に小さかったのだ。
(まぁ、それは別に良い…)
普通のMSとデストロイの丁度中間位の大きさだが、地上でも充分な機動力を確保するには
これが限界なのだろう。
初見こそ驚いたが、全高100m近いミーティアに比べればマシだ(あっちは宇宙空間専用だが)
問題はその先。
自信作だと言うDrによって事細かに記載された武装の数々。

 

先ずは遠距離戦特化ユニット『プランC・Carnage(カルネージ)フェイズ』
デストロイをモチーフにしたような黒を主体とした塗装で、両腕には大型ビームライフルと火炎弾、
背部にはミーティアと同一の60cm対艦ミサイル発射管のコンテナが装備されている。
また背部のコンテナを肩にマウントすることで、デストロイ級の高エネルギービーム砲を照射可能らしい。
「くくっ、こいつが本気を出せば、ベルリン都市どころかオノゴロ島すら灰燼に帰す事が…」
「絶対に止めて下さい」
まさにカルネージ(殺戮)の名に恥じぬ武装だが次のユニットよりまだ現実的だ。

 

その1つ、格闘戦特化ユニット『プランT・Tachyon(タキオン)フェイズ』
格闘特化だけあってメイン武装はたった1本のビームサーベルだけなのだが、
どういう原理か抜刀動作で刀身部分を衝撃波の様に射出することができ遠距離攻撃も可能。
しかもサーベルの出力はパイロットが任意に調整する事ができ、
一瞬なら全長400m近くまで伸ばすことが出来る代物らしい。
「本当は500ガーベラとか作ってみたかったんだが…」
「絶対に、絶対に止めて下さい」
外見は旧世紀時代の日本に存在したオーブ人に人気な「武士」のような重装甲だが、
タキオン(速い)の名が示す通り高起動MS並みの機動力を持つ。

 

最後は、中距離戦特化ユニット『プランI・Ignis(イグニス)フェイズ』
中距離、というよりドラグーンシステム特化型と言ったほうが正しいかも知れない。
通常のドラグーン、ビームスパイク、使いようによってはサーベルにもブーメランにもバリヤーにもなる
とんでもドラグーンをなんと21基も装備した、レジェンドも裸足で逃げ出すとんでも機体だ。
「いっその事カルネージの主砲をくっつけてフルバーストでも…」
「絶対に、絶対に、絶対に止めて下さい」
上記2ユニットに比べると曲線敵なデザインになっており、
設計書通りならまさしくイグニス(篝火)のような攻撃を繰り出せるだろう。

 

……………
………

 

「どうだ?これからこの3機のデータを基に、万能型のユニットを開発するつもりなんだが」
「…………」
一通り設計書を読み終わったサイは、所謂ドヤァ顔でモニターを眺めるDrの顔を見て考えを改める。
今目の前にいる女性が間違いなく『天災』であると。
(駄目だこのDr、早く何とかしないと…)
こんなもの本当に開発されたその日には、まさしく
「オーブの理念?なにそれ美味しいの?」的な展開になりかねない。
「そ、そう言えばDr」
「ん、何だ?私は今から万能型ユニットの開発を……」
「先程、シン・アズサが研究室の前まで来てましたよ」
「な、なんだと?本当か!?」
モニターの電源を切り、再び研究に没頭しようとしていたDrの動きが、サイの一言で止まる。
慌てて回れ右をし、サイへと詰め寄った。
「ええ、何でもDrと一緒に初詣に行けたら、と誘いに来たらしいのですが、
 インターホンを鳴らしても誰も出てこなかった…と」
「そ、それで?」
「仕方がないからアスハ首長かルナマリア・ホーク嬢と一緒に行こうかと……」
「ッ!?」
  バンッ!!
サイがすべて言い終わるより早く研究室を飛び出していくDr。
恐らく半日は戻ってこないだろう。

 

(悪いな、シン・アスカ君)
犠牲となってもらった少年に心の中で謝罪をしながら、サイは研究室を片付け始める。
どんな経緯があってこんなものを作り始めたかは知らないが、恐らく思いつきだろうし彼女は飽きっぽい。
2~3日シン・アスカをだしに使って研究から離れさせれば、別の研究対象が現れるだろう。
(しかし……)
もしDrがそのまま、3機のユニットの能力を1機にまとめたユニットを完成させていたら、
どのような機体になっていただろう?
3機の長所の『すべて』を兼ね備えた機体……つまり、

 

プランA・ALL(オール)フェイズ……か?いや、まさかな」

 

ふと思いつた名前を呟き何故かひどい既視感に襲われたサイだったが、
気を取り直し研究室の掃除を再開した。