XXXⅧスレ268 氏_The Second-grade Syndrome

Last-modified: 2012-09-30 (日) 02:00:49
 

C.E.77
ラクス・クラインとキラ・ヤマトによって世界は「「色々長いんでカット」」MS乗りによる
盗賊行為が横行していた。

 

太平洋上にある小国・リモ○シア共和国
普段は豊かな自然に囲まれた静かで平和な国なのだが、
ここ数日隣国がMSで武装した盗賊に襲われる事件が多発。
何時この国が標的になるかも知れないという不安が住民達に広がり、
昼間でも出歩く人間が少ないゴーストタウンと化していた。

 

「本当に信じられるのか?」

 

その国の自警団で隊長を勤める男が、机を挟んで目の前にいる部下に尋ねる。

 

「腕は確かです」
「腕が良くても『傭兵』だろう?何時裏切られるか分かったものじゃない」
「その点も大丈夫でしょう。その筋ではそれなりに有名な『プロ』の傭兵を雇いましたから」

 

それに、と部下は言葉を繋げる。

「他の解決策を模索している余裕も無いでしょう?」
「それを言われると耳が痛いな」

 

部下の言葉に隊長は顔をしかめた。
リモ○シアは元々治安の悪くない国だった為、この自警団は武器も人材も慢性的に不足している。
もし今盗賊に攻められでもしたら、MS1機投入されただけで
瞬く間に全滅するであろう事は容易く想像できる。
だからといって自衛用MSを購入する予算もなければ、操縦するパイロットも居ない。
部下の言うとおり、傭兵でも雇う他に選択の余地はないのが実状だった。

 

「取り敢えず、会ってみない事には話にならんか」
「そう言うと思いまして、既に呼んであります」
「……準備が良すぎないか?」
「これ以上ダラダラ話を続けて、作者に行数を稼がせるわけにもいかないでしょう」
「はっ?」
「いえ何も……入りたまえ」

 

部下の言葉に促されて入室して来た1組の男女。
その姿を見た隊長の第一印象は以下の通りである。

 

(黒っ!)

 

長身とまではいかないが決して低くは無い身長を持つ男の方は黒髪・黒いマント・黒いブーツと
全身を黒ずくめで覆われており、顔に掛けられた大きなバイザーのせいで表情を窺う事はできない。
その横でニコニコと此方に笑いかけている女の方も黒を主に白い十字模様で装飾されたドレスを
身にまとっており、頭に被った特徴的な帽子から覗かせる綺麗な赤髪が唯一の華やかさを演出していた。
……正直仕事でなければ目も合わせたくない程怪しい2人組である。

 

「………」

本当に「コレ」がプロの傭兵なのか?という疑問符を乗せた目配りをする隊長だが、
その視線の先には大きく頷き返す部下の姿。どうやら本当らしい。

 

「……失礼、少々考え事をしてしまった。御足労頂き感謝する」
「いえいえお気になさらず。初めてお会いするクライアントは大抵同じ反応をしますので」

 

軽く咳払いをしながら右手を差し出す隊長に対し、黒いドレスの女はにこやかな表情を崩す事なく
差し出された右手を握り返す。
どうやら自分達の格好が周囲から浮いているという自覚はあるらしい。

 

「本日は私共『紅の鷹』とご契約頂き感謝いたしますわ、ミスター…」
「ケイネスだ」
「ミスター・ケイネス。私はムーンライト、彼はミスター・トゥルーと申します」

 

隊長の言葉に、黒ドレスの女は自分の胸と男の肩に手を当てながらそれぞれ自己紹介する。

 

「……本名かね?」
「そう思われますか?」
「いや…」

 

『月光』と『真実』。
捜せば居ない事は無いだろうが、彼女の反応をみる限り偽名なのだろう。
もっとも傭兵が素性を隠す事などよくある事だが。

 

「別にどちらでも構わんよ、ミス・ムーンライト。……ミセスだったかな?」
「『ミス』であっていますわ」

 

ちらり、と先程から微動だにしていないミスター・トゥルーの方を見ながら隊長が尋ねると、
ムーンライトはクスクスと笑いながら答えた。

 

「ですが、私は身も心も神(我が主)に捧げた身。よろしければ『シスター』とお呼び頂けますか?」
「シスター?」

 

手で十字を描くムーンライトの言葉に、隊長はああ、と思い出した。
彼女が身に纏うドレスと帽子は、嘗て神に仕える為に教会で暮らしていたと言われる女性達が着ていた
修道服と呼ばれる服装だ。
宗教という概念そのものが廃れて久しい昨今ではまず見る事の無い服で、
隊長も昔歴史の本で一度見たことがあるだけで実際に見るのは初めてだった。

 

(神に仕える女が傭兵だって?)

「……了解した、シスター・ムーンライト」

 

存在そのものが矛盾している、内心でそう評しながらも表情にはおくびにも出さずに隊長は応える。
彼としては、この2人が神に仕えようが悪魔に魂を売ろうが
仕事さえきちんとしてくれればどうでもいいからだ。

 

「ご理解が早くて助かります、ミスター・ケイネス」

 

そんな隊長の意図に気付いているのか、ムーンライトは両手を合わせ
神に祈りを捧げる様な仕草をしながら微笑んだ。

 

「神に誓って、『契約金』の支払いと貴方の『命』が続く限り、
 私達は決して貴方達を裏切らないと約束致しますわ」

 
 
 

………場所は変わり、隊長が『』にあてがったホテルの一室。
その部屋の片隅で、結局隊長の前では一言も声を発する事の無かった男、
ミスター・トゥルーが突っ立ていた。

 

「………」

 

彼は徐に顔の半分以上を覆っているバイザーを外す。
すると彼の目先の壁に設置された鏡に、一際人目を引くであろう紅い瞳を持つ青年の顔が写し出された。

 

「……すぅ」

 

素顔を晒したミスター・トゥルーがゆっくりと息を吸いこむ。そして

 

「もうイヤだぁあああぁあああああぁぁああ!!!!」

 

有らん限りの力を込め、思いの丈を吐き出した。

 

「も~何叫んでるのよ?」

 

するとタイミングを見計らったかの様に部屋に入って来たムーンライトが、男の大声を咎める。
シャワーを浴びていたのか、濡れた髪をバスタオルで拭い、
ランジェリーだけでは隠しきれない抜群のプロポーションを惜しげもなくさらしていた。

 

「何?今更ザフトのサラリーマン生活が恋しくなった訳?」
「違うわ!!」

 

裸同然の格好のムーンライトだが、それを彼女が恥ずかしがる様子もトゥルーが咎める様子もない。

 

「今更ザフトなんかに未練がある訳ないだろうが!」
「じゃあ何が気に食わないのよ?ミスター・トゥルー」
「その名前とこの格好だよ!!」

 

わけがわからないよ、と首を傾げるムーンライトに対し、トゥルーはビシッと鏡の中の自分を指差す。

 

「何なんだよミスター・トゥルーとシスター・ムーンライトって!」
「だって本名言うわけにはいかないでしょう?
 私達の居場所をあの子達に知られたら地の果てまで迎えに来るわよ、きっと」
「偽名にも限度があらぁ!もうちょっとマトモな名前で良かっただろ!?」
「ええ~?」

 

早口でまくし立てるトゥルーの言葉に、ムーンライトは口を尖らせる。

 

「なによ~この前のジパング風の偽名が気に入らないって言うから、
 今回はできるだけアメリケンな偽名にしてみたのに~」
「こんな結果になるって知ってたら前のままで良かったよ!格好もコレよりはまともだったからな!」
「え~格好いいじゃないその黒マント、何か復讐者って感じで」

 

ケラケラと笑いながらトゥルーの肩を叩くムーンライト。
説得力0である。

 

「俺は何に逆襲するんだよ……」

 

そんなムーンライトの様子に怒る気も失せたのか、トゥルーは頭を抑えながら力無く呟く。

 

「あっ、でもこの前の学生服に伊達眼鏡も捨てがたかったわよ。ナイフ持ってたら殺人鬼って感じ?」
「勝手に人を殺人鬼にするな」
「私も今日の修道服より、前の服のほうが好みだし……次の依頼の時はあっちにしようかしら?」
「……聞けよ、人の話」

 

トゥルーの呟きは無視して自分の世界に入り込んでいくムーンライト。
共に傭兵を生業として約1年。彼女とはそれ以前からの浅からぬ仲であったが
彼女がこんな病気……所謂アイタタタタタな趣味の持ち主であると彼が知ったのは極最近だった。
別に人の趣味をとやかく言う気はないが、巻き込まれる此方の身にもなってもらいたいものだ。

 

「はぁ」

 

こうなったら何を言っても無駄か、そう判断したトゥルーは自分も汗を流す為
マントとインナーを脱ぎ捨て、シャワールームへと向かう。

 

「でもあの着物…?って服、私が着るとなんか似合わないのよねぇ。何でかしら?」
「……身体の一部の発育が著しいからじゃねーの?」

 

背後から聞こえるムーンライトのぼやきに小声で突っ込むトゥルー。

 

「なっ…!?」
「……?」

 

「な、なな、何言ってるのよ、このラッキースケベーーー!!!」
「何でそういう事だけ聞こえてるんだよ、アンタはーーー!!!」

 

その夜傭兵集団(構成員2名)『紅の鷹』はリモ○シアでの依頼の前に、
とあるホテルの一室にて謎の無制限一本勝負を開始した。
なお、勝敗の行方はいっさい不明である。

 
 

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